レビュー

メルセデス「CLAシューティングブレーク」市街地から高速まで550km試乗!

メルセデス・ベンツのコンパクトカー「Aクラス」をベースに、ワゴンとクーペを融合させたクルマが「CLAシューティングブレーク」だ。日本の道路で走るのに適度なサイズ感で、取り回し性もよい。今回は、2023年にマイナーチェンジを実施した「CLAシューティングブレーク」を、550kmほどの試乗に連れ出してみたのでレビューしたい。

今回は、メルセデス・ベンツ「CLAシューティングブレーク」にオプションの「AMGラインパッケージ」が装着されたクルマに試乗した

今回は、メルセデス・ベンツ「CLAシューティングブレーク」にオプションの「AMGラインパッケージ」が装着されたクルマに試乗した

スタイルのよさと積載性の高さを両立した「シューティングブレーク」

まず、「CLAシューティングブレーク」の概要について、カンタンに説明しておこう。

「CLAシューティングブレーク」と4ドアクーペの「CLA」は、2019年にフルモデルチェンジされて現行型となった。メルセデス・ベンツのデザイン哲学、“Sensual Purity(官能的純粋)”をもとにキャラクターラインを大幅に排し、全体のシルエットやボディの面によって、流麗さや力強さを表現するデザイン手法が新たに採用されている。

そもそも「シューティングブレーク」という名称は、イギリスのコーチビルダーがジャガーなどの2ドアクーペをベースとして、貴族のハンティング用に猟犬や銃などを搭載すべく、ワゴンにカスタマイズしたクルマのことだ。メルセデス・ベンツは、そのスタイルのよさと積載性の高さに目を付け、4ドアクーペの「CLS」をベースに「シューティングブレーク」を登場させた。そして、「CLSシューティングブレーク」が人気となったこともあり、よりコンパクトな「CLA」にも設定された。

2023年の「CLAシューティングブレーク」マイナーチェンジでは、エクステリアデザインの刷新とともに、ナビゲーションシステムを「Sクラス」などに採用している最新世代へとアップデート。安全性や快適性を高める「アダプティブハイビームアシスト」や、駐車時や狭い道などで車両の周囲の状況をディスプレイで確認できる「360度カメラシステム」は全モデルに標準装備されている。

外観はシャープに、内装は使い勝手を向上

マイナーチェンジにおける、具体的な外観デザインの変更点としては、マットクローム仕上げの小さなスリーポインテッドスターが無数に散りばめられた、シングルルーバータイプの「スターパターンフロントグリル」が採用されたことがあげられる。

また、今回の試乗車にも装着されているオプションの「AMGラインパッケージ」を選択すると、下部に広がる台形とその両サイドに大口径のエアインテークによって、よりアグレッシブかつパワフルなデザインになったことが印象として大きい。

「CLAシューティングブレーク」AMGラインパッケージ装着車のフロントエクステリア

「CLAシューティングブレーク」AMGラインパッケージ装着車のフロントエクステリア

リアは、新デザインのリアディフューザーの採用や、LEDリアコンビネーションランプのデザインを変更するなどによって、よりシャープな印象が与えられている。また、ホイールデザインも刷新された。

「CLAシューティングブレーク」AMGラインパッケージ装着車のリアエクステリア

「CLAシューティングブレーク」AMGラインパッケージ装着車のリアエクステリア

インテリアは、新世代のステアリングホイールを採用。さらに、オプションの「AMGラインパッケージ」を選択すると、近未来的なスポーティーさを演出する3本ツインスポークタイプになる。新しいステアリングホイールは、ナビゲーションやインストルメントクラスター内の各種設定や安全運転支援システムの設定を手元で完結できる機能性も有している。

