2024年3月8日、ホンダ「アコード」が11代目にフルモデルチェンジされた。デザインやダイナミクス性能、先進安全装備など、フラッグシップモデルとしてふさわしい内容だ。しかし、新型にはさらに“劇的な進化”とも言える新機能が搭載されている。
それが、「Google」の搭載である。世界中の誰もが知るインターネットの巨人と言える企業だが、そのGoogleが開発したコネクテッド技術である「Googleビルトイン」が、日本国内のホンダ車として初めて搭載されたのだ。
今回は、音声認識で車内の機能を操作できる「Googleアシスタント」や、多彩な情報で快適なルート案内を提供してくれる「Googleマップ」など、新型「アコード」に搭載された「Google」の各機能における使い勝手を試してみた。
これまでも、車載向けのアプリはGoogleの「Android Auto」やAppleの「CarPlay」が日本国内でも一定の人気を得ている。では、新型「アコード」に搭載された「Googleビルトイン」は、既存の技術とは一体何が違うのだろうか? 何よりも、その実力が気になる。
「Googleビルトイン」は、インパネ中央に設置されている「12.3インチ Honda CONNECTディスプレイ」を使って操作できる
そこで、今回は(車両の運転フィールなどではなく)「Googleビルトイン」の機能にフォーカスを当ててわかりやすく解説するとともに、今後のテレマティクスの将来性について触れていきたい。ちなみに、新型「アコード」の車両詳細については、以下の解説記事を参照いただければ幸いだ。
新型「アコード」に搭載された「Googleビルトイン」は、グローバルでは「Android Automotive」と呼ばれることが多いのだが、今回はわかりやすさを重視して「Googleビルトイン」と呼ばせていただきたい。
最初に疑問に思うのが、「Googleビルトイン」は「Android Auto」や「CarPlay」とは一体何が違うのか? という点だ。特に、「Android Auto」に関してはどちらもGoogle製だからだ。
「Android Auto」や「CarPlay」を使うためには、下記のものが必要だ。
(1)「ディスプレイオーディオ」などのディスプレイシステム
(2)「Android Auto」や「CarPlay」に対応し、通信機能を持つスマホ(一部タブレットも可)
つまり、ディスプレイ本体とスマホの2つが要る。では、「Googleビルトイン」は違うのか? 実は「Googleビルトイン」は、読んで字のごとくGoogle自体を車両に搭載しているオペレーションシステムである。これは、車両側にあらかじめ通信機器(モジュール)を搭載し、車両ごとに最適化することで「(基本的に)スマホなしで操作ができる」のが特徴だ。
「Android Auto」や「CarPlay」にはスマホが必要だが、「Googleビルトイン」はスマホなしにGoogleの各機能を使えるのが大きなメリットだ
「Googleビルトイン」には、カーナビの「Googleマップ」や通話、メール、音楽再生などができる「Googleアシスタント」、さらに各種アプリをダウンロードして使える「Google Play」などがあらかじめ搭載されているので、スマホを介さずにそれらをシームレスに使えるのだ。もちろん、普段使っているスマホをBluetooth経由で「Googleビルトイン」に接続して、音声通話などを行うことも可能だ。
つまり、「Android Auto」はスマホ上で、「Googleビルトイン」は車載器上で、直接動作すると考えればわかりやすいだろう。
ちなみに、新型「アコード」の車載器では、「Googleビルトイン」のほかに「Android Auto」や「CarPlay」も使える。
では、実際に「Googleアシスタント」から使ってみよう。まず、クルマのエンジンを始動してウェイクアップワード「OK Google」を発話、またはステアリングスイッチを押すことで「Googleアシスタント」が起動する。
通信回線の品質などに関しては後述するが、最初によいと感じたのは音声認識精度の高さである。これは、車両静止時だけでなく騒音が介入しやすい走行中でも同様であった。元々、新型「アコード」の静粛性が高いということもあるものの、目的地や周辺検索、エアコン、オーディオなどを音声で操作してみたのだが、ミスすることはまったくなかった。
