“弾丸”試乗レポート

ハイブリッドセダン「グレイス」は想像以上の充実度

ハイブリッドセダン「グレイス」は想像以上の充実度

2014年12月1日、ホンダは新型ハイブリッドセダン「グレイス」を発売した。5ナンバーサイズの新型コンパクトセダンは、いったいどのようなクルマなのか? モータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏がレポートする。

5ナンバーサイズのハイブリッドセダンとして登場したグレイスは、コンパクトながら気品あるスタイリングで発売以来、大きな注目を集めている

心臓部は「フィット ハイブリッド」と同じだが、ボディはまったくの別モノ

「セダン愛。」をうたい、フラッグシップカーの「レジェンド」、ミドルセダンの「アコード」、コンパクトセダンのグレイスと、大中小のハイブリッドセダンをそろえたホンダ。正直、日本のセダン市場は冷え切っており、販売台数ランキングで上位に頑張っているのはトヨタ「カローラ」のみという厳しい状況だ。そこにあえて新型セダンを展開しようというホンダの姿勢は、まさにチャレンジングなものだと言える。

今回、投入されたグレイスには、1.5リッターのエンジンに1モーターを内蔵したDCTと組み合わせたホンダの「スポーツハイブリッド i-DCD」が搭載される。パワートレイン的には「フィット ハイブリッド」そのもの。つまり、グレイスはフィット ハイブリッドのセダン版と見ることもできる。しかし、よくよく見比べてみれば、フロントまわりもドアもデザインは異なる。さらにホイールベースも違っており(グレイスの方が70mmも長い)、インパネのデザインも似て非なるもの。ハッチバックモデルにトランクを追加したという手軽なクルマではなく、グレイスは、しっかりとセダン専用設計が施されているのだ。

低く構えたフロントからリアへ続くフォルムは流麗だが、ボディサイドのキャラクターラインが力強さも印象付ける

高い実用性とシックな雰囲気が、セダンならではの魅力だ

試乗は、最上級グレードのEXを約1週間借りて、日常的に使ってみた。

意外にうれしかったのが装備の充実度の高さだ。スマートキーシステムをはじめ、前席のシートヒーター、プラズマクラスター技術搭載のフルオートエアコン、LEDヘッドライト、パドルシフト、低速域で作動する衝突被害軽減自動ブレーキ(シティブレーキアクティブシステム)など、便利な装備がそろっている。ピアノブラックのパネルとソフトパットを使ったインパネや、光沢ある素材のシートなどもあって、室内の雰囲気はしっとりと落ち着いている。

また、セダンの基本となる確かな実用性も体感できた。取り回しのよさは5ナンバーサイズならでは。それでいて後席の膝まわりにゆったりとした空間があるので、大人が4人乗ってのロングドライブも苦痛ではない。430リットルのたっぷりとしたトランク容量も使い勝手がよさそうだ。

グレイスは想像以上に装備が充実している。インパネも、シンプルながら高級感ある作り

エコ運転を知らせるコーチング機能や、ゲーム感覚でエコ運転が上達するティーチング機能など、ユニークな機能を装備したメーター&ディスプレイ

大人4人が乗っても十分な余裕がある室内空間。シートのホールド感や質感の高さも想像以上のでき栄えだった

スマートキーシステムを全グレードに標準装備

試乗車の最上級グレード「EX」は、プラズマクラスター技術搭載のフルオートエアコンと、運転席&助手席シートヒーターが標準装備される

7速DCTをマニュアル操作できるパドルシフト。アグレッシブな運転のための装備というより、エンジンブレーキ操作用という印象を受けた

低速域衝突軽減ブレーキと誤発進抑制機能を備えたシティブレーキアクティブシステムを搭載しており、安心感も高い

9インチゴルフバッグを楽に3個積み込める430リットルのトランク。トランクスルー機構も備えており、長尺物も積載できる

ホンダ独自のハイブリッドの走りとは?

