今回は、2024年2月にフルモデルチェンジされたメルセデス・ベンツ「Eクラス」へ試乗したので、その印象についてお伝えしよう。
同車のライバルであるBMW「5シリーズ」(2023年7月に全面改良を実施)にも試乗したので、2台を比較しつつレビューしたい。
今回は、メルセデス・ベンツ「Eクラス」(右)をメインに、ライバル車のBMW「5シリーズ」(左)とも比較試乗してみた
「Eクラス」の起源は1946年に発表された「W136」だが、「Eクラス」と名乗るようになったのは「W124」と呼ばれる1985年に発表されたモデルからだ。
「W124」から数えて、今回フルモデルチェンジされた新型が6代目の「Eクラス」になる。ちなみに、セダンと同時に日本へ導入されたステーションワゴンは、「S123」(1977年発表)が起源だ。
まずは、日本に導入される「Eクラス」のラインアップと外観デザインから見てみよう。
■メルセデス・ベンツ 新型「Eクラス」のグレードラインアップと税込価格
★印は今回の試乗グレード
-セダン-
E200 アバンギャルド(2L直4ターボ+ISG):8,940,000円(★)
E220d アバンギャルド(2L直4ディーゼルターボ+ISG):9,210,000円
E350eスポーツEdition Star(2L直4ターボ+PHEV):9,880,000円(★)
E300 エクスクルーシブ(2L直4ターボ+ISG):1,1260,000円
-ステーションワゴン-
E200 ステーションワゴン アバンギャルド(2L直4ターボ+ISG):9,280,000円
E220d ステーションワゴン アバンギャルド(2L直4ディーゼルターボ+ISG):9,550,000円(★)
E300 ステーションワゴン エクスクルーシブ(2L直4ターボ+ISG):11,390,000円
E220 d 4MATIC オールテレイン(2L直4ディーゼルターボ+ISG):10,980,000円
2L直4のガソリンターボエンジンを搭載した「E200」と、同ディーゼルターボエンジンを搭載した「E220d」は、どちらも「ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)」と呼ばれる電気モーターを組み合わせたマイルドハイブリッドモデルだ。
「E200 アバンギャルド」セダンのフロント、リアエクステリア。新型「Eクラス」のエクステリアデザインは、メルセデスセダンの伝統でもあるロングボンネット、ショートオーバーハング、そして「キャブバックワード」と呼ばれるキャビンを後方に寄せたデザインが踏襲されている
LEDテールランプに、「スリーポインテッドスター」をモチーフとしたデザインが採用されているのも、新型「Eクラス」の特徴のひとつだ
「E220d アバンギャルド」ステーションワゴンのフロント、リアエクステリア。フロントグリルやテールランプなどは同社の電気自動車「EQ」シリーズのデザインを思わせるブラックパネルの採用などによって先進性が強調されている
そして、セダンにのみ存在する「E350e」は、2L直4ガソリンターボエンジンを搭載したPHEVモデルである。「E350e」は、バッテリーによるモーター駆動だけで112kmの距離を走行でき、最高速度は140km/hに達する。普通充電と急速充電(CHAdeMO)の両方に対応している。
「E350e」には最高出力95kW、最大トルク440Nmを発生させるハイブリッドモジュールが搭載されており、エンジン+モーターによるパワフルなハイブリッド走行を楽しめる
普通充電の充電口は右後方にある
急速充電(CHAdeMO)は左リアフェンダー付近に備えられている
さらに、2024年3月22日には、「E300」のセダンとステーションワゴン、「E220d」のクロスオーバー(SUV)モデル「E220d 4MATIC オールテレイン」も新たに導入された(今回は未試乗)。
「E300」は、搭載エンジンそのものは「E200」と同じながら、最高出力は258ps/5,800rpm、最大トルクは400Nm/2,000-3,200rpmと、それぞれ54ps、80Nmアップしている。
「E300」ステーションワゴンのフロント、リアエクステリア
また、「E220d 4MATIC オールテレイン」は、車高を若干アップさせた四輪駆動のステーションワゴンだ。
そして、メルセデスといえば流麗なクーペも外せない。「E200」のパワートレインを搭載したクーペ、「CLE200」もラインアップされている。
「CLE200」は、ロングホイールベースにショートオーバーハング、ロングボンネットと、伝統のスタイリングを有する2ドアクーペだ。パワートレインは、2L直列4気筒ターボエンジンにISGが組み合わされ、スポーツサスペンションも標準採用されている
インテリアで最も注目したいのが、センターディスプレイに加えて助手席側にもディスプレイが搭載された「MBUXスーパースクリーン」(全グレードにオプション設定)だ。助手席前方のインパネに、センターディスプレイとは独立して操作できるディスプレイが配置されているので、たとえばYouTubeの動画やテレビなど、さまざまなコンテンツを助手席用として楽しめる。