「Googleアシスタント」を使って、「周辺のおいしいラーメン屋さんを探して」と伝えると、周辺にあるいくつかのラーメン店の場所を地図で表示してくれた
「エアコンの温度を1度下げて」「Fm yokohamaをかけて」と言ったワードにも適切に対応してくれるので、特に運転中などに使うと便利だろう
Googleの技術は、日々進化している。スマホやPCの世界では、生成AIである「Gemini(ジェミニ)」のリリースを始めているなど、技術の進化スピードはきわめて早い。そのため、音声認識はもちろんタッチパネル操作による動作レスポンスも早く、検索結果も納得できるレベルであった。
ちなみに、Androidによるオペレーションシステムとはいえ、「Googleビルトイン」は車両専用に開発されているために、スマホの世界でよく語られるチップ性能やOS、メモリー性能などに関しては非公開である。ただし、音楽アプリなどの楽曲を保存するためのストレージ容量については、20GB確保されているのが確認できた。
次は、カーナビ機能に関して。「Googleビルトイン」には、「Googleマップ」が搭載されている。基本的な使い方は、スマホと変わらない。「Googleマップ」のルート探索の精度の高さや、常時更新で最新の地図画面が使えること、さらには「Google検索」に連動した目的地情報(データ)の豊富さなど、普段スマホを使っている人の多くが、その利便性の高さに満足しているはずだろう。
「Googleビルトイン」に搭載されている「Googleマップ」の見やすさや豊富な情報量などは、スマホアプリのものと遜色ない。「Googleマップ」に見慣れている人であれば、より使いやすいだろう
そして、もちろん「Googleビルトイン」においても、「Googleマップ」の実力はいかんなく発揮されている。特に、従来のスタンドアロン型のカーナビと比較した場合、地図アップデートなどのタイミングの早さも考慮すると、「Googleビルトイン」のほうが有利だ。
また、スマホをカーナビとして使う場合には、自車位置を捕捉して補正するために基本スマホのGPSのみに頼ることになるが、「Googleビルトイン」では車両に搭載された高精度GPSや車速パルスからの信号を活用できるので、トンネルなどでの自車位置ロストもほとんど発生しない。
さらに、ディスプレイの輝度や発色が専用にチューンされているので、地図画面は非常に見やすい。地図そのものを車両用にカスタマイズしているという情報は入っていないが、高精細かつ大画面(12.3インチ)なので、地図の視認性は良好だ。
加えて、地図画面は10.2インチの「デジタルグラフィックメーター」に表示できて、従来比で2倍に大型化した「HUD(ヘッドアップディスプレイ)」へ進行方向を示す「ターン・バイ・ターン」の表示も可能など、ルート案内の使い勝手は非常に高いものとなっている。
「Googleマップ」のルート案内画面は、「10.2インチ デジタルグラフィックメーター」上に表示させることもできる
次に、アプリ配信サービスの「Google Play」について。対応するアプリをダウンロードして使うことができるサービスで、Androidスマホを使っている人なら日々お世話になっていることだろう。
たとえば、天気予報やニュース、ポッドキャスト、音楽配信サービスなどのアプリが活用できる。ただ、アプリは何でもインストールできるわけではない。これは「Google」と自動車メーカー側との取り決めによる部分が大きいようだ。
「Google Play」では、音楽配信サービスやオーディオブックなど、さまざまなアプリをインストールして楽しめる。ただし、すべてのアプリが使えるわけではないことに注意したい
実は、新型「アコード」に試乗する数日前に、某輸入車に搭載されていた「Googleビルトイン」にとあるナビアプリをインストールしたのだが、新型「アコード」にはインストールできなかったからだ。
ただし、ホンダのエンジニアによれば、「(某ナビアプリは)現在、『CarPlay』でのみダウンロードに対応しているが、今後は『Google Playストア』でもダウンロードできるよう検討を進めている」とのことであった。
