日本国内で最も多く販売されているクルマが、軽自動車のホンダ「N-BOX」だ。先代型(2代目)が2017年に登場して以来、日本国内において年間販売台数1位を獲得し続けている。
「N-BOX」が人気を得ている大きな理由のひとつが、軽自動車の中で最も広い室内空間にある。全高は1,790mm(2WD)で、軽自動車のスーパーハイトワゴンの中でも高い部類に入る。さらに、エンジンは(補機類を含めて)縦長に設計されているので、有効室内長も長い。
そのため、4名で乗車しても後席の頭上や足元空間には、ミドルクラスミニバンのように十分な余裕が感じられる。さらに、後席の背もたれを前方へ倒せば大容量の荷室になり、自転車など大きなモノも積みやすい。さらに、収納設備も豊富だ。「N-BOX」のファミリーカーとしての実用性の高さが、高い人気へと結び付いている。
2024年9月26日に正式発表、翌日の27日に発売予定のホンダ「N-BOX」の派生モデル、「N-BOX Joy」。昨今人気のSUVスタイルが採用されているクルマだ
2023年に発売された現行「N-BOX」は、標準ボディとエアロパーツを装着するカスタムグレードが設定されているのだが、そこへ新たに「N-BOX Joy(ジョイ)」と呼ばれるグレードが加わる。「N-BOX Joy」の正式な発売は2024年9月27日だが、販売店では同年の8月29日から価格を明らかにして、予約受注を開始している。
当記事では、発売前の「N-BOX Joy」の実車に触れた印象とともに、筆者が独自に入手した価格や装備などの情報もあわせてお伝えしたい。
「N-BOX Joy」は、三菱「デリカミニ」やスズキ「スペーシアギア」、ダイハツ「タントファンクロス」のようなSUV風のモデルではあるが、ライバル車とは少しテイストが異なる。
「N-BOX Joy」の実車を見ると、「デリカミニ」や「スペーシアギア」に比べて、SUVのタフさやアウトドアなどの印象は控えめに仕上げられている。内外装は、ライバル車に比べるとシンプルだが、その代わりリラックスできるデザインとなっている。開発のテーマは、「みんなが気楽に使える」「どこでものんびり過ごせる」「楽しいマイペースボックス」というものだ。
「N-BOX Joy」は、「N-BOX」の標準ボディをベースに開発されており、ヘッドランプは丸型になる。フロントグリルやバンパー、ロアカバーの形状などは「N-BOX Joy」専用のもので、ボディ側面にはドアパネルをガードするようなドアロアーガーニッシュも装着されている
ホイールは、アルミではなくスチールだが、メタリックのベルリナブラックに塗装され、シルバーのハーフキャップも装着されている。「スペーシアギア」などのライバル車が装着するアルミホイールとは異なり、独特の雰囲気を醸し出す
インパネは汚れを落としやすいベージュの色彩で、インパネトレーは「N-BOXカスタム」と同じストーンカラーに仕上げられているのが特徴的だ。
「N-BOX Joy」のインテリアは、ナチュラルで傷などが目立ちにくいベージュカラーをベースに、シートや荷室にはチェック柄が採用されている
内装で最も注目したいのが、シートや荷室に用いられたチェック柄だ。一般的なモノトーン色は用意されていない。
チェック柄の素材はファブリックで、シートの表面だけでなく、後席の裏側や荷室にも用いられている
後席の背もたれを前方に倒して、ボックス状の広い荷室にアレンジすると、床面がすべてチェック柄になる。ピクニックで使うオシャレなレジャーシートを、床に敷いたようなイメージだ
「デリカミニ」や「スペーシアギア」などライバル車の荷室は、汚れを落としやすいブラックの樹脂が使われることが多く、屋外で使った自転車やアウトドア用品などを積むのに適している。だが、「N-BOX Joy」ではチェック柄が採用されているため、まるで家の小部屋に居るような雰囲気が演出されている。
「N-BOX Joy」は、荷室の床を水平に近づけるために、荷室床面の後方が80mm持ち上げられている。荷物の積みやすさを重視すると、荷室の床は低いほうが使いやすいのだが、小部屋としてリラックスして過ごすには水平のほうが望ましいだろう。
さらに荷室の床面には、座ったときにフレームの凹凸や硬さを体に感じさせないようなプレートも入れられている。
「N-BOX Joy」の荷室を倒して座れば、まるでチェック柄のカーペットを敷いた自宅の床に座っているような、リラックスした気分を味わえる
ちなみに、一般的にクルマの荷室床面の素材は、シートの素材とは異なる。たとえば、同じ柄を使っていても、シートの生地はファブリックだが、荷室には耐久性の高い樹脂など異なる素材が用いられる。
だが、「N-BOX Joy」は荷室にもシート生地と同様の織物表皮が使われている。さらに、日本初とされる樹脂部分との成形同時接着としている。表皮は撥水タイプなので耐久性にもすぐれている。「N-BOX Joy」は、荷室を小部屋のように使えて、かつ荷物を運ぶ実用性も満足できるように仕上げられている。
