ダイハツが、いよいよ本格的に再スタートする。新型車では「ムーヴ」が2025年6月5日に発売されたが、今後はほかの車種にも様々な改良が加えられるだろう。そこで今回は、ダイハツの乗用車ラインアップの中から、人気の高い注目車種を紹介したい。
新型「ムーヴ」を発売し、再始動したダイハツ。今回は、軽自動車を含むダイハツの乗用車を改めて紹介したい
まず、ダイハツが主戦場としている日本の軽自動車市場について少し振り返っておこう。2023年の日本国内における新車販売台数は約477万台で、そのうち軽自動車は約174万台と、全体の約37%を占めている。また、乗用軽自動車市場におけるダイハツのシェアは約32%と、スズキの30%やホンダの18%を超えて、高いシェアを獲得しているのが特徴的だ。
売れている軽自動車は、「タント」「N-BOX」「スペーシア」などのスーパーハイトワゴンが約半数を占めているが、コロナ禍以降のアウトドア志向の高まりから、「タフト」「ハスラー」「ジムニー」といった軽SUVも台数を伸ばしているという。
いっぽう、軽自動車の使用実態を見ると、約半数が人口密度の低い地方で多く保有されている。地方において、軽自動車は公共交通機関に代わる大切な移動手段であり、多くのユーザーが日々の買い物や送迎、通勤、通学のために使用している。
地方では、軽自動車は生活必需品であり大切な移動手段となっている
ダイハツのスタンスとしては、「男性、女性、若年、シニア、個人、法人、乗用、商用など、たくさんのお客様の多様なニーズにお応えするため、日常から趣味、仕事まで幅広く使える商品をラインアップしております。これからもお客様の生活に寄り添った様々なクルマを提供し続けて参ります」と、ダイハツ 事業・商品本部 商品企画部 車種企画室の古川秀真さんはコメントする。
ダイハツの軽乗用車の位置付けは、日常使いや移動の手段だ。そこへ、プラスアルファとして少しレジャーに出かけるといった用途があるだろう。
ダイハツの乗用車ラインアップには、軽乗用車として「ミライース」「タント」「ムーヴキャンバス」「タフト」「コペン」そして新型の「ムーヴ」がある。小型乗用車としては「トール」と「ロッキー」を揃(そろ)えている。その中で「『ミライース』が移動の最小単位」と話すのは、ダイハツ くるま開発本部 製品企画部 副部長の小村明紀さん。そして、「快適な移動や日常の中で、少し彩りや潤いを求めると、『キャンバス』や『タフト』がある」と言う。
ダイハツは、「お客様の困り事や、こうだったらいいのにねというようなことを、ひとつでも二つでも入れて解決していくこと」を心がけており、実際にお客様のリアルな声を聞き、その意見を必ず取り入れながらクルマの開発を行っていると話す。
「ミライース」は、「あらゆる人の日常を支えたい」という思いから生まれ、すべてが「ちょうど良いバランス」で実現された軽自動車だ。大胆な軽量化による低燃費、先進的な安心機能の標準装備、シャープで存在感のあるスタイル、そして90万円台からという低価格を実現しており、誰にでも手の届くエコカーとして人気を誇っている。
そして、「ミライース」には顧客の具体的な声が色濃く反映されている。「(2016年の発売時には)アラウンドビューなど、モニターを利用したものが主流になりつつありました。ですが、『ミライース』の価格帯とターゲットユーザーからは、『コーナーセンサーがほしい』という声が多く寄せられたのです。当時、既にコーナーセンサーは一昔前の技術と捉えていたのですが、お客様は『これの方が安心だし、安く装備できるのでこれで十分』という意見が多かったのです」とのこと。
ダイハツ「ミライース」
さらに印象的だったのは、小村さんが「軽自動車には様々な装備が付いており、それに合わせて色々なボタンがあります。しかし、軽自動車ユーザーにはクルマに不慣れな方も多くいらっしゃるのです。『どのボタンに触ったら“ダメ”なのか』と尋ねられることすらあります」とコメントしたこと。これは、単に機能を追加するだけでなく、「無意識に操作できるレベルにまで到達しないと、顧客は心から喜んでくれない」というダイハツの思想を表している。
このように、ダイハツのクルマづくりは、まず顧客にとって不快な要素を取り除き、ベーシックな部分を徹底的に押さえた「ミライース」のようなクルマを作り上げることから始まる。その上で、「タフト」のガラスルーフなど、各車の個性的な特徴を伸ばしていく戦略なのだ。
ここからは、最小単位である「ミライース」を踏まえたダイハツ車の魅力について、改めて解説しよう。
まず、軽スーパーハイトワゴンの「タント」は、2022年のマイナーチェンジで大幅な商品強化が図られた。「タントカスタム」には新しいフロントフェイスが採用されており、マイチェンの際に新登場した「タントファンクロス」は、アクティブな使用を想定してはっ水加工を施したフルファブリックシートが採用されている。「タント」ユーザーからは、「ふだんの買い物や通勤、休日のレジャーまでこの1台で完結する」といった評価を得ていると言う。
ダイハツ「タントカスタム」
ダイハツ「タントファンクロス」
