レビュー

プジョー「308SW」長距離試乗!乗ってわかった快適性と優秀な燃費

今回は、プジョーの中核を担うCセグメントのコンパクトカー「308」のステーションワゴン版である「308SW」を、トータルで3,800kmほど長距離試乗したのでレポートしたい。

2022年にフルモデルチェンジされた「308」「308SW」は、内外装の刷新や先代から拡大された室内空間、先進機能の搭載、走りや燃費のよさなど、その魅力は多岐に亘る

2022年にフルモデルチェンジされた「308」「308SW」は、内外装の刷新や先代から拡大された室内空間、先進機能の搭載、走りや燃費のよさなど、その魅力は多岐に亘る

まず、「308」「308SW」の概要について少し振り返っておきたい。2013年にワールドプレミアされた先代モデルは、2014年に欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞し、世界累計で700万台以上を販売するヒットモデルとなった。もちろん、日本においてもプジョーブランドの販売を支える存在となっている。

そして、2022年に9年ぶりにフルモデルチェンジされた現行「308」「308SW」は、「Peugeot i-Cockpit」と呼ばれる室内レイアウトの採用や、「ADAS」(先進運転支援システム)の大幅なアップデートなどの進化が図られた。

ボディタイプは、ハッチバックとステーションワゴン(SW)の2種類で、パワートレインは1.2 Lガソリンエンジン(ハッチバックのみ)、1.5 Lクリーンディーゼルエンジン、そして1.6 Lガソリンエンジンをベースに64kmのEV⾛⾏が可能なPHEVの3種類がラインアップされている。組み合わされるギアボックスは、すべて8速ATだ。

今回、試乗したグレードは、1.5L 4気筒クリーンディーゼルエンジンを搭載した「308 SW GT BlueHDi」。最高出力は130psで、最大トルクは300Nm。カタログ燃費は21.6km/Lと良好な値だ。ちなみに、市街地やワインディング、高速道路など各シチュエーションにおける実燃費も計測したので、当記事後半でご紹介したい。

今回、ハッチバックではなくステーションワゴンを選んだ理由としては、東京から福岡までの長距離移動であることや、現地での取材を考えるとできるだけ給油を減らしたいこと、9泊ぶんの大人2人の荷物を積むにはやはりステーションワゴンのほうが積載はラクだと考えたからだ。

「308SW」のフロント、リアエクステリア。フロントには大型グリルが採用され、テールランプにはライオンの3本のかぎ爪がデザインされているのが特徴的だ

「308SW」のフロント、リアエクステリア。フロントには大型グリルが採用され、テールランプにはライオンの3本のかぎ爪がデザインされているのが特徴的だ

なお、「308 SW GT BlueHDi」グレードにはハンズフリー電動テールゲートやルーフレール、テップレザー/アルカンターラシート、ランバーサポート、シートヒーター付き電動パワーシート、18インチ(225/40R18)へ1インチアップされたサイズのアルミホイールなど、さまざまな装備が豊富に搭載されている。

市街地も高速道路も運転しやすい「Peugeot i-Cockpit」

筆者は、久しぶりにプジョー車のシートへ腰を下ろすことになったため、まずは新搭載の「Peugeot i-Cockpit」のレイアウトに慣れるところから始めなければならない。「Peugeot i-Cockpit」は、小径ステアリングとその上から見下ろす形のメーターが特徴的で、ほかのメーカーにはない独特な形状や配置となっている。だが、最初こそ少々違和感を覚えていたのだが、10分も走れば「これが普通」と思えるくらいに慣れてしまったのだから不思議だ。

人間工学に基づいて設計されたコックピット「Peugeot i-Cockpit」。見やすい位置へ配置されたメーターや、ドライバーの腕が大きく開かず自然な位置で運転できる小径ステアリング。直感的に操作できる大型タッチスクリーンなどが備わる

人間工学に基づいて設計されたコックピット「Peugeot i-Cockpit」。見やすい位置へ配置されたメーターや、ドライバーの腕が大きく開かず自然な位置で運転できる小径ステアリング。直感的に操作できる大型タッチスクリーンなどが備わる

むしろ、通常よりも切る量が少なくて済む小径ステアリングによって、市街地での取り回しのよさは抜群だった。そして、この小径ステアリングは高速道路でも有効だ。「308SW」は直進安定性が高いため、ステアリングに軽く手を添えてあげれば、たまに修正舵を入れるにしてもわずかに力を込めるくらいで十分で、長距離においてもとてもラクに運転できた。

