“弾丸”試乗レポート

ジャストサイズSUV! メルセデス・ベンツ「GLC」インタビュー&試乗レポート

メルセデス・ベンツからミドルクラスの新型SUVである「GLC」が2016年2月9日より発売開始された。この新型モデルは、どのような魅力を備えているのだろうか? インポーター広報担当者へのインタビューと試乗を通して、モータージャーナリストである鈴木ケンイチ氏がレポートする。

CクラスベースのSUVとして登場したGLC。その狙いや試乗レポートをお届けしよう

CクラスベースのSUVとして登場したGLC。その狙いや試乗レポートをお届けしよう

人気の「Cクラス」ゆずりの高い安全性と快適性が魅力

メルセデス・ベンツ日本 マーケティングコミュニケーション部 製品広報課 アシスタントマネージャーの澤井裕規氏

試乗を前にインポーターであるメルセデス・ベンツ日本の製品広報担当者に話を聞くことができた。まずは、インタビュー形式でお伝えしよう。

鈴木:新型GLCは、これまで「GLK」と呼んでいたモデルの次世代モデルですが、どのようなモデルなのでしょうか?

澤井:新型のGLCを弊社では、メルセデス・ベンツの新世代プレミアム・ミドルサイズSUVと呼んでいます。簡単に言うと「Cクラス」のSUVです。2014年に発売したCクラスは、カメラやレーダーを使った自動運転に近い安全運転支援システムを搭載した、安全性の高いセダンです。このシステムは快適性にも貢献しています。

鈴木:GLCは、エンジンを縦置きにしていますし、インテリアも、ほぼCクラスと同じ。プラットフォームもCクラスと同じですか?

澤井:そうです。ただし、セダンのCクラスはボディにアルミを50%使っていますがGLCは17%です。GLCはその代わりに高張力鋼板や熱間成形の高張力鋼板を多く使っています。適材適所といっていますが、それでSUVに必要な剛性を持たせています。

鈴木:上屋が違うだけでなく、SUVとしての工夫もあるということですね。そういえばメルセデス・ベンツにはSUVが意外と多いんですよね?

メルセデスのデザイントレンドにのっとったボディは都会的な雰囲気

メルセデスのデザイントレンドにのっとったボディは都会的な雰囲気

澤井:その通りです。たとえば昨年ですと、全体の売上げの16%がSUVでした。下は、コンパクトSUVの「GLA」から上は「Gクラス」まで5車種を用意しています。また、昨年の東京モーターショーに参考出品した、「GLEクーペ」を今年導入するので、6車種になる予定です。それ以外にも、東京オートサロンで参考出品した背の高いGクラスも導入を予定しています。

鈴木:確か「G550 4×4スクエアード」でしたね。

澤井:それと現行の「GLクラス」もフェイスリフトを控えています。そのため、今年はSUVイヤーだというわけです。昨年秋のGLE導入から始まり、12月のGクラスの一部改良型、今回のGLCの新規導入。年内にはGLEクーペとGLSも入ってきます。SUVのラインアップが軒並み新しくなるというわけです。

鈴木:なるほど、2016年はSUVの年なのですね。ちなみにGLCのお客さまはどんな感じなのでしょうか? 旧モデルであるGLKの話でもかまいません。

澤井:SUVで荷物がたくさん積めますので、週末に荷物を積んで遠出されたりと、比較的ライフスタイルがアクティブな方が多いですね。かつ、サイズがそれほど大きくないので、都市型のようです。

ラゲッジスペースは、標準時で550リッター、後席シートを倒せば16001500リッターの収納量を誇る

ラゲッジスペースは、標準時で550リッター、後席シートを倒せば1600リッターの収納量を誇る

鈴木:GLCのサイズは激戦区ですよね。各社でいろいろなSUVが用意されています。その激戦区にリリースするにあたって、GLCは何をアピールするのですか?

澤井:Cクラスゆずりの安全性と快適性です。同じセグメントの中では、唯一、いわゆるステアリングアシスト付きの、弊社ではディストロニックプラスと呼んでいますが、自動追従システムを搭載しています。また、ユーロNCAPのスモールオフロードクラスでは、ベストカーを受賞しています。

鈴木:それは5つ星というのではなくて、成績が一番よかったということですか?