ちなみに、音楽配信サービスでは「Spotify」がプリインストールされていたが、筆者自身で「Amazon Music Unlimited」をインストールして使うことができた。
試しに、インストールされていなかった「Amazon Music」をダウンロードしてみたところ、問題なく使うことができた
さらに、この手の音楽アプリも「Googleアシスタント」の音声コマンドで「○○の楽曲かけて」などと発話すれば楽曲をセレクトしてくれるなど、わずらわしい操作が不要なのは便利でありがたかった。
現在、日本で販売されているホンダ車には、「Hondaトータルケアプレミアム」と呼ばれる独自のテレマティクスサービスが設定されている。新型「アコード」では、「Googleビルトイン」とこのサービスを連携させることによって、利便性が高められている。
同車では、「Hondaトータルケアプレミアム」に「Googleアプリ/サービス専用通信プラン」が最初から組み込まれているのが特徴だ。このプランの最大の利点は、「Googleアプリ/サービス」のデータ通信量を気にせずに使えるところにある。「Googleマップ」や「Googleアシスタント」を使ったり、「Google Play」でアプリをダウンロードしたりしても、通信料自体に影響はない(ただし、Wi-Fi接続サービスは対象外)。
「Hondaトータルケアプレミアム」には、緊急の際に警察などへ通報してくれるサポートサービスやスマホでクルマの施錠、解錠ができる機能、車内Wi-Fiなど、さまざまなサービスが組み込まれている。今回は、同サービスにGoogleの機能を通信量無制限で使えるプランが追加された
ここで注意が必要なのが、この「Hondaトータルケアプレミアム」は、メニュー自体も多彩で自分の好みに応じて「トッピング感覚」でサービスを選べる点は魅力的なのだが、少々細かくわかりづらいのがネックなところである。
たとえば、新型「アコード」の場合は、月額550円の基本パック(緊急サポートセンターの利用、リモート操作など)に付帯している機能は、初回申し込みから12か月の間は無料なのだが、それを過ぎるとそれぞれのサービスが有料となる。
また、前述の「Googleアプリ/サービス専用通信プラン」も同様で、無料期間が終わると月額990円になる。また、スマホやタブレットを車内Wi-Fiに接続して楽しめる「車載Wi-Fiサービス」を使う場合は、ディスプレイ上から容量をセレクトして購入する必要がある。価格は1GBあたり330円だが、こちらも基本パックの初回申し込みから12か月間は1GBまで無料となる。
「車内Wi-Fi」は、1GBあたり330円で利用できる。画面は、新型「アコード」で12か月間は無料期間のため、1GBパックが「無料」と表示されている
要は、最初の1年は無料だが、それ以降は有料ということだ。すべてのサービスを選ぶと、月額2,200円(Wi-Fi除く)がかかる点は、おそらく新型「アコード」のユーザー層を考えればそれほど苦にはならないかもしれないが、Googleのサービスだけはマストになるのでその部分だけでも無料期間を延長してほしいと感じた。
テレマティクスサービスに関しては、各メーカーが開発にしのぎを削っている状況だが、UIを含めた開発スピードの速さ、導入のしやすさなども含めて、今後は「Googleビルトイン」が徐々にシェアを伸ばしてくる可能性は十分にあるだろう。
北米では日産が、日本でもボルボが「Googleビルトイン」を積極的に採用しているが、いまのところは上級車種への搭載がメインである。通信モジュール本体や通信料などを考えると、コンパクトカーなどにはこれまでのスタンドアロン型のカーナビ、または「Android Auto」や「CarPlay」がまだまだ主流と言える。それでも、スマホを接続しないでシームレスに操作できる「Googleビルトイン」の感覚は、一度体験するとクセになりそうだ。
新型「アコード」は、ボディの大きさを感じさせない軽快なハンドリング、特に乗り心地と静粛性に関してはフラッグシップらしい仕上がりだった。これに「Googleビルトイン」がプラスされることで、新型「アコード」のバリューはより高いものとなっていると思える
(写真:価格.comマガジン編集部)