ただし、ひとつだけ付け加えておくならば、これは車高の低い「308」や「408」程度までという制限が付くだろう。たとえば、車高の高い「3008」や「5008」などは、ステアリングを切ってからわずかに遅れて車体が動くので、舵角をより大きく切りがちになってしまう。その結果、ハンドル操作を早めにしたり戻す速度が一定ではなくなったりと、車体の安定感にかけることが多くなってしまう。そのようなことを含めて考えると、「Peugeot i-Cockpit」は標準的な車高、1,550mm程度のクルマがふさわしいのではと感じられた。

「Peugeot i-Cockpit」のメーターは、多少の慣れが必要であったがすぐに慣れてしまう。3Dメーター表示は、速度などの重要な情報が手前に表示されるなど工夫されていて、とても見やすかった

「Peugeot i-Cockpit」のメーターは、多少の慣れが必要であったがすぐに慣れてしまう。3Dメーター表示は、速度などの重要な情報が手前に表示されるなど工夫されていて、とても見やすかった

最大の魅力は、いかようにも走れる懐の深さ

今回「308SW」を、知らない土地を含めて長距離で走らせたときに、とても魅力的に感じられたのがボディサイズだ。全⻑4,655mm×全幅1,850mm×全高1,485mm、ホイールベース2,730mm(いずれもSWの値)なので、都内や市街地はもちろん、知らない土地で道を間違えたときの切り返しやUターンなどの際にも本当に助かった。また、視界がよく前後方向の見切りがよいので、自信を持って狭い道にも入っていける。

「308SW」のコンパクトで運転しやすいボディサイズと視界のよさは、特に長距離走行においても魅力的な特徴だ

「308SW」のコンパクトで運転しやすいボディサイズと視界のよさは、特に長距離走行においても魅力的な特徴だ

唯一、気になったことと言えば、ドアミラーがドアマウントではなくピラーマウントであることだ。右折時に、右前方の歩行者などが死角に入りやすくなってしまう。これについては、ぜひ改善してほしいと感じられた。パリの市街地だって、同じような状況は多くあるはずだ。

スイッチ形状になったシフトを手前に引いて、Dレンジを選択。そこからアクセルペダルを踏めば、自動的にサイドブレーキが解除される。そして、アクセルペダルを踏み込めば、必要にして十分以上の加速を手に入れられる。シフトアップ、ダウンは思いのほかスムーズ。そして、きびきびと走らせようと思ったら、少し強めにアクセルペダルを踏み込めば積極的にシフトダウンして、活発に走らせることもできる。また、アクセルペダルを緩く踏めば次々とシフトアップして、低回転域のトルクを有効に使って走らせてくれる。

「308SW」は、スポーツカーや一部のイタリア車のように、常に「走ろう!」とクルマからわかりやすく語り掛けて来ることはない。どちらかと言えば無個性で、クルマ側から何らかのアピールをしてくることは皆無だ。だが、「308SW」の最大の魅力は、ドライバーのその時々の体調や気持ち、状況などに応じて、いかようにも対応してくれる懐の深さを持ち合わせていることにある。

たとえば少し急ぎたいときには、それがワインディングであってもスポーツカー顔負けのハンドリングを備えているので気持ちよくコーナーを駆け抜けてくれるし、疲れたときには肩の力を適度に抜いてステアリングとアクセルを操作すれば、相応の走り方で目的地まで連れて行ってくれる。これは、多くのフランス車にも共通している印象なのだが、今回「308SW」を長距離で乗ってみて、改めてこの印象を強く抱いたのである。

今回の試乗では、いかようにも応じてくれるフランス車らしい懐の深さを、改めて体感できた

今回の試乗では、いかようにも応じてくれるフランス車らしい懐の深さを、改めて体感できた

積載性は、ステーションワゴンということもあって十分な広さだ。「308SW」のリアピラーは寝ているので、若干その部分の積載性には難があるとも言えるが、いざとなったらリアシートをたためば広大な荷室が広がるので、まず問題はないだろう。今回は大型、中型、小型のスーツケースをそれぞれひとつずつ、そのほかさまざまな荷物を満載しての走行となったのだが、それでも余裕をもって積み込んで移動できた。

「308SW」のラゲッジは床面が低いために、荷物の積み下ろしも非常にしやすかった

「308SW」のラゲッジは床面が低いために、荷物の積み下ろしも非常にしやすかった

アイドリングストップとブレーキは要改善

ここまで「308SW」についてほぼベタ褒めであったが、少々気になることもあった。まずは、乗り心地だ。プジョーと言えば「しなやかな乗り心地」というイメージがある方も多いことだろう。確かに、「308SW」も決して悪くはない。だが、標準グレードよりも1インチサイズアップされたタイヤが影響しているようで、乗り心地は少々バタつき気味に感じられた。また、コーナーなどで段差があった場合には少し跳ね気味で、フロア周りからのロードノイズも少し気になった。