澤井:5つ星の中での一番です。

鈴木:それはすごい。

ステレオカメラを搭載。このほか、各種のレーダーによりボディ周囲360度をほぼすべてカバーする

ステレオカメラを搭載。このほか、各種のレーダーによりボディ周囲360度をほぼすべてカバーする

澤井:それに積載量も550リッターから、最大1600リッターまで搭載できますし、後席も十分にスペースがあります。5人乗りですけれど、大人が4人、荷物をいっぱいに積んで快適に移動できるというクルマです。また右ハンドル仕様としました。GLKは左ハンドルだけでしたので、やはり右ハンドルがいいというご要望は多くありました。ですから、右ハンドルのある、あのサイズのSUVを求めていた方には響くかなあと思います。

大きさ的にも、最近のマンションの立体駐車場にも入るサイズです。GLAだと、雪国で深いワダチを走るのに車高がちょっと足りないというお声もいただいております。GLCだと車高も十分にありますからね。

国内モデルはいずれも右ハンドル仕様。ハンドルもよく切れるので、狭い路上でも使いやすい

国内モデルはいずれも右ハンドル仕様。ハンドルもよく切れるので、狭い路上でも使いやすい

鈴木:昨年はGLAが売上げにかなり貢献したと聞いていますが、今年はGLCがそういう役割となりそうですか?

澤井:そうですね。昨年は弊社全体で6万6000台を販売しましたが、そのうちの約2万1000台がCクラスだったんですね。それはCクラスの安全性や快適性というメルセデスのコアな価値を評価いただき購入していただけたと思うので。そのSUVがGLCですから……。

鈴木: AクラスよりもCクラスが売れているのだから、GLAよりもGLCが売れてもおかしくなさそうですね(笑)。

サイドステップなどオプションメニューも豊富

サイドステップなどオプションメニューも豊富

名称のルールを変更して、ラインアップをわかりやすく

メルセデス・ベンツのミドルサイズSUVとして2016年2月9日より発売された、新型GLC。これまではGLKと呼ばれていたモデルがフルモデルチェンジして、メルセデス・ベンツの新しい流儀の名称に変わった。

実のところ、メルセデス・ベンツは名称を整理しているまっ最中なのだ。コアな商品群となるセダンが、小から大へと、「Aクラス」「Bクラス」「Cクラス」「Eクラス」「Sクラス」と続くのは従来通り。これを基本に、SUVは頭に「GL」、4ドアクーペは「CL」、ロードスターは「SL」とつけ、その後に車格を表す文字をプラスすることになった。

具体的には、SUVでCクラス相当のモデルは、「GL」+「C」で「GLC」。もうひとつサイズ上は「E」なので、Eクラス相当のSUVは「GLE」となる。そして一番大きいSクラス相当が「GLS」。ちなみにもっとも古いモデルである「Gクラス」は、別格として名称変更なしで、そのまま「Gクラス」と名乗る。この名称変更によって、これまでの「GLK」「Mクラス」「GLクラス」が、「GLC」「GLE」「GLS」となる。ルールさえ把握していれば、ラインアップが理解しやすくなったのだ。

使いやすいサイズ感と、充実の安全装備を誇る

GLCは、メルセデス・ベンツの広報スタッフの言うように、Cクラスのプラットフォームを使って生まれたSUVだ。寸法は、全長4660×全幅1890×全高1645mm。トヨタ車でいえばハリアーと同等のサイズ。エンジンを縦置きのFRプラットフォームを使っていることもあり、19インチという大きなタイヤを履いていても最小回転半径5.7mを実現。日常使いで「大きすぎる」と困ることは、ほとんどないだろう。また、先代GLKよりも乗員スペースが大きくなった。特に後席は、足回りスペースが最大57mmも拡大している。

最小回転半径は5.7m。サイズから受けるイメージよりも取り回しはラク

最小回転半径は5.7m。サイズから受けるイメージよりも取り回しはラク

後席の居住性が大きく改善。特にレッグスペースが最大57mmも拡大した

後席の居住性が大きく改善。特にレッグスペースが最大57mmも拡大した

パワートレインは、2リッターの直列4気筒直噴ターボに9速ATを組みあわせる。最高出力は155kW(211馬力)、最大トルクは350Nm。先代GLKの3.5リッターV6エンジンと遜色ないパワーを絞り出す。ただし、ダウンサイジングターボ化したこともあり、燃費性能は約15%向上した13.4km/lとなっている。また、2016年中にプラグインハイブリッド、2017年にクリーンディーゼルモデルを導入する予定もあるという。

駆動方式は、フルタイム4WDの4MATIC。前輪33:後輪67という後輪駆動よりの基本駆動配分とし、状況に応じて前後トルク配分を自動で変更する。サスペンションには、走行状況に応じて、ダンパーの油圧の減衰力を変化させるセレクティブダンピングシステムを採用。快適な乗り心地とスポーティなハンドリングを両立させるものだ。

