マツダは、オープンスポーツカー「ロードスター」「ロードスターRF」に大幅な改良を施し、2024年1月中旬から販売を開始した。同車の主査曰く、改良前を「ND1」だとすると改良後は「ND2」と呼べるほどに大きな改良であるという。
今回は、伊豆、箱根方面のワインディングロードで試乗会が開催された。改良ポイントをメインに、改良前後のモデルを比較試乗しながらレポートしたい
まず、大幅改良のきっかけとしては、新しい国際法規であるサイバーセキュリティ法とソフトウェアアップデート法の対応が必要になったことからだ。ハッキングなどを防ぐために、電気ユニット系を刷新させる必要があったのだ。
そのため、電動パワーステアリングや横滑り防止装置、エンジン制御モジュールの電子ユニットなどに変更が施され、性能も進化。走りにいっそう、磨きがかけられている。
1.5リッターエンジンは、オクタン価設定を見直すことで燃焼効率が向上。全回転域で、1〜4Nmほどトルクがアップしている。また、7,000rpm時において最高出力を3kW(4PS)向上させ、アクセルペダルの戻し方向でのレスポンスを向上させることによって、より素直なアクセルコントロールが可能となった。
1.5リッターエンジン(SKYACTIV-G 1.5)は、日本国内のハイオクガソリン用セッティングの追加によって、3kW(4PS)出力が向上。7,000rpmまで回した際に、加速が伸びていく感覚が増しているという
また、今回の改良では新しいLSD(リミテッドスリップデフ)「アシンメトリックLSD」も採用された。詳細については後述するが、差動制限力を最適化することによって、車両の旋回性や安定性が高められている。
安全運転支援システムでは、「MRCC(マツダレーダークルーズコントロール)」が新たに搭載された。「MRCC」は、設定速度での定速走行や車間距離を保って走行してくれる機能のことだ。
これまでは、ミリ波レーダーがクルマのフロントセンターにしか置けなかったことから、「ロードスター」ではナンバープレートの位置の問題もあって、「MRCC」を搭載できなかった。だが、今回は電気、電子プラットフォームが刷新されることに伴い、オフセットして配することが可能となったために採用されたという。
赤丸部分が、新搭載された「MRCC」のミリ波レーダー
また、MT車にはサーキット走行を見据えた「DSC-TRACK」モードなども追加されていたり、内外装にも変更が施されていたりするが、それらの詳細については以下の関連記事に詳しく記載しているので、ご覧頂ければ幸いだ。
ほかにもさまざまな改良が加えられているが、今回は前述した改良点を踏まえながら「ロードスター」を走らせてみよう。試乗したのは、ソフトトップ「RS」グレードの改良前後の2モデル(比較のため)と、「S Special Package」「RF VS」の改良後の計4モデルだ。ちなみに、今回はグレード間での比較ではなく、改良点が「ロードスター」の走りをどのように変えたのかを主眼にお伝えしたい。
左奥が改良前の旧モデルで、右手前が改良後の新型モデル
まず、改良前から改良後の新型モデルへと乗り替えて、最初に気づいたのがステアフィールだった。これは、改良前と比較すると、驚くほどといってもいい変貌だった。改良前も決して悪くはなかった、というよりもかなりよい印象ではあった。思いどおりにコーナーを走り抜けられ、クルマを操る愉しさが味わえるフィーリングだった。しかし、改良後のステアフィールは、さらなる艶やかさやステアリングを切ったときのしっとりとした感触が味わえるようになったのだ。そのため、改良前モデルへ改めて乗ると、以前は気づかなかったステアフィールのわずかな雑味に気づかされたほどだ。また、切り始めの応答性も非常に素直な印象で、交差点の右左折時などにおいても、操舵する気持ちよさがさらに味わえるようになっている。
電動パワーステアリングは、ステアリングギアの構造やモーター制御の変更、ステアリングトルクセンサーの容量アップなどによって、クルマとの一体感がより高まるようにセッティングされている
続いて、1.5リッターエンジンのフィーリングも変わった。アクセルペダルを踏み込んで加速していくと、7,000rpmから始まるレッドゾーンまで、澄んだ音とともにきれいに吹け上がっていく。その間、トルクやパワーの落ち込みなどもなくフラットな印象だ。そして、シフトダウンなどでアクセルを戻した際の回転落ちも、これまで以上にスッと落ちてくれて、回転落ちが悪くなるなども感じさせない。したがって、シフトダウンの際の回転数も合わせやすくなっている。
