レビュー

スバル「クロストレック」で1300km試乗!長距離を快適に走れる乗り心地と極上のシート

スバル「インプレッサ」をベースとしたクロスオーバーSUV「クロストレック」。今回は、同車の長距離における走りや乗り心地などを確かめるため、1,300kmほどのロングドライブへと連れ出してみた。

ルートは、東京を出発して中央道で下呂温泉を経由し、飛騨高山をかすめながら金沢まで行き、そこから元日に地震に見舞われた能登まで足を伸ばした。個人的な事情ではあるが、金沢方面でお世話になっている人たちがいて、そちらへ物資を届けたかったこともあったためだ

ルートは、東京を出発して中央道で下呂温泉を経由し、飛騨高山をかすめながら金沢まで行き、そこから元日に地震に見舞われた能登まで足を伸ばした。個人的な事情ではあるが、金沢方面でお世話になっている人たちがいて、そちらへ物資を届けたかったこともあったためだ

今回の旅をともにするグレードは、装備を充実させた上級モデルの「Limited」。パワートレーンは、2リッター DOHC デュアルAVCS直噴エンジンにモーターが組み合わされた「e-BOXER」が搭載されている。エンジンの最高出力は145ps/6,000rpm、最大トルクは188Nm/4,000rpmと、比較的高回転向けのエンジンであることが窺える。

ちなみに、標準では225/55R18のオールシーズンタイヤが装着されているのだが、今回は借り出したのが冬期であったため、同サイズのスタッドレスタイヤ、ヨコハマ「iceGUARD G075」が装着されていた。

コンパクトで取り回しがよく、視界も良好

さて、都内の地下駐車場に停めてある「クロストレック」のキーを受け取り、地上へ這い出してみると、コンパクトなボディサイズならではの取り回しのよさに気づいた。今回のような試乗の際はいつも、クルマに慣れることなくいきなり狭い駐車場などを走らせなければいけないため、結構緊張するものである。だが、「クロストレック」の全長4,480mm、全幅1,800mm、全高1,580mm(ルーフレール無は1,575mm)というサイズが、都内で扱うにはちょうどよい。

「クロストレック」は、ヒップポイントも車高も高いので見晴らしがよい。また、ボンネットの左右に峰があることから、車幅もつかみやすく感じられた

「クロストレック」は、ヒップポイントも車高も高いので見晴らしがよい。また、ボンネットの左右に峰があることから、車幅もつかみやすく感じられた

また、駐車場から車道へ出るためにフルロックまでステアリングを切ったのだが、その感触はほかのスバル車と異なり、とてもスムーズだ。これは、パワーステアリングが2ピニオン電動タイプへと進化したことが大きいだろう。操舵初期のフリクションを低減して、リニアで滑らかなトルク伝達を可能としている。同時に、操舵角に応じてステアリングのギア比が変化する「VGR(Variable Gear Ratio)」を継続採用し、低速時の取り回しのよさと、高速走行時の直進安定性を両立している。

乗り心地のよさと剛性感の高さで安心して運転できる

しばらく走らせると、発進時などの微速域でアクセルを踏み込んだ際の“ツキ”が素直なことに気づいた。スバルのCVT搭載車には、このあたりの制御がいまひとつでギクシャクしがちなクルマもある。だが、「クロストレック」は格段にスムーズで運転しやすい。

そして、徐々に速度を上げていくと、今度は乗り心地のよさと静粛性の高さがわかってきた。これは、「SGP(スバルグローバルプラットフォーム)」の進化のたまものだろう。フルインナーフレーム構造の採用や、構造用接着剤の適用拡大、サスペンション取り付け部の剛性向上など、「クロストレック」には最新の知見や技術が盛り込まれている。これによって静粛性が向上したのだ。

