スバルは、青森県にある酸ヶ湯温泉周辺で「クロストレック e-BOXER ストロングハイブリッド」(以降、「クロストレック S:HEV」)と「レヴォーグレイバック」の試乗会を開催した。今回は、この2台の試乗レビューをお届けしよう。
スバル「インプレッサ」がベースのクロスオーバーSUV「クロストレック」に、同社初のストロングハイブリッドシステム(トヨタの「THS」がベース)を搭載した「クロストレック S:HEV」
スバルのステーションワゴン「レヴォーグ」をベースとしたクロスオーバーSUV「レヴォーグレイバック」
新青森駅に到着すると、路肩には雪が高く積み上げられていたものの、路面は完全にドライであった。しかし、酸ヶ湯温泉に近づくにつれ、路面に雪が降り積もり、酸ヶ湯温泉周辺はまさに雪に覆われていた。
今回は、青森市内を起点に1時間半ほどかけて酸ヶ湯温泉を往復するコースである。行きは「クロストレック S:HEV」を、帰りは「レヴォーグレイバック」を試乗したが、行きはほぼ上り坂、帰りはほぼ下り坂ばかりであったことをあらかじめお断りしておきたい。
タイヤは、「クロストレック S:HEV」、「レヴォーグレイバック」のどちらも純正サイズのスタッドレスを装着していた。サイズは両方とも225/55R18で、銘柄はヨコハマ「iceGUARD 7」だ
今回、試乗した2台の性格はそれぞれ大きく異なる。まず、「クロストレック S:HEV」はアウトドアアクティビティに適したクルマだ。「クロストレック S:HEV」のパワートレインには、新たにトヨタ「THS」をベースとしたハイブリッドシステムが採用されている。スバルの2.5L水平対向4気筒エンジンとシンメトリカルAWDが採用され、機械式による緻密な四輪制御を行っているのが特徴である。
「クロストレック S:HEV」には、2.5L水平対向4気筒エンジンにひとつの駆動用モーターが組み合わされており、プロペラシャフトで前後輪をつなぐ機械式4WDシステムが採用されている
車重が110kgほど増加したが、それをうまく利用して上質な乗り心地を実現している。また、「THS」の大きなメリットである燃費の向上だけでなく、CVTの「ラバーバンドフィール」と呼ばれる、エンジンの回転が高まったまま徐々に速度が追い付いてくるという違和感が解消されたのも大きい。
「クロストレック」は2022年12月に、「クロストレック S:HEV」は2024年12月5日に発売された。取材時には、「クロストレック S:HEV」が発売されてからまだ1か月程度だったのだが、すでに「クロストレック」シリーズのおよそ64%をS:HEVが占めているという人気ぶりだ。
もう1台の「レヴォーグレイバック」は、ステーションワゴンの「レヴォーグ」をベースとしたクロスオーバーSUVである。「レヴォーグ」よりもさらなる上質さを目指して開発され、1.8Lターボエンジンによってロングドライブを楽しめるというキャラクター付けが与えられている。また、「レヴォーグレイバック」は「レヴォーグ」と同様に、多くの荷物を積み込めるのも大きな特徴のひとつである。
表皮にアッシュとブラックが採用され、コントラストが際立つ「レヴォーグレイバック」のインテリア
561Lの大容量スペースが確保されている「レヴォーグレイバック」のラゲッジルーム。リアシートは、4:2:4の分割可倒式なので、荷室を自由に拡張できる
「レヴォーグレイバック」は2023年10月に発売され、2024年末時点で累計1万3,000台以上を受注している。「レヴォーグ」シリーズ全体の構成比では、「レヴォーグレイバック」が49%と約半数を占めており、「クロストレック S:HEV」と同様に人気を得ている。
まずは、「クロストレック S:HEV」のキーを受け取って、酸ヶ湯温泉を目指した。試乗したグレードは「Premium S:HEV EX」だ。以前に「クロストレック S:HEV」を試乗したことがあるが、まだナンバーが付いていないプロトタイプだったことと、泥濘路のようなコースとわずかな舗装路を走っただけだったため、公道を試乗するのはこれが初めてになる。
