レビュー

スバルの“新ハイブリッド”搭載「クロストレック」に先行試乗!「WRX STI」のような乗り味に感動

スバルが、ついに「ストロングハイブリッドシステム」(以降、SHEV)搭載車を正式に発表しました。スバルのSHEV搭載車は、2024年12月に正式発表される改良型「クロストレック」の上級グレードとして展開される予定です。

SHEVの内容は、長年のスバルファンである筆者もビックリするほどの、実にスバルらしい個性と性能が与えられていました。スバル黎明期のレジェンドエンジニア、百瀬晋六さんの「百瀬イズム」の継承を強く感じさせるほどのものです。

では、一体どのあたりが“スバルらしい”のか。今回、SHEV搭載の「クロストレック」へ試乗した筆者が感じたことをお伝えしたいと思います。

今回は、スバルの新しい「ストロングハイブリッドシステム」を搭載した「クロストレック」の4WDモデルに乗って、泥濘路や登坂路などにおける走破性能を試してみました

今回は、スバルの新しい「ストロングハイブリッドシステム」を搭載した「クロストレック」の4WDモデルに乗って、泥濘路や登坂路などにおける走破性能を試してみました

走破性を重視したスバルらしいハイブリッド

まず、SHEVの具体的な構成としては、駆動用と発電用、それぞれ2基のモーターとジェネレーターによる「シリーズ・パラレル式」と呼ばれるハイブリッドシステムが採用されています。技術協力を得たトヨタの「THS」と基本的に同じものですが、縦置き水平対向エンジンとの組み合わせなので、そのほとんどは専用設計。今回、SHEVを搭載した「クロストレック」に乗ってみましたが、走りの質はトヨタの「THS」搭載車とはまったく異なるものでした。

SHEVに組み合わされる2.5L水平対向4気筒エンジンは、これまでもあったFB25ながら、ストロングハイブリッド向けに大幅な変更が施されています。補機類や吸気システムのレイアウトを刷新し、燃焼をミラーサイクル化して熱効率を向上。電動コンプレッサーと電熱ヒーターによって、エンジン停止中もエアコンは効き続けます

SHEVに組み合わされる2.5L水平対向4気筒エンジンは、これまでもあったFB25ながら、ストロングハイブリッド向けに大幅な変更が施されています。補機類や吸気システムのレイアウトを刷新し、燃焼をミラーサイクル化して熱効率を向上。電動コンプレッサーと電熱ヒーターによって、エンジン停止中もエアコンは効き続けます

スバルが、「クロストレック」にSHEVを搭載するにあたり、もっとも重視したのは持ち前の走破性をさらに高める≠アとでした。また、燃費の向上も重視されています。従来型のEVモードで走行できる領域が格段に広がったことなどにより、燃費は従来型のe-BOXER比で約2割向上しました。ですが、昨今の一般的なストロングハイブリッド車と比べると、燃費の数値は特に驚くほどではないと感じる人も少なくないでしょう。

ただし、ここで注目したいのは、普通なら燃費に全振りしたハイブリッド車を開発しても不思議ではないのですが、スバルはそれを狙わなかったことです。それは、SHEV仕様がAWDのみの設定で、FFのグレードを用意しなかったことからもスバルの狙いが伝わってきます。
(従来型e-BOXER車にはFFの設定アリ)

スバルは、SHEVで低燃費化を図りつつも、走破性のよさをさらに際立たせることで、他メーカーとの差別化を狙ったのです。その詳細について、後述いたします。

電気モーターの出力を大きくアップ

ハイブリッドのキモとなる電気モーターの出力は、従来型e-BOXERの10kWから88kWへアップ。なんと9倍近い大増強です。さらに、最大トルクも65Nmから270Nmと、4倍以上となっています。高出力のモーターと2.5L水平対向4気筒エンジンの組み合わせにより、0-100km/h加速は従来型e-BOXERより2.1秒速いとのこと(車重は約50kg増)。

だからといって、バカッ速な加速力を発揮するスポーツ系BEVのような、加速時に乗員の度肝を抜く動力性能を狙ったわけではありません。この力強さは、全天候向けの走破性向上のためというのがスバルらしいところです。

「クロストレック」SHEV搭載車のエクステリアは、従来の「クロストレック」と比べて大きな変更はありません。ちなみに、従来のe-BOXER車では、車体の中央部に配置されていたパワーコントロールユニットを小型化してエンジンルーム内に設置できたことにより、燃料タンクの容量を拡大(48Lから63Lへ)。これにより、1回の給油で1,000kmもの航続距離を可能としています

「クロストレック」SHEV搭載車のエクステリアは、従来の「クロストレック」と比べて大きな変更はありません。ちなみに、従来のe-BOXER車では、車体の中央部に配置されていたパワーコントロールユニットを小型化してエンジンルーム内に設置できたことにより、燃料タンクの容量を拡大(48Lから63Lへ)。これにより、1回の給油で1,000kmもの航続距離を可能としています

「WRX STI」を思わせるようなリニアな駆動感覚

幸いにして(?)、筆者が試乗した日は台風の影響を受けた悪天候下。路面はビチャビチャに濡れた草むらが中心で、一部は泥濘路にもなっているという、普通に考えると試乗コースとしては最悪レベルの状況でした。ですが、それゆえにSHEVを搭載した「クロストレック」の走りのよさが際立ったのです。

