「家系(いえけい)」は、神奈川県・横浜で誕生し、今や全国で知られるご当地ラーメンの総称。元祖の「吉村家」をはじめとする人気店には、そのウマさを求めて行列ができることも珍しくありません。
有名なラーメン店は、メーカーとのコラボカップ麺をよくリリースしていますが、「家系」でもそれはしかり。先述の名門「吉村家」はローソンから発売中です。そのほかにも、2020年に破産手続き開始決定を受け、家系ファンを驚かせた「六角家」は、「セブンプレミアム」ブランドから発売されています(今も発売されている理由は後述します)。
本稿では、それらコラボ商品を含め、7品の家系カップ麺を食べ比べ。名店監修のほうがウマいのか、メーカーごとに方向性の違いはあるのかなどを、それぞれの特徴とともに浮き彫りにしていきます。
個人的に気になるのは、元祖の「吉村家」以外は、青磁の丼の色をパッケージのイメージカラーに採用している点。「吉村家」も昔は、「ラーメンショップ」の流れ(※)である青磁丼を使用していましたが、今は黒い丼なので元祖に合わせているのだろう
※「吉村家」の創業者は、青磁丼を使う「ラーメンショップ」の前身である「椿食堂」出身だと言われている。ちなみに、現在の「吉村家」や直系店舗(修業を経てのれん分けを許された店)は黒い丼を使っているいっぽう、ほかの“家系御三家”である「本牧家」「六角家」は青磁丼を使用
まずは、やはり「吉村家」監修の商品から紹介。
同店は、1974年に横浜・磯子区の新杉田で創業し、1999年に横浜駅西口エリアにある現在の地に移転。肝心のラーメンは、独創性が高く、豚骨と鶏ガラをベースにしたコク深いスープに無添加の醤油を使ったタレ、酒井製麺の太麺に鶏油(チーユ)、大きなのりにほうれん草、スモークチャーシューなどが使われています。
こちらが、以前筆者が取材した際に撮った「吉村家」のラーメン。個人的にいちばん好きな家系ラーメンです
その圧倒的なウマさの再現を試みたのが、ローソンで発売されている「明星 家系総本山 吉村家 豚骨醤油ラーメン」。食べ応えのあるノンフライ中太麺に、鶏と豚のエキスや濃口醤油、鶏油、鶏を焦がしたオイルを加えた豚骨醤油スープが特徴です。
内容量111g(麺70g)に対してエネルギーは390kcal。ノンフライ麺です
ベースのスープが粉末と液体に分かれているのが、ほかの家系カップ麺との大きな違いです
なお、「吉村家」は過去に「マルちゃん」(東洋水産)などからもコラボカップ麺をリリースしていますが、最新版でもあるこちらは、よりブラッシュアップされているはず。その味はいかに。
ほうれん草もしっかり入っていて、その功績を伝える要素は十分
今回の中で特筆すべきは、完成度の高さ。ドッシリとしたコク深い味が印象的で、濃厚でもありながらクドさを感じさせないパワーバランスが秀逸。麺は、もうちょっと太いほうがよかったですが、今回紹介する中では抜群においしかったです。
豚や鶏など、素材同士のバランスのよさはお見事。全体的にレベルの高さを感じます
鶏油は、香りというより、甘みを感じさせることにひと役買っている感じ。チャーシューは、ノンスモークで特別感はないものの、ほうれん草やネギ、のりが好アクセントになっていて、トッピングとしての満足感も十分です。
次は、話題の「六角家」。同店は、1988年に横浜・六角橋で創業したことが屋号の由来で、「吉村家」とその2号店に当たる「本牧家」とともに「家系御三家」と称される老舗です。「新横浜ラーメン博物館」の開業時に出店したことでも知られ、家系ラーメンを世に広めた存在です。
ただし、本店は2017年から店主の体調不良などで閉店していて、今は戸塚店が存続。なぜ戸塚店が閉店していないかというと、破産手続き開始を受けた運営会社とは別経営だからだと言われています。また、セブン&アイ・ホールディングスとの契約関係がどうなっているかはわかりませんが、少なくとも「六角家 戸塚店」は閉店していないので、このカップ麺は“幻の味”とまでは言えません。
102g(麺70g)あたり403kcal。フライ麺を使用
トッピングは、同店のウリでもある「キャベチャー」をイメージしているからか、キャベツがたっぷり
なお、商品名に付いている「銘店紀行」というのは、「セブンプレミアム」のカップ麺のいちシリーズ。そして「キャベチャー」というのは、キャベツとチャーシューをゴマ油と醤油で和えたもので、「六角家」が元祖だとか。ほかの家系ラーメン店でもしばしば見られるので、その功績はかなりのものでしょう。
