レビュー

大幅改良で300馬力に!100km超のEV走行が可能になった三菱 新型「アウトランダーPHEV」試乗レビュー

三菱のクロスオーバーSUV「アウトランダーPHEV」に2024年10月、大幅改良が施された。動力性能やEV航続距離、快適性などを向上させているという。今回は、最新の「アウトランダーPHEV」に試乗したのでレビューしたい。

動力性能やEV航続距離の向上、ヤマハオーディオの導入で快適性がアップ。欧州市場も視野に入れた、新型「アウトランダーPHEV」の実力を詳しくレビューします

動力性能やEV航続距離の向上、ヤマハオーディオの導入で快適性がアップ。欧州市場も視野に入れた、新型「アウトランダーPHEV」の実力を詳しくレビューします

欧州車をライバルとして走りや質感を向上

「アウトランダーPHEV」は、競合車に欧州のプレミアムセグメントも含まれているのだが、競合車と比較した際の装備や上質さなどにおいて、一部のユーザーからいくつかの要望があったという。

そこで、「アウトランダーPHEV」の魅力であるEVのスムーズさや三菱が得意な「S-AWC」による四輪制御技術など、走りのよさをさらに伸ばしつつ、上質さを向上させる改良が加えられた。

ちなみに、新型「アウトランダーPHEV」は欧州市場へ再投入されるのだが、欧州市場向けと日本市場向けの仕様差はハンドルの位置程度とのことでほとんど変わらないという。

まずは、内外装の具体的な改良点から解説しよう(走りについては後述)。外観は、フロントグリルの変更とともにボンネットがアルミからスチールへと変更されている。欧州は日本よりも平均速度が高いため、アルミのフードだとバタついてしまうため、素材から見直して剛性を確保したとのこと。同時に、オープニングライン(ボンネットが開くライン)も見直すことでバタつきを抑え込んでいる。

新型「アウトランダーPHEV」のフロント、リアエクステリア

新型「アウトランダーPHEV」のフロント、リアエクステリア

また、前後バンパーも変更され、後述するバッテリーの刷新に伴って、最低地上高を確保するために車高を5mmアップ。腰高感を解消する目的もあって、デザインも見直された。また、ホイールもボリューム感のあるデザインが採用されている。

リアコンビランプは、デザインは変わらないもののフルLEDされ、スモーク化などによって質感を向上させているという。

インテリアは、新たにヤマハのオーディオシステムを搭載していることが最も大きな特徴だ。グレードによって仕様は異なるが、音質にこだわることで室内の上質感をアップ。旧型で指摘のあったジェネレーターの高周波を抑え込むため、カバーを装着することでオーディオを聴くときに耳障りになる音を低減している。

新型「アウトランダーPHEV」のインテリア

新型「アウトランダーPHEV」のインテリア

そのほか、室内ランプをLED化したりアルミペダルを採用したりするなど、欧州プレミアムセグメントを意識した装備が数多く採用されている。

フロントシートは、プレミアムセグメントにふさわしい装備であるベンチレーション機能が新たに搭載された

フロントシートは、プレミアムセグメントにふさわしい装備であるベンチレーション機能が新たに搭載された

センタースクリーンは大型化とともにデザインを一新。さらに、メニュー構成も刷新されている

センタースクリーンは大型化とともにデザインを一新。さらに、メニュー構成も刷新されている

EV航続距離は100km超、システム最高出力は約300馬力に

動力面に関しては、駆動用のリチウムイオンバッテリーを刷新して、バッテリー容量を10%アップ(22.7kWh)。それによって、航続距離は102km(Mグレードは106km)となった。エンジン始動の頻度が低下することによって、上質な走りを実現している。さらにバッテリー出力もアップしており、システム最高出力は約250馬力から約300馬力へと大幅に向上している。

バッテリー容量が増えれば、充電時間も増える。しかし、改良によってバッテリー冷却性能を約50%アップさせるとともに、内部抵抗を約30%低減させることで、これまでおよそ38分だった急速充電時間(約80%)を32分ほどに短縮させている。

