“弾丸”試乗レポート

キャラクター一新!? ボルボのD4搭載「XC60 D4 SE」「V40 D4 SE」試乗レポート

ボルボに新しいディーゼルエンジンが搭載されることになった。この新しいエンジンは、どのような狙いで世に送り出されるのか? その狙いと実際の走りを、モータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏がレポートする。

燃費が倍に向上した2リッターディーゼルターボエンジン「D4」の詳細と、「D4」を搭載する「XC60 D4 SE」と「V40 D4 SE」の実力に迫る

生き残りをかけたボルボの「DRIVE-E(ドライブ・イー)」戦略とは

2015年7月23日より、ボルボは、新型ディーゼルエンジンを搭載したモデルの日本での販売を開始した。新型のディーゼルエンジンを搭載するのはCセグメントハッチバックの「V40」、そのSUVバージョンである「V40クロスカントリー」、ミドルセダンの「S60」と、そのワゴン版の「V60」、そしてミドルSUVの「XC60」。現在、ボルボが日本で発売する8モデル中、なんと5モデルに新型のディーゼルエンジンが搭載されるのだ。

この新型エンジンは、ボルボの「DRIVE-E(ドライブ・イー)」パワートレイン戦略によって生み出された。キーワードは「INNOVATIONS FOR A CLEANER DRIVE」。言ってみれば「革新的でクリーンなパワーユニット」だ。特徴は、2リッターの4気筒エンジンであることと、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの基本構造を共通にすること。そして、ゆくゆくはすべてのボルボ車に、この新世代エンジンを搭載するという。つまり、ボルボ車はすべてのモデルが2リッター4気筒エンジンを搭載することになるのだ。

ディーゼルエンジンながら、ガソリンエンジンと基本構造が共通していることが大きな特徴のひとつ

ディーゼルエンジンながら、ガソリンエンジンと基本構造が共通していることが大きな特徴のひとつ

「DRIVE-E(ドライブ・イー)」計画は、2000年代後半に発生したリーマンショックに端を発する。それまでボルボはフォードという大きな傘の下で生きてきた。しかし、リーマンショックで打撃を受けたフォードはブランドの売却を進める。ボルボにもフォードからの独立が求められたのだ。そこでボルボは、高出力/高効率の自前のエンジン開発を計画。それが2リッター4気筒エンジンに集約させるという「DRIVE-E(ドライブ・イー)」プロジェクトであったのだ。

計画はボルボがフォード傘下を離れた2010年にスタート。スウェーデンのイェーテボリのボルボにて開発が進められ、2013年より同国シュブデ工場にて生産が開始された。ガソリンエンジンとディーゼルエンジンは、25%を共通部品として、50%に類似部品を使用。残りの25%が異なる部品となる。車種によってバラバラにエンジンを生産することを考えれば、コスト面や開発のリソース面での効率アップは、計り知れないものがある。規模の小さなメーカーとなったボルボにとって、パワートレインの集約・効率化は必須のプロジェクトであったのだ。

後処理なしで日本の厳しい排気ガス規制をクリア。しかも触媒のメンテは不要

新しく日本に導入されるボルボの新型ディーゼルエンジンは「D4」と呼ばれるもの。排気量は1968ccのDOHC水冷直列16バルブディーゼルターボ。最高出力が140kW(190ps)/4250rpmで、最大トルクが400Nm/1750〜2500rpm。シリンダーブロックの基本構造はガソリンエンジンと同じだが、ディーゼルは高いブロックデッキを持ち、燃焼音低減のために吸音材で覆われている。またピストンとコンロッド、バランスシャフトもガソリンエンジンとは異なる。ターボは、大小2つのタービンを備える2段過給。低回転では2つを回し、高回転では大型ひとつで過給を行う。

シリンダーブロックは、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンで基本構造は共通しているが、騒音低減のため吸音材で覆われている

ピストンもディーゼルエンジンではガソリンエンジンとは異なる形状のものになっている

ディーゼルエンジンを日本に導入する際に最大の難問となるのが、日本の厳しい排気ガス規制だ。この規制に対しては、日本のサプライヤーであるデンソーの技術「I-ART(INTELIGENT-ACCURACY REFINEMENT TECHNOLOGY)」でクリアした。これは、乗用車としてはボルボだけが採用するものだ。最高250MPa×最高9回の噴射圧力を持つ燃料噴射装置で、4つのシリンダーごとに燃料噴射を精密に制御。狙った燃焼を実現することで、燃焼ノイズを減らし、燃費性能を高めた。また、触媒コンバーターである「LNT(Lean NOx Trap)」と「DPF(Diesel Particulate Filter)」、燃料噴射を組み合わせることで、排気ガス中のすすやNOx、Soxの除去を行う。つまり、後処理がない、ほぼメンテナンスフリーとなっているのだ。欧州ブランドの多くが採用するディーゼル排気ガス浄化システムである尿素SCRシステムは、尿素水溶液の補充が必要だ。それに対して、ボルボは補充不要。ここがボルボのアドバンテージとなる。

