昨年、フォルクスワーゲン、アウディ、メルセデス・ベンツというドイツメーカーから、あいついでミドル〜ハイクラスのステーションワゴンがリリースされた。フォルクスワーゲン「パサートヴァリアント」のR-Lineと、アウディ「A4オールロードクワトロ」、メルセデス・ベンツ「Eクラス ステーションワゴン」がそれだ。モータージャーナリストである鈴木ケンイチ氏が、FF、4WD、FRと駆動方式の異なる3台を乗り比べ、それぞれの個性をレポートする。
ドイツ製の新型ステーションワゴン3モデルを一気に試乗! 駆動方式やクラスも異なる、それぞれのワゴンの特徴に迫った
実のところ、ステーションワゴンの人気の高いエリアは欧州と日本くらいなもの。特に欧州では今もステーションワゴンのラインアップは充実しており、最新モデルもどしどし日本に導入されている。今回の輸入車自動車組合(JAIA)試乗会では、フォルクスワーゲン、アウディ、メルセデス・ベンツの個性的なステーションワゴン3台を比較試乗してみた。フォルクスワーゲン「パサートヴァリアント2.0TSI R-Line」は、220馬力の強力な2リッターエンジンを搭載するFFモデル。アウディ「A4オールロードクワトロ」は、4WDのクワトロを搭載したクロスオーバー。そしてメルセデス・ベンツ「E220dステーションワゴン アヴァンギャルドスポーツ」は、ディーゼルエンジン搭載のFRモデル。奇しくも駆動方式の異なる3台のキャラクターを紹介していこう。
寸法:全長4775×全幅1830×全高1500mm
ラゲッジ容量:650〜1780リットル
車両重量:1580kg
エンジン:直列4気筒DOHCインタークーラー付ターボ、排気量:1984cc
最高出力:162kw(220ps)/4500〜6200rpm
最大トルク:350Nm/1500〜4400rpmトランスミッション:6速DSG
駆動方式:FF(前輪駆動)、JC08モード燃費:15.0km/l、タイヤサイズ:235/40R19
価格:519万9000円
寸法:全長4750×全幅1840×全高1490mm
ラゲッジ容量:505〜1510リットル
車両重量:1680kg
エンジン:直列4気筒DOHCインタークーラー付ターボ
排気量:1984cc、最高出力:185kw(252ps)/5000〜6000rpm
最大トルク:370Nm/1600〜4500rpm
トランスミッション:7速Sトロニック
駆動方式:AWD(4輪駆動)、JC08モード燃費:14.6km/l
タイヤサイズ:225/55R17
価格:658万円
寸法:全長4960×全幅1850×全高1465mm
ラゲッジ容量:640〜1820リットル
車両重量:1890kg、エンジン:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
排気量:1949cc、最高出力:143kw(194ps)/3800rpm
最大トルク:400Nm/1600〜2800rpm
トランスミッション:9速AT、駆動方式:FR(後輪駆動)
JC08モード燃費:20.0km/l
タイヤサイズ:245/40R19・275/35R19
価格:832万円
「パサート」はミドルサイズのフォルクスワーゲンの主力モデルだ。第8世代の現行モデルは2015年に日本に導入されている。最新の「ゴルフ」と同様のモジュラー戦略「MQB」から生まれた最新のパサートは、欧州カーオブザイヤー2015を獲得するなど欧州でも高い評価を得ている。実用的で広々とした室内&ラゲッジを精緻でスタイリッシュなデザインで包み、基本モデルには効率性の高い1.4リッターダウンサイジングターボを搭載。ミドルクラスでありながら、JC08モード燃費20.4km/lの好燃費を達成している。衝突被害軽減自動ブレーキ(AEB)などの最新の運転支援システムを積極的に採用したのも特徴だ。また、欧州ブランドのミドルクラスでありながら329万円からスタートという価格の手ごろ感も大きな魅力だ。
そのパサートのステーションワゴンである「パサートヴァリアント」に、昨年9月に追加されたのが「パサートヴァリアント2.0TSI R-Line」だ。スポーツモデルである「ゴルフGTI」と同じ、220馬力の2リッターターボエンジンを搭載し、軽快な走りを実現するアダプティブシャシーコントロール(DCC)と電子制御式ディファレンシャルロック(XDS)を採用。外装には専用の前後バンパー&サイドスカート、リアスポイラーを採用し、アルミホイールは19インチを履く。インテリアも専用レザーシートなどでスポーティーに仕上げられている。
