自動車ライターがズバッと解説! 3分でわかる自動車最新トレンド

ミニバンもスポーツカーも、機能がカタチを決定する。自動車のエクステリアデザイン

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自動車に関係する気になるニュースや技術をわかりやすく解説する連載「3分でわかる自動車最新トレンド」。連載15回目の話題は、エクステリアデザインだ。感覚的な判断から少し離れた視点で、デザインの良し悪しを再考してみよう。グッドデザイン賞の審査委員を務め、自動車デザインに造詣の深いモータージャーナリストの森口将之氏が解説する。

クルマの“よいデザイン”の多様性を示す、「タント」のグッドデザイン金賞受賞

“カッコいい車”とは一見思えないダイハツ「タント」。しかし、使いやすく、かつ美しくデザインされたことで2013年にグッドデザイン賞の金賞を受賞した

多くの人が、クルマを買うときのポイントにあげるエクステリアデザイン。筆者も例外ではなく、これまで所有した車両の多くはデザイン重視で選んできた。でもそこに学術的な根拠はなく、単に個人の好みで美しい、カッコいいと感じたクルマを選んできたのも事実だ。

しかし、2013年、この基準を根底から変えるような出来事が起こる。筆者はこの年から3年間、グッドデザイン賞の審査委員を務めることになったからだ。それ以前からデザインの研究団体に属したりして、現役のデザイナーと意見交換をした経験はあった。しかし、審査というシビアな場で意見を戦わせるのは初めて。その場に身を置くうちに、カーデザインに対する考えが変わっていった。

2013年度のグッドデザイン賞で、乗用車で唯一、金賞に選ばれたのが、軽自動車のダイハツ「タント」だった。この結果を知って、多くのクルマ好きは疑問を抱いたかもしれない。「カッコいいとは言えないじゃないか!」と。そうかもしれない。でも、カーデザインは、カッコの善し悪しだけが判断基準ではない。

自動車は工業製品であり、そのデザインは工業デザインとしての側面も持つ。さまざまな機能や基準を高次元で満足させたうえで、美しく使いやすい造形に仕立てるのが工業デザインだと思っている。タントのようなトールワゴン型の軽乗用車では、そういう考え方が重視されるべきだ。

現行タントは、助手席側のスライドドアをピラー内蔵とすることで開口部を広く取り、新しいクルマの使い方を提案した。さらに車体前後のパネルに樹脂を多用することで、造形の自由度を高めるとともに、軽量化による環境性能向上を目指している。どちらもカッコよさを追求したデザインではないが、日本人のクルマの使い方に真摯に応えた結果であり、それが評価につながったと考えている。

スライドドアにピラーを内蔵させ、柱のないボディを実現した「タント」。ユーザーの使い勝手を追及したデザインが評価された

西洋と東洋とで異なるクルマのデザインの考え方

もうひとつ、グッドデザイン賞の審査では、とある選考委員から「軽自動車は東洋(アジア)の価値基準から生まれた自動車なので、西洋(ヨーロッパ)の価値基準だけで判断すべきではない」という意見が出てきた。

カーデザインには、スピードやハンドリングを連想させるような、ダイナミックでエモーショナルな造形も大切だと思う。多くのクルマ好きが考える「カッコいいクルマ」とは、この面が長けた車種となるはず。こうしたカーデザインを得意としてきたのがヨーロッパだ。ヨーロッパには古くからの狩猟文化が息づいており、その祖先は、長距離を一気に疾走する生活を送ってきた。たとえばBMWは、そんなヨーロッパの価値観を代表するブランドと言えるかもしれない。

心地よいハンドリングや、エンジンの躍動感をイメージさせるデザインが多いBMW。ヨーロッパの価値観で作られたクルマの代表と言えるだろう

いっぽうのアジアは、「古くから農耕文化の影響が強い。地球全体の3割強の面積に世界の総人口の約6割が住む人口密集地域ということもあり、短距離低速移動がメインになるから、それにふさわしいカーデザインになるのは当然」と、その選考委員の主張が続いた。

