レビュー

スバル「WRX S4」で450km試乗!スポーツセダンの乗り心地や燃費を詳細にチェック

2023年10月、スバルのハイパフォーマンスセダン「WRX S4」に改良が施され、C型からD型へと進化した。スバル車に詳しい方ならご存じのとおり、改良が加えられるごとにアプライド番号が変わるので、今回は現行モデルとして3回目の進化だ。

今回は走りに関しての改良は少ないのだが、「WRX S4」を450kmほど長距離で走らせてみたので、改めてその印象についてお伝えしたい。

■スバル「WRX S4」のグレードラインアップと税込価格
STI Sport R EX(今回の試乗車):5,027,000円
GT-H EX:4,477,000円

大型リヤスポイラーの装着や新世代アイサイトの搭載などに注目

今回の「WRX S4」の改良では、安全性や実用性の向上のほか、ハイパフォーマンス車としての価値がさらに高められている。

具体的に説明すると、まずはハイパフォーマンス車ならではと言える「大型リヤスポイラー」がメーカーオプションとして新たに設定されたことだ。スバルによると、走りの楽しさを高揚させるパーツを装着することによって高いパフォーマンス性を可視化し、ユーザーのスポーツマインドを刺激することが大きな目的という(ただし、今回試乗したクルマには「大型リヤスポイラー」は未装着だった)。

「STI Sport R EX」グレードにメーカーオプションとして設定されている大型リヤスポイラー。価格は、「レカロフロントシート」と合わせて286,000円(税込)

「STI Sport R EX」グレードにメーカーオプションとして設定されている大型リヤスポイラー。価格は、「レカロフロントシート」と合わせて286,000円(税込)

安全性においては、「アイサイト」が新世代のものへと刷新されている。これまでのステレオカメラに加えて、新たに広角単眼カメラの追加によって、視野角がこれまでの約2倍の128度へ拡大。カメラの認識範囲が拡大されたことによって、従来よりも事故の回避をアシストできるシチュエーションが増えている。

さらに「デジタルマルチビューモニター」には、4つのカメラから取り込んだ映像を合成して車両の周囲360度を映し出す「3Dビュー表示」や、車速が15km/h未満のときにフロントビュー(車両前方と前側方の映像)とトップビュー(自車を上から見た映像)を自動で表示することで、画面表示を切り替えることなく車両周囲の安全を確認できる「AUTOモード」などが加わった。

また、実用面では専用チューニングの「ハーマンカードンサウンドシステム」が「STI Sport R EX」グレードに標準搭載されることによって、ハイクオリティーなサウンドを手軽に楽しめるようになった。

自制が必要なほどの、怒濤の加速

それでは、改めて「WRX S4」を長距離試乗した印象についてお伝えしたい。まず市街地においては、しっかりとした分厚いトルク(375Nm/2000-4800rpm)が低回転域から発生するので、低い速度域で運転していてもとても走りやすく感じられた。

一般的に、CVT搭載車は高燃費を目指すため、エンジン回転数をできるだけ上げないセッティングがなされる。しかし「WRX S4」は太いトルクのおかげで物足りなさを感じるようなことはまったくなく、非常にスムーズに走れるのだ。

そして、低回転から一気にアクセルペダルを踏み込むと、特に3,000rpmを超えたあたりから少し気の遠くなるほどの加速が怒涛のように始まり、アッという間に制限速度を超えようとしてしまう。「WRX S4」を市街地で乗るには、自制心が必要と思ってしまったほどだ。

「WRX S4」には、2.4リッター直噴ターボDITエンジンと「スバルパフォーマンストランスミッション」を搭載。最高出力は202kW(275PS)/5,600rpm、最大トルクは、375N・m(38.2kgf・m)/2,000-4,800rpmを発生させる

「WRX S4」には、2.4リッター直噴ターボDITエンジンと「スバルパフォーマンストランスミッション」を搭載。最高出力は202kW(275PS)/5,600rpm、最大トルクは、375N・m(38.2kgf・m)/2,000-4,800rpmを発生させる

高速道路においては、AWD(4WD)の絶妙なセッティングに舌を巻く。天候に関係なく、四輪がしっかりと路面をとらえており直進安定性を保ってくれているのが、運転していてはっきりとわかる。そのため、いつでも安心してアクセルとブレーキ操作に集中できるのだ。ちなみに、ドライブモードをさまざまなセッティングに変更してみたのだが、この盤石な安心感は変わることがなかった。

メーカーオプションの「レカロフロントシート」は試してから選びたい

乗り心地については、スポーツモデルということから当然、固いことは覚悟していた。だが、サスペンションの動きは乗員に対して意外にも過酷と言うほどではなかった。これなら、助手席や後席に座る同乗者からも大きなクレームが出るようなことはないだろう。

また、前述のとおりタイヤの接地性が非常に高く、固いサスペンションにもかかわらず高速道路のコーナーなどで跳ねることも皆無だった。ボディ剛性が高いうえに、それをうまく使ってサスペンションをしっかりと動かしているのだろう。