コンパクトなボディにシリーズ・パラレル方式のストロングハイブリッドや機械式4WDを搭載し、専用サスを装着した走破性の高いクロスオーバーSUVが「クロストレック S:HEV」だ
スバル車に共通する点として、一度スバルのクルマに乗った経験があれば、基本操作にとまどうことが無いのは美点のひとつだ。レイアウトがほぼ共通なので、必要なものがどこにあるのかがひと目でわかるからだ。これは、知らない土地を走る際などには安心感にもつながる。
「クロストレック S:HEV」のインテリアは、「クロストレック」を含むほかのスバル車と基本的にはほぼ共通なので操作しやすい
路面には雪がなく、ほぼドライの青森市内を流れのままに走らせていると、以前プロトタイプへ乗った時のよい印象がふたたび思い起こされる。これまでのスバル車で気になっていたCVTの悪癖は解消され、アクセルペダルの踏み込み量に対してドライバーが望む加速度をリアル、かつ自然にクルマが引き出してくれる。このことだけでも、「クロストレック S:HEV」がこれまでのスバルのマイルドハイブリッド車を大きく上回っていると言える。
赤信号からの発進はモーターのみでスタートすることが多く、アクセルの踏み込み量が大きくなければ、市街地ではほぼそのままモーターで走らせることもできる。また、エンジンがかかったとしてもショックがほとんどないので気にならない。さらに、信号からの出足だけでなく、中間加速も2.5Lの太いトルクのおかげでストレスなく、気持ちのよい加速フィールが続いていく。
「クロストレック S:HEV」雪上試乗の様子
静粛性も高く、ロードノイズの遮音などがしっかりと行われている。だからこそ、走行中にエンジンがかかると気づくのだが、前述のとおりショックはほとんど感じられないので、あまり気にならない。
ただし、発電のために信号待ちなど停車中にエンジンがかかると少々気になる。その理由は、およそ1,500rpm程度というアイドリングよりも高いエンジン回転数が一因だ。早めに充電を終わらせて、エンジンを停止させたいという思惑がありそうだが、もう少し回転数を抑えられれば、停車時の静粛性がさらに向上しそうだ。
今回の試乗では、「クロストレック S:HEV」がストロングハイブリッドを搭載したことによる魅力が、市街地やワインディングのほか、特に雪道において感じられた。そのひとつは回生である。アクセルペダルを軽く戻すと、適度に回生ブレーキが働くので減速のコントロールがとてもしやすい。また、ブレーキペダルを踏んだとしても、最初こそ若干オーバーサーボ気味に感じるかもしれないが、慣れてしまえば踏力を一定に保てば減速力は一定なので、非常にコントロールしやすかった。
「クロストレック S:HEV」雪上試乗の様子
もうひとつは、アクセルコントロールだ。アクセルペダルの開度に対してリニアに、かつ違和感なく反応してくれるので、思いどおりにクルマを走らせることができる。加えて、シンメトリカルAWDによって安心してコーナーをクリアできる。特に、雪道などでアクセルペダルを踏み込んだ時に、わずかでも反応に遅れが生じると、「あれ?」と思ってより踏み込んでしまうことがある。すると、今度はクルマ側の反応が大きくなり、スタックやスリップにもつながりかねない。そのため、微妙なコントロールができるというのは、雪道では特に重要なことだ。
「クロストレック S:HEV」雪上試乗の様子
乗り心地については、少し荒れた道や雪で凸凹ができてしまった路面では少々足が固めで、ドタバタする印象があった。だが、これはスタッドレスタイヤの影響もあるかもしれないので、いずれ標準のタイヤで試してみたいところだ。
「クロストレック S:HEV」は、従来のCVTのネガが消え去り、WLTCモード燃費も1〜2割は向上しているようなので、「クロストレック」のネガはほぼ消え去ったと言えそうだ。もちろん、「クロストレック」の美点であるシートのよさや直進安定性の高さなどはしっかりと引き継がれているので、「クロストレック」はストロングハイブリッドがベストバイと言えそうである。