筆者はこの「アジア的(東洋的)」という言葉に衝撃を受けた。これまで日本車、ヨーロッパ車、アメリカ車という分け方しかしなかった視野の狭さを反省した。いままであいまいだった軽自動車の立ち位置が、一気にクリアになった瞬間でもあった。

日本とヨーロッパとでは、クルマの「顔」に対する考え方の違いもある。ヨーロッパ車は、同じブランドのすべての車種を同様の顔で揃えることが多い。日本でもスバルやマツダなど、海外での販売比率が高いブランドはその傾向にある。しかしトヨタや日産は車種ごとに顔が違う。

これについて、ブランド戦略が中途半端だと批判する人もいるが、日本は元々八百万(やおよろず)の神の国なので、一神教のキリスト教を崇拝するヨーロッパとは違う価値観があってよいという意見もある。たしかにスポーツカーからミニバンまで無理に同じ顔にしたことで、不自然なデザインになっている車種もいくつかある。

最近危惧しているのは、ブランドイメージとしての評価で「カッコいい」という表現を使うことが多くなり、個々のクルマのデザインに対する評価との区別があいまいになっていることだ。デザインの評価は車種ごとに下されるべきであり、ブランドイメージとは分けて考えるべきだと思っている。

写真はスバルの次期型「インプレッサ」。マツダやスバルのように海外の販売比率が高いメーカーは、ブランドとしての統一感を持たせる意図もあり、フロントのデザインに共通するモチーフを採用する傾向がある

スポーツカーのデザインも、最初に機能ありき。機能美優先で作るからこそ美しくなる

多くのクルマ好きが「カッコいい」という評価軸で語ることが多いスポーツカーもまた、機能の結晶である。これは昨年発売された現行マツダ「ロードスター」のチーフデザイナー、中山雅さんから教えられたことだ。

試乗後にテーブルを囲んで話をする機会があったときのこと、中山さんはテーブルに置いてあった紙をおもむろに裏返すと、ペンを走らせはじめた。描いたのはランボルギーニの「ミウラ」と「カウンタック」だった。

マツダのデザイナー、中山雅さんが描いたスケッチ。フロントミッドシップの「ロードスター」は、ボンネットが長くなる

V12エンジンを縦置きにしたミッドシップのランボルギーニ「カウンタック」。座席後方のエンジンが大きなスペースを占める

同じV12エンジンでも横置きミッドシップにする「ミウラ」と、縦置きミッドシップにする「カウンタック」ではプロポーションが異なる。ドライバーとパワートレインのレイアウトが基本的なシルエットを定めていることがわかる

単なるイラストではない。真横から見たときの前後のタイヤとドライバーとパワートレインの位置関係を描き、両車のスタイリングがパッケージングと密接に関わっていることを説明してくれた。カッコよさ重視の形ではない。むしろその逆で、スポーツカーにとって大切な走りをよくするためには各機能をどう配置するかを、何よりも優先したデザインであることを教えてくれた。

現行のロードスターも例外ではない。ドライバーとパワートレインをホイールベース内に収めた上で、前後のオーバーハングは運動性能を高めるべく、横から見ても上から見ても極限まで削ってある。前後のライトがLEDとなったのは、 限られた場所に収めるにはLEDしかなかったという理由もある。ボディに無駄なプレスラインは一切ない。機能最優先の形である。

極限まで切り詰めた前後のオーバーハングやプロポーション、LEDライトなど、機能が必要としたデザインが結実している現行「ロードスター」

ほかにも機能重視の自動車はある。トラックやバスだ。求められる目的に沿ったデザインを真摯に施していくから、遊びを盛り込む余裕などない。でもそれを美しく仕上げることで、いわゆる機能美が生まれることも多い。ヘビーデューティーSUVもここに含まれるだろう。スズキ「ジムニー」の根強い人気は、工業デザインの本流を貫いたところが大きいと思っている。