エクステリアは、前後のバンパーやリアスポイラーなど専用パーツで彩られている
黒を基調にした室内には、レザーのシートなどスポーティーなアイテムが使われるが、全体にスッキリとしており、広々と落ち着いた印象である。液晶メーターも嫌な映り込みもなく見やすい。ラゲッジスペースの広さも十分。元から持っている高い実用性にスポーティな雰囲気がプラスされていたのだ。
試乗車はレザーシート搭載車。室内はあらゆる方向に余裕があり「広い車だ」という印象
ラゲッジ容量は650〜1780リットル。大型ボディかつFFのため、かなり広い
オーソドックスにまとめられたダッシュボード。高級感も十分だ
試乗車には、オプションのTFTディスプレイ「Active Info Display」が搭載されていた。視認性にすぐれ、多様な情報を表示できる
走らせてみれば、まるでスポーティーハッチバックのようなパワフルさとキビキビした動きに驚かされる。19インチの薄くて大きなタイヤは乗り心地に不利だが、それでも路面の嫌な突き上げは上手にいなす。素のパサートヴァリアントは、必要十分なパワーで落ち着いて走る理性的&実用的なモデルであり、それはそれで魅力的であった。しかし、R-Lineはパワフルさと華やかさからくるワクワク感が前面に押し出され、まったく異な印象を与える。クールなベーシックモデルが、R-Lineとなってすっかりホットになっていたのだ。
今回試乗したR-Lineは、2リッター直噴ターボエンジンを搭載。それ以外のグレードは気筒休止付き1.4リッター直噴ターボエンジンとなり、差別化されている
パワフルさと華やかさからくるワクワク感といった情緒的な部分が、ベースモデルとは大きく異なる部分だ
高性能な「RSシリーズ」にもステーションワゴンを用意するなど、アウディもワゴンが充実しているブランドだ。その最新の「A4アヴァント」は昨年の4月に日本に導入された。ワゴンではトップクラスの空力性能(Cd値0.26)を備えたボディは先代比で最大120kgもの軽量化を達成。エンジンにはパワフルな2リッターターボと、高効率の1.4リッターターボ採用されている。また、衝突被害軽減自動ブレーキ(AEB)を筆頭に充実した運転支援機能を搭載するのも特徴だ。渋滞での低速走行時にアクセルとブレーキだけでなく、ステアリング操作もアシストする「トラフィックジャムアシスト」が新たに導入されている。
その最新のA4シリーズに、昨年の9月に追加されたのが、今回試乗した「A4オールロードクワトロ」だ。A4アヴァントをベースにフルタイム4WDシステムのクワトロを組みあわせてクロスオーバー化されたモデル。ベース車よりもグランドクリアランスを30mm高め、ホイールアーチや専用グリルなどの専用のエクステリアが追加されている。
アウディ伝統のフルタイム4WD「クワトロ」を組み合わせたクロスオーバーモデル。専用のエクステリアに加え、最低地上高が30mm高められている
試乗モデルは標準タイプのレザーシートを採用。このほかオプションでサイドの張り出しを大きくしたスポーツシートも用意される
ドライバーシートからのインテリアの印象は“先進感”であった。フル液晶のメーターをはじめ、Pポジションがシフトノブにあるなど、操作系は独特だ。たくさんのハードスイッチだけでなく、液晶モニター内の表示内容もたっぷり。最新機能が満載されていることは理解できるが、ちょっと過剰かなと思ったのも正直なところだ。
カーナビやディスプレイ化されたメーターが並ぶいっぽうで、ダッシュボードはスイッチが多く、多機能かつ未来的な印象だ
シフトレバーを見ると、Pポジションがシフトノブに配置されているなど、独特な操作系を持つ
今回試乗した3モデルでは一番容量が少なかったが、ラゲッジスペース床面の四隅にレールとネットが備わっていた
スタートすると、目の覚めるような走りが味わえた。加速は鋭く、スルスルと速度が高まる。搭載されるクワトロは100%の前輪駆動を可能とした新しいシステム。取材は直線主体の自動車専用道路ということもあり、ほぼFF状態で走っていると推測される。そのときの直進性のよさや、ステアリングから伝わるしっかり感は、「さすがアウディ!」とうならせるものがある。静粛性は高いが、アクセルを深く踏み込むと硬質なエンジンサウンドが耳に届く。一様に静かなのではなく、キビキビ走るときはエンジン音を聞かせるという演出だ。メリハリのある走りが最も強く印象に残った試乗となった。
252馬力のパワーを発揮する2リッターターボエンジン。ベースの「A4 アヴァント」の2.0リッターターボよりも62馬力のパワーアップを果たしている