改良後の新型は、アクセルを踏み込んだときの反応もよく、アクセルの踏み込みタイミングに対してのツキがよくなっているようだった(画像は改良前モデル)
そのような、すべての所作の一つひとつがドライバーの思いどおりになり、これまでよりもさらにストレスなく、ドライビングを楽しめるようになっていると感じられたのだ。
さて、「アシンメトリックLSD」の効果はどうだろうか。これも、非常に大きな効果を生んでいるのだが、少しだけ「LSD」の機構について説明しておきたい。あくまでも概要としてカンタンに説明しているので、その点はご容赦願いたい。
「ロードスター」は後輪駆動なので、それを例にすると、まっすぐ走っているときは両輪が同じように回転している。だが、交差点などで曲がろうとすると左右輪に回転差が生じるので、同じ駆動力をかけると曲がれなくなる。そこで通常は「デファレンシャルギア」という機構によって、回転差を吸収することで曲がれるようにしている。
いっぽう、ハイスピードでコーナーを曲がろうとすると、ロールして内側が浮き気味になる。そのときに内側後輪が浮いてしまうと、「デファレンシャルギア」によって外側後輪の駆動力も抜けてしまう。そこで開発されたのが「LSD」だ。片方の駆動力が抜けても、接地している側に駆動力をかけていくという、ある程度の左右輪の締結力を持った装置で、この締結力が強ければ強いほど左右輪の回転差がなくなり、弱ければ普通の「デファレンシャルギア」に近づいていくのだ。
では、「アシンメトリックLSD」は何かというと、「LSD」では基本的に加速時を軸に考えているので、減速時はあまり着目していない。その理由は、より多くアクセルペダルを踏み込めるようにして、コーナーリング時の駆動力を稼ぐかに重きを置いているからだ。しかし、「アシンメトリックLSD」はあえて減速時に強めに締結力を発生させるようにしている。そうすることで、リア内側の接地性を高めて姿勢を安定させようとしているのだ。
その効果は、ワインディングなどで十分に味わえる。たとえば、コーナー進入時にフロントに荷重を掛けながらステアリングを切っていくと、どうしてもリアが浮き気味で不安定な姿勢になりがちだ。それを防ぐ目的で、「ロードスター」には「KPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール)」が採用されている。これは、コーナーリング時にほんのわずかに内側後輪へブレーキをかけることで、ボディのリア内側の浮き上がりを防ぐというもの。それに加えて、「アシンメトリックLSD」が後輪の接地性を高めてくれるので、しっかりとリアの接地感を味わいながら、自信をもってコーナーをクリアできるようになった。
この効果が最も味わえるのは、ワインディングの下り坂だ。ちょっとオーバースピードでコーナーに入ってしまったというシーンなどは、誰にでもあるだろう。そのときに、少し強引にステアリングを切っていくこともあるだろうし、もしかしたら軽くブレーキペダルを踏んでいるかもしれない。そのようなシーンでは、リアの内側のタイヤは浮き気味になり不安定さが増してくるが、そんなときの「アシンメトリックLSD」の効果は絶大だ。しっかりと接地させてくれて、安定感がある。ボディ側は「KPC」で浮き上がりを防ぐ方向に働いてはいるが、それ以上に「アシンメトリックLSD」の効果が大きく作用する。そのくらい安定感が増しており、少し自分の腕が上がったのかなと錯覚すらさせてくれる見事なものだった。
改良後の新型「ロードスター」は、腕に覚えのあるドライバーだけでなく、より多くのドライバーに安心して乗ってもらえる仕様になったと言えそうだ。画像は、ハードトップの「ロードスターRF」
今回は、主にワインディングロード主体での試乗であったため、「MRCC」などを試すことはできなかったが、それでも実際に走らせるとその進化代はかなり大きく感じられた。主査の齋藤茂樹さんが述べていたように、「ND2」と呼んで差し支えない完成度といっていいだろう。そして、ここまで手を入れたのだから、まだまだ「ロードスター」の販売は継続されるに違いない。
(写真:和田清志)