「CLAシューティングブレーク」AMGラインパッケージ装着車のステアリングホイール

「CLAシューティングブレーク」AMGラインパッケージ装着車のステアリングホイール

また、従来はタッチコントロールボタンへの接触やステアリングホイールにかかるトルクで判定していた、アクティブディスタンスアシスト・ディストロニック使用時のハンズオフ検知機能のために、新たにリムに静電容量式センサーを備えたパッドを採用。これにより、ステアリングホイールにかかるトルクがなくとも、ドライバーがステアリングホイールを握っていることが認識され、アクティブディスタンスアシスト・ディストロニックの使い勝手を向上させている。

ちなみに、センターコンソールに設置していたタッチパッドは廃止され、すっきりとしたインテリアデザインになった。

走りは軽快で快適だが「タイヤノイズ」が気になる

今回、試乗したグレードは「CLA 200 d シューティングブレーク」(オプションのAMGパッケージ付き)だ。搭載されている2リッター直4直噴ディーゼルターボエンジンは、最高出力150PS(110kW)/3,400〜4,400rpm、最大トルク320Nm/1,400〜3,200rpmを発揮する。

クルマに乗り込んで、まず感じたのはヒップポイントの低さだった。近年の新型車はSUVが多いこともあって、前方を見下ろす視線に慣れていたのだが、「CLAシューティングブレーク」は改めて地面の近さを感じて安心感が沸いてくる。

ドアに設けられたシート調整スイッチを操作して、適切なドライビングポジションを選択。左手を前方に伸ばした先にあるエンジンスタート・ストップボタンを押し込むと、若干の身震いとともにディーゼルエンジンは目覚めた。近年、メルセデス・ベンツが採用しているBSGと48V電気システム(回生で貯めた電気を利用して、ベルトなどを介してクランクシャフトを回してエンジンを始動させる)は、「CLAシューティングブレーク」には採用されていないので、比較すると少し振動を感じてしまう。だが、それほど気になるようなものでもないので、「CLAシューティングブレーク」は十分な制振性を備えていると言っていいだろう。

アクセルペダルを踏み込むと、1,600kgの車重は気にならず、クルマは軽々と発進する。走り出して最初に気になったのは、タイヤのパターンノイズだ。窓をしっかりと締め切って、ゆっくりと路地裏を走らせていても「ヒュワヒュワ」というタイヤノイズが耳に飛び込んでくる。

そこで、いったんクルマを止めてタイヤをチェックしてみる。まさかとは思ったのだが、スタッドレスタイヤが装着されているかもしれないと思ったためだ。本当に、そのくらい高周波のノイズが車内に侵入してきた。確認すると、タイヤはブリヂストン「Turanza(トランザ)」で、AMGパッケージだったためにタイヤサイズは225/40R19(標準仕様は225/45R18)であった。さらに、この印象はどの速度域、路面状態でもあまり変わらなかった。

「CLAシューティングブレーク」に装着されていたタイヤ、ブリヂストン「Turanza」(サイズは225/40R19)

「CLAシューティングブレーク」に装着されていたタイヤ、ブリヂストン「Turanza」(サイズは225/40R19)

その要因は、大きく2つある。ひとつは、タイヤとクルマのマッチングだ。装着タイヤは、ウェットでのグリップ性能も決して高いとは言えず、クルマに合っているタイヤとは言えないこと。そしてもうひとつは、AMGパッケージによって最低地上高が標準の135mmから120mmに下げられたことによって、標準仕様以上にタイヤに負荷がかかっていたためではないかと推測する。

また、フロア剛性も若干低いようなので、そこから音の侵入を許していることもありそうだ。いつか、機会を見て「Turanza」以外のタイヤを試してみたいところである。

だが、実は気になったのはこのくらいで、「おやっ?」と不思議に思うくらい快適かつ軽快に、「CLAシューティングブレーク」は街を駆け抜けてくれた。

信号からのスタートダッシュは、エンジンのトルクをうまく使って、8速ATが適切にシフトアップ、ダウンを繰り返す。その際のショックはほとんどなく、かつストレスも感じない。エンジンとトランスミッションのマッチングが非常によく快適だった。

