自動車ライターがズバッと解説! 3分でわかる自動車最新トレンド

進化と多様化の進む「トランスミッション」をキーにクルマを選ぶ

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自動車に関係する気になるニュースや技術をわかりやすく解説する連載「3分でわかる自動車最新トレンド」。連載13回目の話題は、トランスミッションだ。8段や9段、はては10段まで視野に入ってきた多段化するAT、ヨーロッパ車で目立つDCT、国産小型車では主流のCVTなど、現在の自動車のトランスミッションは多様化している。そのいっぽうで、変速不要の電気自動車も普及してきている。モータージャーナリストの森口将之氏が解説する。

CVTが多い日本、ATが主流のアメリカ、MT比率が高い欧州など、トランスミッションの好みには地域差がある。また、写真のようなスポーツカーでは今でもMTが好まれる

トランスミッションの本質は、低回転域が弱いエンジンを補うこと

自動車のメカニズムで、エンジンやサスペンションとともに不可欠な存在であるトランスミッション。ではなぜエンジンだけではクルマは走らず、トランスミッションが必要なのか、ご存知だろうか。

自動車の歴史で主力であり続けてきたのがガソリンエンジンだ。しかし、このガソリンエンジン、最高出力や最大トルクの発生回転数を見ればわかるように、力を発揮できる回転域が限られている。特に超低回転では、自動車のボディを動かすような力はとても発揮できない。

そこで数種類のギアを使って、速度に応じて使うギアを変えることで、常に効率のよい回転域を使えるようにした。さらに、スムーズに発進できるように、クラッチなどを使って徐々に力が伝わるようにした。これがトランスミッションの原理だ。

当初はいわゆるMT、つまり「マニュアル・トランスミッション」しかなかったが、クラッチ操作なしにギアチェンジができる、いわゆる半自動変速機は、かなり前に生まれている。もっとも有名なのは、1908年に登場した「フォードT型」だ。多板クラッチと遊星歯車を用いた2段変速で、変速ペダルを踏んだり離したりしてギアチェンジを行っていた。

フォードT型というと、流れ作業による大量生産方式で車両価格を大幅に下げたことが評価されているけれども、多くの人に受け入れられた理由のひとつとして、この半自動変速機があったことは間違いない。

流れ作業による大量生産で知られる「フォードT型」だが、操作の簡単な半自動変速機の採用も普及の大きな要因だった

アメリカで生まれたAT。その後、世界各地で独自の進化を遂げた自動変速機

その後も数種類の半自動変速機が開発されたが、真の自動変速機と呼べるものは、同じアメリカのGM(ゼネラルモーターズ)が第2次世界大戦直前に市販化した。トルクコンバーター(以下、トルコン)の原型である油圧カップリングと遊星歯車を組み合わせたものだ。これがトルコン式ATのルーツである。

つまり自動変速機能の歴史はアメリカから始まり、その後、日本やヨーロッパに伝わっていくことになる。しかしヨーロッパでは今でもMTが主流なのに対し、日本では自動変速機比率が100%近くと、本家アメリカを抜く勢いになっているなど、地域による差が大きい。

しかしながら、現在ATとともに自動変速機の主流となっているCVTやDCT(デュアルクラッチ式トランスミッション)は、どちらもヨーロッパで生まれたものだ。

CVTは「コンティニュアスリー・バリアブル・トランスミッション」の略で、直訳すれば「連続可変変速機」となるが、一般的に「無段変速機」と呼ばれる。実用化したのは、現在はトラックメーカーとなっている、オランダのダフ(DAF)だ。

CVTは、コマを向かい合わせにつなげたような断面をした2つのプーリーにベルトを掛けて力を伝達する。このプーリーの幅が狭まったり広がったりすることで径が変わり、これにより無段階の変速を行うという原理である。ただし、そのままではMT同様、発進ができないので、現在はトルコンを用いるのが一般的になっている。

向かい合わせになった巨大なコマのようなプーリーの幅の増減で変速を行うCVT。写真はトヨタの「Super CVT-I」

いっぽうのDCTは、MTのクラッチやギアチェンジを自動化したことが出発点で、市販車ではフェラーリがF1技術のフィードバックとして導入したのが最初。その後、同じフィアットグループのアルファ・ロメオにも搭載された。

このときは、クラッチはひと組で、シフトアップのために減速感が生じたが、その後、奇数段ギアと偶数段ギアにそれぞれひと組ずつのクラッチを使い、交互につないだり切ったりすることで変速ショックをなくす方式が生まれた。これがDCTで、ポルシェがレースで使ったものを、同じフォルクスワーゲン(VW)グループが市販車に搭載したのが最初だった。

別々に作られた奇数段ギアと偶数段ギアを相互に切り替えるDCT。MTの効率やダイレクトさを兼ね備えた自動変速機だ。写真はフォルクスワーゲンの「DSG」

AT、CVT、DCTというこれら3つの自動変速機は、ある程度の使い分けがなされている。国産小型車がCVTを多く使うのに対し、ヨーロッパの同クラスはDCTを採用することが多い。アメリカ車はATがメインで、大型高級車では国籍を問わずATを選んでいることが多い。

CVTは、ギア比が無段階に設定でき、エンジンのもっとも効率のよい領域を使い続けることができるので、燃費を追求するには好都合だ。しかし、ハイスピードまで対応しようとすると、プーリー径も拡大しなければならない。さらにプーリー径を変化させている最中は、伝達効率が落ちるという欠点もある。

