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2024年の今買える「和製クロカン」ガイド〜本物の“ヨンク”はココが違う〜

今大人気のSUV。だが、SUVとひとくくりにされるクルマの中にも、“なんちゃってヨンク”から、走りや豪華さなどに特化したモデルまで、ピンからキリまでラインアップされる世の中になった。そのひとつの究極の姿と言えるのが、本格的なオフロード走行を実現すべく開発された、クロスカントリー車(=以下「クロカン」)だ。「オフローダー」と呼ばれることもある。

「日本には、海外のような極悪路は多くないからクロカンは必要ない」と言われることもあるが、国土の半分近くが降雪地であり、冬場に山岳地などを行き来する業務等でのニーズもあって、かねてこうしたクルマが重用されてきた。

日本のクロカンの礎とも呼べる、宮城スバル製4WD車「ff-1 1300G 4WD バン」

日本のクロカンの礎とも呼べる、宮城スバル製4WD車「ff-1 1300G 4WD バン」

当初、国産メーカーにはクロカン作りのノウハウがなかったので、海外の「ジープ」のような先駆者の車両をライセンス生産することから始まった。やがて、いくつかのメーカーが独自に開発するようになり、いつしかそれが国内だけでなく海外市場においても信頼性や性能の高さから定評を得るようになった経緯がある。

2024年夏現在、日本で販売されている国産車の現行モデルのうち、クロカンと呼べるものはスズキ「ジムニー」、トヨタ「ランドクルーザー300」「ランドクルーザー250」「ランドクルーザー70」「ハイラックス」、レクサス「LX」、三菱「トライトン」などがある。

軽自動車規格ながらすさまじい悪路走破性を誇るスズキ「ジムニー」

軽自動車規格ながらすさまじい悪路走破性を誇るスズキ「ジムニー」

トヨタ「ランドクルーザー300」はオンロードの快適性と悪路走破性を備える大人気のクロカン

トヨタ「ランドクルーザー300」はオンロードの快適性と悪路走破性を備える大人気のクロカン

ほかにも、たとえば三菱「アウトランダー」や日産「エクストレイル」、トヨタ「RAV4」のように、生粋のクロカンではないものの、悪路走破性がかなり高いクルマもあるわけだが、両者の違いはどこにあるのか?

それは、非常にシンプルに言うならば、「どんな場所からでも生きて走って帰ってこられる、頑丈で走破性の高いクルマかどうか」にある。それなりに悪路を走れるクロスオーバーSUVでも、本当に厳しい路面ではスタックする可能性はある。絶対にそうならないかどうかが、クロカンか否かの線引きと認識してもらえばよいだろう。

以下からは、クロカンとして定義される機構や装備についてご紹介したい。

本物のクロカンに装備されるもの

クロカンに必須の装備をざっくり言うなら、例外もあるにはあるが、ボディはラダーフレームを採用し、メカニズム面ではパートタイム式4WD機構+副変速機、リアデフロック機構、リジッドアクスル式サスペンションなどがあげられる。

ラダーフレーム

一般的な大多数のSUVは、車体の基本骨格が乗用車と同様の、フレームとボディを一体化させたモノコックを用いているのに対し、クロカンのラダーフレームは、左右2本のサイドメンバーが縦に走り、それをクロスメンバーで“ハシゴ状”につなぎ合わせたフレームを車体の下部に備えた構造だ。

「ジムニー」のラダーフレーム。鉄材がハシゴ状に組まれているのがわかる

「ジムニー」のラダーフレーム。鉄材がハシゴ状に組まれているのがわかる

ラダーフレームは頑丈で耐久性が高く、オフロード走行での大きな入力にも耐えられる。たとえどこかを傷めても、補修や交換がしやすい点もモノコックに勝る。ただし、最新の「ランドローバー」のように、ラダーフレームを持たないクロカンもちらほら見られるようになってきた。これはひとつの“例外”と言えるだろう。

パートタイム4WDと副変速機

次いで、パートタイム4WDと副変速機についてだが、これら2つはセットと考えてよい。
パートタイム4WDの場合、通常は2WDで走り、4WDは主に圧雪路向けの高速モードと、ガレ場や泥濘地などに対応できる低速モードの2段階がある。

副変速機は、大きな駆動力を得て走破性を高めるためのものだ。ちなみに、数年前にCVTに採用されて話題となった(その後は廃止)のは、変速比幅の拡大が目的であり、目的がだいぶ異なる。

「トライトン」の副変速機の切り替えダイヤルはシフトレバーの真後ろに設置される

「トライトン」の副変速機の切り替えダイヤルはシフトレバーの真後ろに設置される

「ランドクルーザー300」の副変速スイッチはシフトレバーの真横に

「ランドクルーザー300」の副変速スイッチはシフトレバーの真横に

4WDについて、パートタイムよりもフルタイムのほうがすぐれているのではないかと思う人もいるだろう。

普通の舗装路を走る際には、クロカン車の強力な駆動力で4輪を駆動すると、駆動ロスが大きいために燃費が悪化したり、「タイトコーナーブレーキング」という現象が起こって曲がりにくくなったりする。