荷室床下には、アンダーボックスも装着されている。アンダーボックスの幅は666mm、奥行は192mm、深さは182mm、容量は18Lで取り外すこともできる
左から、「N-BOXカスタム」「N-BOX Joy」「N-BOX」
「N-BOX Joy」のエンジンなどのメカニズムは、「N-BOX」の標準ボディやカスタムと共通だ。ただし、ベースとなった標準ボディはNAエンジンのみだが、「N-BOX Joy」ではターボエンジンも選べるという違いがある。
トランスミッションはCVTで、駆動方式は前輪駆動の2WDと4WDが用意されている。タイヤサイズは、カスタムではNAエンジンが14インチでターボエンジンは15インチが装着されているが、「N-BOX Joy」はNAエンジン、ターボエンジンともに14インチになる。
「N-BOX Joy」のグレードそのものは1種類のみで、安全、快適装備は既存のグレードで言うとカスタムに準じている。具体的には、衝突被害軽減ブレーキや運転支援機能を含んだHondaSENSING、LEDヘッドライト、ナビ装着用スペシャルパッケージ、運転席シートヒーターなどが全車に標準装着されている。
NAエンジン車のスライドドアの電動機能は、左側のみに標準装着され、右側はシートバックテーブルとあわせてメーカーオプションとなっている。この2つの装備を、ターボには標準装着している。また、ターボの専用装備として、パドルシフトや本革巻きステアリングホイール、プライムスムースを使った上級シート表皮なども加わる。
■「N-BOX Joy」の価格一覧(販売店調べ)
-NAガソリンエンジン車-
(2WD)
184万4,700円
※右側パワースライドドア+コンビニフック+シートバックテーブル装着車は191万700円
※上記に加えてマルチビューカメラシステムも装着すると198万3,300円
※2トーンカラーなどのフルオプションは206万5,800円
(4WD)
197万7,800円
-ターボエンジン車-
(2WD)
204万4,900円
※ターボエンジン車は、右側パワースライドドア+コンビニフック+シートバックテーブルのセットオプションに加えて、パドルシフト+本革巻きステアリングホイール+メッキホイールリングを標準装備)
※2トーンカラーなどのフルオプションは220万円
(4WD)
217万8,000円
価格は、最も安いNAエンジンを搭載する2WDが184万4,700円、最も高価なターボエンジンを搭載する4WDは217万8,000円だ。
グレードの選び方として、市街地を中心に使うのであれば、NAエンジンを搭載する2WD(184万4,700円)で十分だろう。また、販売店の試乗車などでパワー不足を感じたのなら、ターボの2WD(204万4,900円)を検討しよう。ターボエンジンの最大トルクは、NAエンジンの1.6倍もあるので、1LのNAエンジンのクルマを運転しているような余裕がある。いっぽう、燃費数値は6%程度しか悪化しないのでおすすめだ。
ターボエンジン車の価格は、NAエンジン車に比べて20万200円高いが、右側スライドドアの電動機能やシートバックテーブル、パドルシフト、本革巻きステアリングホイール、プライムスムースを使った上級シート表皮などが加わる。これらを価格に換算するとおよそ11万円なので、ターボエンジンは実質9万円で搭載されることになる。
4WDの価格は、2WDに比べて13万3,100円高い。だが、この価格差は4WDの機能を考えると妥当だ。4WDの車重は2WDに比べて60kgほど重いため、エンジンはターボとの組み合わせが好ましい。
「N-BOX Joy」の価格は、カスタムに近い。カスタムに装着されるエアロパーツやアルミホイールが、「N-BOX Joy」の個性的な外観やチェック柄の内装に置き換わったと考えればよいだろう。「N-BOX Joy」の買い得度も、「N-BOXカスタム」と同等だ。
「N-BOX Joy」は、日常的な移動の中で寄り道を楽しむのにピッタリだ。例えば、公園に立ち寄って後席を倒し、チェック柄の荷室スペースでちょっとリラックスして過ごすなども快適だろう。もし、子どもが飲み物などをこぼしても、撥水表皮なので汚れを落としやすい。
ためしにシートバックへ水をこぼしてみたが、染み込まずにしっかりと弾いてくれた
「N-BOX Joy」の魅力は、後席を格納したチェック柄の内装を、実際に見たり座ったりすることで実感できるはずだ。気になる方は、ぜひ居心地のよさを販売店で確かめてほしい。
「N-BOX Joy」の内外装にホンダ純正のアクセサリーを装着すれば、その魅力はより引き立つ
「ユーティリティーネット」を使えば、天井を収納スペースとして使える
「ルーフユーティリティーフック」があれば、レジャー・アウトドアなど際に軽めのモノを吊るすことができて便利だ
サンシェードと天井の収納がセットになった「サンシェード内蔵大型ルーフコンソール」。サンシェードの収納や展開がカンタンなほか、左右のサンバイザーを開くとティッシュも取り出せるようになっている
荷室などへ汚れたものを置くときに、汚れが気になるなら「カーゴライナー」を利用したい
(写真:島村栄二)