しかし、日本では現状、最高速度が100km/hと低いし、加減速もおだやかなので、上記のような欠点があまり問題にならない。そこで、CVTが主流になっているようだ。

クルマの流れが比較的遅い日本では、容量不足というCVTの欠点は表れにくいため、国内メーカーの小型車ではCVT搭載車が多い。写真はトヨタ「パッソ」

逆に欧州では、今なおMTが主流であり、ギアを切り替えて加速していくフィーリングを重視するので、エンジン回転と速度が一致しないCVTは好まれず、MTをベースとしたDCTが好まれているようだ。

ただしMTやDCTのクラッチの容量は、エンジンのトルクに比例して大きくしなければならない。この点はCVTと同じジレンマだ。そこで大型高級車では、トルコンが力を吸収してくれるATを用いることが多い。またATは伝達に液体を使っているのでスムーズさで勝ることも、高級車に用いられる理由である。

MTが主流の欧州では、ATやCVTの操作感が敬遠される傾向があり、DCTが人気

MTが主流の欧州では、ATやCVTの操作感が敬遠される傾向があり、DCTが人気

油圧を使ったトルコンATは、大トルクにも耐え動作もスムーズ。こうした利点のため、ヨーロッパでも大型高級車のセグメントでは、トルコンATが主流

ATの多段化は進みつつ、トランスミッション不要の電気自動車も一般化

ATの進化で最近目立つのは多段化だ。少し前までは6速がマックスだったのに、今では9速が市販され、メーカーによっては10速を用意しているところもある。筆者は10速のプロトタイプに乗ったことがあるが、違和感はなかった。CVTに近いきめ細かい変速をすることで、燃費を向上させる効果はたしかにあるだろう。

しかしその分、コストはかさむ。燃費がよくなるからその分価格も高くなりますというのは、かつてのデジタルカメラの画素数競争と同じで、カタログスペック重視のきらいがあり、消費者の実利になるかは疑問が残る。そもそも最高速度100km/hの日本では、7速以上のATやDCTではトップギアに入らないことが多い。日本の道では6速あれば十分ではないかという思いもある。

自動変速機が普及した理由のひとつに、MT風にギアを変えながらドライブできる、マニュアルモードの存在があると考えている。山道や坂道では、エンジンブレーキが重宝する。そのために当初は、セレクターレバーが生える部分にマニュアルモードのパターンを加えていたが、現在はF1由来のパドルシフトが一般的になっている。

逆にパドルがあれば、従来のようなレバーは必要性が薄くなる。よって一部の自動変速機ではレバーの代わりにボタン操作としている車種も増えてきた。国産車ではホンダの「レジェンド」や「アコード」、そして次期「NSX」がこの方式を使っており、慣れるとなかなか扱いやすい。

油圧や電子制御が一般化している昨今、シフトレバーは必須の存在ではなくなっている。スポーツカーでも、次期「NSX」では、シフトチェンジはボタン操作だ

しかし、今後もトランスミッションが発展を続けていくかというと、そうとも言えない。そもそも、トランスミッションを持たないクルマが登場しているからだ。ハイブリッドカー(HV)や電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)など、モーターで走るクルマたちである。モーターは超低回転で最大トルクを発生するので、クラッチやギアボックスがなくても発進できることが大きく関係している。

電気自動車や燃料電池自動車はトランスミッションなしが当たり前になっているし、エンジンを併用するハイブリッドカーでも、たとえばホンダのアコードやオデッセイはトランスミッションを持たない。

一部の車種はパドルシフトを備えているけれど、これは実際には回生ブレーキを調節するためのコントローラーであり、変速を行っているわけではない。ただマニュアルモード同様、山道や坂道ではありがたい装備なので、今後もこうしたバーチャルなトランスミッションの搭載例は増えるだろう。

写真の日産「リーフ」のような電気自動車では、ガソリンエンジンと異なり、原理的にトランスミッションは不要

簡単になりすぎた操作の反動か、MTの見直しの動きも見られる

このような自動変速機の発展により、もはやMTの出る幕はないと思う人もいるかもしれない。確かに最近の自動変速機の進化は目覚ましく、かつては苦手とされていた燃費もMTを上回るようになってしまった。しかしMTの美点はまだまだある。

ひとつは安全性だ。最近頻発しているペダル踏み間違いによる事故は、発進時にクラッチ操作が必要となるMTでは起こらない。つまりこの面での安全性は高いと言える。

もうひとつ、ドライバーが自分の手足を使って、好きな場所に行けるというのが自動車の根源的な魅力であり、それを存分に味わいたいなら、MTに勝るトランスミッションはない。

その点を見直す動きもある。今年発表された軽自動車のスポーツモデル、スズキ「アルト・ワークス」では、CMのキャッチコピーに「いま、マニュアルに乗る。」というフレーズを使っているし、国産車ではマツダ、輸入車ではルノーなど、実用的な車種にMTを設定しているブランドもある。

日本人は自動車に限らず、全自動のおまかせモードが好きだ。そのマインドが世界有数の自動変速機大国を育んだ。しかしMTは決して古いメカニズムではない。電動化によってトランスミッションそのものが消滅する可能性があるからこそ、自分の手足を動かして速さを求めるMTに再び注目が集まっているのではないかと思っている。

自動運転技術が注目されている昨今だが、MT搭載をアピールするクルマも登場し、そのダイレクトな操作感が再評価されている

森口将之

森口将之

1962年東京都生まれ。自動車業界のみならず、国内外の交通事情や都市計画を取材しメディアを通して紹介。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

製品 価格.com最安価格 備考
アルトワークス 2015年モデル 0 MTの搭載が特徴のひとつとなっているホットハッチ軽自動車
パッソ 2016年モデル 0 CVTを搭載するトヨタの最新コンパクトカー
ジュリエッタ 2012年モデル 0 デュアルクラッチ「Alfa TCT」を搭載するアルファロメオのハッチバック
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2017.4.25 更新
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