本連載は、フードアナリストの独自視点で、知られざるフードや銘酒を深掘りするコラム企画「食のやりすぎ“推し”伝説」。第7回は、インスタント袋麺の金字塔「サッポロ一番」と、その新作についての“モノ語り”を、食べ比べつつ紹介します。
今回は「サッポロ一番」にスポットを当て、新作の高級版「サッポロ一番 プレミアリッチ」との違いをレポート
サンヨー食品の「サッポロ一番」と言えば、インスタント袋麺のロングセラーであるとともに、特に「サッポロ一番 みそラーメン」と「サッポロ一番 塩らーめん」に関しては、国内屈指の売り上げ上位に君臨する人気ブランド。「ポロいち(ポロイチ)」の愛称でも親しまれています。
「サッポロ一番 しょうゆ味」は1966(昭和41)年、「同 みそラーメン」は1968(昭和43)年、「同 塩らーめん」は1971(昭和46)年に、それぞれ発売されました
そして2024年5月13日、この名作に“高級版”が誕生しました。シリーズ名は「サッポロ一番 プレミアリッチ」。味は「サッポロ一番 プレミアリッチ しょうゆ味 徳島県産阿波尾鶏だし仕上げ」「同 みそラーメン 鹿児島県産黒豚だし仕上げ」「同 塩らーめん 北海道産ほたてだし仕上げ」の3種です。
「サッポロ一番 プレミアリッチ」シリーズ3種。金色を下地にしたパッケージからして、高級感が漂っています
インスタント麺業界では近年、カップ麺のほうでプレミアム版を立ち上げる動きが顕著で、有名どころでは「特上 カップヌードル」や「日清の最強どん兵衛」シリーズ、「明星 贅沢一平ちゃん夜店の焼そば」「くせになる!わかめラーメン ごま・しょうゆ」などがありましたが、今回は袋麺タイプの名門から出たというところがポイント。
そもそも「サッポロ一番」は、ものスゴいブランドだと思いませんか? 競合には業界王者の日清食品や、新食感の麺で市場に革命を起こした東洋水産の「マルちゃん正麺」など、開発力もマーケティング力も絶大なビッグネームがいるなか、袋麺に関しては「サッポロ一番」が首位を守り続ける商品力がまずひとつ目のスゴさ。
加えて、ラーメンと言えば醤油味が絶対的存在であり、カップ麺の王者「日清 カップヌードル」も醤油味(レギュラー)がいちばん人気であるなか、なぜか袋麺の場合は、「サッポロ一番 みそラーメン」と「サッポロ一番 塩らーめん」がワンツーフィニッシュで君臨しているという特異性がもうひとつのスゴさです。
「カップヌードル」公式サイト内の特別コンテンツ「!NSIDE CUP NOODLE」の、「みんなのギモン」より
商品のクリエイティブにも、ユニークな点は随所に。たとえば、「サッポロ一番 みそラーメン」の商品名はひらがな+カタカナですが、「サッポロ一番 塩らーめん」は漢字+ひらがな。「サッポロ一番 しょうゆ味」に至っては、ラーメンと名乗っていません。三者三様、パッケージの写真やレイアウトにも統一感がなく、バラバラなのです。
「サッポロ一番 しょうゆ味」。半世紀以上前、当時の開発担当者(後のサンヨー食品二代目社長)が札幌の「ラーメン横丁」で食べた醤油ラーメンに感動し、商品化へつながったと言われています
これらの知られざる理由を、以前“中の人”に取材した情報からお伝えすると、まず味噌と塩がズバ抜けた人気を誇っている理由は、「サッポロ一番」が各味の先駆者だったから。発売当時、袋麺市場には味噌味と塩味の商品はほとんど前例がなかったため、新しい味として大人気に。販売するお店側としても、同じ味のブランドが林立する醤油味より、新奇性の高い味噌味や塩味のほうが商品棚に置きやすかったのではないでしょうか。
結果、大歓迎されて全国的に拡大。いわば、日本人がイメージするおいしい袋麺の味噌ラーメンと塩ラーメンには、「サッポロ一番」の味が刷り込まれているということでしょう
そしてもうひとつのナゾとして触れた、商品名などがチグハグな理由については、それぞれの誕生時期が違うほか、個々がまったく異なるコンセプトで開発されたから。スープの味はもちろん、麺の形も、醤油は四角、味噌は楕円、塩は円形と三者三様。各商品の個性をより際立たせるために、シリーズ内での統一感もあえてなくしたとのこと。そのため、商品名やデザインもバラバラなのです。
サンヨー食品公式サイトの「よくあるご質問」より
ここからは、本家とプレミアリッチを味ごとに比較レビューしていきます。まずは本家「サッポロ一番 しょうゆ味」と、「サッポロ一番 プレミアリッチ しょうゆ味 徳島県産阿波尾鶏だし仕上げ」から。
