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コスト対策から生き残りへと目的が変わりつつあるクルマの「共同開発」

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2016年10月12日に、ダイハツを傘下に置くトヨタ自動車が、ライバルのスズキとアライアンスを組むという驚きの発表があった。その背後には、自動車を取り巻く大きな環境変化がある。それを読み解くキーワードのひとつが「共同開発」だ。昨今相次ぐ自動車メーカーの複雑な同盟関係を「共同開発」という切り口で、森口将之氏が読み解く。

イタリアのスポーツカー、アバルト「124スパイダー」は、マツダ「ロードスター」との共同開発車だ。その背景には、開発リスクの低減やコストダウンの狙いがある

スポーツカーや大型SUVなどで成功例の多い、クルマの「共同開発」。その目的はコストやリスクの分散

2012年、トヨタ自動車と富士重工業のスバルが手を組んで、スポーツカーの「86」と「BRZ」を送り出し、そのトヨタはBMWとの提携関係の中で、かつての「スープラ」に相当する、86よりもひとクラス上のスポーツカーの開発を進めている。さらに今年はマツダ「ロードスター」をベースとしたイタリアンスポーツカー「アバルト124スパイダー」が発売された。

スポーツカー以外でも、たとえばダイムラーの「スマート」とルノー「トゥインゴ」といった共同開発がある。とにかく最近、異なるブランドが手を組んでクルマ作りを進める事例が多くなりつつある。

なぜ多くの自動車メーカーが共同開発という手法を選ぶのか。もっとも大きな理由は開発コストの低減だ。今の自動車メーカーは、自動運転時代到来に向けた技術開発を始めとして、 さまざまな課題に取り組んでいかなければならない。その中では、開発資源を効率化して既存の車種に関してはコストダウンを進めていかざるをえない、それによって走りやデザインがレベルダウンすることは許されないことだ。

そこで同じような車種を生み出そうと思っているブランドが手を組み、一緒に開発を行うことになったのである。昔であれば、ライバルと手を組んでクルマ作りをするなど許されないという空気感があったが、裏を返せばそれだけ、今の自動車市場を取り巻く状況はシビアなのである。

1メーカーで単独では採算の合わない野心的な車こそ、共同開発のメリットが大きい

従来は、同じ企業グループ内のブランドでの共同開発が多かった。特にひとつのグループに多くのブランドを擁する輸入車で目立っていた。米国車は第2次世界大戦前から複数のブランドでプラットフォームやエンジンを共有していたし、欧州でも英国では1950年代からこの方式を導入していた。

近年の同一グループ内共同開発の例としては、フォルクスワーゲン(VW)グループに属するポルシェの大型SUV「カイエン」とVW「トゥアレグ」、アウディ「Q7」がある。

それまでポルシェは、「911」のようなスポーツカーしか作ってこなかったが、それだけでは会社としての成長を望むことが難しい。そこで新たなジャンルとしてSUVを選んだ。VWやアウディも、大型SUVを持つことで新しいマーケットを狙いたいと考えていた。

しかし、スポーツカー専業のポルシェ、大型車高級車を得意とはしないVW、SUVの経験がないアウディのSUVが売れるかどうかは未知数。それほど売れなかった場合も考え、3ブランドの共同開発としたのだろう。しかしご存知のとおり、カイエンは大ヒットとなった。共同開発が吉と出たわけだ。

最初にあげたトヨタ「86」とスバル「BRZ」のペアも、トヨタが富士重工業の筆頭株主であることを考えれば、同じグループ内のプロジェクトと見ることができる。

トヨタ「86」とスバル「BRZ」も共同開発されたことは有名。これも同一グループ内のプロジェクトといえる

トヨタ「86」とスバル「BRZ」も共同開発されたことは有名。これも同一グループ内のプロジェクトといえる

ここで注意してほしいのは、OEM供給は共同開発ではないこと。たとえばトヨタのコンパクトカー、「パッソ」は、旧型はダイハツ工業の「ブーン」との共同開発車だったが、現行モデルは開発から生産まですべてダイハツが行い、パッソはエンブレムなどを付け替えただけの完全OEM生産となっている。

またエンジンに関しては、基本的にグループ内の1社が開発を行い、それをほかのブランドにも展開するという体制が主流だ。ルノー「ルーテシアR.S.」に積まれている1.6L直列4気筒ターボエンジンは、アライアンスパートナーである日産自動車の「ジューク16GT/ニスモ」に搭載されているものと基本的に共通で、ベースの開発は日産で行われた。
しかし、冒頭で取り上げたトヨタとBMWとの間には、資本関係はまったくない。マツダとアバルトを擁するフィアットの間もまた同じである。そしてどちらもスポーツカーの共同開発という点が共通している。
スポーツカーは台数がかせげない。これはカイエンのところでも書いたとおりであり、巨大企業トヨタであっても同じことだ。それでいてスポーツカーはクルマ好きに夢を与える存在であり、テクノロジーにもデザインにもこだわりが必要とされる。車両そのもののコストダウンは許されない。
だから単独では採算が取れないという場合が多い。そこでトヨタはBMW、フィアットはマツダと手を結ぶことで、スポーツカー作りを目指したのだ。

前述した「スマート」とルノー「トゥインゴ」の場合も、作り手であるダイムラーとルノー・日産アライアンスとの間に資本関係はない。

スマートは当初、販売台数が思ったほど伸びず、赤字に悩んでいた。その後、人々の環境意識の向上にともない、このクルマに注目する人が増えて、経営状況は持ち直しつつあるが、リアエンジンという専用メカニズムを持つ2人乗りの超小型車だけで採算をとるのは難しいこともまた確かだった。

