“世界で最も美しいクルマ”と評された「DS 4」が日本に導入されてから、およそ2年。今もなお、街で見かけると思わず振り返ってしまうような優雅さが感じられる美しいクルマだ。では、長時間乗ってみたら、その印象にギャップは生じないのだろうか。今回は、「DS 4」のPHEV(プラグインハイブリッド)モデルを長距離走らせてみたのでレビューをお伝えしよう。
今回は、「第37回国際自動車フェスティバル」において「Most Beautiful Car of the Year」を受賞し、"世界で最も美しいクルマ"に選出された「DS 4」に長距離試乗した
まずは、「DS 4」の概要について少し振り返っておこう。現行モデルの「DS 4」は、「DS 7 CROSSBACK」「DS 3 CROSSBACK」「DS 9」に続く、DS オートモビル4番目のモデルとして2022年に登場した。世界的に人気なプレミアムCセグメントに投入する戦略的な基幹車種として位置付けられている。
全長は4,415mmと、多くの競合車よりもボディが長く、流麗で彫刻的なプロポーションが特徴的だ。そして、パリのものづくりの技と美学「SAVOIR- FAIRE(サヴォア・フェール)」が細部に息づく、他に類をみないDSならではのフレンチラグジュアリーが体現されている。
また、「DS 4」はエクステリアだけでなく、インテリアにおいてもクラス上のエレガントな室内空間が表現されている。ダッシュボードは継ぎ目のないシームレスな造形で、通常なら中央部に備わっている大きなエアアウトレットは廃され、エアコン吹き出し口の存在感すら無くした新たなベンチレーションシステム「DS エア」が採用されている。
日本に導入されるパワートレインは3種類。1.2L 3気筒ガソリンエンジン、1.5L 4気筒クリーンディーゼルエンジン。そして、今回試乗した1.6L 4気筒ガソリンエンジンにモーターを組み合わせたPHEVだ。PHEVは、56km(WLTCモード)のEV走行が可能で、ギアボックスは8速ATが組み合わされ、エンジンとモーターを組み合わせたシステム最高出力は225ps、同最大トルクは360Nmを発揮する。
「DS 4」のエクステリアは、「ブランナクレ」と呼ばれる少しゴールド味がかった渋めのカラーが妖艶さを感じさせてくれるものですばらしい美しさだ。
だが、「DS 4」の最大の魅力は“インテリアに尽きる”といっても過言ではない。ドアに埋め込まれたレバーを引いて室内へ入ると、そこには「DS」ならではの煌びやかな世界が広がっているのだ。
それは、歴史に裏付けられている卓越した技術を持つ匠や、その技をいまの技術で表現したものを指す「サヴォア・フェール」だ。たとえば、老舗ブランドのオートクチュールなどはよい例で、そのようなデザインが「DS 4」のインテリアには溢れている。その一例として、クル・ド・パリと呼ばれる多数のピラミッドが連なっているように見せる紋様が、物理スイッチやドア周りのクロームパーツに施されている。
また、なめし皮のようなしなやかさを感じさせるシート生地をはじめ、ダッシュパネルのエンボス加工など、本当に贅を尽くした仕上がりに表現されていることも挙げられる。
ドア下端はサイドシル下まで廻り込んでいるので、ズボンやスカートの裾などを汚さずにすむ
いっぽう、ピアノブラックがセンターコンソールなどに多用されているが、これは「DS 4」としては少々安っぽく、指紋などの汚れが目立ってしまう点が気になった。
センターコンソールの中央付近にはエンジンスタート・ストップボタンが備わっており、これを押し込むことでエンジンが始動する。PHEVなので、充電量がたっぷりとあれば特にエンジンがかかることもなく、センターコンソールのセレクトレバーをDに入れることで「DS 4」は何のためらいもなくスタートする。ちなみに、セレクトレバーは指で前方に押すとR、引くとDにセレクト。パーキングはPボタンを押すことで選択ができる。センターコンソール周りをスッキリと見せたいという理由はわかるのだが、これについてはあまり使いやすいとは言えなさそうだ。
また、クル・ド・パリ仕上げのパワーウィンドウスイッチは、もう少し剛性感がほしいと感じたのだが、窓自体の動きは精緻かつスムーズで、高級感が感じられるものであった。
「DS 4」を走らせると、素性のよさが感じられる。ドライブモードを「コンフォート」にすると、フラッグシップの「DS 9」や「DS 7クロスバック」などにも搭載されている「DSアクティブスキャンサスペンション」が起動する。これは、カメラで直前の路面を捉え、瞬時にサスペンションの硬さを変える制御だ。市街地の荒れた路面では、若干バネ下の重さが気になるものの、心地よいふんわりとしたやわらかな乗り心地だ。
ドイツ車に慣れた人からすれば、フワフワと落ち着きのない印象(それはノーマルでも同様)なのかも知れないが、いったんこちらに馴染んでしまった後にドイツ車に乗ると、「なんて硬くて、路面の凹凸が体に伝わってくるクルマなのだろう」と思ってしまうほどであった。「DS 4」の乗り心地は、慣れてしまえば快適そのものだ。