「WRX S4」には、「スバルグローバルプラットフォーム」と「フルインナーフレーム構造」が採用されており、忠実なハンドリングや快適な乗り心地を実現する

「WRX S4」には、「スバルグローバルプラットフォーム」と「フルインナーフレーム構造」が採用されており、忠実なハンドリングや快適な乗り心地を実現する

ただし、ドライバーの体格によっては「WRX S4」のシートは欠点になってしまうかも知れない。「STI Sport R EX」グレードの広報車にはメーカーオプションの「レカロフロントシート」が装着されていたのだが、2時間以上乗っていると腰が痛くなってしまったのだ。座面と背面の表皮が張っていて固いため、ショックが吸収されずに直接体に伝わってくることと、シートが大柄なのでサイドサポートが甘く腰に負担がかかってしまったのが要因のようだった。

シートのよし悪しは体型にも依存するものなので、筆者(165cmで中肉中背)の体がシートと合わなかったとも言えるのだが、もし「レカロフロントシート」を考えているなら、可能なら一度座ってから検討するほうがよいだろう。

「STI Sport R EX」グレードにメーカーオプションで装着できる「レカロフロントシート」。価格は220,000円(税込)

「STI Sport R EX」グレードにメーカーオプションで装着できる「レカロフロントシート」。価格は220,000円(税込)

新世代「アイサイト」は、前述のとおり広角カメラを採用しただけでなく、動作に関するバージョンアップも行われているのか、以前に比べて誤作動が減ったように感じられた。

高速道路での移動時には常に「アイサイト」を利用していたのだが、誤作動がほとんどなかったからだ。新世代アイサイトは、かなり精度が高められていると言えそうだ。

また、今回新採用されたデジタルマルチビューモニターの「AUTOモード」が非常に便利だったことも付け加えておきたい。とっさにカメラで見たいときに、わざわざスイッチを探す必要のないことが、高い安全性に結びついていることを実感したからだ。

スイッチレイアウトは他モデルと統一してほしい

「WRX S4」の室内は、スバル車特有の視界のよい景色が広がる。そしてインテリアは、比較的見やすいメーター周りと大きな縦型の「11.6インチセンターインフォメーションディスプレイ」、かっちりとした質感のシフトノブなどが目に映る。

「STI Sport R EX」グレードのインテリア

「STI Sport R EX」グレードのインテリア

ここでひとつ、気づいたことがある。それは、ステアリングスイッチだ。実は、少し前に「クロストレック」に乗っていたのだが、「WRX S4」とはスイッチのレイアウトが異なるのだ。

たとえば、オーディオのボリュームは「クロストレック」ではステアリングスイッチ左の一番下に左右キーで配されているのに対して、「WRX S4」は同じく左スイッチ類中央にあるタンブラー風のスイッチを上下することで操作するといった違いが見られた。

このような操作の違いがあると、メーカーとして考え方が統一されてないように見えてしまうので、基本的な操作類は統一してもらいたいと思う。

「STI Sport R EX」グレードのステアリング

「STI Sport R EX」グレードのステアリング

燃費を納得できれば最良のスポーツセダンに

今回は長距離試乗ということで、実際の燃費についても計測してみた。

市街地:7.9km/L(7.2km/L)
郊外路:9.3km/L(11.4km/L)
高速道路:12.2km/L(12.9km/L)
( )内はWLTCモード値

郊外路ではWLTCモード値を若干下回ったものの、後はほぼ同じと言ってよいだろう。いずれの値も、昨今の他車の燃費値を考えれば、正直よい数値とは言えない。さらに、「WRX S4」の場合はハイオクガソリン仕様なので、お財布には少々厳しいクルマだ。

「WRX S4」は改良によって安全性が大きく高められるなど、魅力がさらに増している

「WRX S4」は改良によって安全性が大きく高められるなど、魅力がさらに増している

今回、「WRX S4」を長距離試乗して感じたのは、「アイサイト」が新世代になり安全性が向上したことが、ドライバーにとっては最もうれしい内容だったのではと思われる。当然のごとく、走りは改良前のパワフルさそのままだ。「WRX S4」にかぎって言えば、“最新が最良”ということになるだろう。後は、前述の燃費を納得できるのであれば、サイズも手ごろな、とてもおすすめできるスポーツセダンと言えそうだ。

(写真:内田俊一、SUBARU)

内田俊一
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内田俊一
1966年生まれ。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を生かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。長距離試乗も行いあらゆるシーンでの試乗記執筆を心掛けている。クラシックカーの分野も得意で、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員でもある。
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桜庭智之(編集部)
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桜庭智之(編集部)
自動車専門メディアで編集者として10年間勤務した後「価格.comマガジン」へ。これまで、国産を中心とした数百の新型車に試乗しており、自動車のほかカーナビやドラレコ、タイヤなどのカー用品関連も担当する。
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