人気のコンパクトミニバン、ホンダ「フリード」とトヨタ「シエンタ」。前回は両車の内外装を比較したが、今回は走りや乗り心地、買い得グレードなどについて比較してみたのでレビューしたい。ちなみに、試乗車のグレードは「フリード」がe:HEV AIR EX [FF]で、「シエンタ」はHYBRID Z [FF]だ。
試乗したのはどちらもハイブリッド車で、動力性能や加速力は同程度だ。しかし、アクセル操作に対する反応は「フリード」のほうが少し機敏な印象を受ける。「フリード」のパワートレインである「e:HEV」は、高速巡航時以外は基本モーター駆動なため、アクセル操作に対する反応が素早く操作しやすいからだ。
ホンダ「フリード」の試乗シーン
「シエンタ」も性能的には問題ないのだが、運転感覚を比較すると「フリード」のほうがすぐれている。また、エンジンノイズも「フリード」は静かだ。「シエンタ」のエンジンは直列3気筒なので、アクセルペダルを踏み込むと音質の粗いノイズが聞こえるが、「フリード」は4気筒のため、エンジン音は穏やかだ。
トヨタ「シエンタ」の試乗シーン
結論:
加速力はどちらも同等
「フリード」はアクセル操作がしやすく、エンジン音が静か
ステアリング操作に対する車両の反応は、「シエンタ」のほうが機敏だ。「シエンタ ハイブリッドZ」の全高は1,695mmで、1,755mmの「フリード AIR EX」よりも60mm低い。車重も、「シエンタ ハイブリッドZ」は1,370kgで、「フリード AIR EX」の1,480kgよりも110kg軽い。低重心と軽さによる相乗効果で、「シエンタ」は車両の進行方向が変わりやすく、運転感覚は少しスポーティーにも感じられる。
トヨタ「シエンタ」の試乗シーン
いっぽう、「フリード」は直進安定性がすぐれており、重厚感のある運転フィールだ。「フリード」を運転すると、ボディがひとまわり大きく感じられる。「シエンタ」は、ちょっとしたワインディングなどを走ると軽快で、「フリード」は高速道路を使った長距離移動に向いていると言えそうだ。
ホンダ「フリード」の試乗シーン
結論:
「シエンタ」の走りは軽快でスポーティー
「フリード」の走りは重厚感があり安定している
乗り心地は、「フリード」は足まわりが柔軟で快適だ。「シエンタ」は運転感覚が機敏なぶん、乗り心地は少し硬めで上下に揺すられる印象がある。乗り心地の優劣は、路面の荒れた場所を時速30〜40kmで走るとわかりやすい。混雑した街中を試乗した際に確認したい。
結論:
乗り心地は「フリード」が快適
両車ともに衝突被害軽減ブレーキ、ブラインドスポットモニター、運転支援機能、サイド&カーテンエアバッグを標準装備している。
機能面では、「シエンタ」が多彩だ。特に、「プロアクティブドライビングアシスト」が日常的に便利である。先行車との距離が近づくと、アクセルペダルを戻しブレーキペダルをゆるやかに踏もうとした際、「プロアクティブドライビングアシスト」が先行作動して減速を始めてくれる。衝突被害軽減ブレーキは衝突不可避の状態で作動するが、「プロアクティブドライビングアシスト」はもっと早い段階でゆるやかに減速する。「フリード」を含めて、両車ともに設計が新しいため、先進的な安全機能が採用されている。
結論:
どちらも安全機能は豊富
「シエンタ」は日常で便利な運転支援機能も装備
WLTCモード燃費は、「フリード e:HEV AIR EX」(6人乗り)が25.4km/Lで、「シエンタ ハイブリッドZ」(7人乗り)は28.2km/L。トヨタのハイブリッドは燃費効率にすぐれ、さらに「シエンタ」は車重が軽いため、「フリード」に比べて燃料代を約10%節約できる。
結論:
燃費は「シエンタ」のほうがよい
「フリード e:HEV AIR EX」(6人乗り)の価格は321万2,000円、「シエンタ ハイブリッドZ」(7人乗り)は303万6,600円。「フリード」の6人乗りは、2列目シートがアームレスト付きのセパレートタイプで、リヤクーラーやアルミホイールも標準装備されている。
ホンダ「フリード e:HEV AIR EX」(6人乗り)
「シエンタ」は、アダプティブハイビームやドライバー異常時対応システム、10.5インチのディスプレイオーディオなどが標準装備されている。
トヨタ「シエンタ ハイブリッドZ」(7人乗り)
装備と価格の違いを考慮すると、「シエンタ」が17万5,400円安く、若干割安である。それでも大きな差はなく、機能と価格のバランスに基づく買い得度は同程度である。
結論:
買い得度は同程度だが「シエンタ」のほうが安い
コンパクトミニバンの「フリード」と「シエンタ」は人気車のため、販売店によれば納期は全般的に遅延気味である。
2025年6月中旬時点で販売店に尋ねると、「フリード」は「お客様の好みがメーカーに先行注文している車両に該当すれば、約6か月で納車される。しかし、お客様が希望するボディカラーやメーカーオプションが先行注文した車両に一致しない場合、納車までに10か月前後を要することもある」と言う。
いっぽうの「シエンタ」は、「以前は約3か月で納車できたが、受注台数の上限に達したため、受注活動を停止している販売会社もあり、再開時期はわからない」と言う。
「フリード」の受注は2025年6月中旬時点で実施されているが、シエンタは販売会社によって状況が異なる。購入を希望するなら、早めに商談を開始したい。
「フリード」は、コンパクトサイズながら全高が1,700mmを超え、ミニバンらしさがあり車内が広い。2列目シートもセパレートタイプが主力で、ミドルサイズミニバンに近い使い方が可能だ。
いっぽう、「シエンタ」は全長が4,300mmを下回り、全高も1,700mmに達しない。ボディは「フリード」よりも小さく、3列目シートは2列目シートの下に格納するため、荷室に3列目シートが張り出さずスッキリとしている。「シエンタ」は、ミニバンというよりもコンパクトカーに近い使い勝手のよさがある。
ユーザーの適性も、車両の性格に基づく。ミニバンの機能やデザインを重視するなら「フリード」がおすすめだ。「シエンタ」は、通常は荷室の広い2列シートのコンパクトカーとして使い、時々3列目シートを引き出す用途に適している。2列目シートをたたんで、その下に3列目シートを格納する必要があるが、荷室は広くて使いやすい。
このように、2車の性格は異なる。「フリード」は本格的なミニバンで、直進安定性がすぐれているため長距離移動に適する。「シエンタ」はコンパクトカーに近い性格で、運転感覚も機敏であり、街中の移動や峠道などの走行に向いている。