また高速道路では、たとえば第2東名や東北道の一部区間に設けられた上限120km/h区間などにおいて制限速度で走ると、一度ではショックが吸収しきれず2回くらい上下に動くことがあった。これをダンピング不足と捉えるか、あるいはこの程度は快適だと捉えるかは、まさしく好みの問題だろう。筆者としては、快適なのは間違いないのだが、後部座席は酔いにつながる可能性があることも記しておきたい。ちなみに「DSアクティブスキャンサスペンション」は、夜間や雨天時は機能しないことも付け加えておこう。
また、通常の走行モードでも、乗り心地が悪くなるような印象は決してない。どちらかと言うと、「DSアクティブスキャンサスペンション」は「DS 4」のしなやかな乗り心地がより強調されると考えて頂ければ間違いないだろう。
ちなみに、一般道の速度域においてはフラットな乗り心地で悠々と走行できる。さらに、直進安定性が抜群なので、軽くステアリングに手を添えているだけで地の果てまでも、と言うと少々大げさかもしれないが、そのくらい楽に走れるのだ。
乗り心地のよさに大きく貢献しているのがシートだ。しなやかでありながらツボを押さえたシート形状は実に快適で、300km程度ならノンストップで走りきれるだろう。
また、EV走行からエンジンが始動してもそれほどショックは感じられず、同乗者もほとんど気が付くことはないだろう。さらにパワーを求めるのなら、しっかりとアクセルペダルを踏み込めば、思った以上に力強い加速を開始してくれるのも好印象だった。
さて、長距離を走行していると少々気になる点が見えてきた。まずはブレーキだ。ステランティスの、というか旧PSA系車種に共通するのだが、ブレーキ踏力が減速Gと一致せず、スムーズに停車させるには気を使う。特に、停止寸前でペダルから踏力を抜くような場面において、抜きすぎるとアイドルストップが切れてエンジンがスタートしたり、あるいは踏力が抜け切れずにゴツンとショックを伴って停止したりすることが間々あるのだ。アイドルストップと回生、ブレーキとの協調制御の熟成が足りない印象であった。また、そのようなシーンでは、トランスミッションから若干の変速ショックも感じられた。
また、視界についてなのだが、デザインの影響で左ななめ後方に死角ができているので注意が必要に感じた。だが、右斜め前方はドアマウントのドアミラーのおかげで良好だ。
そのほか、タッチ式のセンターディスプレイは画面を都度切り替えて操作しなければならない。物理スイッチが設けられたこと自体は評価したいのだが、たんにスクリーンの下に同じ形状で並んでいるのでブラインドタッチが難しく、それほどひんぱんには使わないであろうスイッチが配されているので、スイッチ周りはもう少し整理してほしいと感じた。
今回、試乗したのはPHEVだったため、燃費計測にあたってはあえて電気をすべて使い切り、0%になった状態から計測を開始した。1,700kmほど走行した結果としては、
市街地:12.3km/L(11.6km/L)
郊外路:18.4km/L(18.7km/L)
高速道路:16.7km/L(18.1km/L)
( )内はWLTCモード値
上記の結果となった。
全体の印象として、たとえ電気が0%になったとしても積極的に回生などで充電し、ちょっとでも溜まるとすぐにEV走行しようとする傾向にあった。前述のとおり、そのようなシーンでエンジンがオン、オフしてもほとんどわからないため、ストレスを感じることはない。だが、燃費については市街地で12km/L代は少し物足りない値に感じられた。欲を言えば、せめて15km/Lあたりまで伸びてくれれば、財布にもやさしいだろう。何しろ、ハイオク指定なので……。
また、高速道路で燃費が伸びなかったのは、関越道や東北道、山形自動車道などアップ、ダウンのシーンが多かったためと思われるが、やはりそれでも20km/Lあたりまでは伸びてほしかった。
ちなみに、PHEVなのでEV走行も可能だ。今回、満充電で借り出して、市街地や高速道路を合わせてEVだけでも40kmほど走行できたので、普通充電器をお持ちの家庭であれば、近所の買い物などはほとんどエンジンを掛けずに乗ることができるだろう。
さて、今回の試乗テーマであった「デザインの美しさと走りは一致するか」だが、「DS 4は一致する」と言っていいだろう。しなやかな足さばきはまさに「DS 4」ならではで、落ち着いたインテリアは「DS 4」でしか味わえないものだ。ただし、スイッチ類の触感などは見た目に反して少々プラスチックを思わせる印象が拭えなかったので、もう少し質感を上げてほしい。
しかし、それでも個人的には「DS 4」に魅力を感じた。その理由は、疲れた体をやさしく包んでくれるシートや、あくせくせずに走らせてくれるエンジンとトランスミッション、機敏過ぎないステアリング、そして目を楽しませてくれるクル・ド・パリ紋様など、ささくれだった日常からひと時でも開放してくれて、ゆったりとした気分にしてくれるからだ。それこそがいまの時代の贅沢、ラグジュアリーではないかと感じたのだ。
(写真:内田俊一、ステランティスジャパン)