レビュー

5リッターV8エンジンも! レクサス「IS」3グレードを比較試乗

今ではあまり使われなくなった言葉のひとつが、「スポーツセダン」だ。海外メーカーでは、BMWやメルセデス・ベンツの一部車種で見られるが、日本メーカーではFR(後輪駆動)と言えば日産「スカイライン」とレクサス「IS」くらいだが、どちらも長寿を誇るクルマとなっている。

だが、ガソリンエンジン搭載車の「IS500」と「IS300」は2025年11月に生産終了(2025年11月までの生産台数に達し次第販売終了)とのこと。そこで今回、「IS500」「IS300」にハイブリッドの「IS300h」を加えた3グレードでそれぞれ長距離を走らせてみたので、その印象についてレビューしたい。

今回試乗したのは、ハイブリッドの「IS300h "version L"」、2L直4ターボエンジン搭載の「IS300 "F SPORT"」、5L V8エンジン搭載の「IS500 "F SPORT Performance First Edition"」の3台で、それぞれ1000km前後を走行した

今回試乗したのは、ハイブリッドの「IS300h "version L"」、2L直4ターボエンジン搭載の「IS300 "F SPORT"」、5L V8エンジン搭載の「IS500 "F SPORT Performance First Edition"」の3台で、それぞれ1000km前後を走行した

トヨタ「アルテッツァ」の後継モデル

レクサス「IS」は、クルマを操る楽しさを追求するコンパクトスポーツセダンとして、さかのぼること26年前の1999年に、トヨタ「アルテッツァ」を起源に誕生したクルマだ。現行モデルは2013年に登場した3代目で、ハイブリッドモデルの「IS300h」がラインアップに加わって話題となった。そして、2016年のマイナーチェンジでは、サスペンションのチューニングやインテリアの機能性向上などを実施し、運転の愉しさの熟成を進めるとともにデザインをアップデート。

「IS」は、2016年のマイナーチェンジによってエクステリアを大きく刷新するとともに、改良型ショックアブソーバーの採用などスポーツセダンとして走る楽しさの熟成が行われた

「IS」は、2016年のマイナーチェンジによってエクステリアを大きく刷新するとともに、改良型ショックアブソーバーの採用などスポーツセダンとして走る楽しさの熟成が行われた

2020年に実施された2度目のマイナーチェンジでは、走りのよさを向上すべく、“Toyota Technical Center Shimoyama”を始め、世界各地で走り込んだ結果を凝縮。ショックアブソーバーのオイル流路に非着座式のバルブを設け、微小な動きに対しても流路抵抗による減衰力を発生させる「スウィングバルブショックアブソーバー」を採用し、応答性がよく上質な乗り心地を両立させ、現在にいたる。

「IS」の2020年のマイナーチェンジでは、ステアリングやペダルの応答性、駆動力制御のチューニング、ボディ剛性の向上などによって、操縦性や乗り心地のさらなる向上が図られた

「IS」の2020年のマイナーチェンジでは、ステアリングやペダルの応答性、駆動力制御のチューニング、ボディ剛性の向上などによって、操縦性や乗り心地のさらなる向上が図られた

走りのよさは熟成の域に達した

まずは、いずれの「IS」にも共通していた点から述べていこう。走りについては、2016年の改良前のモデルと比較すると、現行モデルでは遥かに足の動きがよくなり乗り心地が向上している。特に、今回試乗した3台にはいずれも「NAVI・AI-AVS」が搭載されていた。これは、ナビゲーションのデータと連携することで運転操作や路面状況に応じてショックアブソーバーの減衰力を自動制御してくれる機構で、安定したハンドリングや快適な乗り心地を実現してくれる。

さらに、各部の補強も実を結んでいるようで、改良前よりも確実にボディ剛性が高くなった印象を受けた。そして、前述の「NAVI・AI-AVS」の影響もあって、いずれのクルマも改良前よりはるかに走行性能が向上しており、熟成の域に達していると言ってよいほどだった。ただし、ロードノイズの侵入が大きかったり、バネ下の重さからバタつき感が出てしまっていたりしたのは気になったところだ。