ちなみに、多くの方にとって排気量が2.5Lへアップしたことにより高くなる税金は気になるだろう。では、なぜ排気量を拡大したのだろうか。それは、競合他車を上回る動力性能を手に入れたかったというのがひとつ。そしてもうひとつは、排気量を拡大することでエンジンに効率のよい回転域を使えるようにしたいということからだ。つまり、小さな排気量ではアクセルの踏み込み量が増えてしまうので、燃焼効率の高い燃費によい回転域を使いにくくなるのに対し、排気量が上がればその回転域を使うことができるからだ。これまでのスバル車は、燃費性能がネックになっていたこともあるので、今回はあえて排気量拡大にチャレンジしたと言えるだろう。
帰路は、「レヴォーグレイバック Limited EX」のステアリングを握った。走行安定性や静粛性が高いので、ロングツアラーとして快適に移動できるのが魅力的だ。特に、今回のように知らない道や雪道を走る際には、先まで見通せる視界のよさに加えてAWDによるコントロール性も高いので、とても安心できる。さらに、腕に覚えのあるドライバーであれば、積極的に姿勢コントロールするような楽しさも備わっている。
「レヴォーグレイバック」は、200mmの最低地上高による走破性の高さに加えて、フルインナーフレーム構造の採用や専用サスによる操縦安定性の向上と快適な乗り心地を実現している
また、運転中に車高の高さによる腰高感が感じられなかったのも高く評価したい。以前、「レヴォーグレイバック」のプロトタイプを試乗した際にも同じことを感じたのだが、サスペンションが専用にチューニングされていることもあってか、安心感は高かった。
いっぽう、帰路は下りが多かったためそれほどCVTの癖は感じられなかったが、それでも市街地などで少し強めにアクセルを踏み込むときには、CVTであることを感じられる場面があった。以前に比べればCVTの違和感はかなり減っているのだが、何しろ「クロストレック S:HEV」からの乗り換えなので、状況としては少々不利ではある。
「レヴォーグレイバック」試乗の様子
もうひとつ、シートに関してはもう一歩と言いたい。座り始めは比較的快適なのだが、ワインディングなどでは若干腰回りのサポートが弱めなので、ぜひ「クロストレック」レベルのサポート性を望みたいところだ。
「レヴォーグレイバック」のフロントシート
これは、ほかのスバル車にも言えるのだが、大型センタースクリーンについて。エアコンの温度設定やオーディオのボリューム調整などに、物理スイッチが設けられているのは高く評価したい。位置さえ覚えておけば、手探りで操作が可能なので視線をスクリーン方向に彷徨わせることはない。
しかし、「はたして、画面の大きさはここまで必要なのだろうか」と、試乗しながら思った。今回のような雪の中では、さまざまな方向から光が入ることが多く、場合によってはスクリーンが反射するために画面が見えないことが多々あった。信号の多い都心であれば、停止した際にタッチ操作ができるのだが、今回のようにほとんど停止せず走る郊外路が多いシーンでは、決して操作しやすいとは言えず、つい、画面を注視しがちになってしまった。
いま一度、スクリーンサイズを含めて何がスクリーン内に必要なのかを再検討してほしいと感じた次第だ。
近年のスバル車には、インパネ中央に大型センタースクリーンが採用されている
間もなく登場する新型「フォレスター」には、ストロングハイブリッドシステムを搭載する予定だという。つまり、スバルとしてはこのシステムを中核に据えて、ラインアップを整えていくものと考えられる。今回、「クロストレック S:HEV」に試乗して、これまでのネガが一掃され、非常に乗りやすいクルマに仕上がっていることが実感できた。
自動車業界は、電動化社会に向けて舵を切りつつあるが、しばらくはハイブリッドが主流になることは間違いない。その中で、水平対向エンジンとAWDという2つの強みを生かしたストロングハイブリッドシステムは、これからのスバルの強みとなることは間違いないだろう。
(写真:内田俊一/SUBARU)