また、内部抵抗が減ったことから回生効率がアップするとともに、パワーも長く維持できるようになったので、加速力はもとより緩加速であればアクセルの踏み込み量が5割程度でもEV走行が可能となった。

バッテリー出力が60%、システム出力が20%アップされていることから、「S-AWC」のブレーキやAYC制御、駆動力配分などがリチューニングされている。さらに、サスペンションや電動パワーステアリングなどもパワーや重量増に見合ったセッティングへと見直されている。

静粛性の高さとスムーズな走りが好印象

では、試乗へと移ろう。試乗車は、今回の大幅改良によって追加された最上級グレードの「P Executive Package」だ。実車を目の前にすると、写真とは印象がけっこう異なり、どっしりとしたSUVらしいスタンスのよさが感じられる。これは、前述したグリルやバンパー周りの改良が効果を上げているのだろう。

ドアを開け、少し高めのシートに腰を落ち着けると、目の前に広がるインパネは直線基調で開放感があって、非常に好感が持てるデザインだ。また、刷新されたセンタースクリーンは見やすい位置に配置されながらも、視線をギリギリ遮らない高さになっているのも好印象だった。

それでは走り出してみよう。スタート時に満充電だったこともあって、普通にアクセルを踏んでいる限りはほぼEVで走行でき、エンジンはまったくと言っていいほどかからない。そこからアクセルをさらに踏み込むと、鋭い加速とともにエンジンが始動するが、そのつながりは非常にスムーズで、振動や音などは助手席や後席の乗員はほとんど気づかないレベルだ。また、車内の静粛性も非常に高いので、ヤマハのオーディオを十分に堪能できるリスニングスペースである。

新型「アウトランダーPHEV」試乗の様子(ドライバーは内田俊一氏)

新型「アウトランダーPHEV」試乗の様子(ドライバーは内田俊一氏)

ひとつ、気になったのがシートポジションだ。改良前は気にならなかったのだが、新型はシートを調整してもステアリングやペダルの位置関係がどうもうまくいかなかった。開発者へ聞いてみると、わずかにヒップポイントが変わったそうなので、その影響があるのかもしれない。もし、購入を検討される際には、できれば実際に座ってシートポジションを確認してみることを推奨したい。

上質な乗り味と鋭い加速を併せ持つ

街中やワインディングなどを含めて走らせた印象としては、クルマの動きがとても自然ということだった。アクセルやブレーキ、ステアリング操作を始め、介入する制御などすべての動きがとても自然で、ドライバーが気になるような違和感が一切なく、とても上手に躾(しつ)けられていると感じた。

新型「アウトランダーPHEV」の走行イメージ

新型「アウトランダーPHEV」の走行イメージ

同時に、乗り心地に関しては若干バネ下が重く、タイヤがバタつく印象が感じられるシーンはあるものの、総じてサスペンションがしっかりとストロークしてショックを吸収してくれるので、乗員に快適さをもたらしてくれる。また、上下左右の動きも旧型よりもはるかに自然になったことで、非常に上質な乗り味になったと言えるだろう。

パワーに関しては十分以上で、思い切りアクセルペダルを踏み込めば、SUVとは思えないような驚くほどの加速を見せつけてくれる。これなら、高速道路の合流時や追い越しなどでも重宝することだろう。

新型「アウトランダーPHEV」の走行イメージ

新型「アウトランダーPHEV」の走行イメージ

また、ブレーキ性能も十分で、ブレーキペダルのコントロールも思いどおりに扱えるので、慣れたドライバーなら乗員にショックをほとんど感じさせずに停止することも可能だ。また、パドルシフトによって回生の強さを好みに調整できる。さらに、旧型は微妙なアクセルワークを行うとスイッチのオン、オフのようなギクシャクした動きを伴うことがあったのだが、新型ではそれがほとんど感じられなくなったのも喜ばしい。これも、バッテリーの刷新とS-AWCなどのセッティングがうまくいっている証左と言えよう。