香味油を別添えにしているので、香りはなかなか。ただ豚骨のケモノ臭も強いような
味は、なかなかハイレベル。タテ型カップ麺はヨコ型よりもチープになりがちですが、この商品は特にスープの濃厚さや粘度がパワフルに仕上がっており、“御三家”の意地やセブン-イレブンならではの開発力の高さを感じます。
トロッとしたスープがナイス。麺はタテ型としては太めで、弾力豊かな食感も好印象です
なお、特製オイルは鶏油のほかに豚骨的な香りもするんですが、このケモノ臭のクセが強め。それならば、もう少し豚骨のうまみが強くてもいいような気がしました。好き嫌いが分かれるところかもしれませんが、個性を感じられる商品だと思います。
「ニュータッチ」で知られる、茨城県のインスタント麺メーカー、ヤマダイ。同社は、フライ麺の「横浜家系豚骨醤油ラーメン」とノンフライ麺の「横浜とんこつ家」の2種類を発売しているのですが、前者が見つけられなかったのと、後者のほうが価格が高いのでよりおいしいとにらみ、後者をチョイスしました。
117g(麺65g)あたり377kcal。ノンフライ麺を使用
かやくはチャーシューとネギのほか、フリーズドライで固めたほうれん草が特徴的
ヤマダイのノンフライカップ麺は、「凄麺」として有名なロングセラーシリーズで、筆者は初めて食べた時に心から感動した思い出があります。本商品を含め、ほかの味も過去に食べていますが、期待を裏切られたことがなく、改めて食べ比べるとどう感じるのかがかなり楽しみ。
「もちもちした食べ応えのある極太麺」と「炊き出し感のある豚骨醤油スープ」がウリとのこと
印象的なのは、生感覚でツルッ&モチッとした麺。またスープも、クリーミーなニュアンスがしっかりと出ていて、濃厚さもありながら嫌なジャンク感がなくて上品に仕上がっています。鶏油の風味は、油を別添えにするなどしてもっと感じさせてほしいと思いましたが、「凄麺」はやはりハイクオリティだと再認識しました。
特に麺は、さすが「凄麺」ブランドと言えるおいしさ
チャーシューは、肉厚でこそないものの、甘みを感じる方向性で好印象。ほうれん草は大きめで、ネギも多く、のりのアクセントもナイス。やはり「凄麺」は期待を裏切らないおいしさでした。
日本が世界に誇るインスタント麺メーカー「日清食品」。同社が手がけるご当地麺シリーズ「麺NIPPON」に、家系ラーメンがラインアップされています。
119g(麺70g)あたり410kcal。ノンフライ麺を使用
トッピングは先述の「横浜とんこつ家」の対抗馬と言える内容。味はいかに
なお、本商品は横浜市が推薦しているようで、つまり地元も認める1杯ということ。これは、横浜のみなとみらいエリアに「カップヌードルミュージアム 横浜」があることが関係しているのかもしれません。
パッケージには、「OPEN YOKOHAMA」のロゴがみなとみらいのイラストとともに付いています
しかし、いざ食べてみると、う〜ん……。日清食品ということで期待値が高過ぎたからか、どこか「これじゃない感」がぬぐえません。鶏油が由来と思われる甘みがあってまろやかなのですが、全体的なパワーが低いというか、豚骨のクリーミー感が弱く、ガツンとした家系らしさは抑え気味のようです。
麺自体はおいしいものの、優等生的な中太平打ち麺。パッケージにある「もっちり太麺」「炊き出しとんこつ」は言い過ぎな気がしました
味わいは思ったよりライトですが、濃厚さを抑えることで、万人受けの味にしているのかもしれません。ただ個人的には、スープも麺もトッピングも、カップ麺界のリーディングカンパニーらしいこだわりをもう少し感じたかったです。
次は、佐賀県が誇るインスタント麺メーカー「サンポー食品」が、2020年10月12日に発売した「焼豚ラーメン 横浜家系とんこつ醤油」。同社は、関東などでは認知度は低めですが、九州メーカーならではのハイレベルな豚骨ラーメンテイストは必食の価値ありです。
87g(麺65g)に対して416kcal。フライ麺を使用
そして、この「焼豚ラーメン」シリーズは、同社の看板ブランドであり、その家系バージョンが今回の新作なのです。いわば、九州から横浜への“アンサー豚骨”。その味はいかに。
のりの袋に「有明産」を明記し、地元をアピールしている点は好印象
「焼豚ラーメン」シリーズならではの、ハート形のチャーシューはここでも健在
食べてみると、豚骨の風味はさすがの奥深さ。ただし、麺は細めで、家系として食べると違和感はありますが、いい意味でも悪い意味でも九州らしさを感じます。スープは、醤油のキレはそこまで感じないものの、別添えになっている鶏油がふくよかな香りを漂わせていてまろやかです。
