レビュー

快適な乗り心地と静粛性に驚き!ホンダ「N-VAN e:」に試乗

今回は、ホンダの軽商用車「N-VAN」をベースとした電気自動車「N-VAN e:」へ試乗したので、その使い勝手や印象などについてお伝えしよう。

2024年10月10日に発売されたホンダの軽商用EV「N-VAN e:」に試乗した

2024年10月10日に発売されたホンダの軽商用EV「N-VAN e:」に試乗した

幅広いターゲット層を想定して開発

近年、大手を中心とした配送業界がEV化への取り組みを進めており、厳しい条件が求められる商用車の耐久性や信頼性を培っていくことを目的として「N-VAN e:」は開発された。

そのため、ターゲットは法人企業で、配送業を中心にサービスやメンテナンス関連の営業車といった、さまざまな商用ユースが想定されている。さらに、「N-VAN e:」は使い勝手がよいため、個人の乗用ユースや個人事業主など、商用と乗用の両方を見据えた幅広いターゲット層が設定されている。

グレードは法人向けから個人ユースまで4タイプを設定

「N-VAN e:」のコンセプトは“e:コンテナ”。「N-VAN」(ガソリンモデル)が持つ大容量の荷室空間や助手席ピラーレスが実現する大開口空間に加えて、「N-VAN e:」のEV車ならではのスムーズな加速や静粛性の高さ、そしてどこでも給電できるという新たな価値を備えている。

助手席側のセンターピラーが省かれることで、荷物の積載などをスムーズに行える「N-VAN」の魅力は「N-VAN e:」にも引き継がれている

助手席側のセンターピラーが省かれることで、荷物の積載などをスムーズに行える「N-VAN」の魅力は「N-VAN e:」にも引き継がれている

グレード展開は大きく4つ。まず、積載量の最大化を目的とした一人乗りパッケージを採用して、リーズナブルな価格を目指した「e:G」。座席がひとつしかないため、助手席側のダッシュボードを極限までシンプル化でき、長尺の荷物なども積載できる仕様となる。

シートが運転席1名のみの「e:G」グレード

シートが運転席1名のみの「e:G」グレード

2つ目は、タンデムの2人乗りとしながら、「G」と同様に長尺物の積載を可能とした「e:L2」。「e:G」と「e:L2」は、どちらも法人営業部での法人向け販売のほか、インターネット販売の「ホンダオン」では個人向けにも販売するという。

運転席とその後ろの2席のシートが用意されている「e:L2」グレード

運転席とその後ろの2席のシートが用意されている「e:L2」グレード

そして、一般的な4座仕様のベーシックタイプ「e:L4」。ガソリンモデルと同様にフルフラットになるシートアレンジが可能となっている。さらに、今回試乗したのが「e:FAN」というグレードで、個人向けのニーズとして快適に使える装備が採用された上級仕様となっている。

4席のシートが用意されている「e:L4」グレード

4席のシートが用意されている「e:L4」グレード

充実した装備で個人ユースとしても使い勝手の高い「e:FAN」グレード

充実した装備で個人ユースとしても使い勝手の高い「e:FAN」グレード

「コンテナ」をコンセプトとした内外装

エクステリアデザインで特徴的なのは、フロントマスクにサステナブルマテリアルを使って、環境にやさしいイメージをわかりやすく表現したことだろう。新しいバンパーは、しっかりとしたシンメトリー形状とシンプルで厚みを感じるようなデザインによって立体感が表現されている。

「N-VAN e:」のフロント、リアエクステリア

「N-VAN e:」のフロント、リアエクステリア

充電リッドはグリルに備わっている。また、このチャージリッドにはホンダのバンパーリサイクル材を採用。加工時に、はがした塗装がわずかに残ってしまうため、これまでは目に見えない部分で使用されてきたが、今回はそれを逆手に取って積極的に見せるようにしたという。つまり、歴代のさまざまなホンダ車の塗料が息づいている、世界でひとつだけのグリルとも言えるのである。ちなみに、同リサイクル素材はセンターコンソールにも採用されている。

充電ポートの位置は、立ったまま扱えることや左右いずれからでもアプローチしやすい位置が考慮され、最適なフロントグリル付近に配置されている

充電ポートの位置は、立ったまま扱えることや左右いずれからでもアプローチしやすい位置が考慮され、最適なフロントグリル付近に配置されている

「N-VAN e:」は、インテリアにこそ「e:コンテナ」のコンセプトが最もわかりやすく表現されている。基本は「N-VAN」譲りだが、コンテナらしいスクエアな空間を表現するために直線基調とされ、コンテナの外観から発想を得た縦のビードデザインをサイド部分などに採用。結果としてインテリア材の強度が向上し、そのぶん薄肉化することで軽量化にも貢献。また、荷物などでインテリアの壁面を擦ったとしても傷が目立ちにくくなっている。

