2024年6月25日、BYDオートジャパンは日本導入モデルの第3弾となるEVセダン「SEAL」を、全国の正規ディーラーにて順次販売開始すると発表した。
BYDは、中国・広東省深センに本社を置き、バッテリーや電気自動車などを開発、販売するメーカーだ。これまで、2023年1月にSUVの「ATTO3」を、2023年9月にコンパクトカーの「DOLPHIN」を日本で発売している。中央の車両が「SEAL」で、右の人物はBYDオートジャパン 代表取締役社長の東福寺厚樹氏
「SEAL」のグレードラインアップは、後輪駆動の「SEAL」(528万円)と4輪駆動の「SEAL AWD」(605万円)の2種類になる。ちなみに、同車の導入を記念して1,000台限定のキャンペーンが、2024年6月25日〜同年8月31日まで実施されている。「SEAL」が495万円、「SEAL AWD」が572万円の特別価格で購入できるほか、ETCやドライブレコーダーが付属し、充電器の工事費が最大10万円までサポートされるなどの特典が付属されている。CEV補助金については、現在申請中とのことだ。
今回は、後輪駆動と4輪駆動の両モデルに試乗できたので、それぞれの走りや乗り心地を中心にレポートしたい。
「SEAL」は、BYDが日本へ導入するクルマとしては初のセダンタイプになる。日本の輸入セダン市場において、「SEAL」が属するDセグメントは、およそ50%を占めるメインマーケットだ。BYDの強みである、先進的なバッテリー技術と最新のEVプラットフォームや安全・快適装備を搭載した「SEAL」を同市場に投入することで、 “e-Sport Sedan”という新たなポジションを確立したいという。
「SEAL」のボディサイズは、全長4,800mm、全幅1,875mm、全高1,460mmと、まさにDセグメントのど真ん中と言える体躯だ。いっぽう、室内はかなりの広さを持つ。特に、後席周りはフラットな床面もあって競合他車をしのぐほどである。
「SEAL」のフロント、リアエクステリア。全体的に滑らかな面で構成されており、クーペのようなフォルムを纏っている
ダッシュボードなどには肌触りのよいスエード生地を、シートには本革のナッパレザーが採用されている「SEAL」のインテリア
「SEAL」の後輪駆動車にはリアにモーターが、4輪駆動車にはフロントとリアにそれぞれモーターが搭載されている。システム最高出力と同最大トルクは、後輪駆動車(リアモーター)が312ps/360Nm、4輪駆動車が529ps/670Nmだ。
「SEAL」の大きな特徴のひとつが、プラットフォームだ。これまで、日本に導入された「ATTO3」や「DOLPHIN」のプラットフォームは、「CTP」(Cell to Pack)と呼ばれるもの。これは、EV専用のプラットフォームへバッテリーパックを取り付けるという仕様だ。いっぽう、「SEAL」のプラットフォームは「CTB」(Cell to Body)と呼ばれるもので、バッテリーパックが最初からプラットフォームと一体になっている。「CTB」の採用によって、欧州Dセグメント車と同じくらいの剛性が確保されているほか、前突や側突などの安全性も高く、ハンドリングを含めた走行性能にも貢献しているという。
「SEAL」には、薄い板状の「ブレードバッテリー」を車体構造の一部として組み入れたプラットフォーム「CTB」が採用されており、堅牢なボディ剛性を実現している
もうひとつ、EVは航続距離などのバッテリー性能も気になるところだ。「SEAL」の電池容量は82.56kWhで、WLTCモードの航続距離は、後輪駆動が640km、4輪駆動が575kmで現在申請中とのこと。
航続距離については、ほかの競合車とさほど変わりはない。しかし、BYDの強みはここからだ。それは、充電性能だ。「SEAL」が、車両側で受け入れ可能な充電性能は105kWhと、「ATTO3」や「DOLPHIN」よりも高い。
また、BYDはバッテリー性能を検証する目的で、競合他車と比較テストを行ったという。そのときの条件は次のとおりだ。外気温は、「SEAL」が15度、競合他車が23度。「SEAL」が使った充電器は、CHAdeMO対応の90kW出力(ブーストモードなし)、比較車両は海外規格の250kW出力。両車両ともに、急速充電の時間は30分で、SOC30%(バッテリー残量30%)でスタート。その結果は、どちらも42kW充電できたとのこと。つまり、競合他車は250kWの出力を持つ充電器にも関わらず、より低い出力の充電器を使った「SEAL」と変わらなかったことになる。
「SEAL」は、自宅などの普通充電と急速充電のCHAdeMOに対応。AC200V・3kWの普通充電ケーブルは標準装備されている
一般的に、EVを充電する場合にはバッテリーの温度管理もあり、充電開始時にはかなりの充電量なのだが、それが徐々に落ちてきてしまう傾向にある。しかし、「SEAL」は常に80kW以上をほぼ一定でキープしていたとのこと。気温変化にもよるが、ブーストモードなしの90kWの充電器を用いた場合、安定的な高出力充電はSOC85%程度を継続するという。「SEAL」がこれを実現できているのは、バッテリー温度管理システムが適切に制御しているからなのだろう。
今回は、後輪駆動車と4輪駆動車のそれぞれグレードに、短時間ながら試乗する機会を得た。まずは後輪駆動から乗ってみたのだが、その第一印象は“低重心過ぎない”ということだった。一般的に、EVはバッテリーを床に配置する関係で低重心になる。だが、それが行き過ぎると、床下のバッテリーを軸としてルーフが左右に揺れてしまうことがよくある。だが、「SEAL」においてそれは感じられない。また、箱根などのワインディングロードを流れに乗って走らせていても、少し元気に走らせていても、アクセルペダルやブレーキペダルのフィーリングをはじめ、ステアリングの操舵感などすべてが自然だ。言い換えると、EVに乗っているという印象は希薄で、まるで非常に静粛性の高い、よくできた内燃機関車に乗っているような印象だ。