轍にハンドルを取られやすい

また、街中を走行していてどうしても気になったのが、タイヤが轍に取られやすいことだ。これも3車共通で、真っ直ぐ走らせたいと思ってもタイヤが路面の轍などに引っ張られがちで、運転に気を遣うことが多かった。そこへ「LKA(レーン・キーピング・アシスト・システム)」が介入するので、ドライバーの意に反した動きをしてしまう。この症状は、「LKA」をオフにしても発生していたので、根本的にはステアリング周りの剛性の低さが要因と考えられる。ステアリング剛性が弱いうえに、外力に対して余計な動きをするものだから、意に反したタイヤの動きを誘発するのだろう。

また、これはやはりと言うか仕方ないことではあるのだが、設計の古さが少々気になった。たとえば、カーナビなどはセンターコンソールのタッチパッドで指を這わせて操作するタイプなので、今は使いにくく感じられる。ちなみに、ほかのレクサス車ではすでに廃止されているため、次期モデルでの改良に期待したいところである。

レクサス「IS」には、カーナビなどさまざまな操作をセンターコンソール上から行える「リモートタッチ」が採用されている

レクサス「IS」には、カーナビなどさまざまな操作をセンターコンソール上から行える「リモートタッチ」が採用されている

適度なボディサイズで取り回しがしやすい

「IS」の大きな魅力のひとつが、適度に取り回しがしやすいボディサイズだ。1,840mmの車幅と5.2m(2WD)の最小回転半径は市街地で運転がしやすく、知らない道での切り返しや駐車なども、それほど気を使わないで済む。

また、設計が古いからこそメリットとして物理スイッチが多く、ブラインドタッチもできて操作しやすい。いっぽう、シートはホールド性こそ高いものの、長距離では腰回りのサポート配分がいまひとつで、長距離では疲れ気味になってしまう。足がよいクルマなのだから、ぜひ改善を望みたいポイントだ。

レクサス「IS」は物理ボタンが多いので、走行中に意識を大きく向けずに操作しやすいという安全面でのメリットも感じられた

レクサス「IS」は物理ボタンが多いので、走行中に意識を大きく向けずに操作しやすいという安全面でのメリットも感じられた

【IS300h】トヨタ自慢のハイブリッドは「IS」でも健在

ここからは、3グレードそれぞれの印象についてお伝えしたい。まず「IS300h」は、2.5Lエンジンに143psを発揮するモーターが組み合わされているハイブリッド車だ。

乗り心地は、通常の機械式の「スウィングバルブショックアブソーバー」と乗り比べることはできなかったのだが、他車での経験ではかなり高い効果を生んでいた。「IS300h」においても同様に、速度域が上がるとしなやかながら芯の通った硬さが感じられるように変化するので、100km/h前後であれば快適に走行できる。

レクサス「IS300h」の走行シーン

レクサス「IS300h」の走行シーン

また、パワーは必要にして十分以上で、思ったときにアクセルを踏み込めばそれに見合ったトルクとパワーが手に入り、爽快な走りを味わえる。ハイブリッドだからと低回転域を使って走るのではなく、特に上り坂などでは積極的に高回転を使い、スポーティーな走りを味わえるのは「IS」ならではと言えるだろう。同時に、違和感のないブレーキフィールも高く評価したいところだ。

レクサス「IS300h」の走行シーン

レクサス「IS300h」の走行シーン

さらに、「IS300h」のハイブリッド制御も見事だ。EV走行からエンジンを始動する際やエンジンを停止するシーンでも、わずかにショックは感じるものの不快感はなく、注意深く観察をすれば初めて気づく程度のものだった。

【IS300】高回転まで回る2L直4ターボが魅力的

2L直4ターボエンジンを搭載した「IS300“F SPORT”」も、基本的な印象は「IS300h」と共通だ。AVSの影響もあってコーナーリング中は安定感があり、とても好ましいスポーティーセダンに感じられる。

レクサス「IS300」の走行シーン

レクサス「IS300」の走行シーン

特に、「IS300」で魅力なのはエンジンレスポンスのよさだ。245psを発揮するターボエンジンは、アクセル開度に対してのツキがよく、思いどおりの加速を得ることができる。さらに、高回転まで非常に気持ちよく回せるのも魅力的と言えるだろう。また、トランスミッションとエンジンとのマッチングも非常によく、むだなシフトチェンジがなくドライバーの好みに合った変速をしてくれるのも魅力的だ。