本家は内容量100g(麺92g)に対し、プレミアリッチは112g(麺92g)。麺の量は変わらずですが、スープが2袋になる分プレミアリッチのほうが多いのでしょう
本家の「サッポロ一番 しょうゆ味」は、醤油を練り込んだプリプリ食感の麺と、鶏ガラや鶏肉の旨味が詰まったチキンエキスに、ガーリック、ジンジャー、オニオンなど香味野菜の風味を効かせたスープが特徴。また、別添「特製スパイス」のシャープなキレも魅力です。
本家は1食100g当たり457kcal、脂質18.0g、炭水化物63.9g、食塩相当量5.8g。「プレミアリッチ」は1食112g当たり522kcal、脂質24.3g、炭水化物65.2g、食塩相当量5.9g
いっぽう高級版の「サッポロ一番 プレミアリッチ しょうゆ味 徳島県産阿波尾鶏だし仕上げ」は、自慢のチキンエキスの軸となる鶏原料に、徳島県産阿波尾鶏(あわおどり)を100%使用。ちなみに阿波尾鶏は、地鶏として長年日本一の生産量を誇る人気ブランドです。
「サッポロ一番 プレミアリッチ しょうゆ味 徳島県産阿波尾鶏だし仕上げ」に「特製スパイス」は入りませんが、スープが粉末と液体のハイブリッド型に。この仕様は「サッポロ一番 プレミアリッチ」の3種すべてに共通しています
麺はどちらも揚げ麺ですが、「サッポロ一番 プレミアリッチ しょうゆ味 徳島県産阿波尾鶏だし仕上げ」のほうが少々濃い色で、縮れのニュアンスも異なります。こちらも3種共通の特徴でした
ともに調理時間は3分、かつ湯量も500mLを使用。同時に調理し食べてみると、ルックスはほぼ変わらないものの、香りからして違いが感じられました。
スープの濃さや、乾燥ネギの広がり方などはほぼ一緒。わかりやすい違いは、スープ表面を覆う油の層が、「サッポロ一番 プレミアリッチ しょうゆ味 徳島県産阿波尾鶏だし仕上げ」のほうが厚くて量も多いこと
家系ラーメンの決め手である鶏油(チーユ)とまではいきませんが、「サッポロ一番 プレミアリッチ しょうゆ味 徳島県産阿波尾鶏だし仕上げ」のほうが鶏風味の主張が豊かで、この香りが高級感を醸し出しています。
では食べ比べといきましょう。素のラーメンでは寂しいので、具材も盛り付けて味わってみました。
醤油のテリやキレを感じつつ、香りや余韻には「特製スパイス」のパンチもしっかり
本家「サッポロ一番 しょうゆ味」の安定感は、やはりクラシック系ならではの味。豚のふくよかな旨味を感じる清湯(チンタン)ではなく、鶏ガラベースのコク深いタッチで、とはいえ近年淡麗系やネオクラシック(ネオノスタルジック)系などで人気が高い鶏100%の円熟味ではなく、町中華的なやわらかい鶏野菜の醤油スープ。ただしそこに、胡椒を主体とした「特製スパイス」のエッジがあり、個性を感じます。
プレミアリッチは鶏の旨味がよりパワフルに感じられ、そのうえ甘みもひと回り豊かに。麺は本家もこちらもチュルッとしたハリのある弾力で、食感に大きな差はありません
いっぽう「プレミアリッチ」のほうは、本家の「サッポロ一番 しょうゆ味」より油が多いとはいえ、スープの粘度はそこまで変わらず、また脂っこいとも感じません。これはおそらく「特製スパイス」の攻めが息をひそめているから。「サッポロ一番 しょうゆ味」らしいヤミツキ感はありながら、全体的に大人なコク深さと上品さをプラスした一杯に仕上がっていると言えるでしょう。
次は「サッポロ一番 みそラーメン」と「サッポロ一番 プレミアリッチ みそラーメン 鹿児島県産黒豚だし仕上げ」で比較。余談ですが、筆者が少年時代に最も食べた袋ラーメンは、「サッポロ一番 みそラーメン」だったと記憶しています。
本家は内容量100g(麺90g)に対し、「プレミアリッチ」は111g(麺90g)。なお、「サッポロ一番」シリーズは誕生以来ほとんど味を変えていませんが、「みそラーメン」だけは発売45周年時に使用する味噌を7種から8種へと増やしたとか
本家「サッポロ一番 みそラーメン」は、豚をベースに、味と香りに特徴のある8種の味噌をブレンドし、香味野菜を効かせたコク深いスープが特徴。麺はもちっとした食感で、こちらにも味噌を練り込んでいます。また、別添の「七味スパイス」が名脇役に。
本家は1食100g当たり448kcal、脂質17.2g、炭水化物62.9g、食塩相当量5.8g。「プレミアリッチ」は1食111g当たり502kcal、脂質22.1g、炭水化物65.2g、食塩相当量5.9g