続いて、ホンダ独自のハイブリッドの走りを紹介しよう。

1モーターを内蔵するDCTを使ったホンダ独自の「スポーツハイブリッド i-DCD」は、トヨタの「プリウス」などとは異なった走りを楽しませてくれる。スタートの一歩目は、モーターの力で滑り出すような感覚だ。そこからほんの少しだけアクセルを踏み込んだ状態を維持すれば、EVモードのまま加速していく。ただし、その加速は非常にゆるやかで、実際の街の流れに乗ろうとアクセルを踏み込めば、時速20km/hあたりで、すぐにエンジンが始動する。しかし、そのノイズと振動は、非常によく抑え込まれており、タイヤのロードノイズやエアコンの作動音などにかき消されるほどに静かだ。さらに、アクセルを強く踏み込み続けると、モーターによるアシストが実行され、一瞬、過給がかかったように加速に力強さが増す。スピードに乗った状態でアクセルをパーシャル状態に戻すと、エンジンが停止して、モーターによる巡航状態に移行する。

スタートのEVモードから、エンジン始動、モーターアシスト、モーターでの巡航というモード変化は滑らかで、ノイズと振動はミニマム。この静かさもグレイスの大きな特徴だ。

1.5リッターのアトキンソンサイクルDIHC i-VTECエンジン(最高出力81kW<110PS>/最大トルク134Nm)と、高出力モーター(最高出力22kW<29.5PS>/最大トルク160Nm)内蔵の7速DCT、リチウムイオン電池を組み合わせた「スポーツハイブリッド i-DCD」を搭載。また、シャフトドライブを備えたビスカスカップリング式の4WDモデルをラインナップに用意したのも特徴だ。JC08モード燃費はFFモデルで最高34.4km/l、4WDモデルでは29.4km/lを達成する

また、モーターとエンジンを切り変えながら走るという意味では、トヨタのプリウスと同様だが、ホンダのシステムはあくまでもエンジンが主であり、モーターが副。大きな力が必要なときはエンジンで、少しの力でよいときはモーターで、という役割だ。そうしたパワーソースの使い方は、ガソリン車になれた人間からすると、違和感が少ない。このナチュラルさも「スポーツハイブリッド i-DCD」の魅力のひとつとなる。

ちなみに、パワートレインの力感は、必要十分といった程度。驚くほど速くはないが、流れをリードすることも簡単だ。パドルシフトで7速を自在に操れば、キビキビと走ることもできる。しかし、車内に漂う落ち着いた雰囲気に流されて、ほとんど飛ばす気にならない。パドルシフトは、あくまでもエンジンブレーキ用に操作する程度に終わってしまった。

必要十分な力感を備えたパワートレインで、街中でも、高速道路でも、キビキビと走ることができたが、全体的には、ゆったりと落ち着いた走りが似合うクルマといった印象だ

さまざまな要求にきっちりと満足できる答えを返す

ハッチバックのフィットが、カジュアルでスポーティーだとすれば、セダンのグレイスは、もっと落ち着いた雰囲気のクルマだ。中身は同じ人でも、カジュアルなジーンズ姿とスーツ姿で立ち居振る舞いが異なるように、フィットとグレイスも、まったく違った世界観を提供してくれる。

使いやすい5ナンバーサイズのボディに、窮屈さのない室内空間と充実した快適装備類が与えられている。走りは必要十分な力とすぐれた燃費性能、そして静かさがあった。セダンに求められる、さまざまな要求ひとつずつに真摯に答える。そんな生真面目なセダンがグレイスなのである。

パワートレインはフィット ハイブリッドのものを使用しているが、フィットがカジュアルなジーンズ姿だとしたら、グレイスはスーツ姿といったところか

グレイスのハイブリッドでのライバルといえば、トヨタのプリウスを思い浮かべる人も多いだろうが、実際はクラス違いとなる。プリウスは1.8リッターのハイブリッドであり、価格も223〜343万円。いっぽうのグレイスは1.5リッターのハイブリッドで、195〜240万円と価格帯も異なる。それよりも同じ1.5リッターのハイブリッドで198〜217万円のカローラ・アクシオ ハイブリッドがライバルとなるだろう。

日本におけるセダン市場がすっかり冷え切ってしまったのは、ある意味、魅力的なセダンが存在しないのも理由のひとつ。グレイスを試乗してみると、「このクルマであれば、ひょっとして?」と思わせる完成度の高さを感じることができた。

5ナンバーサイズのセダンは、市場でもかなり種類が少ない。そんな低調なセダン市場を変革する可能性を、グレイスからは感じることができた

鈴木ケンイチ
Writer
鈴木ケンイチ
新車のレビューからEVなどの最先端技術、開発者インタビュー、ユーザー取材まで幅広く行うAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。
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田中 巧(編集部)
Editor
田中 巧(編集部)
通信を中心にしたIT系を主に担当。Androidを中心にしたスマートデバイスおよび、モバイルバッテリーを含む周辺機器には特に注力している。
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