また、しっかりと足を動かせるようになったことで、サスペンションストロークを有効に活用し、快適な乗り心地を実現している。具体的には、段差などを乗り越えたときにガツンとした突き上げがなく、路面からのショックをきちんと吸収していることが感じられる。また、ステアリング周りなども、ブルブルと震えて不快感につながることなく、がっしりとした剛性を感じさせてくれる。

「クロストレック」に乗っていると、剛性の高さと乗り心地のよさによって安心感も覚える

「クロストレック」に乗っていると、剛性の高さと乗り心地のよさによって安心感も覚える

いっぽうCVTに関しては、以前に比べればいわゆるラバーフィーリングはかなりなくなったので高く評価できるものの、出足の部分でもう少しトルクを感じたいところだ。信号からの発進時などでアクセルペダルを一定に踏み込んでいると、微速域ではよいのだが、すぐにエンジン回転がドロップして力がなくなってしまう。すると、アクセルをもっと踏み込まねばならなくなる。これは意外と煩わしいうえに、燃費にもよい影響はないだろう。ちなみに、「e-BOXER」ではエンジンをかけずに、電気のみで発進することも可能だ。信号からの発進時は電気で走り始め、ある程度のところでエンジンがスタートするのだが、そのときには違和感などは覚えなかった。

ブレーキペダルのタッチについてはスムーズなものの、走行中にブレーキペダルを踏み始めると若干初期のGの立ち上がりが急なので、そのあたりはもう少しドライバーの意思どおりにスムーズな立ち上がりを期待したい。それ以降のコントロール性については上々だ。

直進安定性が高く、パワー感も適度で運転しやすい

高速道路においては、合流レーンから一気に加速して走行車線に進入するときのパワー感は過不足なく、回転さえ上がっていればアクセルペダルの踏み込み量に対して適切なトルクとパワーが得られる。

また、高速域での直進安定性も高く、それほど修正舵を必要としないものだったが、実はここで、装着していたスタッドレスタイヤとの相性がいまひとつなのが露呈してしまった。ステアリング操作に対して、タイヤが少しよれるような印象があったのだ。

実は以前にも、一般道や高速道路で「クロストレック」を試乗する機会があったのだが、その際にはそのようなことは感じられなかったので、ヨコハマ「iceGUARD G075」との相性によるものと考えられそうだ。

高速道路の走行時には、ロードノイズの車内への侵入やダンピング不足も少々感じられたのだが、これは装着しているスタッドレスタイヤとの相性である可能性が高そうだ

高速道路の走行時には、ロードノイズの車内への侵入やダンピング不足も少々感じられたのだが、これは装着しているスタッドレスタイヤとの相性である可能性が高そうだ

ホールド性とクッション性の高いシートは大きな魅力

さて、「クロストレック」には特筆すべき、大きな魅力と呼べるものがある。それは、シートだ。今回は、高速道路で一気に200km以上を移動するシーンや、一般道を100kmほど走るシーンなどもあったが、シートは腰回りをしっかりとホールドしてくれ、かつクッション性が高いので、路面からのショックを見事に吸収してくれた。

「クロストレック」には、骨盤を支えるシート構造が採用されている。クルマの大きな揺れなどが体から頭部へと伝わることを防いでくれて、快適な乗り心地を実現している

「クロストレック」には、骨盤を支えるシート構造が採用されている。クルマの大きな揺れなどが体から頭部へと伝わることを防いでくれて、快適な乗り心地を実現している

そのため、ステアリング操作に伴うロールや、路面のうねりで身体が大きく揺さぶられたときでも、快適な乗り心地を実現しているとスバルは説明する。どうりで2泊3日、1,300kmを快適に走り抜けられたわけである。

さて、高速道路での移動時には積極的に「アイサイト」を利用した。「レーンキープアシスト」や「アダプティブクルーズコントロール」は比較的スムーズに車両を制御してくれるので、一度使って慣れてしまえば高速道路の走行時にはなくてはならないものとなるだろう。ただし、先行車がいなくなったり、あるいは車線変更で前に入ってきたりした場合に、都度「ピッ!」と警告音を発するのは少々煩わしい。少なくとも、ドライバーにだけ伝えてくれればよいので、何らかの工夫を望みたいところだ。