市街地での取り回し性がよく、視界も良好

市街地を運転して感じたのは、大きく2つある。手ごろなボディサイズと、ドアマウントされたドアミラーによる視界のよさだ。ボディサイズは、全長4,685mm(標準仕様は4,690mm)、全幅1,830mm、全高は1,435mm(標準仕様は1,450mm)。本音を言えば、全幅は1,800mmを切ってほしいところだが、最近できた立体駐車場などにも余裕をもって入場できるし、道路上にあるパーキングシステムへの縦列駐車も楽々だ。さらに、ドアミラーがドアにマウントされていることで右折時の死角が減っている。安全とは言えない運転の自転車やキックボードなどが街にあふれている昨今、少しでも視界がいいことは安心、安全につながるので高く評価したい。

「CLAシューティングブレーク」はミラーがドアにマウントされているので、前方左右の死角が少ない

「CLAシューティングブレーク」はミラーがドアにマウントされているので、前方左右の死角が少ない

いくつかの交差点を右左折し、幹線道路を走らせた際の乗り心地は、AMGパッケージの影響で若干硬めに感じられるものの、不快にまではいたらない絶妙な感覚だ。ステアリングはとても軽いので、市街地での取り回しはラクに操作できる。

また、速度の加減速もとても容易で、アクセルやブレーキペダルのフィーリングはきわめて自然だ。ちなみに、メルセデス・ベンツ各車に共通する「オートブレーキホールド」は、ブレーキをかけてクルマが停止した後、その状態からさらにブレーキペダルを強く踏み込むことで作動する。これは、ブレーキホールドのかけ忘れなどを防ぐ安全機能としても、とても有効と言えるだろう。

AMGパッケージのシートは、もう少ししなやかさがほしい

前述の市街地での印象は、高速道路に乗っても大きくは変わらない。100km/hでは1,400rpmほどの低いエンジン回転数なので、かなり静かに走行できる。だからこそ、タイヤからのノイズだけが気になるのだが……。

さらに直進安定性が高く、安定感がとても高い。ご承知のとおり、「Aクラス」をベースにしているので駆動方式はFFなのだが、特に駆動方式を意識させることもなく、雨が降っていてもマイペースに走らせることができた。

「CLAシューティングブレーク」の走行イメージ

「CLAシューティングブレーク」の走行イメージ

さて、安全運転支援システムについて少し触れておこう。最新世代にバージョンアップしていることもあり、前車追従式の「アダプティブクルーズコントロール」や「レーンキープアシスト(LKA)」などは急激な操作介入もしないので、制御には安心感がある。ただ、「LKA」は時々レーンチェンジの際に作動が遅れることがあり、ウインカーを出していても現在のレーンをキープしようとしたり、移動先のレーンの端の白線に反応してステアリングに介入したりすることがあった。

高速道路を走行する場合、1〜2時間程度は同じ姿勢のまま、シートに座り続けることもあるだろう。AMGパッケージにはスポーツシートが装着されているのだが、クッション性がもう少しあるとよいと感じた。背中側が少々張り気味なのと、座面も同様で座り続けているとお尻が痛くなってくることがあったからだ。

メルセデスならではの安全への配慮が随所に感じられる

さて、市街地から高速道路まで、さまざまなシーンを走らせて感じたこととして、メルセデス・ベンツ独特のシフトレバーについてまず述べておきたい。

アクセルとブレーキの踏み間違いによる事故の中には、シフトミスも含まれていると思う。1つひとつ確認しながら操作すればいいのだが、人間は慣れてしまう生き物なので、Dに入れたつもりがRだったりすることもあるだろう。特に、トヨタ「プリウス」などが採用している、常にレバーが中央に戻される仕組みの場合は、とっさの際にどこに入っているのかがわからないので、ミスがより発生しやすい。

だが、メルセデス・ベンツの場合は、ステアリングシャフトから生えたレバーで、基本は上か下に動かすタイプだ。イメージとしては、ウインカーの操作と同じと思えばよいだろう。極論だが、右左折時にウインカー操作を間違えることはあまりないのではないか。それを置き換えると、ウインカーの左折時と同じ操作でR、右折時と同じ操作でDなので、間違えにくいと筆者は感じる。

