マツダは、FRベースのエンジン縦置きプラットフォームを採用したクロスオーバーSUV「CX-60」を、2022年9月15日に発売した。
今回は、「CX-60」の乗り心地や運転フィール、燃費など、さまざまな実力をチェックすべく、1,300kmほどの長距離を試乗したので、レビューをお伝えしよう。
今回は、モーターが搭載されていない(ハイブリッドではない)3.3L直6ディーゼルターボエンジン搭載の2WD(FR)モデルを借り出した(詳しくは後述)
「CX-60」がラインアップしているパワートレインは、3.3L直6クリーンディーゼルターボエンジンを搭載した「SKYACTIV-D 3.3」と、同エンジンに電動モーターが組み合わせられたマイルドハイブリッドの「e-SKYACTIV D」。そして、2.5L直4NAエンジンを搭載した「SKYACTIV-G 2.5」と、同エンジンにプラグインハイブリッドを組み合わせた「e-SKYACTIV PHEV」の計4種類がある。
今回は、その中から「SKYACTIV-D 3.3」の2WDというシンプルなグレードを敢えて借り出した。
筆者は、これまでにも「CX-60」に試乗したことはあったのだが、ハイブリッドや四駆制御などによって“素”の状態ではどうなのかが、いまひとつ見えてこなかった。そこで、今回はモーター駆動が介入しないシンプルな「CX-60」で1,300kmほどを走らせることによって、新しい「ラージアーキテクチャー」や新エンジンの実力を明確にしたかったのである。
ちなみに、「ラージアーキテクチャー」はエンジンを縦置きにしてリアを駆動するプラットフォームだ。言葉のとおり、大型車に採用することを想定しており、現在のマツダのフラッグシップを担っている。
3.3L 直6クリーンディーゼルターボエンジンのスペックは、最高出力が231ps/4,000-4,200rpm、最大トルクが500Nm/1,500-3,000rpmと平均的な値だ
ボディサイズがかなり異なるので厳密な比較ではないのだが、たとえばBMW「X5」の35dに搭載されている6気筒ディーゼルエンジンは、最高出力が286ps/4000rpm、最大トルクは650Nm/1,500-2,500rpmで、さらに電動モーターのアシストも加わる。「X5」と比較すると、「CX-60」のエンジンスペックは控えめと言ってもよいかもしれない。
今回は、東京から岐阜を経由して、伊勢志摩までを往復する行程となった。高速道路が中心ではあったが、一般道やワインディングも走行できた。
まず、車内へ入るためにドアを開けた瞬間、これまでのマツダ車とは異なる感覚を覚える。それは、ドアハンドルを引いて開けたときの音だ。これまでのマツダ車は、正直少し安っぽい音がしたのだが、「CX-60」は車格にあった音がする。これだけでも、よいクルマに乗り込むという実感が湧き上がってくるのだ。
運転席に座ると、考え抜かれたドライビングポジションによって、居心地がとてもよい。ステアリングは、腕を自然と伸ばしたところにあり、ペダル類のレイアウトも適切な場所に配されている。これらによって、「CX-60」は運転の疲労が少なく、正確な運転が安全につながることまでも感じ取れる。
適切なドライビングポジションは、マツダが近年こだわっていることのひとつで、「CX-60」にもしっかりと踏襲されている
独特なシフトレバーは、最初こそとまどうのだが、慣れてしまえば操作はカンタンだ。いちばん上にすればR、下げればDなので、間違えにくい。
シフトレバーは、「MX-30」と同じようにPから左に倒してR、そのまま下に引いてDという独特な配列になっているが、慣れると扱いやすい
エンジン音は、少しディーゼルを感じさせるものだ。振動などはあまり感じられないが、少しざらついた音がドライバーの耳に伝わってくる。だが、そこからアクセルを踏み込んで加速していくと、クルマ自体の重さ(1,840kg)は感じられるものの、高回転になるにつれ、まるでV8エンジンのような音に変わっていくのが面白い。
高速道路を走行していると、低回転域のトルク不足が少々気になった。上り坂になるとシフトダウンし、回転を高めて坂を上ろうとする。これは、積極的にシフトアップしたがる、新開発のトルコンレス8速ATのギヤ比による影響かもしれない。
筆者としては、ディーゼルエンジンである特性をもう少し生かして、低回転域でトルクの太さを使い、そのままのシフトポジションで走行してほしいと感じた。長距離を走っているときに、加速の際にシフトダウンがひんぱんに起こると、少々煩わしく感じてしまうからだ。
トルコンレス8速ATには、マツダが求める人馬一体の走りを実現したいという思いが込められている。また、クラッチによるロスが減ることで燃費にも貢献すると考えられるので、高い効率性も備えたトランスミッションと言える
ちなみに、通常のATはトルクコンバーターを介しているのに対し、新開発のトルコンレス8速ATはクラッチに置き換えることで、エンジン(やハイブリッドの場合はモーター)のトルクをダイレクトに伝えることを目的に開発された。アクセルの入力に対して、ダイレクトにトランスミッションまでつながるような感覚は好ましいものだ。
乗り心地については、少し注釈を加えつつ、シーンごとに述べてみたい。まず、コーナーリングは安定感があって、しっかりと4輪が路面をとらえてくれる。重心の高さも、それほど感じさせない。