「CTB」プラットフォームの採用によるものだろう、ボディ剛性やハンドリング性能の高さを実感できた
この最大の理由は、先に記した「CTB」プラットフォームによるところが大きいのだろう。しっかりとプラットフォームを作り上げていることで、捩じれなども含めた剛性が確保されているからだ。
それを証明するかのように、後席の居住性も非常によい。特に、コーナーや交差点の右左折時に、比較的長いホイールベースを持つクルマの場合、フロントが回転を始めてから一瞬遅れて、後席側がそれに追従するということがある。これは、ボディ剛性の低さに起因するもので、クルマ酔いの原因にもつながる。だが、「SEAL」ではそのようなことはまったく感じられず、後席の乗り心地はとても快適だ。
「SEAL」は、前席だけでなく後席の乗り心地もとても快適だ
「SEAL」のルーフは、全車パノラミックガラスルーフを採用しているので、非常に解放感が高い。試乗時は快晴で気温の高い日だったのだが、遮熱効果も比較的高く、また紫外線カット率99%、可視光線透過率4.2%、日射透過率16%ということだった。だが、木漏れ日の中を走らせていると、ちらちらとしたまぶしさだけは少し気になった。
「SEAL」には、大型ガラスルーフが採用されている。2枚ガラスとなっているため、遮音性や耐久性も高いという
そのほか、気になったのが安全運転システム関連だ。特に、「レーンキープアシスト」の介入については少々危険を感じた。これは、ほかのBYD車にも共通するのだが、白線などを踏むとステアリングが介入して、かなりの力で戻されるのだ。もちろん、危険回避のための介入なのだが、たとえば白線をまたいで対向車が迫ってくるシーンで反対側の白線を踏んだり、工事などで車線規制がある際にそれに沿って白線をまたいだりなどでも反応することがあったので、結局はオフにしてしまうことが多かった。これは本末転倒と言わざるを得ないので、もう少し介入する力をゆるやかにするなどの改良を施してほしい。
だが、気になったのはそのくらいで、ボディサイズも非常につかみやすくて視界も良好。また、車内スイッチ類の触感が非常に高い点も好印象だった。
ここで、4輪駆動車に乗り換えてみよう。後輪駆動車との大きな違いは、フロントにもモーターが追加されており、よりパワフルとなっていることだ。さらに、ショックアブソーバーも可変ダンピングアブソーバーになっているという違いもある。可変ダンピングアブソーバーは、あらゆる速度域や道路状況など走行条件を選ばず、最適なダンピング効果を発揮するというもの。電子制御システムは使わずに、サスペンションの動きに合わせて流量と油量を変化させることにより、高速走行時に求められる粘りと日常走行時の快適性の双方を両立しているという。
「SEAL」4輪駆動車の走行イメージ
しかし、結論から言うと4輪駆動車は若干硬めの仕上がりで、後輪駆動車よりもしなやかさは感じられなかった。付け加えるなら、ハンドリングも後輪駆動車のほうがきびきびとしている。ひたすら真っ直ぐな高速道路を走るのであれば、直進安定性の高い4輪駆動車を選ぶ価値はあるのだが、そうでなければ後輪駆動車で十分以上の完成度の高さだ。
せっかくパワーのあるグレードだからと、ドライブモードを「エコ」から「スポーツ」へと切り替えてみる。すると、ほんの1cm程度しかアクセルペダルを踏み込んでいないにもかかわらず、ものすごい勢いでグイグイと加速していくのには驚いた。また、そういった際にも前後バランスは非常に高く、進路を乱されることは一切ない。しばらく、面白がってそのまま走らせていたのだが、乗りやすさの点も含めると「エコ」モードで十分というのが結論だ。また、もうひとつの「ノーマル」モードも必要ないと感じた。これは筆者の予想だが、もし購入したら当初は「スポーツ」モードで楽しむこともあるだろうが、いずれは「エコ」モードのままでほとんど操作しなくなるだろうと思われる。
今回は、電費に関しては測ることができなかったが、過去の経験からすると公表値からの大きな乖離はなさそうである。そして、それ以上に充電に関しての実力を高く評価すべきだろう。これまでのEVは、充電回数を減らすために航続距離をいかに稼ぐかが重視され、大容量バッテリーを積むことでそれを解決しようとしていた。その結果、車重が重くなるなどの弊害を生んでいた。
しかし、BYDは航続距離を重視しつつも、それ以上に充電時間の短縮に重きが置かれていることがポイントだ。つまり、航続距離はそこそこでも、充電時間が短ければこれまでの内燃機関車のように、ガソリンをチャージするように充電ができるようになっていくからだ。現状では、さすがにそこまでには達していないのだが、これまでのEVよりも進化しているのは間違いない。
また、「SEAL」自体の出来のよさについても高く評価したい。「SEAL」の美点は、すべてが“自然”ということ。EVだからと構えることなく乗り換えることが可能だし、運転していても上質なセダンとしての魅力が十分に感じられる。
たしかに、日本においては“中国製”という高い壁が存在することは事実だ。しかし、現に自分たちの生活の中には中国製品が溢れている。自動車の世界も、着々と中国製が溢れてくるのかもしれない。日本勢は、これからどのように対抗していくのだろうか。筆者としては、そこも楽しみなところである。
(写真:内田俊一、BYDオートジャパン)