軽ハイトワゴンの「ムーヴキャンバス」は、愛着の湧くスマイルフェイスと呼ばれる顔つき、おしゃれで便利なインテリアが好評だ。豊富で個性的な内外装のカラーバリエーションや、すっきりとかわいい「ストライプス」と大人っぽい「セオリー」という2種類のラインアップにより、女性からの支持が多いクルマである。
ダイハツ「ムーヴキャンバス」
軽SUVの「タフト」は、アウトドア志向の方に向けたSUVスタイルのクルマだ。街中でも映えるタフでスクエアなスタイルと、アクティブにアレンジできる荷室空間によって、意匠、機能ともにタフでアクティブな1台と言える。また、圧倒的な開放感を生み出す「タフト」独自のガラスルーフ「スカイフィールトップ」は、乗っている人全員の気分を高めてくれるものだ。
ダイハツ「タフト」
そして、軽オープンカーの「コペン」。躍動感あふれる「ローブ」、親しみやすい「セロ」、機能美あふれる、「GRスポーツ」の3つのボディを持ち、走りの面では毎日のドライブがワクワクする「スタンダード」、攻めの走りも楽しめる「S」、より本格的な走りを可能とした「GR」の3つをラインアップ。軽オープンカーは他社にない唯一無二の存在であり、旧型を含めて今でも多くの人に愛されている1台である。
ダイハツ「コペン」
ダイハツの乗用車ラインアップとしては、まずハイトワゴンの「トール」を挙げたい。「トール」は、コンパクトなサイズながら広い荷室空間を持ち、軽自動車からステップアップしたファミリーカーとして最適だ。特に小さな子供がいる家庭では、使いやすい大型乗降用アシストグリップやスライドドアによるワイドな開口と低いステップ、雨の日でも外に出ずに室内を移動できるウォークスルーが好評である。
ダイハツ「トール」
「ロッキー」は、コンパクトSUVとして力強いデザインと走破性を兼ね備えた1台である。ふだんの街乗りから休日のアウトドアレジャーまで幅広いシーンで活躍できる。また、モーターの力で走行するeスマートハイブリッドを備えた新開発の1.2リッターNAエンジンと、高速道路で心強い1リッターターボエンジンが選べるのも「ロッキー」の魅力だ。
ダイハツくるま開発本部製品企画部の東晋平さんは、「ロッキー」の強みとして、ハイブリッドの燃費や静かさ、広さと使いやすさが好評と述べる。いっぽうで、ネガティブな声は少ないとしながらも、「乗り心地が好みに合わず、しなやかさがほしいという意見も少しありますが、それをよいと捉える声もあります」とコメントする。東さんによると、ハイブリッドとガソリンではユーザー層が少し異なり、ハイブリッドはより質感の高さを求める傾向にあると言う。
また、「5ナンバーサイズでありながらしっかりとしたSUVらしい見た目で、力強さと存在感のあるデザイン。そして、軽自動車で培ってきた、広々とした室内空間へのこだわりとラゲッジスペースの広さ」がロッキーの魅力である。
ダイハツ「ロッキー」
ちなみに、次期型については「『ロッキー』は、軽自動車の代替えとして、少し大きなボディに乗りたいユーザーをけん引するクルマです。また、車格や室内の広さは、競合があまりいない唯一の存在ですので、しっかりとこのサイズを残していきたいです」と述べる。ダイハツのユーザーは、やはり取り回しのよさを重視する傾向にあるわけだ。
生産再開後、新型「ムーヴ」が出るまでダイハツは既存車種のみで販売を続けていた。ダイハツ 事業・商品本部 商品企画部 車種企画室 軽乗用Gの古川秀真さんは、「ダイハツのクルマは、デビューしてから時間が経っているのが現状です。他社はモデルチェンジを進めていますので、そのぶん機能や装備が搭載されています。ですが、我々はまだテコ入れができておらず、価格で勝負しています。ただ、今後は個車ごとにふさわしい機能や装備を充実させ、新しさを感じさせることでお金もいただけるようにして勝負していきたい。先進安全装備は、とても必要だと感じています」と述べている。
これまで述べたとおり、ダイハツは他社以上にユーザーの声を積極的に聞きに行くという強みを持っている。「実際に、商品企画のメンバーが販売店に行き、販売店の営業スタッフと話をするなど全国でヒアリングして、市場のニーズを把握しています。たとえば、カラーラインアップを売れ筋カラーと入れ替えるなど、すぐにできる範囲で魅力をアップさせています」と古川さんはコメントした。
最新装備を搭載したり、内外装を変更したりすることは、約1年の間、開発が中断したことによる遅れ、タイムラグは非常に大きいと言わざるを得ない。それほど、各メーカーの開発スピードは速いのだ。さらに、この1年の間に技術も進歩していることを考えると、しばらくはこの遅れを取り戻すための困難な道を歩かなければならないだろう。
しかし、ダイハツ内部の人たちの多くはダイハツ愛に溢(あふ)れており、「ダイハツブランドはずっと残していきたい。ダイハツという会社の名前が残るようには絶対したい」とその思いを語っていた。
そのためにも、周囲の意見に流されずダイハツの魅力を理解する人材を育てる必要がある。クルマを育てることは、人を育てることと同じである。これからのダイハツを見守っていきたい。
(写真:内田俊一、価格.comマガジン編集部)