フォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェ、ランボルギーニなど、数多くの自動車ブランドを傘下に置き、トヨタに次ぐ販売台数(2024年)を誇るフォルクスワーゲン・グループ。そんな同グループにおいて、2019年以降最も売れている人気車が、フォルクスワーゲンのクロスオーバーSUV「ティグアン」だ。
今回、2024年11月に3代目へとフルモデルチェンジされた新型「ティグアン」に乗って、600kmほどの長距離を走ってみたので詳細にレビューしたい
日本では、TDIディーゼルターボエンジンと四輪駆動の「4MOTION」の組み合わせで販売台数を伸ばした先代を踏まえて、新型「ティグアン」には2L TDIディーゼルターボエンジン+4MOTIONと、同車では初採用となる1.5L e-TSIガソリンターボエンジンを搭載したマイルドハイブリッド(前輪駆動)の2つのパワートレインが用意されている。
1.5L e-TSIガソリンターボエンジンは、ミラーサイクルエンジンに変更されたことで燃焼効率が向上したほか、気筒停止機能も備わることによって効率化が図られている。さらに、48Vリチウムイオンバッテリーと水冷式ベルトスタータージェネレーターを組み合わせた48Vマイルドハイブリッドシステムを初搭載。発進や加速時のトルクをアシストしてくれる。
また、TDIディーゼルターボエンジンには、新たに「ツインドージングシステム」を導入。2か所でアドブルーを噴射することで、より多くのNoxを除去できるようになった。
そして、もうひとつのトピックは、一部のグレードに「DCC Pro」と呼ばれるアダプティブシャシーコントロールが採用されたこと。「DCC Pro」には、日本のKYBが開発したショックアブソーバーが採用されており、伸び側と縮み側それぞれにバルブを設けることで減衰力を別々に電子制御できる。また、硬さは15段階で調整できるので、好みに合わせて設定できる。
極端な例を挙げると、通常は別々に制御できないので鋭いショックをやわらかい状態で縮みながら吸収すると、伸び側もやわらかいままなので伸びやすくなり、姿勢が不安定になる。しかし、「DCC Pro」であればショックを吸収するときはやわらかく、そこから伸びるときは硬めにすることで姿勢を安定させやすくすることができるのだ。しかも、それを四輪それぞれで電子制御できるので、極めて乗り心地がよく、かつ姿勢が安定するので快適性と走行安定性を両立できるのである。
今回、長距離で試乗したグレードは、1.5L e-TSIマイルドハイブリッドを搭載する「eTSI Elegance」(FF)という中間グレードだ。同グレードには「DCC Pro」は採用されていないのだが、別日に「DCC Pro」採用車にも試乗したので、それについては後述したい。
今回試乗した「ティグアン eTSI Elegance」のフロント、リアイメージ。先代と比べてボディサイズが大きくなったにもかかわらず、見切りがよく車両の取り回しがしやすい
まず、走り始めの第一印象は2つほどあった。ひとつは、ボディが多少の段差を超えたくらいではミシリとも言わないほどに、しっかりとしていること。そしてもうひとつは、アイドルストップからの再始動が非常にスムーズであることだ。BSGを使っているため、スターターのブルンという振動などの煩わしさがない。また、高速道路を含めて、ひんぱんに気筒休止やエンジンを停止させてのコースティングを行うのだが、ドライバーがタコメーターを見ていれば気付くレベルであり、同乗者は気づかないほどのスムーズさだ。それほどまでに緻密な制御が行われているのは見事である。
「ティグアン」一般道試乗の様子
乗り心地は硬めで、若干ドタバタした印象がある。先代の傾向が残っているようで、段差でタイヤがバタつくことがあるのだ。だが、そこに救いの手を差し伸べるのが良質なシートだ。モケット調とレザーのコンビで、ショックをうまく吸収してくれる。座り心地もよくホールド性も高いため、片道200km程度であればラクに移動できるだろう。
「ティグアン」のフロントシートは座り心地がとてもよいのが印象的だ。試乗した「eTSI Elegance」には、滑りにくく触り心地のよい「マイクロフリースシート」が採用されている
街中で違和感を覚えたのは、ブレーキだ。ペダルを踏み込んでも効きが遅れ、さらに踏み込むと急にグッと強めの制動力が発生する。また、踏力を変化させていないのに効き具合が変わることもあるために、コントロールしにくいことがあった。