「N-VAN e:」のインテリア

「N-VAN e:」のインテリア

シフトは、レバー式からボタン式に変更することで、エアコン操作部を運転席に寄せて配置し、ドライバーの手を届きやすくする工夫がなされている。同時に、E CONスイッチをシフトスイッチ上部にわかりやすく配置することで、走行中でもより押しやすい位置になっている。

「N-VAN e:」には、ボタン式の「エレクトリックギアセレクター」が採用されている

「N-VAN e:」には、ボタン式の「エレクトリックギアセレクター」が採用されている

充電だけでなく給電機能もしっかりと搭載

充電性能は、普通充電は6kW、急速充電は50kWに対応。29.6kWhの大容量バッテリーをより早く充電するために、普通充電の性能は200Vの限界である6kWとされた。これにより、6kWの普通充電で約4.5時間、急速充電で80%まで約30分と利便性も追求されている。

充電ポートは、左が普通充電で右が急速充電

充電ポートは、左が普通充電で右が急速充電

さらに、バッテリーパックであるIPUの熱マネジメントシステムに、バッテリーを加温する「水加熱ヒーター」を採用することによって、冬季を含め年間を通じてバッテリーを最適な温度に保つことができる。また、IPUを加温して適温にコントロールすることで充電時間を短くするとともに、航続距離の低下を抑制している。

「N-VAN e:」には、「ホンダパワーサプライコネクター」と呼ばれる外部給電機能も搭載されている。小型、軽量化とともに、手の小さな方でも持ちやすいグリップ形状との握りやすさやボタン配置にすることで、コネクタをカンタンに抜き差しできるようにしたほか、普通充電ポートに「ホンダパワーサプライコネクター」を挿入することで、AC100V、1500Wの電気を手軽に取り出せるようにしたという。通常のコンセントと同じ1500Wの出力があるため、仕事先での電動工具の利用や、レジャーでの調理器具など、あらゆるシーンにおいても気軽かつ自由に電気を使うことができる。

安全運転支援システムは、「HondaSENSING」がグレード別に設定されている。「e:G」と「e:L2」は、宅配企業などをメインターゲットとして想定し、業務で必要と考えられる最適な装備を提供することで、安全機能と車両価格とのバランスを追求。「e:L4」と「e:FAN」は、「N-VAN」と同等の安全運転支援システムが採用されており、「N-WGN」から追加されている「急アクセル抑制機能」も採用されている。さらに、衝突安全装備として、軽商用バンとしては初となる「サイドカーテンエアバッグ」も備わる。これを含み、「N-VAN e:」には乗用車並みの6つのエアバッグが装備されている。

軽商用車とは思えない静粛性の高さと乗り心地のよさ

では、「N-VAN e:」に乗って横浜の街を走ってみよう。まず、運転席に乗り込んだ際には、インパネ周りは「N-VAN」とそれほど変わらないので、新鮮さはあまり感じられなかった。ただし、シフトレバーからシフトスイッチに代わったことなどは目新しい。しかし、いったん走り始めてみるとその印象が一変する。それは、「これが軽商用車なのか」という高いレベルの静粛性と乗り心地のよさだ。

「N-VAN e:」は乗り心地がよく、静粛性も高いので街中を走っていてとても快適だ

「N-VAN e:」は乗り心地がよく、静粛性も高いので街中を走っていてとても快適だ

まず、バッテリーを床面に敷き詰めた結果、200kgほどの重量増となったことが低重心化に貢献しているようだ。「N-VAN」の重心が高いと思ったことは決してないのだが、「N-VAN e:」に乗ると意外と高かったのだなと改めて感じさせられたのだ。乗り心地は上々だ。「N-VAN」をベースにサスペンションセッティングが「N-VAN e:」専用に見直されているのだが、乗り心地にはしなやかさがあり、不快な突き上げなどはまったくと言っていいほど感じられなかった。

さらに、アクセルペダルの操作に対する加速感がとても自然なことも特筆したい点のひとつだ。ホンダは、その出力特性を“デザインした”と言うがまさにそのとおりで、誰が乗ってもスムーズに発進、加速できる。そして、それはアクセルだけでなく、ブレーキフィールも同様だ。アクセルやブレーキの自然なフィーリングは、さまざまなドライバーが乗る商用車としては必須であり、荷物を積むことが主目的であるためにとても重要なことである。

「N-VAN e:」(「e:FAN」グレード)の最高出力は64ps、最大トルクは162Nm。「N-VAN」の「FANターボ」グレードと最高出力は同じで、最大トルクは58Nm上回っている

「N-VAN e:」(「e:FAN」グレード)の最高出力は64ps、最大トルクは162Nm。「N-VAN」の「FANターボ」グレードと最高出力は同じで、最大トルクは58Nm上回っている