「クロストレック」SHEV搭載車の芝生路走行イメージ

「クロストレック」SHEV搭載車の芝生路走行イメージ

とても滑りやすい草むらと泥濘路を走って強く感じたのは、超絶に頼もしい駆動力です。スバルが、2024年5月に次世代パワートレイン技術説明会「マルチパスウェイ ワークショップ」においてSHEVを発表したとき、藤貫哲郎CTO(最高技術責任者)は、「ウチはこれからもメカニカル四駆で行きます」と宣言しました。

その言葉どおり、今回試乗した「クロストレック」もプロペラシャフトで後輪を駆動する機械式の四輪駆動システムが踏襲されており、それに強力なモーター駆動が追加されたワケです。

そして、実際に乗ってみると、四輪が機械的にガッチリと締結されたシステムならではの、路面を鷲掴みにしてグイグイ前に進む感覚が、従来型のe-BOXER比でも激増しているではありませんか。タイヤは、従来型と同じファルケン「ZIEX ZE001」というオールシーズンタイヤで、濡れた草むらや泥濘路に適したものではないはずなのに、多少のスリップ程度ではものともしない推進力を感じさせてくれます。筆者はここに、スバルのストロングハイブリッド車の真髄を見たのです。

「クロストレック」SHEV搭載車の芝生路走行イメージ

「クロストレック」SHEV搭載車の芝生路走行イメージ

状況が許せば、VDCをオフにしてパワードリフト状態に持ち込むことも容易だろうと確信しながら思い出したのは、かつて「WRX STI」で低μ路面を走った時の感覚です。SHEVを搭載した「クロストレック」の駆動力は、ハイパワーターボに「DCCD(ドライバーズコントロールセンターデフ)」を組み合わせた「WRX STI」のようであるとさえ感じられたのでした。

そう感じたのも納得。実は、今度のSHEV用のAWDシステムには、一部に「DCCD」の技術が応用されているとのこと。電動や油圧で制御するのではなく、意外にシンプルな機構で駆動力をコントロールしていたのでありました。これには筆者もビックリ。実にスバルらしい、次世代パワートレインであると感涙が禁じ得ません。

燃費や乗り心地にも配慮

感動するいっぽう、機械式四駆にこだわるあまり、燃費を犠牲にしてでも駆動力を高めるのは、「クロストレック」という車種としてはやりすぎなのではないかとの疑問も浮かびました。しかし、高速巡航中はセンターデフの締結がなくなる瞬間もある、つまり瞬間的にはFF状態にもなると聞いて、なおビックリです。何が何でも常時100%締結しっぱなしではないということないのですね。ただし、その変化の瞬間を感じ取れるドライバーは居ないとされるほど断続は自然に行われ、また応答遅れも発生しないらしいので、そこは心配ご無用とのことでした。

さらに、SHEV搭載車はサスペンションなどの改良によって、従来型よりもさらに乗り心地がしなやかになっています。そして、ステアリングのダイレクト感が増したことにより、低ミュー路での滑り出しが予見しやすい「クロストレック」に仕上がっていたのでありました。まさに、スバルの狙いはこの走りにあったのです。

「クロストレック」SHEV搭載車の登坂路走行イメージ

「クロストレック」SHEV搭載車の登坂路走行イメージ

買い得感のある価格設定

SHEV搭載車の価格は、記事掲載時点では公表されていませんが、聞くところによると現状の最上級グレード「Limited」に対して約35万円高ということで、それほど大きな値上げにはならなそうということも注目ポイントです。ちなみに、従来型のe-BOXER車もマイルドハイブリッド車として引き続き販売されます(リミテッド/ツーリングにはFFもあり)。

今のご時世を考えると、燃費性能に全振りしたような仕様を想像しがちですが、スバルは意表を突いてきました。

「物事に2種類の方法があったとしたら、どちらを選んでもいい。それぞれに必ず短所と長所があり、長所を伸ばして悪いところを削っていけばいい。そうすれば、どちらも大差ないところにいく。他がマルからやるならば、スバルはバツから始めればいい。よそがやらないことをやろう」。

スバル黎明期のレジェンドエンジニア、百瀬晋六さんは、かつてそう言いながら独自性を極めることがスバルの生きる道だと説きましたが、SHEV搭載の「クロストレック」には、まさに百瀬イズム≠フ継承を感じずにはいられないのであります。

(写真:島村栄二)

マリオ高野
Writer
マリオ高野
1973年大阪生まれの自動車ライター。免許取得後に偶然買ったスバル車によりクルマの楽しさに目覚め、新車セールスマンや輸入車ディーラーでの車両回送員、自動車工場での期間工、自動車雑誌の編集部員などを経てフリーライターに。3台の愛車はいずれもスバルのMT車。
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桜庭智之(編集部)
Editor
桜庭智之(編集部)
自動車専門メディアで編集者として10年間勤務した後「価格.comマガジン」へ。これまで、国産を中心とした数百の新型車に試乗しており、自動車のほかカーナビやドラレコ、タイヤなどのカー用品関連も担当する。
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