メルセデス・ベンツが、10年近くこのシフトレバーを使い続けているのは、そのような意味もあるのではないかと思っている。もちろん、シフトレバーがセンターコンソールからなくなるので、そのスペースを有効活用するという理由もあるのかもしれないが。

さらに、ドアハンドルもいまだにしっかりとドアに取り付けてあるグリップ型だ。BMWなどは、空気抵抗云々でフラット型を採用しているが、もし事故などでドアが開きにくくなった場合、外から開けるにはどちらが有効かは明らかだ。

「CLAシューティングブレーク」には、従来と同じグリップ型のドアハンドルが採用されている

「CLAシューティングブレーク」には、従来と同じグリップ型のドアハンドルが採用されている

このように、メルセデス・ベンツが安全性に関して絶対的な信念を持っていることが、今回の試乗でも改めて感じられたし、それには敬意を表したいと思う。

ただし、スイッチ類についてだけは、少々苦言を呈したい。「MBUX」を利用すれば、ある程度音声認識で操作はできる。しかし、同乗者に気を使ってあまり音声を使いたくない場合や、認識してくれないこともあるので、ステアリングも含めたスイッチ類を使うことも多いだろう。そのスイッチが少々小さく、かつセンターパネルなどは同じように並んでいるのはいかがなものかと思う。

並びの中央にはハザードランプスイッチも配されていて、ほかに比べれば少し大きいものの、とっさのときにはやはり使いにくい。昔のメルセデス・ベンツであればセンターパネルの上に独立して大型のボタンがあったのにと残念に思っている。

少し使いにくく感じられたスイッチ類

少し使いにくく感じられたスイッチ類

優秀な燃費値

今回、試乗した実燃費は、以下の結果となった。

市街地:13.2km/L(13.9km/L)
郊外路:14.3km/L(18.1km/L)
高速道路:22.9km/L(22.4km/L)
( )内はWLTCモード値

市街地と高速道路はほぼ一緒だったが、郊外路はWLTCモード値と差が出てしまった。その理由は、今回のルートの中にアップダウンの多いワインディングロードが含まれており、そこを少し元気に走らせたからだろう。そのワインディングを除けば、おそらくWLTCモード値に近いあたりになるはずだ。したがって、郊外路は燃費の下限値と思ってもらってよさそうだ。

今回、高速道路を淡々と走らせていると、車載の燃費計では30km/Lを超えることもあった。燃費については、高く評価してよさそうだ。

さまざまな要望に応える万能なクルマ

「CLAシューティングブレーク」は、メルセデス・ベンツの良心が溢れ、かつ、ちょっとおしゃれなクルマと言えるだろう。インテリアに多用されているピアノブラックなどは少々やり過ぎの感もあるが、そのような点を除けば、デザインを優先したためにトランクスペースが犠牲になっているということもなく、505Lから最大1,370Lまで拡大できるので、普通に使う分には十分以上の容量が確保されている。

「CLAシューティングブレーク」のトランクルーム

「CLAシューティングブレーク」のトランクルーム

ちょっとした外出から長距離までそつなくこなし、おしゃれをしての旅行もサマになる。そして、いざとなったらしっかりと荷物も積載できる万能なクルマが「CLAシューティングブレーク」の魅力と言えそうだ。

(写真:内田俊一)

内田俊一
Writer
内田俊一
1966年生まれ。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を生かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。長距離試乗も行いあらゆるシーンでの試乗記執筆を心掛けている。クラシックカーの分野も得意で、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員でもある。
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桜庭智之(編集部)
Editor
桜庭智之(編集部)
自動車専門メディアで編集者として10年間勤務した後「価格.comマガジン」へ。これまで、国産を中心とした数百の新型車に試乗しており、自動車のほかカーナビやドラレコ、タイヤなどのカー用品関連も担当する。
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