加えて、運転席のシートもよくできていると感じられた。乗り降りはとてもしやすいのに、適度なサイドサポートがあって、ツボを押さえた造形のために疲れにくいのには驚かされた。

「N-VAN e:」「e:FAN」のフロントシート

「N-VAN e:」「e:FAN」のフロントシート

ワンペダルコントロールはできないものの、Bモードを選択すれば若干強めのエンジンブレーキレベルの回生が得られるので、好みに応じて使い分けるとよいだろう。個人的には、Bモードはもう少し強めの回生にして、通常のDモードとの差別化を明確にしてもよいかもと感じられた。

「シフトスイッチ」と物入れの少なさがネック

では、欠点はと言うと、大きく2つ挙げたい。ひとつはシフトスイッチだ。ホンダのBEVやe:HEVに多く搭載されているそれは、決して使いやすいとは言えないからだ。

それでも、一人乗りや家族しか乗らないというクルマであれば百歩譲って慣れればいいのかもしれない。しかし、「N-VAN e:」はさまざまな人が乗ることが想定される。そのような人たちが、「N-VAN e:」いきなり乗ってシフトをミスなく動かせるのか。とっさの時に、間違いなく慌てずに操作できるのかについては疑問が生じる。そのようなことを考えて、「フリード」は通常のレバー方式が採用されている。初心者から運転に不慣れな人にも安心して使ってもらえるようにという配慮からと説明を受けているが、なぜ「N-VAN e:」で採用されなかったのかは少々疑問が残る。

もうひとつは、物入れの少なさだ。たとえば、運転席回りにA4のバインダーなどを入れられる空間がほとんどなく、結果としてインパネ上部に放置されるなどといった光景が目に浮かぶ。エンジニアによると、オプションで用意されるというが、商用車はドライバーと購入者が共通ということはあまりなさそうである。つまり、購入者はできるだけ車両価格を抑えたいのでオプションにわざわざお金を払うとは考えにくい。商用車だからこそ、デフォルトで装備は必須と感じた。さらに、細かい点ではフットレストがほしいのだが、短距離重視の「N-VAN e:」ではあまり必要ないのかもしれない。

魅力的なアプリと連携

最後に、「N-VAN e:」向けにすばらしいスマホアプリがあるのでお伝えしたい。それは、「EVカーナビ by NAVITIME」というアプリだ。iPhone、Android向けにリリースされているEV向けアプリをベースに、EVにおける長距離運転の不安を解消する充電案内サービスである。

BEVを運転する際には、充電量の関係で目的地までたどり着けるか不安になることがある。しかし、同アプリを「Honda Total Care」のアカウントでログインすることで、「N-VAN e:」のバッテリー残量を直接クルマから取得できるようになる。バッテリー残量とリアルタイムに連携して最適なルート検索ができるようになり、車載ナビにそのルートを転送することもできるのだ。

また、近くの充電スタンドを探す際には、さまざまな条件で絞り込みができる充電スタンド検索や満空情報も閲覧できる。

さらに、現在のバッテリー残量で出発前にどこまで行けそうか一目でわかる航続可能範囲表示や、出発後、目的地へ着くまでに充電が必要かどうかを3段階で表示し、目的地まで充電が必要な場合には最適な充電回数、充電場所を推奨してくれる機能も併せ持っているので、事前に下調べなどが必要ない便利なものだ。これらは、手元のスマホで操作して車載ナビに転送できるので、スタート時にはすべて条件が整った状態になるため、クルマに乗ってからの操作は必要ないという。

魅力あふれる「N-VAN」がより身近に使いやすくなった

「N-VAN」は、非常に魅力的な商用車としてデビューし、実はパーソナルユースとしても多くのユーザーに愛されている。その理由は、「商用車だから」というあきらめが感じられない、魅力あふれるクルマだからである。

そして、「N-VAN」の魅力がそのままBEVになったのが、今回の「N-VAN e:」だ。たしかに、航続距離は245km(WLTCモード値)なので一充電ではそれほど遠くまで行くことはできない。しかし、ほとんどが市街地走行の配送や個人ユースであれば、買い物がメインになるだろうからそれほど気にしなくてもよいだろう。もし、趣味使いであるなら前述のアプリを使えば、それほどストレスなくドライブを楽しめそうだ。そして、何よりも乗り心地が「N-VAN」よりもよいのは、大きな魅力と言えるだろう。

内田俊一
Writer
内田俊一
1966年生まれ。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を生かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。長距離試乗も行いあらゆるシーンでの試乗記執筆を心掛けている。クラシックカーの分野も得意で、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員でもある。
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桜庭智之(編集部)
Editor
桜庭智之(編集部)
自動車専門メディアで編集者として10年間勤務した後「価格.comマガジン」へ。これまで、国産を中心とした数百の新型車に試乗しており、自動車のほかカーナビやドラレコ、タイヤなどのカー用品関連も担当する。
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