2リッターの直列4気筒直噴ターボに9速ATを組み合わせる。従来のGLKクラスの3.5リッターV6から大幅にダウンサイジングを果たした

ラゲッジスペースは、通常が550リッターで後席シートを畳めば、最大で1600リッターにまで拡大できる。テールゲートは自動開閉機能だけでなく、バンパー下に足を入れて左右に動かすと、それをセンサーが感知して自動で開閉を行うハンズフリーアクセス機能が用意されている。

最新の運転支援システムの充実もGLCの特徴だ。全モデルに「レーダーセーフティパッケージ」を標準装備とした。これは歩行者も検知する衝突被害軽減自動ブレーキの「PRE-SAFEブレーキ(歩行者検知機能)」、後方からの衝突の危険が迫ると自動でブレーキなどを作動させる「リアCPA(被害軽減ブレーキ付き後方衝突警告システム)」、斜め後方の死角をモニターする「アクティブブラインドスポットアシスト」、走行車線をはみ出しそうになると自動補正ブレーキで車線に戻ろうとする「アクティブレーンキーピングアシスト」などの安全装備に、ステアリング/アクセル/ブレーキを自動で行いながら走行車線をキープして前走車に追従する「ディストロニック・プラス(ステアリングアシスト)」という運転支援装備を含む。また、配光モードを状況にあわせて自動で切り替える「LEDインテリジェントライトシステム」も標準装備とした。このヘッドライトには、先行車や対向車をさける配光を行う「アダプティブハイビームアシスト・プラス」という機能も備わっており、夜間の視界を最大限に確保できるようになっている。また、縦列駐車と並列駐車をサポートする「アクティブパーキングアシスト」も採用。駐車のステアリング操作をシステムが代行してくれるもので、駐車が苦手な人におすすめの装備だ。

衝突回避の運転支援システムは、短・中・長距離の各レーダーに超音波ソナー、ステレオカメラで、前方だけでなく斜め後方から真後ろまで、車両の360度を監視するという凝ったものを使っている。安全装備の充実度では、クラストップレベルといっていいだろう。

最新の安全装備の数々は、ベースモデルとなるCクラス譲りの充実ぶり

最新の安全装備の数々は、ベースモデルとなるCクラス譲りの充実ぶり

重厚な走りと落ち着いた雰囲気が味わえる

続いて、実際に走らせた印象をレポートしたい。ドライバーシートからの眺めは、ちょっと視線が高いかなという程度で、後はほとんどセダンのCクラスと変わらない。ピアノブラックのセンターパネルとシルバーの加飾に縁取られたブラックレザーのインテリアは、落ち着いた上質を感じさせる。それでも、センターパネルに並ぶ3つの丸いルーバーはAクラスとも同じ意匠で、若々しさも感じられる。プレミアムだけど、色気もチラリ。そんな雰囲気だ。

Cクラスのイメージを強く残すインテリア。若々しさに加えて所々にエモーショナルな要素も混じる

Cクラスのイメージを強く残すインテリア。若々しさに加えて所々にエモーショナルな要素も混じる

ステアリングの手応えはズシリとしたもの。加速のパワー感は十分。ただし、このエンジンは音も振動もミニマムで、存在感が非常に薄い。9速もあるトランスミッションのシフトアップが小刻みなことも手伝い、滑るような加速だ。足元は大きく重い19インチのタイヤだが不快な突き上げはない。それでもコーナリング中のロールは少ない。これが減衰力を変化させるセレクティブダンピングシステムの恩恵なのだろう。全体として重厚感のある走りであった。

走り終えてみれば、「なるほど! メルセデス・ベンツらしいSUVだな」と納得した。驚くほど速かったり、コーナリングが楽しいわけでもない。しかし、人と荷物を余裕で載せて、ゆったりと落ち着いた雰囲気の中、重厚に走る。満載した安全デバイスもあるから、気持ち的にも安心感は高い。A地点からB地点まで、効率よく安心かつ安全に人と荷物を運ぶ。そんなクルマの基本に忠実なSUV。これこそがメルセデス・ベンツならではのコアな価値であり、GLCの魅力なのだろう。

メルセデスのSUVに一貫する重厚な印象と広大なラゲッジの使い勝手がもたらす、すぐれたツールというキャラクターは健在

鈴木ケンイチ
Writer
鈴木ケンイチ
新車のレビューからEVなどの最先端技術、開発者インタビュー、ユーザー取材まで幅広く行うAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。
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田中 巧(編集部)
Editor
田中 巧(編集部)
通信を中心にしたIT系を主に担当。Androidを中心にしたスマートデバイスおよび、モバイルバッテリーを含む周辺機器には特に注力している。
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