4WDが必要ない状況では、よりスムーズに走れる2WDのほうが都合がよい。

デフロック機構

まず、デフ=デファレンシャルギアとは、コーナーを曲がる際などに、左右輪あるいは前後輪の間で生じる回転差を吸収する「差動装置」のことだ。

特にオフロードでは、アクセルを踏んだときに荷重がかかるリアが重要。リアデフをロック=固定することで、タイヤを空転させることなく駆動力を確実に路面に伝えて前に進んで行ける。

「ランドクルーザー300」のリアデフロックスイッチ

「ランドクルーザー300」のリアデフロックスイッチ

クロスオーバーSUVにも、ブレーキなどを駆使して疑似的にデフロック状態に近づける機能を備えたものもあるが、それは本当のデフロックではなく、駆動力を伝える能力には限界がある。

リジッドアクスル式のリアサスペンションは、ストロークを長くできることと、左右輪のどちらかが持ち上げられると反対側のタイヤは路面に押しつけられてトラクションを確保できることと、多少は岩などにぶつかっても破損しにくいといったメリットがある。

これらの機能を駆使することで、どんな劣悪な場所でもスタックすることなく走れるのがクロカンの真骨頂だ。

”和製クロカン”をプチレビュー

筆者は、これまでさまざまなクロカンに試乗してきた。そこで、日本車のクロカンに試乗したインプレッションを簡単ではあるがお伝えしたい。

まず、日本の代表的なクロカンの1台と言えるスズキ「ジムニー」は、小さいながらも中身は本格的だ。小ささと軽さを生かして、悪路でもあまり無理することなく走れてしまう。

それに近い感覚のまま、サイズを大きくしたのがトヨタ「ランドクルーザー70」と言えそうだ。走破性を高めるためのデバイスなどは特になくプリミティブな雰囲気で、厳しい状況では厳しさがそのまま伝わってくるが、それを克服していくところに醍醐味がある。

どんな過酷な環境でも壊れることなく、生きて帰って来られるところに価値がある。「ランドクルーザー70」は、10年前の再販モデルよりも洗練されて快適な乗り味に進化していることが確認できた

どんな過酷な環境でも壊れることなく、生きて帰って来られるところに価値がある。「ランドクルーザー70」は、10年前の再販モデルよりも洗練されて快適な乗り味に進化していることが確認できた

かたや、「ランドクルーザー250」は圧倒的に扱いやすく、先進的な駆動力制御技術やトヨタ初のフロントスタビライザーを任意で切り離せる機構などにより、アクセルさえ踏んでいればどんな路面でもしっかりと前に進んでいけるところなど、大したものだ。

「ランドクルーザー250」は、ランクル初となる電動パワステもきいて、操舵力が軽くスッキリとしたスアリングフィーリングを実現している。取り回しがよく、凹凸や轍でもキックバックが小さい

「ランドクルーザー250」は、ランクル初となる電動パワステもきいて、操舵力が軽くスッキリとしたスアリングフィーリングを実現している。取り回しがよく、凹凸や轍でもキックバックが小さい

いっぽうで、トヨタ「ランドクルーザー300」とレクサス「LX」は、見た目のとおり先進的で洗練されている。どんな路面でも、アクセルを踏んでステアリングさえ切っていれば、電子制御デバイスが働いてトラクションを最適にコントロールし、どんどん進んでいける。

しかもこの両車は、舗装路でもそうであるように、運転しやすくて乗り心地も快適なことに驚かされる。

路面を問わず快適な移動を可能にするレクサス「LX」

路面を問わず快適な移動を可能にするレクサス「LX」

トヨタ「ハイラックス」と三菱「トライトン」らピックアップ勢も基本的な走破性能は非常に高いが、ホイールベースが長いので小回りがきかず、モーグルのような状況では腹を打つ可能性が増すのは覚悟だが、安定して走れて都合がよいときもある。

驚いたのは、新型「トライトン」の舗装路での快適性の高さだ。ラダーフレームを持つピックアップは乗り心地がよくないのが当たり前だと思われていたが、本車はその常識を打破した。肝心の悪路走破性もこれまで以上だ。電子制御デバイスの進化により、さらに楽に快適に走れるようになった。

オンロードではまるでSUVのような乗り心地を提供する「トライトン」

オンロードではまるでSUVのような乗り心地を提供する「トライトン」

ご参考まで、日本に正規輸入されている海外勢では、ジープの「ラングラー」や「グラディエーター」、メルセデス・ベンツの「Gクラス」、ランドローバーのいくつかのモデルや、ちょっと毛色は異なるがキャデラックの「エスカレード」などがある。それらについてはまた別の機会に紹介したい。

写真:トヨタ、レクサス、スズキ、三菱自動車、価格.comマガジン編集部

岡本幸一郎
Writer
岡本幸一郎
1968年生まれ。都内大学卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の編集に携わったのち独立。走り系を中心に軽自動車から高級輸入車までカテゴリーを問わず幅広く網羅する。プライベートではこれまで25台の愛車を乗り継ぐ。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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芝崎 瞬(編集部)
Editor
芝崎 瞬(編集部)
自動車専門媒体からゴルフ専門メディアを経由し、価格.comマガジンへ。クルマは左ハンドルMTに限る! と思って乗り継いでいたが翻意して今は右AT。得意クラブは、強いて言えばミドルアイアン。
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