高速道路を走ってみると、少々非力な印象がぬぐえない。特に、東名高速道路の山北あたりの上り坂では、積極的にアクセルを踏み込まないと速度を維持しにくい。また、高速道路では積極的にコースティング状態になって燃費を稼ぐのだが、その場合エンジンブレーキが効かないため、交通量が多いときにはどうしてもブレーキペダルに足を伸ばすことも多かった。また、ロードノイズが結構侵入してくるのも気になった点のひとつである。
しかし、ハンドリングについては素直で直進安定性も高いため、運転に不慣れな人でも安心してステアリングを握ることができるだろう。
今回のフルモデルチェンジでは、センターコンソールにあったシフトレバーが廃され、ステアリングコラム右側に移された。新しいシフト操作はダイヤル式で、前に回すとD、逆に回すとRになるのだが、この操作がとっさに分かりにくく何度もミスをしてしまった。
従来、センターコンソールに設置されていたシフトレバーは、新型ではステアリング右側に移されている
シフトレバーであれば、ニュートラルのポジションから前に倒せばR、手前に引くとDという感覚が体に染み付いているため、無意識にそのとおりに操作してしまって間違えてしまうのだ。慣れればよいのかもしれないが、慣れる前に事故を起こしてしまっては元も子もない。センターコンソールがすっきりしたこと自体はよいのだが、安全性につながるかは少々疑問である。
もうひとつ、センタースクリーンについても苦言を呈したい。新型では大型化されて確かに見やすいのだが、ここまで大型化する必要があるのかは疑問だ。運転中に視界に入ってくるので、少々煩わしく感じた。
「ティグアン」に採用されている15インチの大型センタースクリーン
また、そのセンタースクリーンでは指を左右に滑らせて温度調整やオーディオのボリューム調整ができるのだが使いやすいとは言えず、温度設定を誤ることが多かった。本国ではタッチスクリーンの危険性を認識しており、2026年から物理スイッチに戻す予定だというので早く元に戻ってほしい。
短時間ではあるが、「DCC Pro」が装備されている「TDI 4MOTION R-Line」グレードにも試乗する機会を得たのでお伝えしておきたい。
少しの時間ではあるが、「TDI 4MOTION R-Line」にも試乗できた
まず、乗り心地は「DCC Pro」の影響によって、「eTSI Elegance」よりも「TDI 4MOTION R-Line」のほうがはるかによかった。タイヤは「eTSI Elegance」が235/55R18(HANKOOK「ventus evo SUV」)に対して、「TDI 4MOTION R-Line」は255/40R20(PIRELLI「SCORPION」)という大径タイヤを装着しているにも関わらずだ。もし、乗り心地を優先するなら「DCC Pro」装着車のほうがよいだろう。設定を最もやわらかくすると、若干左右の揺れが気になるかもしれないので、もしドイツ車に乗り継いできた方には真ん中あたりの設定が好みではないかと思う。
そして、エンジンも「TDI 4MOTION R-Line」のほうが、はるかにパワフルでトルクフルだ。さらに、ディーゼルであるにもかかわらず、エンジン音もほとんど気にならなかったのも好印象だった。
最後に、燃費も計測した(以下)のだが、マイルドハイブリッドとしてはこのくらいが妥当な燃費と言えそうだ。ちなみに、燃料はハイオク仕様となっている。
市街地:11.9km/L(11.9km/L)
郊外路:12.6km/L(15.9km/L)
高速道路:17.6km/L(17.7km/L)
※( )内はWLTCモード燃費値
「ティグアン」にしばらく乗ってみて、前述のシフトやタッチスクリーンの使いにくさはあるものの、それ以外は比較的よくまとまっている印象だった。ただし、せっかく「ティグアン」を選ぶユーザーなら、高品質だけでなくきらりと光る魅力もほしいだろう。そう考えると、やはり「DCC Pro」がほしいところである。そして、長距離を快適に走るならディーゼルエンジンの方が好ましいだろう。燃費がよく、何よりも軽油なので経済的にもやさしいからだ。
記事掲載時点では、TDIディーゼルターボエンジンを選べば「DCC Pro」装着車が手に入る。もし、「ティグアン」の購入を検討されているなら、筆者としてはTDIディーゼルターボエンジン搭載車をおすすめしたい。