最高250MPaという高圧で燃料を噴射。噴射回数を1サイクルあたり2回から最大9回まで分けることができ、燃焼を細やかにコントロールできる

インジェクターとともに、圧力センサーが各シリンダーに独立して取り付けられている。これも燃費の向上や燃焼特性の制御に威力を発揮する

従来型エンジン(グラフ左)と、「i-ART」(グラフ右)のトルク特性を比較してみた。トルクの谷間なくなり、フラットな特性なのがよくわかる

ディーゼルに組み合わされるトランスミッションは、ガソリンエンジンと同じアイシン製の8速AT。燃費性能はモデルごとに異なるものの18.6〜21.2km/l。従来あった3リッター・ターボのガソリンエンジン車と比べると、最大トルクは同等ながら、燃費性能は約2倍。2リッター4気筒のガソリンモデルをも上回るほど。ハイオクガソリンと軽油の価格差(1リッターあたり30円ほど)をプラスすれば、燃料費はさらにお得となる。ちなみに、ディーゼル搭載車の車両価格は、ガソリン車よりも25万円ほど高い。しかし、100%のエコカー減税や燃料費の低減で、その価格差は数年で回収できてしまうだろう。

クルマとエンジンのバランスが取れた「XC60 D4 SE」

新エンジンD4を搭載するクロスオーバーの「XC60 D4 SE」。車両本体価格は5,990,000円(税込み)

新エンジンD4を搭載するクロスオーバーの「XC60 D4 SE」。車両本体価格は5,990,000円(税込)

試乗は雨の軽井沢。うっそうと茂った森を縫うようなルートの路面は荒れ、さらに濡れてもいる。そんな悪条件下でも、新型ディーゼルエンジンを搭載した「XC60 D4 SE」は軽快な走りを見せてくれた。

停止中はディーゼルならではの音と振動を感じたが、走り出してしまえば、ほとんど気にならない。時速50km程度なら、エンジン回転はわずかに1500rpm前後。そんな低回転でも、わずかに足先に力をこめるだけで、グイグイと力強く加速する。大きくアクセルを踏み込むと、意外と粒の揃った気持ちのよいビートを聞かせてくれる。

最高出力190馬力の新エンジンD4を搭載。豊かなトルクで走りを支える

最高出力190馬力の新エンジンD4を搭載。豊かなトルクで走りを支える

ロールは最小。フラットライドで硬質な乗り心地だ。それでも4輪がしっかりと路面をつかんでいる感がある。さらに太いトルクをレスポンスよく使えるため、意のままの走りが可能だ。たっぷりしたトルクがあって軽快に走ることができる。最高出力304馬力を誇る3リッター6気筒ターボの従来のガソリンエンジンと比べれば、190馬力のディーゼルは見劣りするのでは? と思ったが、ただの杞憂であったのだ。190馬力でも、まったく問題はない。それよりも燃費が2倍。しかも燃料自体が安い軽油。売れ筋はディーゼルになるのは確実だろう。それだけ新しいディーゼルは、XC60にマッチしたパワートレインであったのだ。

試乗車は、オプションの「レザー・パッケージ」を搭載していた。レザーシートのほか、フルセグチューナーも装備

リアゲートにD4のエンブレムが備わる。D4を搭載するXC60シリーズの3モデルはエコカー減税の対象で、自動車取得税・重量税が免税(100%減税)となり、翌年度の自動車税も75%減税となる

D4を得た「V40 D4 SE」は活発で魅力的なGTに変身

続いては「V40 D4 SE」。これが驚いた! とんでもなく速い。ガソリンエンジンを搭載した「V40」は、街乗りから高速道路でのロングドライブ、ワインディングまで、どんなステージでも軽快に走るバランスのよいクルマだ。ところが、ディーゼルエンジンを搭載すると、まったく違ったキャラクターになる。

従来よりも2倍近いトルクをもたらすD4の影響で、キャラクターが大きく変わった「V40 D4 SE」。車両本体価格は3,990,000 円(税込)

走行中のディーゼルの音と振動はXC60よりも大きいが、不快というほどではない。それよりも尋常ではないエンジンのパワフルさに意識が持っていかれる。従来のガソリンの1.6リッターエンジンは、最高出力132kW(180馬力)に最大トルク240Nm。それが、ディーゼルになって最高出力140kW(190馬力)に最大トルク400Nmになる。最高出力はそれほど変わらないが、トルクは2倍に近い。わずか1500rpmでも加速感は飛び出すかのようで、2500rpmも回れば、サーキットを攻めるような忙しさになる。ただし、足回りのセッティングは、軽快なスポーツテイストではない。直進性を優先するかのようなドッシリとしたもの。狙いはワインディングではなく、高速道路のロングドライブだろう。つまり、これはGT(グランドツーリング)なのだ。

バランスのとれた優等生であった「V40」に、パワフルなディーゼルエンジンを搭載させることで、カラを破り、新しい価値観を提案する。それが「V40 D4 SE」であったのだ。

従来比で約2倍のトルクを発する「D4」とV40 D4 SEの組み合わせはパワフル。わずか1500rpmでも加速感はすばらしい

試乗車はオプションの「レザー・パッケージ」を搭載していた。本革シートに加え、助手席8ウェイパワーシートや、フロントシートヒーターを備える

D4を搭載するモデルは、エコカー対象なので自動車取得税・重量税が免税(100%減税)となり、翌年度の自動車税も75%減税となる

鈴木ケンイチ
Writer
鈴木ケンイチ
新車のレビューからEVなどの最先端技術、開発者インタビュー、ユーザー取材まで幅広く行うAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。
記事一覧へ
田中 巧(編集部)
Editor
田中 巧(編集部)
通信を中心にしたIT系を主に担当。Androidを中心にしたスマートデバイスおよび、モバイルバッテリーを含む周辺機器には特に注力している。
記事一覧へ
記事で紹介した製品・サービスなどの詳細をチェック
関連記事
SPECIAL
ページトップへ戻る
×