マイルドハイブリッドとしてはいまひとつの燃費

今回、長距離を走ったことから燃費も計測してみた。

市街地:10.2km/L(12.9km/L)
郊外路:15.7km/L(16.0km/L)
高速道路:14.1km/L(17.3km/L)
( )内はWLTCモード

上記の結果となったのだが、正直に言うと、いまどきのマイルドハイブリッドとしては少々物足りない数値だ。ちなみに、高速道路でWLTCモード燃費に大きく差がついたのは、アップダウンの多い高速道路が多かったためと思われる。前述した、低回転域でのトルクの物足りなさから、よりアクセルペダルを踏み込んでしまう結果となり、燃費が悪化してしまったのだろう。

できるならば、もう少し低回転域からトルクが出るようにして、さらに乗りやすくなるような改良を望みたい

できるならば、もう少し低回転域からトルクが出るようにして、さらに乗りやすくなるような改良を望みたい

長距離を走る人におすすめしたい万能車

さて、「クロストレック」を1,300km乗ってみた総括をしてみたい。まず、スバルが提唱する「ゼロ次安全」、つまり視界や視認性に関しては十分に考えられていることがわかった。

「クロストレック」は、ドアミラーがドアにマウントされており、かつ、そこに小窓も設けられているので、特に右折時の歩行者を確認するには非常に有効だった。さらに、サイドの後席周りのウィンドウも6ライト化されていて、斜め後ろの視認性の助けになっているなど、スバル車の安全性の高さが改めて感じられた

「クロストレック」は、ドアミラーがドアにマウントされており、かつ、そこに小窓も設けられているので、特に右折時の歩行者を確認するには非常に有効だった。さらに、サイドの後席周りのウィンドウも6ライト化されていて、斜め後ろの視認性の助けになっているなど、スバル車の安全性の高さが改めて感じられた

また、後側方の車両検知も有効でミラー内のオレンジの警告灯でしっかりと反応してくれる。ただ、これは他車もそうなのだが、オレンジだとウィンカーと勘違いしそうなので(最近はドアミラーにウィンカーが配されているクルマが多い)、ひと工夫が必要なようにも感じられた。

車載カメラの「デジタルマルチビューモニター」は、センターコンソール上にある「VIEW」ボタン(赤丸部分)を押すことでセンタースクリーンに映し出されるが、可能であればウィンカーやワイパーレバーの先端などにあると、より操作が楽になるだろう

車載カメラの「デジタルマルチビューモニター」は、センターコンソール上にある「VIEW」ボタン(赤丸部分)を押すことでセンタースクリーンに映し出されるが、可能であればウィンカーやワイパーレバーの先端などにあると、より操作が楽になるだろう

最後に気になることを少々述べたが、そのようなことを踏まえても、乗り心地とシートのよさは高く評価できるものだった。長距離を多く走る人にとって、この乗り心地とシートの2つは外せないので、この点だけでも購入をおすすめしたい。

さらに、今回は試すことができなかったが、雪道などの走行性能もAWDに定評のあるスバルのことなので、手は抜いていないはずだ。「クロストレック」は、市街地での使い勝手から長距離走行まで、あらゆるシーンで万能なクルマと言えそうだ。

(写真:内田俊一、内田千鶴子、SUBARU)

内田俊一
Writer
内田俊一
1966年生まれ。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を生かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。長距離試乗も行いあらゆるシーンでの試乗記執筆を心掛けている。クラシックカーの分野も得意で、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員でもある。
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桜庭智之(編集部)
Editor
桜庭智之(編集部)
自動車専門メディアで編集者として10年間勤務した後「価格.comマガジン」へ。これまで、国産を中心とした数百の新型車に試乗しており、自動車のほかカーナビやドラレコ、タイヤなどのカー用品関連も担当する。
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