麺の細さは、九州発であることの矜持なのかも
同社公式サイトにも、「九州で長年愛され続けているサンポー食品の焼豚ラーメンを、全国各地のご当地ラーメン風にアレンジしたシリーズの新商品」と書かれているので、細麺なのはシリーズの踏襲でしょう。九州イズムを残したハイブリッド型家系カップ麺としては、非常にアリだと思います。
「わかめラーメン」や「スーパーカップ」で有名なエースコックが、2003年から展開している正統派なブランドが、“濃コクでウマい本格スープが楽しめる”をコンセプトとした「飲み干す一杯」。その中のご当地シリーズから出ている横浜代表が、今回紹介する「タテ型 飲み干す一杯 横浜 豚骨醤油ラーメン」です。
68g(麺55g)に対して276kcal。フライ麺を使用
液体スープが付属。なお、今回紹介する中では最も麺が少なく、その分カロリーも低くなっています。満足度はどうでしょうか
ちなみに、シリーズ的なルールなのか、何かを恐れてなのか、パッケージには「家系」や「家」の文字は見当たりません。横浜には「サンマーメン」というご当地ラーメンもあるのですが、それは豚骨醤油ではなく、もやしあんかけが特徴なので、こちらはどう見ても家系でしょう。SEO対策の側面からしても、家系をうたったほうがよいと思うのですが、それは今後の刷新時に注目です。
香りがよく、液体スープがいい仕事をしている予感。具のチープさは、ある意味タテ型カップ麺の宿命なので想定内です
いざ実食。「タテ型にしては」というのは失礼ですが、予想を裏切るウマさです。麺は太いと強く言えるレベルではないものの、ツルッとしたタッチとポテッとした弾力があってもちもち感に寄与。スープにもとろみがあって、麺との相性もイイ感じです。
ツルもちの麺ととろみのあるスープのハーモニーが美味!
麺が55gと今回の中では少なめながら、それを払しょくするような満足感。これでローカロリーというのは素晴らしい。「飲み干す一杯」ブランドの底力を、改めて感じさせられました。
最後は、インスタント袋麺の2大巨頭「サッポロ一番 みそラーメン」「サッポロ一番 塩らーめん」を持つサンヨー食品の、ご当地カップ麺シリーズ「旅麺」から。
75g(麺60g)に対して334kcal。フライ麺を使用
のりが欲しいところですが、その分コストを抑えているということでしょう
見た感じはシンプルですが、味はどうでしょう。特徴としては、豚骨醤油スープに別添えの調味油で鶏油のニュアンスを出している印象。麺はモッチリとした粘りと重みのある食感で、スープによく合う存在感の中太ちぢれ麺とのことです。食べてみました。
ヨコ型でありながら、のりが付いていないので、やはり寂しい感じは否めません
濃厚とは言えないものの、フライ麺のジャンク感が効いていて薄さは感じません。そこに調味油のふくよかな香りが加わり、家系のニュアンスを表現しようとする努力を感じます。全体的にオーソドックスではあるものの、いぶし銀の技術を感じさせるしたたかな完成度。
「家系」は太いストレート麺が主流なので、一般的な縮れたフライ麺なのは残念
ほうれん草はなく、ネギだけで攻める点もコストを抑えるためでしょう。ただ、ネギは大きめかつシャキッとしていて好アクセント。今回紹介する中では安いほうなので、手軽にヨコ型家系カップ麺を食べたい時にはアリなのかもしれません。
名店監修は「吉村家」と「六角家」のみでしたが、ともにレベルの高さを感じました。また、メーカーごとの方向性としては、九州らしさが出ていたサンポー食品が最も印象深かったです。「凄麺」や「飲み干す一杯」など、ブランド自体の実力を感じるものもあって面白い発見となりました。
個人的な感想となりますが、いくつかのポイントからNo.1を決めたのでこちらもご参考までに。
【スープの好みNo.1】「明星 家系総本山 吉村家 豚骨醤油ラーメン」
【麺の好みNo.1】「横浜とんこつ家」
【フライ麺No.1】「タテ型 飲み干す一杯 横浜 豚骨醤油ラーメン」
個人的に、家系の大きな魅力は鶏油だと思うのですが、今回の7品を食べた感じではなかなかあの香りをカップ麺で強く打ち出すのは難しいようです。動物系の油は特に酸化が敵なので、それとの戦いなのかもしれません。今後の「家系カップ麺」の進化に期待したいと思います。
食の分野に詳しいライター兼フードアナリスト。雑誌とWebメディアを中心に編集と撮影をともなう取材執筆を行うほか、TVや大手企業サイトのコメンテーターなど幅広く活動中。