レビュー

“発電用”でロータリーエンジン復活! マツダ「MX-30 RE」に乗ってきた!

マツダは、2023年11月にロータリーエンジンを発電機として搭載したプラグインハイブリッド「MX-30 ロータリーEV」(以降「MX-30 RE」)の販売を開始した。

駆動用の発電機としてではあるが、マツダのロータリーエンジンがついに復活したのだ。同モデルのスペックや仕様などについては以下の関連記事をご覧いただくとして、当記事では試乗した印象を中心にお伝えしたい。

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2023/09/19 17:00
マツダ「MX-30」シリーズには、マイルドハイブリッドの「MX-30」、電気自動車の「MX-30 EV MODEL」、そして今回ご紹介するプラグインハイブリッドの「MX-30 RE」の3種類がラインアップされている

マツダ「MX-30」シリーズには、マイルドハイブリッドの「MX-30」、電気自動車の「MX-30 EV MODEL」、そして今回ご紹介するプラグインハイブリッドの「MX-30 RE」の3種類がラインアップされている

「MX-30 RE」の内外装については、従来の「MX-30」シリーズから大きな変更はない。同車の特徴のひとつである、観音開きのドアなども踏襲されている

「MX-30 RE」の内外装については、従来の「MX-30」シリーズから大きな変更はない。同車の特徴のひとつである、観音開きのドアなども踏襲されている

「MX-30 RE」はプラグインハイブリッドなので、従来モデルにはない充電口が備えられている。充電は、普通充電と急速充電(CHAdeMO)の両方に対応。17.8kWhのリチウムイオンバッテリーが搭載されており、EV走行可能距離(カタログ値)は107km

「MX-30 RE」はプラグインハイブリッドなので、従来モデルにはない充電口が備えられている。充電は、普通充電と急速充電(CHAdeMO)の両方に対応。17.8kWhのリチウムイオンバッテリーが搭載されており、EV走行可能距離(カタログ値)は107km

従来よりもはるかにしなやかな乗り心地

試乗を始めて、まず驚いたのが「MX-30 RE」の乗り心地のよさだ。これまでに試乗した、マイルドハイブリッドの「MX-30」や電気自動車の「MX-30 EV MODEL」よりも、乗り心地ははるかにしなやかなのだ。

これはマツダ車の常なのだが、デビュー当時はおおむね足回りが硬めで、段差などで突き上げを感じたり、乗り心地の粗さが感じられたりすることが多い。だが、年次改良が加えられるたびに、しなやかさが徐々に増してくるのだ。

たとえば、セダンの「MAZDA6」の末期モデルに乗って東京から広島まで移動したことがあったのだが、かなりの長距離でありながらノンストップで走り切れるほどしなやかで、しっかりとした足回りとなっていたことに驚いたこともあった。

「MX-30」も、デビュー当初のマイルドハイブリッドは結構突き上げ感がある乗り心地だったのだが、そこから1年が経過して電気自動車がデビューすると、かなり改善されていた。そして、今回の「MX-30 RE」では、乗り心地がさらに進化している。特に、足の動きがスムーズに動くので、突き上げ感がかなり少なくなっている。

乗り心地に関しては、合格点を付けられるレベルに到達していると感じられた

乗り心地に関しては、合格点を付けられるレベルに到達していると感じられた

違和感のない自然な運転フィール

「MX-30 RE」で、キーワードとなるのが“自然体”だ。ハイブリッド車や電気自動車の一部は、ステアリングを切ったときだけでなく、アクセルペダルやブレーキペダルを操作したときに、クルマとのつながりが薄いような、違和感を覚えるクルマも少なくなかった。思った以上に加速したり、減速したり……。

違和感が生じる理由は、回生ブレーキの充電や電気デバイスなどが介入することによって、これまでの内燃機関車のフィーリングと異なってしまい、そのことがドライバーのストレスにつながるためだ。だが、「MX-30 RE」に乗っていてもそのような違和感はなく、アクセルやブレーキなどは内燃機関車と同じように、思いどおりにコントロールできる。また、ステアリングもとても自然で、高く評価できるフィーリングだ。

運転していて違和感を覚えない、自然な走りは「MX-30 RE」の魅力のひとつだ

運転していて違和感を覚えない、自然な走りは「MX-30 RE」の魅力のひとつだ

中速域で感じられるクルマの重さ

いっぽう、「MX-30 RE」ならではの気になる点も見受けられた。まずは、重さだ。「MX-30」の中でも、最も重い1,780kg(比較として、電気自動車の「MX-30 EV MODEL」は1,650kg)の車重や、床面にバッテリーを配するレイアウトの影響もあって、50〜60km/hくらいになるとフロア周りの重さが若干目立ち始める。

具体的には、フロアを軸に少し上屋側で左右方向の揺れが感じられるのだ。だが、そこから速度域をかなり上げて、第2東名の制限速度である120km/hあたりになるとフラットな乗り心地になってくるので長距離移動も楽にこなせるだろう。

高速道路の直進安定性は非常に良好で、静粛性も高いので快適に運転できる

高速道路の直進安定性は非常に良好で、静粛性も高いので快適に運転できる

また、冒頭でお伝えした乗り心地については、しなやかさはあるものの意外と路面の状況がクルマに伝わりやすいところだけが少々気になった。特に、40〜60km/hあたりで比較的路面の状況を拾ってしまい、あまり落ち着きのない感じで若干ひょこひょこした印象につながるのが気になった。だが、シートはクッション性があるので、総合的な乗り心地はとても快適であったことは付け加えておきたい。