「MBUXスーパースクリーン」は、「デジタルインテリアパッケージ」(404,000円(税込))と呼ばれるオプションパッケージの中に組み込まれている
ちなみに、走行中に助手席前のディスプレイで視聴している動画などは、ドライバー側からはブラックアウトして見えない仕組み。車両停止時であれば、ドライバー側からも見える。
また、新型ではサードパーティー製のアプリ、たとえばオンライン会議の「Zoom」や「TikTok」、アプリのゲームなどをダウンロードして楽しめるようになった。さらに、オプションパッケージの「デジタルインテリアパッケージ」を装備すると、「セルフィー&ビデオカメラ」と呼ばれる車内を写すカメラが装着される。これは「Zoom」などを使ったときに、広角レンズで車内を映しながらオンライン会議ができるものだ。ただし、このカメラにはドライバー監視システムの機能は備えられていないことには注意したい。
もうひとつ、「アドバンスドバッケージ」と呼ばれるパッケージオプションの中に、「ブルメスター4Dサラウンドサウンドシステム」という機能が搭載されている。これは、音楽に合わせてフロントシートが振動するというもの。さらに、アンビエントライトとも連動しているので、音楽に合わせて点滅したり光が強弱したりすることで視覚的にも楽しめるものだ。
今回試乗したのは「E200」のセダンと「E220d」のステーションワゴン。そして、わずかだが「E350e」セダンにも乗ることができた。
「E200」に関しては、あえてセダンを選んでいる。その理由は冒頭で述べたとおり、ライバル車のBMW「5シリーズ」(「523i」)と比較したかったからだ。そして、結論から先にお伝えすると、どちらも“乗り心地重視のサルーン”で、かなりしなやかな乗り味であった。ただし、「Eクラス」の3車種については足周りの慣らしがまったく済んでいない状態だったので、少々硬めでバタつく印象を受けた。だが、ある程度速度域を上げていくとしなやかさの片鱗が見えてきたことから、しっかりと走り込んで足回りの動きさえなじめば、良好な乗り心地になることが窺えた。
新型「Eクラス」は、きれいな路面においてはまるで流れるように走ってくれるのが印象的だった
いっぽう、ハンドリングの比較では、両社の個性が浮き彫りとなった。「E200」は、基本的にどのようなコーナーであっても、安全かつスムーズに四輪をしっかりと接地させながら曲がっていく。それに対して、「523i」は、より積極的にコーナーをクリアしていこうとするのだ。
今回は、両車ともに「リアホイールステア」が搭載されており、「523i」も四輪はしっかりと接地しているのだが、それに加えてより積極的に曲がろうと躾られているような印象を受けた
しかし、である。個人的には、ハンドリングの差は以前より縮まったように感じられた。それは、「523i」が「M Sport」グレードではなかったことにも起因するのかもしれないが、それでもBMWのキビキビとしたハンドリングは以前よりも少し影を潜めた。言うなれば、BMWはメルセデスに、そしてメルセデスはBMWに近付いたように感じられたのだ。
ちなみに、「E200」のエンジンそのものはストレスなく高回転まで伸びていくタイプで、非常に軽やかさが感じられた。また、ガソリン、ディーゼルエンジンともに「ISG」によるエンジンのスタートストップが非常にスムーズで、アイドルストップからの再始動も見事であったことも付け加えておこう。この点は、「523i」も同様であった。
遮音性については、「E200」セダンは若干エンジン音の侵入が大きいように思えた。いっぽうの「E220d」ステーションワゴン(写真)は、ディーゼルエンジンを搭載して遮音性に関して不利なボディタイプにも関わらず、意外にも静粛性が高かった
ひとつ、「Eクラス」のメリットとして大きく注目したいのがブレーキフィールだ。これについては、「523i」に大きく勝っている。かつて、「BSG(ベルトドリブン スタータージェネレーター)」と呼ばれるマイルドハイブリッドが採用されていた時代の「Eクラス」のブレーキフィールはあまり褒められたものではなく、踏力と実制動力に差が大きく、スムーズに停車させるのにとても気を使う必要があった。だが、新型「Eクラス」ではそれが見事に改善されていたのだ。
新型「Eクラス」のブレーキフィールは、明らかにロジックへ手が入ったことが窺えるような、自然かつコントロールしやすい感触だった
いっぽうの「523i」は、ブレーキペダルを踏み込み始めると一瞬空走感があった後、一気にきき始め、かつ、そこでわずかにペダルを戻したとしても減速Gは変わらないなど、非常に気を使うブレーキフィールだった。
スイッチなど操作系の使いやすさについては、「523i」に軍配が上がる。スイッチ類が必要なところへ適切に配されており、タッチ感もなかなかよい。