いっぽうルノーは、トゥインゴに付加価値を与えることで、低価格だけで勝負するコンパクトカーからの脱却を目指していた。そこで小回りが効き、室内が広く取れ、独特のハンドリングが味わえるリアエンジンを採用したいと考えた。

写真のルノー「トゥインゴ」とダイムラー「スマート」も共同開発モデル。リスクの大きい、野心的な設計を持ったクルマで共同開発の手法が使われることが多い

そこで両社は提携し、スマートには2人乗りの「フォーツー」だけでなく4人乗りの「フォーフォー」も用意し、トゥインゴはこれとプラットフォームやエンジンを共通とすることで、少ない開発予算でお互いの理想を実現としたのだ。生産も、フォーツーは従来どおりスマートの工場で行い、フォーフォーとトゥインゴはルノーの工場が担当という分担をしている。

両社の共同プロジェクトはこれにとどまらない。たとえば日産「スカイライン」にはダイムラーのメルセデス・ベンツ製エンジンが搭載されているし、欧州ではルノー「カングー」とボディやエンジンを共用するメルセデス・ベンツ「シタン」という小型商用車が販売されている。

日産「スカイライン」のターボエンジンはダイムラー製。シャシーにとどまらず、開発に多額の投資を必要とするエンジンなどのパワートレインも共同開発されることが多い

「トヨタ=スズキ」、「ホンダ=ヤマハ」など、従来型ではない共同開発・アライアンスの目的とは?

これらの共同開発は、いずれも主目的がコスト削減、リスクの分散にある点では共通している。だが、最近のニュースを見ると、別の目的を持った共同開発・アライアンスが登場し始めている。

燃費問題で注目を浴びることになってしまった三菱自動車が日産と共同開発した軽自動車の場合は、そのためにNMKVという会社が作られた点で特筆される。軽自動車は日本独自の規格であり販売台数は限られる。しかも、国内市場ではスズキとダイハツ工業という2大勢力がいる。こうした状況の中で、生き残りをかけてコストを抑えつつシェアを伸ばしたいという思いが、合弁会社設立につながったようだ。

ただしこちらは、三菱の燃費問題が明るみに出た結果、日産が三菱を傘下に収めることになった。よって今後は同一グループ内の共同開発として扱われることになるだろう。

2つ目のトピックは、2輪車の分野で発表された驚きのニュースだ。ライバル同士であるはずの本田技研工業(ホンダ)とヤマハ発動機が、原付1種(50cc以下)の分野での協業検討に入ったという内容だ。

原付1種と言えば、かつては気軽な足として多くの人が乗り、1980年前後にはホンダとヤマハが激しい販売競争を繰り広げ、「HY戦争」という言葉まで生まれたほどだった。しかし、ひとり乗りで最高速度は30km/hという制限はそのままに、ヘルメット着用義務や多くの交差点での2段階右折などのルールが追加されたことで敬遠されるようになり、また電動アシスト自転車というライバルも生まれたことで、現在その販売台数は全盛時の10分の1近くまで落ち込んでいる。

しかも、東南アジアや欧州など、海外での小型2輪車は125ccが主流。50ccが主流になのは世界的にも日本ぐらいであり、国内専用規格である軽自動車と状況は似ている。こうした状況の中で、存続のためには手を結ぶしかなかったという決断に至ったのかもしれない。

縮小した50ccバイク市場。規格も国内独自で制限が多い。そんな閉塞した状況に対応するため、ライバルのホンダとヤマハは提携した

自動車業界を取り巻く状況を考えれば、今後もこうした共同開発は増えていくだろう。と書いてきたところで、トヨタがスズキとの間で業務提携の協議に入ったというさらに驚きのニュースが飛び込んできた。

トヨタグループにはダイハツが属しており、スズキとダイハツとの間で軽自動車の共同開発が進むことは多くの人が予想するだろう。だが、それにとどまらず、新興国向けのコンパクトカーから次世代をにらんだ燃料電池自動車まで、さまざまなジャンルで協業が進んでいくことが予想される。トヨタが出資するヤマハとホンダの原付1種での協業検討に、スズキが加わるという状況もあるかもしれない。

もうひとつはダイムラーと手を結び、三菱を傘下に収めたルノー・日産アライアンスの動きだ。4ブランドすべてで電気自動車に積極的であり、先日もスマートの電気自動車にルノーのモーターが使われるというニュースがあったばかり。今後はここに三菱が加わって、プラグインハイブリッド車を含めた電動モビリティでの共同開発が進むことが考えられる。

2016年だけでも日産と三菱、ホンダとヤマハ、トヨタとスズキという3つの提携話が生まれたわけで、資本関係やグループ内外を問わない共同開発の動きが一気に進んだ。

これらの提携は、もちろん個別車種のコスト削減を目的にした共同開発という側面もあるだろうが、自動車を取り巻く環境の変化への対応策という、より深い側面が強くなっている。こうした状況からは、今後のクルマの将来を見すえて、あえてライバルと手を組んででも、生き残りを模索しているメーカーの姿がかいま見えてくる。

森口将之

森口将之

1962年東京都生まれ。自動車業界のみならず、国内外の交通事情や都市計画を取材しメディアを通して紹介。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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2017.5.25 更新
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