2015年5月15日より、ホンダの新型コンパクトステーションワゴン「シャトル」の発売が始まった。この新型モデルは、どのような特徴を持っているのか? 試乗と開発責任者へのインタビューを通じて、モータージャーナリストである鈴木ケンイチ氏がレポートする。
5ナンバーサイズの小型ワゴンと言う成り立ちは共通だが「フィット」の名前が取れ、独立したモデルとなった「シャトル」
「シャトル」という名前は、1983年登場の「シビックシャトル」がルーツだ。当時の大ヒット車であったシビックのリヤ部を延長してワゴンとした派生モデルである。ライバルに比べて、全長がやや短く、背は高く、取り回しのよさと室内空間の広さで人気を集めた。
そのシャトルが帰ってきたのは2011年のこと。現在の大ヒットモデルである「フィット」をベースとした「フィットシャトル」であった。日本におけるステーションワゴン市場は、2000年の年間約40万台規模から縮小しており、2010年当時は9万台規模にまで落ち込んでいた。しかし、フィット シャトルとトヨタの「プリウスα」の登場によって、市場は徐々に回復。現在は年間20万台規模まで戻っている。
そんな市場復活の立役者であったフィット シャトルが生まれ変わった。名称からフィットを排除し、独立したモデルであることを強く主張したのだ。
それでは次にシャトルのアウトラインを紹介しよう。パワートレインは、現行フィット同様に、1.5リッターアトキンソンサイクルDOHC i-VTECエンジンとモーター内蔵7速DCTを組み合わせた「SPORT HYBRID i-DCD」と、1.5リッター直噴DOHC i-VTECエンジン+CVTのふたつを用意。ただし、フィット シャトルでは販売の9割をハイブリッドが占めたように、今回のシャトルもハイブリッドモデルがメインとなるだろう。
ハイブリッドのシステム合計出力は101kW(137馬力)、JC08モード燃費は34.0km/lにも達する。ライバルとなるトヨタの「カローラ フィールダー ハイブリッド」のJC08モード燃費33.8km/l、プリウスαの26.2km/lを上回る好燃費を達成している。
また、97kW(132馬力)のガソリンエンジンモデルでも、JC08モード燃費は21.8km/lにも向上させた。燃費向上のために減速エネルギー回生用のキャパシタや、アイドリングストップ中の蓄冷システムなどが採用されている。
すべてのグレードにビスカスカップリング式の4WDモデルを用意した。これはドライブシャフトを有するメカニカル式の4WDシステム。リアルな雪道で頼りになることだろう。
パワートレインは、ハイブリッドとガソリンエンジンの2種類。写真はハイブリッドのSPORT HYBRID i-DCD
すべてのグレードにFFモデルと4WDモデルが設定されている。4WDは電気式ではなくドライブシャフトを備えたメカニカル式
シャトル最大の売り物となるのがパッケージングだ。5ナンバーサイズの車体ながら、5名乗車時でクラス最大の570リットルの広々とした荷室容量を実現。先代モデルより荷室を53リットルも拡大している。フラットな荷室下には30リットルもの床下収納を設定。さらに、2列目シートの背中部分に折りたたみ式の「マルチユースバスケット」を備え、荷室の床に置くには小さすぎるモノなどが収納できるようになっている。
5名乗車時でクラス最大の570リットルという荷室容量を実現
セカンドシートのマルチユースバスケットは、床には置きたくない花束や帽子などを置くのに便利
荷室下に備わる容量30リットルの床下収納。靴や洗車用タオルなどをまとめて収納できる
また、室内空間も先代モデルよりも拡大した。後席の足元空間は110mm拡大。シートには2段階のリクライニング機能がついた。全高は、アンテナまで入れても1545mm。立体駐車場に苦労しない数字に抑え込まれているのも美点だ。
価格はガソリンのFFモデルが169万円から。ハイブリッドモデルが199万円から。上級グレードでもFFモデルは238万円。クラスが上となるプリウスα(約248万円〜)や、カローラ フィールダー ハイブリッド(約220万円〜)と比べると競争力の高い価格設定だ。
それでは続いて試乗した印象をお伝えしたい。試乗は最上グレードのハイブリッドZである。
室内に乗り込むとブルー・イルミネーションのメーターと、ピアノブラックのインパネ、立体感のあるウッド調パネルが目に入る。新素材だというファブリックシートの表皮は、まるでスウェードのような滑らかさで、なかなか気持ちがよい。膝の横のセンターコンソールは背の高いタイプ。収納力が高く、使いやすそうだ。まず、乗ったときの印象は、コンパクト・クラスではなく、もうひとつ上のようなものであった。
室内は、高めのセンターコンソールを備えることもあり、ミニバンらしくない雰囲気
ブルー基調のインパネは各項目が整理されており、理性的な印象
ダッシュボードのウッド調パネルは立体的で、ボリューム感がある
ファブリックシートの新素材「PrimeSmooth(プライムスムース)」は、スエードのようななめらかな質感。写真のカラーは明るい「リゾーターブラウン/コンビシート」
走り出すとホンダのハイブリッドらしさを感じる。EV領域は最小限度で、すぐにエンジンにバトンタッチする。ただし、エンジンの振動やロードノイズは、かなり抑え込まれている。また、路面からの微小な振動や突き上げ感のいなしがうまく、ゴツゴツ感がない。路面からの振動の大きさに合わせて減衰力を変化させる「振幅感応型ダンパー」が効いているのだろう。最近、試乗したホンダ車の中では「レジェンド」に次ぐ快適な乗り心地だと思う。
パワー感は必要十分。ハンドリングは素直。格段に速かったり、俊敏なわけではないが、人や荷物を載せての移動を主目的と考えれば、静粛性や乗り心地にプライオリティの重きを置いた納得の走りであった。
最後にひとつだけ気になったのは先進安全運転支援システムの内容だ。シャトルには、衝突被害軽減自動ブレーキが用意されている。しかし、それはレーザー方式の時速30km以下の低速で作動するタイプであって、前走車を追従する機能もない。ライバルであるカローラ フィールダー ハイブリッドには、より高速でも作動するタイプが採用されている。そういう意味で、高速側まで対応できるシステムが採用されなかったのは残念だ。
よい意味でイメージを裏切る上質な乗り心地をもたらす振幅感応型ダンパー。かかるストレスによって2種類のスプリングを自動で切り替えることができる