いっぽう、「Eクラス」は多くの機能がタッチスクリーン内に収められ、残りはステアリングスイッチに集約されている。そのステアリングスイッチなのだが、煩雑なので覚えるのにひと苦労するうえに、スイッチ自体も小さすぎる。さらに、ドアにあるシートメモリーのスイッチなども感触が軽く、ピアノブラックの“板”そのものが操作のたびに動いてしまうなど、質感が高いとは言えなかった。このあたりは、BMWの勝ちと言えるだろう。
「523i」は、運転席周りのスイッチ類がわかりやすい場所へ配置されているので、直感的に操作しやすい
新型「Eクラス」は、操作系の多くがスクリーン内に収められており、物理スイッチはステアリング周りに集約されているのだが、スイッチが多くかつ小さいので操作しづらく感じた
■BMW 「5シリーズ」セダンの価格(今回の試乗車)
523i Exclusive:7,980,000円
ここからは、「523i」についても触れておこう。今回、500kmほど試乗した印象である。このようなサルーンは高速道路での移動に多く使われるだろうから、その印象から述べると100〜200km程度の移動は得意中の得意である。
直進安定性が高く、どこまでも快適に走ってくれる。ただし、これまでの「5シリーズ」と比較すると「ACC(アダプティブクルーズコントロール)の精度が若干落ちたようで、先代よりも加減速する機会が多い印象だ。その理由としては、どうやら高速道路で燃費を稼ぐためにコースティング(※)がひんぱんに行われているようで、そのため先代よりもエンジンブレーキに頼る機会が減ったからではないかと考えられる。
※ ドライバーが走行中にアクセル・ペダルから足を離しブレーキを踏まずにいると、周辺データに基づいて惰性走行と回生機能を適宜切り替えること(BMWのHPより)
「523i」のエンジンパワーは、4気筒でも出力やトルクはじゅうぶんで、高速道路などでも非常に走りやすく感じられた
足周りは非常にしなやかで、現行「7シリーズ」のように大型船に乗ったような雰囲気ではなく、もう少し締まった印象だ。ややダンピング不足と思わせるような挙動もたまに示すが、それでもしっかりと踏みとどまってくれるので、標準の「523i」としては非常によいと言える。市街地では、タイヤの硬さを感じる場面も少しあったものの、乗り心地に悪影響を与えるほどではない。もし、さらなるスポーティーさが欲しければ「M Sport」にすればよいので、ちょうどよい落としどころと思われる。また、それにともなって、ハンドリングもキビキビしたフィーリングへと仕上がっていた。
気になったのは、前述したブレーキの踏力とコントロール性が一致しないこと。そして、インパネ周りの照明がドアミラーに映り込むときがあることくらいだ。
燃費は以下のとおり。
市街地:10.3km/L(10.7km/L)
郊外路:12.9km/L(15.0km/L)
高速道路:19.6km/L(16.4km/L)
( )内はWLTCモード値
上記のように、非常に優秀な結果となった。特に、高速道路では常時20km/Lを超えていたのだが、最後にひどい渋滞に巻き込まれたため、20km/Lをわずかに下回ってしまった。
さて、3種類の「Eクラス」に加えて、比較としてBMW「5シリーズ」へ試乗した総括をしたい。
まず、「E200」と「523i」で言うと、どちらも非常によくできたセダンと言える。細かな使い勝手は「523i」に分があるが、ブレーキフィールにネックがある。このあたりを鑑み、かつ、どのようなハンドリングが好みかで選択すればよいだろう。
では、「Eクラス」の中ではどうだろうか。今回試乗したかぎりでは、「E220d」か「E350e」がよいだろう。「E220d」は、ディーゼルでありながら静粛性が高く、かつトルクフルで長距離を走りたくなるクルマだからだ。「E350e」もそれは同じで、ガソリンエンジン+モーターによる力強い走りは魅力的で、鷹揚な乗り心地はまさにこれまでの「Eクラス」のイメージを踏襲したものであった。
今回乗った3台の「Eクラス」の中で、いかにも「Eクラス」らしい鷹揚なミッドサイズセダンを味わわせてくれたのが「E350e」だ。車重がほかよりも重いため、全体的におおらかな乗り心地で、すべてをクルマが受け止めてくれるような印象だった。EV走行からガソリンエンジンが始動すると、まるでターボがきき始めたかのように活発に走ってくれる
ここでひとつ、お伝えしたいのが価格についてだ。「E200」の894万円に対して、「E350e」は988万円と94万円の価格差がある。だが、装着率の高いオプションの「AMGラインパッケージ」は50万円+αという価格なのだが「E350e」には標準で装備される。さらに、ホイールは1インチアップし、トリムもひとつ上級のものが装備されるので、トータルすると約60万円が上乗せされる。「E200」にこれらを装備すると、954万円になる。つまり、それらを差し引くと約30万円少々の差に縮まるのだ。そして、「E350e」はPHEVのため免税、減税などの補助もあるので、最終的な支払額はさらに縮まるだろう。
残念ながら、ステーションワゴンには「E350e」はラインアップされないのだが、もし「Eクラス」セダンを考えているなら「E350e」が最もおすすめと言えそうだ。
(写真:島村栄二、内田俊一)