「308 SW GT BlueHDi」には、標準グレードよりも1インチサイズアップされた225/40R18タイヤが装着されている

「308 SW GT BlueHDi」には、標準グレードよりも1インチサイズアップされた225/40R18タイヤが装着されている

また、アイドリングストップも気になった。たとえば、赤信号で停車する寸前に青になったらすぐにでも加速したいところだが、「308SW」はしっかりとエンジンを停止してから再始動するので、気持ち的にはひと呼吸遅れてから加速する印象になる。また、右折時などで停止寸前に対向車が譲ってくれた場合も同じだ。迷惑をかけないように早くスタートしたいのに、そうはいかないじれったさが付きまとう。さらに言うと、スタートしないのでよりアクセルペダルをより踏んでしまうことになり、少々危険にも感じられた。結果として、筆者は常にアイドリングストップを切った状態で走行していた。

また、ブレーキのコントロール性もあまりよろしくはない。一定の踏力で踏み込み続けると、あるところでカツンと強くきき始めたり、そこから緩めてもその強さが変わらなかったりなど、アイドリングストップによる負圧のコントロールがうまくいっていないのか、あるいは回生ブレーキの影響もありそうだった。ブレーキのコントロール性に関しては、要改善といっていいだろう。

非常に優秀な実燃費

ここで、燃費について触れておこう。

市街地:18.8km/L(17.6km/L)
郊外路: 22.7km/L(21.0km/L)
高速道路: 23.1km/L(24.4km/L)
※()内はカタログのWLTCモード燃費値

市街地や郊外路では、WLTCモードの値を上回る好燃費を記録し、高速道路においてもほぼ誤差の範囲内という数値だったことから、エンジンと8速ATとのマッチングは非常にうまくいっていることが窺える。

「308SW」の燃費値は、燃料が軽油ということもあって財布にもとてもやさしく、高く評価できるものだ

「308SW」の燃費値は、燃料が軽油ということもあって財布にもとてもやさしく、高く評価できるものだ

しかし、高い燃費値を得るためにドライブフィールを若干損ねてしまっていることだけが、少々残念なところだ。中、高速域でアクセルペダルを緩めていると、エンジンとトランスミッションを切り離すことで抵抗を減らし、滑空状況を作り出すことで燃費を稼ぐコースティング機能が働く。これは近年、多くのクルマで採用されている機能だ。

タコメーターを見ていると、コースティングが働くと回転数がアイドリングかそれに近い回転域まで落ちてくるのでわかる。だが、「308SW」ではその制御がいまひとつで、道路状況に関係なくひんぱんに機能してしまい、高速道路でエンジンブレーキを使おうとしてアクセルペダルを戻してもコースティング機能が働いてしまうので、わずかな減速もできずにブレーキペダルを踏まざるを得なくなる。これは、ひんぱんに起こってしまうこともあって煩わしかった。ADAS系のカメラを利用して前走車を把握することは可能なので、そこでの制御を入れるか、あるいはドライバーのアクセル操作などに応じてもう少し緻密な制御を望みたい。

まとめ

「308SW」を長距離走らせてみて改めて感じたのは、やはり長距離を移動するクルマとしてとても優秀ということだ。前述のとおり燃費もよいので、4〜500kmくらいは平気で疲れなく走らせることができるだろう。

「308SW」はフランス車の魅力がたっぷり詰まった、日本でとても使いやすい魅力的なステーションワゴンだ

「308SW」はフランス車の魅力がたっぷり詰まった、日本でとても使いやすい魅力的なステーションワゴンだ

レジャーなどにおいて友人やファミリーと出かけたとしても、ドライバーが運転に夢中になることもなく、かといって同乗者を含めて途中で疲れることもなく目的地に到着。たっぷり遊んで疲れて帰路に就いたとしても、自然にクルマに身を任せていれば何事もなく家に到着できるという安楽さも備えている。これこそがフランス車、プジョー車の魅力というものだ。

(写真:内田俊一)

内田俊一
Writer
内田俊一
1966年生まれ。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を生かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。長距離試乗も行いあらゆるシーンでの試乗記執筆を心掛けている。クラシックカーの分野も得意で、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員でもある。
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桜庭智之(編集部)
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桜庭智之(編集部)
自動車専門メディアで編集者として10年間勤務した後「価格.comマガジン」へ。これまで、国産を中心とした数百の新型車に試乗しており、自動車のほかカーナビやドラレコ、タイヤなどのカー用品関連も担当する。
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