ワインディングロードでは、前述のトルコンレス8速ATが積極的にアップダウンしてくれることなどによって快走できる。さらに、新型プラットフォームの素性のよさと共に、姿勢制御技術の「KPC」も、ワインディングの走りに大きく貢献していそうだ。
「KPC」は、コーナーリング時に外側後輪にほんのわずか、人が気づかない程度にブレーキを掛けることで、車体の浮き上がりを防いで安定させてくれる制御機能だ
「KPC」によって、タイヤが路面をしっかりととらえることができ、高速道路はもとより一般道やワインディングなどでもとても安定した、安心感のある走行を可能にしている。
これまでの「CX-60」は、よくできたシートがショックを吸収しようとするのだが、路面からのショックが体に伝わってきやすく、かつリア側の減衰が弱いのか高速道路などでは揺れが一発で収まらないときがあった。
しかし、どうやらマツダもこれには気づいていたのか、リアのショックアブソーバーの改良が行われたようだ。そのため、今回の試乗車は初期モデルとは若干セッティングが変わり、バネレートが少し強められた印象になった。その結果、揺れは一発で収まるようになったのである。
一部テキストを修正いたしました(20240913.編集部)
しかし、より車重の軽い25Sグレードなどでは単に固すぎる印象なのでもう少ししなやかさがほしいし、今回試乗したXDも安定感は増したものの、満足できるしなやかさにまでは至っていないという印象だった。
具体的には、フロントとのバランスを踏まえるとわずかにボディのロールが遅れ気味になり、ステアリングを切った後に少し遅れてグラッと傾くようになったという感覚だ。ぜひ、今後はショックアブソーバーだけでなく、車体全体のバランスを考慮してブッシュ類の見直しなども要望したいところだ。
もともと、マツダの初期モデルは突っ張るような足周りが多いのだが、年次改良によって徐々にしなやかさが生まれてきて、モデル末期ではしなやかかつ快適、しっかりとした足回りが完成する、といった流れが多い。たとえば、セダンの「MAZDA6」などもそうだった。
ぜひ「CX-60」も、今後はさらに快適な乗り心地になることを期待したい。
では、前述の乗り心地によって「CX-60」の全体的な評価も低いのかというと、決してそのようなことはない。
まず、「CX-60」がユーザー視点で設計されていることについては、大いに評価したい。実は今回、線状降水帯の真っただ中を走らなければならないシーンがあった。そのようなときに、的確なドライビングポジションとともに、アクセルペダルやブレーキペダルの踏み込み量と人間の感性に合った加減速が得られる「CX-60」は、非常に安心感があって頼りになった。
さらに、ステアリングを切った時の反応(ロールは別として鼻先の動き)と、人間の感覚のギャップが少ないことも同様だ。その点で、「CX-60」は特筆すべきものを持っている。
また、最低地上高が高く、視界がよいことも好ましい。ドアミラーがドアにマウントされているおかげで、ミラーとAピラーの間に空間ができ、右前方の死角も少ない。横断中の人や障害物を発見しやすいことなども、安心感へとつながった。
「CX-60」は、サイドシルをドアが覆ってくれているのもよい点のひとつだ。多くのクルマはサイドシルがむき出しなので、車高の高いSUVではシートから降りる際にサイドシルにパンツの裾などが触れて汚れてしまう。だが、「CX-60」ではそのようなことはなかった
そのほか、ハザードランプが独立してセンターに配されていたり、物理スイッチが多く使われていて慣れればブラインドタッチがしやすかったりといったことも便利だった。
ただし、エアコンの温度調整だけは、ひとつのスイッチで上下に動かせるほうがよいだろう。わざわざ上げ下げするスイッチを別々につける意味はなく、かつ、どちらも下げる方向に押さなければいけないことには違和感を覚えたからだ。
最後に、実燃費について触れておこう。
市街地:12.3km/L(16.2km/L)
郊外路:18.8km/L(19.3km/L)
高速道路:18.1km/L(21.8km/L)
※( )内はカタログのWLTCの燃費値
今回は、線状降水帯による大渋滞などにも見舞われたため、決して燃費に有利な条件ではなかった。そのため、上記の実燃費はかなり下限の値と考えていいだろう。その点や1,800kgという車重を考えれば、優秀な燃費値と言ってよさそうだ。
「CX-60」を1,300km走らせた結論として、まずデザインやインテリアの質感などは、輸入車のプレミアムブランドも斯くやというくらいにすばらしいものだった。
「CX-60」のインテリア
そして、乗り心地は初期モデル特有の硬さと信じつつ、よりいっそう改善してほしいと願う。エンジン、プラットフォーム、足回りなど、1つひとつの“素性”がよいことは、乗っていても伝わってくる。しかし、クルマはそれらを総合することで完成する。料理で言えば、それぞれの素材はすばらしいので、あとはそれらをいかに調理して美味しく仕上げるか。それは、料理人の腕にかかっている。今はまだ、若干粗削りな味わいとなっているので、これからどう整えていくかだろう。何度も言うが、素材はよいのだ。それだけに、期待値を高めながら、今後の改善を楽しみにしたい。
(写真:内田俊一)