本拠のドイツではタクシーにも利用されるなど、高い実用性を誇るメルセデスの「Eクラス」。その最新モデルが日本に導入されたのは昨年のこと。セダンは7月、そしてステーションワゴンはやや遅れた11月に発売が開始された。新型Eクラスは、クーペを思わせる流麗なルーフラインを持つスタイリッシュさと、ラグジュアリーなインテリアを備えている。また、ウインカー操作のみで、自動でレーンチェンジを行うなど、先進の運転支援機能が装備されているのも特徴だ。
試乗したのは2リッターのディーゼルモデルの「E220dステーションワゴン アバンギャルドスポーツ」(本革仕様)。ラインアップのミドルグレードとなる。ドライバーズシートに乗り込んでみれば、目の前からセンターコンソールまで続く横長のワイドディスプレイが圧倒的な存在感を放っていた。丸いデザインを多用したインテリアはモダンで若々しい。うっすらと青いイルミネーションがインパネ中に左右に走っており、遊び心をともなった豪華さを感じさせてくれる。
テールライト周辺の処理などは、最新世代のメルセデスに共通するデザインのモチーフ
対向車を眩惑しないアダプティブヘッドライトを搭載。運転支援システムを支えるセンサーやカメラがボディのあちこちに配置されている
メーターおよびナビゲーション用のディスプレイが横に連なり、圧倒的な存在感を放つ
ボディが大きいこともあって、居住性は文句なし。試乗モデルは、高級版の本革仕様で高級感もたっぷり
グローブボックス内の「パフュームアトマイザー」。操作パネルをコントロールすることでオン/オフ、匂いの濃さをコントロールできる
ラゲッジ容量は505〜1510リットル。ボディの大きさに見合った広大な収納スペースだ。傷のつきやすい、ハッチの下面が金属のモールで覆われているなど、高級車らしい気配りもうれしい
ディーゼルならではの低回転からの加速は力強く、それでいて高周波の耳障りな音は上手に抑え込まれている。高回転域の伸びはそれほどないが、動力性能は必要十分以上にある。下から上まで、エンジン回転全域で音量は抑え込まれており、エンジンの存在感は小さい。速さのアピールは、非常に控えめだ。直進性がよく、静粛性も高いのも、このクルマの美点だ。よくできたグランドツアラーという印象であった。
ディーゼルエンジンの美点である低速トルクはすばらしい。そのいっぽう、振動やノイズの荒々しさが見事に押さえ込まれていた。ディーゼルであることに気づかない人もいたほどだ
3車を乗り比べてみると、キャラクターの違いがハッキリと感じられた。スポーティーで若々しいのがパサートヴァリアント2.0TSI R-Line。走りのよさが光るA4オールロードクワトロ。そしてプレミアム感の高いグランドツアラーがE220dステーションワゴン アバンギャルドスポーツであった。
価格帯がワンクラス上なこともあり「E220d」のインテリアは豪華。プレミアム感は文句なしだ
動力性能では、A4オールロードクワトロがトップの速さを見せ、それに肉薄するパサートヴァリアント2.0TSI R-Line、そして1ランク下のE220dステーションワゴン アバンギャルドスポーツという順。ただし3台とも高速巡航での安心感は高レベル。19インチのタイヤを履く2台も、17インチのA4オールロードクワトロと遜色ない乗り心地のよさを実現しているのも特筆すべきことだろう。
高速道路の巡航はハイレベルの争いだった。だが、加速時のパワーと巡航時の静かさが両立されていたのは「A4オールロードクワトロ」だった
荷室はパサートヴァリアント2.0TSI R-LineとE220dステーションワゴン アバンギャルドスポーツの2台が、ほぼ互角の広さを備える。A4オールロードクワトロは、明らかにひとまわり狭かった。
客室とラゲッジスペースのいずれも広く、使い勝手にもすぐれる「パサートヴァリアント2.0TSI R-Line」
ちなみに最先端の運転支援システムが充実しているのは3台に共通する特徴だ。内容を精査すれば、自動でのレーンチェンジ機能を持つE220dステーションワゴン アバンギャルドスポーツが先を行くが、ほかの2台の内容も悪くはない。実際に使ってみれば、ほとんど差を感じることはないだろう。
キャラクターだけでなく、価格的な違いもある3台。パサートヴァリアント2.0TSI R-Lineの魅力は、高い実用性とスポーティーな走り、充実した運転支援機能がコスパよく手に入るところ。A4オールロードクワトロは走りのよさと先進感が光る。そして最も高額なE220dステーションワゴン アバンギャルドスポーツは、プレミアム感を備えた落ち着いたグランドツアラー的なキャラクターだった。