でも、ジムニーのようなクルマは少数派だ。最近の自動車シーンで目立つのは、クロスオーバーモデルのように、複数のジャンルの魅力を兼ね備えたとアピールする車種が多いことである。こうしたクルマのデザインは、複数のキャラクターをひとつのボディに盛り込んだ結果、デザインが煩雑になって、「二兎を追う者は一兎をも得ず」状態になっていることも多い。

20世紀のデザインは自動車に限らず、付加価値をどんどん加えていく、足し算型デザインが主流だった。しかしもう、行き着くところまで行ってしまった感がある。21世紀はその反省から、シンプルでスマートな引き算型デザインが主流になることを期待したい。

ロードクリアランスが高く悪路に強い、狭い山道で必須な軽く頑丈なボディなど、日本の国土が求めた機能性をカタチにしたスズキ「ジムニー」のデザインは今でも根強い人気がある

「線と面のつながり」を意識することで、全体としてのデザインクオリティが上がる

もうひとつ個人的にカーデザインで印象に残っているのは、今年5月、イタリアのデザインスタジオでコンセプトカーが作られる過程をドキュメントで追ったNHKの番組に出演した時だ。

そこではでき上がったデザインを、デザインスタジオの首脳陣が、あえて遠くから眺めていた。クルマは走っている時の姿が大事だからこそ、遠くから眺めたときの印象が重要というメッセージが伝わってきた。

イタリア人の著名なカーデザイナーであるジウジアーロ率いるイタルデザインが手掛けたマセラティ「3200GT」。遠くからでもシルエットの美しさが際立つ。1998年に登場したものの、今でも強い存在感を放ち続けている

一部の日本車はその逆で、細かいディテールにはこだわるけれど、遠くから眺めると線や面が弱く、存在感がイマイチであることが多い。これもまた東洋と西洋の思想の違いかもしれないが、100m先からでも車名が言い当てられるような強烈な個性を持っているのは、やはり欧米のクルマが多い。

それぞれの線や面に意味はあるか、つながりや並びをしっかり考えているかどうかも、きれいに見えるかどうかを左右すると思っている。ホンダ「S660」がスタイリッシュに見える理由のひとつは、フロンドフェンダーのルーバーとキャビン背後のロールバーの斜めのラインの角度が一致していることが大きいのではないだろうか。

ホンダ「S660」では、フロントフェンダーのルーバーとロールバーのラインが角度的に一致している

ホンダ「S660」では、フロントフェンダーのルーバーとロールバーのラインが角度的に一致している

手前味噌になってしまうが、筆者が10年以上所有し続けているルノー「アヴァンタイム」もまた、ヘッドランプやリアコンビランプ周辺の線や面のつながりがしっかり考えられていて、それがフォルムを美しく見せる要因になっていることに気付く。特徴的なリアまわりの造形は、クーペということでキャビンを短く見せるためのテクニックだった。

真に素晴らしいデザインのクルマは、年月が経っても色褪せることがない。だから長く付き合っていても飽きない。そういう点でも、カーデザインを真剣に見ていくことは、とても大事ではないかと思っている。

ミニバンのシャシーをベースに2ドアクーペを作り上げたルノーの「アヴァンタイム」は2001年に登場した。当時からデザインに注目されていたが、いまだに新鮮さは失っていない

フランス車を所有する筆者は、西洋的なエモーショナルなクルマのかっこよさをもちろん肯定する。だが、そうでないトールワゴン、ミニバン、軽自動車、トラックやバス、ヘビーデューティーなSUVのようなクルマには、それらが求められる歴史や背景に根ざした、美意識が宿っているはずだ。また、最近はクルマの買い替えのサイクルが伸びたこともあり、せつな的な流行よりも、機能の本質に迫るような飽きのこないデザインの重要性が増している。デザインを読み取ることは、そうした文化や背景を理解することでもある。

森口将之

森口将之

1962年東京都生まれ。自動車業界のみならず、国内外の交通事情や都市計画を取材しメディアを通して紹介。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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2017.6.22 更新
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