甲高くは無いが嫌味はないロータリーエンジンの音

さて、発電用と言ってもロータリーエンジンを搭載しているので、エンジン音や走りも気になるところだ。まず音に関しては、ロータリーエンジンであることから、甲高いサウンドをイメージするかもしれない。だが、このシングルローターは意外に野太い音がする。

多くの2ローターは、互いのローターによって振動や音が打ち消し合い、結果として音が作られているのだが、今回は1ローターなので素直なロータリーの音が聞こえてくるためだ。決して不快ではないのだが、特に外にいると意外と耳につくことがある。

ロータリーエンジンは、大きな出力を省スペースで実現できるという特徴を持っていることから、今回「MX-30 RE」へ採用されている

ロータリーエンジンは、大きな出力を省スペースで実現できるという特徴を持っていることから、今回「MX-30 RE」へ採用されている

しかし、走らせてみるとエンジン音はアクセル開度に応じてリニアに回転域を変えるので違和感がなく、いつしか音だけでなくシリーズハイブリッド(エンジンを発電用にモーターを動力源にしているハイブリッド)に乗っているという意識すら忘れてしまいそうになった。また、発電が始まればエンジンがスタートし、終われば自動的に停止するのだが、車内にいて市街地を走らせている限りは耳を澄ませていないとわからないレベルで、そのオン、オフに関するショックなども皆無であった。

また、通常のシリーズハイブリッドは、静粛性の高さからどうしてもロードノイズが気になるのだが、「MX-30RE」の遮音性はかなり高いので、耳を澄ませて路面の音を聞いていても「路面状況が変わったな」などの気づき程度でしかなかった。「MX-30」シリーズは、当初から電気自動車を想定して車体設計を行っているために、内燃機関の搭載をメインとして車体を設計、開発して、後からバッテリーを搭載するようなクルマとは設計レベルから異なることを感じさせられた。

また、加速力も必要にして十分だ。アクセルを全開にすると、それほど鋭い加速力とまでは言えないのだが、安定感のある力強い加速が得られる。とても自然なフィーリングと言っていいだろう。信号からの出足なども、必要にして十分なパワー感だ。適切なトルクが自然と出てくるので、一部の電気自動車などに見られるような、いきなりフルトルクが発生するといった過激な味付けではないことも好ましく感じられた。

さらに進化したマツダの車両制御技術「GVC」

「MX-30 RE」は、直進安定性の高さやコーナーリングのしやすさなどについても、とても好感が持てた。これは、どうやらEV向けの車両制御技術「e-GVC plus」(エレクトリック Gベクタリング コントロールプラス)が大きく貢献しているようだ。

「GVC」は、コーナーリング中にほんのわずかにエンジントルクを絞ることで車体の姿勢を整えて、スムーズに旋回させる制御機能のこと。そこから進化した「GVC+」は、エンジントルク制御に加えて、ステアリングを戻し始めたときに外側後輪にドライバーが気づかない程度にブレーキを摘まむことで、姿勢を安定させるものだった。しかし、これらはどちらも基本的にはアクセルを踏んでいる状態を前提としており、内燃機関向けの制御だ。

だが、「MX-30 RE」と「MX-30 EV MODEL」に搭載されている電気自動車向けの「e-GVC plus」は、コーナーリング時だけでなく直線や下り坂などの走行時にもモーターを制御している。また、ステアリングを操作する際にもコーナーリングや車線変更だけでなく、直進中のわずかなステア操作でもリアの左右どちらかのブレーキを摘まんだり、バッテリートルクを調整したりといった制御が行われる。結果として、直進性がきわめて高く、かつコーナーリング時の姿勢もより安定している。

「e-GVC Plus」は、内燃機関向けの「GVC」「GVC Plus」よりも緻密に制御されるようになったため、ドライバーはあたかも運転がうまくなったと思わせてくれるほどだった

「e-GVC Plus」は、内燃機関向けの「GVC」「GVC Plus」よりも緻密に制御されるようになったため、ドライバーはあたかも運転がうまくなったと思わせてくれるほどだった

まとめ

まずは、「MX-30 RE」でロータリーエンジンが復活したことは素直によろこびたいし、マツダの技術資産でありマツダでなければできないロータリーエンジンを、発電機という形であっても量産車へ搭載したことは非常に高く評価したい。

ロータリーエンジン量産化の第一歩を踏み出した「MX-30 RE」

ロータリーエンジン量産化の第一歩を踏み出した「MX-30 RE」

これまで述べたとおり、「MX-30 RE」に搭載されるロータリーエンジンは、あくまでも裏方と考えればよいだろう。技術的な視点で言えば、今回ロータリーエンジンが採用されたのは、そのコンパクトさが大きなメリットであったためで、「MX-30」のボディに収まったのはそのおかげだからだ。

今後、マツダがロータリーエンジンを使って次の一手をどう進めてくるのか、楽しみで仕方ない。

内田俊一
Writer
内田俊一
1966年生まれ。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を生かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。長距離試乗も行いあらゆるシーンでの試乗記執筆を心掛けている。クラシックカーの分野も得意で、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員でもある。
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桜庭智之(編集部)
Editor
桜庭智之(編集部)
自動車専門メディアで編集者として10年間勤務した後「価格.comマガジン」へ。これまで、国産を中心とした数百の新型車に試乗しており、自動車のほかカーナビやドラレコ、タイヤなどのカー用品関連も担当する。
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