その回生だが、バッテリーの刷新によって内部抵抗が減ったことから、電力の回収率が高くなったようで、積極的に回生を使うと旧型よりも航続可能距離が増える傾向にあった。このあたりは、もし次回長距離で試乗できる機会があれば試してみたいと思う。

剛性感が気になったシフトレバーとモードセレクトダイヤル

今回の商品改良では、冒頭で述べたとおり欧州プレミアムセグメントが視野に置かれている。そういった視点で室内を見てみると、いくつか気になる点があった。まずは、インパネ周辺や操作系に配されているピアノブラックのパネルだ。たしかに、新車時は見た目もよく高級感があるかもしれないが、使い込んでいくうちに指紋や傷がついてしまいがちだからだ。

そして、もうひとつ気になったのがシフトレバーだ。サイズそのものは特に問題ないのだが、操作感が少々プラスチックを感じさせるような剛性が低い感触だった。また、シフトレバーの後ろにあるモードセレクトダイヤルも同様で、見た目に反してかっちりとした操作感ではなかった。とくにシフトレバーは、かなりの頻度で触れるものなので、もう少ししっかりとした作り込みを望みたいところである。

センターコンソールに配されているシフトレバーとモードセレクトダイヤル

センターコンソールに配されているシフトレバーとモードセレクトダイヤル

ヤマハプレミアムサウンドの導入で快適性がさらにアップ

新型「アウトランダー」は、ヤマハと共同開発したプレミアムサウンドシステムも大いに楽しめるようになった。速度域やロードノイズに応じて、通常のオーディオならたんにボリュームが大きくなるだけだが、新型「アウトランダーPHEV」は低域のロードノイズに負けないように低域をさらに持ち上げるという制御がなされているという。また、アルティメットグレードでは、空調のダクトから出る風の音を意識した補正も実施しているとのこと。

今回は、旧型と音質を実際に聴き比べられたのだが、その差は歴然だった。旧型に採用されていたBOSEもすばらしい音なのだが、新型のヤマハプレミアムサウンド(8スピーカー)は、低音がよりクリアに聴こえるとともに、透明感が感じられる音だった。そして、12スピーカーのアルティメットはリスニングポジションの設定がさらにきめ細やかになるため、例えば運転席にセットすると臨場感があり、かといって“ドンシャリ”ではない澄んだきれいな音に包まれるのだ。

新型「アウトランダーPHEV」の受注状況だが、2024年10月31日に発売され、同年の12月16日時点で4,600台以上の注文が入っているという。グレード構成は、上位の「P Executive Package」が52%で、そこから「P」「G」「M」と構成比が下がっていき、ヤマハプレミアムオーディオは標準、オプション合わせてトップのアルティメットが56%の装着率という。

今回は限られた試乗時間であったが、大幅改良において「アウトランダーPHEV」がかなり進化したことは間違いないと感じられた。特に、バッテリーの刷新によってクルマ自体が非常に自然な仕上がりになり、スムーズな走りが楽しめるようになっている。

新型「アウトランダーPHEV」に乗れば、ふとどこか遠くへ行きたくなるような思いに駆られることだろう。

内田俊一
Writer
内田俊一
1966年生まれ。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を生かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。長距離試乗も行いあらゆるシーンでの試乗記執筆を心掛けている。クラシックカーの分野も得意で、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員でもある。
記事一覧へ
桜庭智之(編集部)
Editor
桜庭智之(編集部)
自動車専門メディアで編集者として10年間勤務した後「価格.comマガジン」へ。これまで、国産を中心とした数百の新型車に試乗しており、自動車のほかカーナビやドラレコ、タイヤなどのカー用品関連も担当する。
記事一覧へ
記事で紹介した製品・サービスなどの詳細をチェック
関連記事
SPECIAL
ページトップへ戻る
×