レクサス「IS300」の走行シーン

レクサス「IS300」の走行シーン

ただし、乗り心地は大径タイヤ(前:235/40R19、後:265/35R19)を履いているにも関わらずバネ下の重さをそれほど感じないのはよいのだが、高速道路のコーナーなどで路面が荒れている場所に進入すると上下に揺れがちだった。

【IS500】5L V8エンジンの豪快な加速を味わえる

「IS500“F SPORT Performance First Edition”」の最大の魅力は、何と言っても5L V型8気筒エンジンだろう。481psを後輪だけで発生させる豪快な走りは、大迫力以外の何物でもない。特に、4,000rpmを超えたあたりからはトルクあふれる走りとともに、エンジンサウンドが少し変わってきて気持ちのよいものになりワクワクさせてくれるのだ。この豪快な加速は、まるで麻薬のようなもの。ちょっと前が空けば、ついついアクセルペダルを踏み込んですさまじい加速を楽しんでしまいそうになる。

レクサス「IS500」の走行シーン

レクサス「IS500」の走行シーン

ただし、渋滞などでストップアンドゴーを繰り返すシーンでは、エンジンのピーキーさが若干感じられた。特に、30km/hくらいから減速するとシフトダウンのショックを感じることがあった。これは、ほかの「IS」には無かったので、出力とトルクに対してトランスミッションに若干のキャパシティ不足があるのかもしれない。

レクサス「IS500」の走行シーン

レクサス「IS500」の走行シーン

電気によるアシストなどがまったくない、純粋なV型8気筒エンジンはもうこれが最後かもしれない。そうと思うと、もっと長く乗っていたいと思った。たとえ、それがゆっくり走っていたとしても、自分の前にV型8気筒エンジンが収まっている、そう思うだけでついついニヤけてしまうのだ。

3台ともに相応の燃費性能

今回、試乗した3台の実燃費についても触れておこう。なお、「IS300h」はレギュラーで、「IS300」と「IS500」はハイオク指定である。

-IS300h-
市街地:11.0km/L(15.6km/L)
郊外路:15.0km/L(18.3km/L)
高速道路:17.5km/L(18.8km/L)

-IS300-
市街地:8.4km/L(8.8km/L)
郊外路:10.0km/L(12.0km/L)
高速道路:13.7km/L(14.7km/L)

-IS500-
市街地:6.6km/L(5.5km/L)
郊外路:8.4km/L(9.5km/L)
高速道路:11.4km/L(11.8km/L)
( )内はWLTCモード燃費値

「IS300h」はハイブリッドではあるが、少し走りに振っているようで、近年のハイブリッド車と比較すると燃費は伸びなかった。だが、十分に走りを堪能できるので、それを踏まえれば許容範囲と言えそうだ。また「IS300」は燃費向上対策としては直噴エンジンや可変バルブタイミングシステム程度なので、それでこの燃費ならギリギリ合格ラインと言えるのではないだろうか。「IS500」は、さすがに厳しい燃費を叩き出した。しかし、ワクワク感や豪快な走りだけでなく、V型8気筒エンジンを堪能している気持ちは何物にも代えがたい魅力と言えよう。さらに、高速道路では11km/Lをオーバーする数値を考えると、優秀なのかもしれない。

今回、3台の「IS」を乗り継いだ印象としては、たしかにひと世代以上古いクルマに乗っているという印象が最後までぬぐえなかった。しかし、運転支援システムなどの電気デバイスの介入がないぶん、ドライバーとクルマとの意思疎通がとてもスムーズであったことは事実だ。

このストレスのなさこそが、今の「IS」シリーズの大きな魅力のひとつといっても過言ではない。どの仕様を選ぶかは好み次第と言っていいだろうが、個人的には「IS500」に後ろ髪をひかれながら、「IS300」の素の楽しさを選んでしまうだろう。気になった方は、ぜひ検討してみてはいかがだろうか。

内田俊一
Writer
内田俊一
1966年生まれ。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を生かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。長距離試乗も行いあらゆるシーンでの試乗記執筆を心掛けている。クラシックカーの分野も得意で、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員でもある。
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桜庭智之(編集部)
Editor
桜庭智之(編集部)
自動車専門メディアで編集者として10年間勤務した後「価格.comマガジン」へ。これまで、国産を中心とした数百の新型車に試乗しており、自動車のほかカーナビやドラレコ、タイヤなどのカー用品関連も担当する。
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