シリコンバレー発のEV専門メーカーであるテスラモーターズ。その主力車種「モデルS」を、モータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏が約1週間にわたって試乗した。EV用充電施設などない一般的な集合住宅に住む鈴木氏は、「モデルS」とともにどんな時間を過ごしたのだろうか?
現在のモデルSのグレード編成は、モデルS 60(871万円)と85(1000万円)の2グレードを基本とする。85のオプションとして、デュアルモーターの4輪駆動仕様である85 D(1058万8000円)、ハイパフォーマンスのP85 D(1289万5000円)が設定されている
数多ある自動車メーカーの中で、テスラモーターズほどユニークな存在は少ないだろう。この自動車メーカーは、ベンチャービジネスを数多く生み出したアメリカのシリコンバレーにおいて2003年に設立。電気関連で多大な貢献を行った発明家の名前を社名にするように、設立当初からEVを世に送り出すことが目的にあった。ガソリンエンジンの生産をベースに100年前後の歴史を誇る日欧米の自動車メーカーとは最初から異なるモチベーションで歩み始めたメーカーなのだ。
わずか数名のエンジニアでスタートしたテスラモーターズだが、オンライン決済システム(後の「ペイパル」)などのベンチャービジネスで成功したイーロン・マスク氏の参画もあり、プロジェクトは大きく成長する。2008年に最初の量産モデル「テスラ ロードスター」をリリース。この最初のEVスポーツカーは、1000万円ほどの価格でありながら、アメリカだけでなく世界30か国以上で2400台以上を販売。EVメーカーとしてのビジネスを幸先よくスタートさせることに成功した。
そして、本格的な量産モデルであるセダン「モデルS」を2012年に発売。ファミリーセダンとしての利便性と、スポーツカー同様の動力性能を備えたモデルSは、アメリカ市場において歓迎の声で受け入れられ、2014年には日本にも上陸を果たす。そして現在までのところ、テスラモーターズは5万台以上のEVを世に送り出すほどに成長してきたのだ。
2012年にアメリカで発売され、2014年には日本でも発売が開始されたテスラのモデルS。米自動車業界誌「モタートレンド」が選出する「カー・オブ・ザ・イヤー」にも選ばれた注目モデルである。後方を走る赤いクルマが、2008年に発売された初の量産モデル、ロードスターだ
現在のテスラモーターズの主力となるのが、セダンのモデルSだ。完全オリジナルで開発したフラットなプラットフォームにリチウムイオン電池を収納。リチウムイオン電池はパソコンなどにも利用される18650サイズのものを採用し、それをプラットフォーム上にぎっしりと並べている。電池の容量は60kWhと85kWhをユーザー側で選択可能だ。
モーターとインバーターは左右の車輪の間に配置される。当初は、後輪駆動モデルのみであったが、2014年10月に前輪部にもモーターを備えた4輪駆動バージョンを発表。これでモデルSは後輪駆動と4輪駆動の両方から選べるようになった。どちらにせよ、モーターを車軸の内側に置くことで、ガソリンエンジン車のようなエンジンルームが不要になる。そのため、リアのハッチバック内は、2座のチャイルドシートを設定できるほど広い(1640L)。さらにフロント部分にもラゲッジスペースを設定(150L)。パワートレインのスペースがミニマムに済んだことで、広い荷室用のスペースを実現している。
プラットフォーム上に大容量のリチウムイオン電池を搭載するモデルS
モーターとインバーターは左右の車輪の間に配置。これにより、FRと4WDが選択できるようになった
1640Lという広大なスペースを誇るハッチバックには、2座のチャイルドシートが設定できる
一般的なエンジンは存在しないため、ボンネット内部にも150Lの収納スペースが用意される
4ドアにリアハッチバックを備えるボディサイズは、4970(全高)×1964(全幅)×1435(全高)mm、ホイールベースは2960mm。車両重量は2120kg(モデルS P85)だ。レクサスで言えば全長がLSとGSの間で、全幅はモデルSの方が大きく、ホイールベースはLS同等というもの。標準19インチ、オプション21インチの大口径アルミホイールも違和感なく履きこなす堂々たる巨躯。アメリカ生まれらしい、スケール感を持ったセダンと言っていいだろう。
しかし、大きいからといって鈍重なわけではない。モデルSには恐るべき動力性能が秘められているのだ。スタンダード版ともいえる「モデルS 60(バッテリーを60kWh搭載)」や「モデルS 85(85kWh搭載)」の最大出力は285kW(387馬力)で、最大トルクは440Nm。「モデルS 60」が時速100kmまで加速するのに必要な時間は、わずか6.2秒。「モデルS 85」は5.6秒だ。さらに、ハイパフォーマンスバージョンの「モデルS P85」は最大出力350kW(476馬力)で、時速100kmまでは4.4秒。前後に2つのモーターを搭載した4輪駆動モデルの「モデルS P85 D」は最大出力515kW(700馬力)で時速100kmまでは3.4秒。リアルスポーツカーも真っ青の、驚くべき加速力が備わっているのだ。
動力性能はスーパーカー級。最上位のP85 Dは700馬力、0-100km/hは3.4秒を誇る
また、モデルSは、そのインテリアでも人々を驚かせてくれる。センターコンソール部に構えるのは17インチのタッチスクリーン。デスクトップパソコン並みの大きなモニターには、エアコンやクルマの設定をはじめ、グーグルのマップ、インターネットのブラウザーまで表示する。車内に乗り込んだだけで、「モデルS」の先進性を強く感じさせられるインテリアとなっているのだ。
そして最後に、モデルSは、量産EVとして従来にないほどの長い航続距離を実現していることも大きな特徴だ。日本やドイツの量産EVは、1日に利用される一般的な走行距離と電池のコストのバランスをとって、電池の電力量を18〜24kWhに設定している。その結果、一充電あたりの航続距離はカタログ値で120〜230kmほどとなっている。それに対して、モデルSの電池量は60kWhもしくは85kWh。そのため、モデルSの航続距離は390〜502kmを実現している。これくらいの航続距離があれば、一般的なガソリン車とそん色ない利用ができる。価格が871〜1289.5万円というプレミアムカーだからこそできる豪奢な電池の搭載量で、EVの最大のウィークポイントである、航続距離の短さを克服しようというわけだ。
センターコンソールには17インチのタッチスクリーンを装備
慣れるまで、使い勝手にとまどうこともあるが、モデルSの先進性を象徴した装備だとも言える