2025年2月、マツダはクロスオーバーSUVの「CX-60」に改良を施して乗り心地を向上させるとともに、アウトドアを楽しめる装備が施された特別仕様車「CX-60 XD-HYBRID Trekker(トレッカー)」(以下「Trekker」)を発売した。
「CX-60 XD-HYBRID Trekker」のフロント、リアエクステリア
ジルコンサンドメタリックのボディカラーが特徴的な「Trekker」にはパノラマサンルーフが標準装備されており、ラゲッジスペースにはパーティションネットを設置。さらに、2030年燃費基準を先取りした燃費対策も施されており、たとえば「Exclusive Modern」のWLTCモード燃費20.9km/L(サンルーフ装着車)に対して「Trekker」は21.4km/Lと、カタログ燃費値はわずかながら向上している。
「Trekker」にはパノラマサンルーフ(上)が標準装備されているほか、急ブレーキなどの際に乗員への荷物の侵入を防ぐためのパーティーションネット(下)も設定されている
そこで今回、「Trekker」を東京から奈良への取材の相棒として長距離試乗してみたので、乗り心地や燃費を中心にレビューしたい。
まずは、「Trekker」に導入された燃費対策の詳細について少し説明しよう。「CX-60 XD-HYBRID」(e-SKYACTIV D 3.3)のエンジン始動は通常、マイルドハイブリッドのP2モーターで行われる。だが、「Trekker」は通常の内燃機関車と同じように、セルモーターでも始動可能だ。セルモーターでの始動は、2〜5速で約40km/h以下のときに行われる。
「Trekker」のエンジンルーム
また、アクセル操作に関係なくステアリングをある程度切ったときや約40km/h以上の領域、アイドリングストップからの再スタート時はP2モーターで始動させるとマツダから説明があった。
つまり、セルモーターでの始動は限定的であるものの、P2モーターで始動すると常にP2モーターにトルクの余力を残しておかなければならないため、電動走行の範囲が短くなってしまう。それを、できるだけ伸ばしたいためにセルモーターを使うというのが「Trekker」の燃費対策だ。
さて、上記を踏まえて東京と奈良の往復1,500kmを「Trekker」で走行してみたのだが、その間セルモーターでのエンジンスタートはまったく気にならなかった。
市街地での走行時、時々セルモーターでエンジン始動するときには、かすかにセルモーターの音が聞こえるのだが、意識しなければ気にならない。何も知らないで乗れば、違和感を覚えることはまったくないだろう。
燃費向上を考えると、もっと積極的にセルモーターを利用してP2モーターのトルクをできるだけ多く使って電動での走行シーンを増やすほうが、メリットは大きいのではと感じた
マツダは「Trekker」にセルモーターを採用した理由について、「燃費のよさから、もっと遠くへ出かけてほしいという思いがある」と説明する。これなら、他モデルにも展開されても問題はないはずだ。
「CX-60」は足回りを中心とした改良がなされており、以前にも試乗記を掲載(以下リンク)しているのだが、今回は長距離を走らせた印象を改めてレビューしてみたい。
「CX-60」の改良前モデルは、たとえば第2東名など舗装のきれいな路面での乗り心地は良好だ。だが、荒れた路面や少し大きな継ぎ目や段差を超えたときにはかなり突っ張った乗り心地になり、ショックを乗員に伝えてきたりコーナーリング時に跳ねたりするなど、タイヤがしっかりと路面をとらえきれないシーンがあった。
しかし、今回の改良によってそのあたりが大きく見直された結果、かなりの改善が見られた。まず、しっかりとショックアブソーバーが動くようになって乗り心地が向上しており、コーナーリング時に跳ねるようなシーンがかなり減っている。しかし、この印象はあくまでも改良前と比べてのことなので、改良後も乗り心地が少々硬い印象については拭いきれないということも伝えておきたい。
「CX-60」はボディ剛性がしっかりとしているので、もっと素直にサスペンションを動かすことも十分にできるのではと思える。今後のさらなる乗り心地の改善に期待したいところだ。
「CX-60」に限らず、マツダ車は基本的にデビュー当初は足が硬いことが多い。それを「CX-60」に当てはめると、今まさにスタートラインに立ったと言ってよいだろう
ちなみに、静粛性については改良によって格段に向上している。エンジン音やロードノイズなどもかなり減っており、大きく洗練された印象となっていた。
さて、長い道中だったことから、高速道路の安全運転支援システムを積極的に使ってみた。「CX-60」は直進安定性が高いので、そこへさらに「LKA(レーンキープアシスト)」を使えばかなりラクに移動できる。加えて、シートの出来がとてもよく、何時間も座り続けても座りなおしたり姿勢を変えたりする必要がない。ペダルレイアウトのよさも相まって、疲れを大きく軽減してくれた。
いっぽう、「ACC(アダプティブクルーズコントロール)」はたとえば前走車が車線変更して前が空いても加速しないことが多く、熟成が必要と感じた。
また、走行時に気になったのが、エンジン停止によって空調が止まることだ。長い下り坂などでアクセルをオフにすると、エンジンが停止してコースティング状態になり燃費を稼ぐのだが、そのときにエアコンも送風になってしまい徐々に窓が曇ってしまう。このあたりは、ぜひ改善を望みたいところだ。
今回、気になる燃費も計測したのでお伝えしよう。
■「CX-60 XD-HYBRID Trekker」の実燃費
市街地:13.1km/L(18.7km/L)
郊外路:16.1km/L(21.5km/L)
高速道路:19.3km/L(22.7km/L)
※( )内はWLTCモード燃費値
また、「Trekker」試乗後に、改めて「XD-HYBRID Premium Modern」(「Trekker」と同じパワートレインだが、常にP2モーターでエンジンを始動する仕様)を借り出して燃費を計測してみたところ、以下の燃費となった。
■「CX-60 XD-HYBRID Premium Modern」の実燃費
市街地:13.1km/L(17.5km/L)
郊外路:14.4km/L(21.4km/L)
高速道路:22.5km/L(22.4km/L)
※( )内はWLTCモード燃費値
まず、WLTCモード燃費を比較すると、どちらも市街地及び郊外路での乖離が大きい。これは、他の「CX-60」グレードも同様だったので、これらのシーンでの燃費レベルは実測値に近いと考えられる。
では、「Trekker」のセルモーター始動での燃費節約ができているかというと、わずかだができているのではないかと思われる。その理由は、郊外路での燃費が伸びているからだ。市街地は、約40km/h以下の領域の走行が多いのだが、ストップアンドゴーが多ければ多いほどP2モーターでエンジン始動させるので、それほど差はつかないのだ。
いっぽう、郊外路はそこそこのスピードで流れるので、速度域によってはかなりひんぱんにセルモーターで始動することになり、結果として実測値が上がったものと想像する。
いずれにせよ、わずかではあるものの燃費向上の一助となるセルモーターでのエンジン始動は、違和感を覚えるものではないので、他グレードでも採用してよいのではないだろうか。
また、今回の改良によって「CX-60」そのものの魅力も大幅に向上している。乗り心地や静粛性、トランスミッションが大きく洗練されたことによって、マツダの次世代ラージプラットフォームの素地が整った印象だ。今後のさらなる熟成を期待したい。