「サッポロ一番 プレミアリッチ みそラーメン 鹿児島県産黒豚だし仕上げ」は、スープの骨格となるポークエキスに、鹿児島県産黒豚を80%使用。このダシの旨味に、ガーリック、ジンジャー、オニオンの風味を効かせています。
見た目としては、上記「しょうゆ味」の比較と同様、スープ表面の油分がいちばん大きな違い。この「プレミアリッチ」に「七味スパイス」は付きませんが、唐辛子らしき赤い粒が浮いています。調味料に入っているのでしょう
本家を食べて改めて感じるのが、「これこれ、この味だよな!」といった絶対的なおいしさでありながら、ステレオタイプな味噌ラーメンとは異なる「サッポロ一番」らしい個性があること。熟成感豊かな味噌の旨味に豚の甘みや力強さがマッチし、野菜のまろやかなフレーバーも十分。適度なパンチと、味噌汁のようなやさしさがたまりません。
どこかラーメンスナックのような大衆感が絶妙。このフレンドリーな味わいが「サッポロ一番」らしさなのかもしれません
対する「サッポロ一番 プレミアリッチ みそラーメン 鹿児島県産黒豚だし仕上げ」は、香りの重厚感に加え、味噌のフレッシュな風味と深い熟成感が実に印象的。これはやはり、液体スープに使われている味噌によるものでしょう。こちらも全体的に甘みとコクがアップしており、確かにリッチな味わいです。
スープのテクスチャーは、ほんのりぽってりした印象。このまろやかさも、贅沢感を演出します
ただ、どうしてもエレガントな味になるため、従来の大衆的な「サッポロ一番 みそラーメン」の味に慣れた人は違和感を覚えるかもしれません。筆者はそれぞれによさがあると感じましたが、どちらかを選べと言われたら本家かも。
ラストは「サッポロ一番 塩らーめん」と「サッポロ一番 プレミアリッチ 塩らーめん 北海道産ほたてだし仕上げ」を比較します。繰り返しますが、「塩らーめん」と「みそラーメン」は不動のツートップで、人気も僅差。2019年にサンヨー食品が「サッポロ一番 みそ派塩派大論争」と題してSNSの投稿合戦を行ったところ、「みそ派」が337,181票、「塩派」が336,495票で、「みそラーメン」が大接戦を制しています。
本家は内容量100g(麺91g)に対し、プレミアリッチは108g(麺91g)。後者に別添の「切り胡麻」は付きませんが、スープの中に入っています
いつ首位に躍り出てもおかしくない、と言える「サッポロ一番 塩らーめん」。スープは、チキンとポークをベースに、オニオン、ガーリックなどの野菜の旨味と香辛料を絶妙なバランスで配合。この野菜の旨味は、セロリを思わせる舶来の風味が独特です。そして麺は、小麦粉に山芋の粉を練り込んでいるのが特徴で、モチモチ食感と喉越しのよさがスープにもマッチ。
本家は1食100g当たり455kcal、脂質18.6g、炭水化物61.9g、食塩相当量6.1g。プレミアリッチは1食108g当たり474kcal、脂質19.0g、炭水化物65.9g、食塩相当量6.8g
いっぽうの「サッポロ一番 プレミアリッチ 塩らーめん 北海道産ほたてだし仕上げ」は、スープに北海道産100%のほたてダシを効かせ、ガーリック、オニオンの風味を加えてスパイス感豊かなラーメンに仕上げているのが特徴。麺には「サッポロ一番 塩らーめん」と同じく、山芋の粉を練り込んでいます。
プレミアリッチは、ほたての香りが実に濃厚。これは、ほかのプレミアリッチの贅沢素材感を凌駕する威力で、最もわかりやすい差別化が図られています
久々に「サッポロ一番 塩らーめん」を食べて、自分の中で政権交代が起こりました。これまでは僅差で「みそ派」でしたが、この日からは「塩派」に。まあそれはいいとして、こちらも相変わらず、個性的でありながら飽きない普遍性があって絶品。おしゃれな風味のスープに「切り胡麻」の香ばしさがアクセントとなり、ムチぷにっとした麺もおいしいです。
スープはほんのり翡翠(ひすい)色で、これまたおしゃれ。ブイヨンを思わせるハイカラなエッセンスが感じられ、誕生から半世紀以上経ってもモダンな印象は健在です
そして、この「プレミアリッチ」には驚かされました。香りとしてもパワフルだったほたてが、スープの旨味をいい意味で支配しており、たとえるなら“絶対金持ちなんだけど嫌味が皆無で超性格のいい人がリーダーになった”みたいな。「サッポロ一番 塩らーめん」のDNAを感じさせつつ、ふくよかでかなり別物な味わいですが、これはこれで超アリなおいしさです。個人的にほたて好きなのでひいき目かもしれませんが、大拍手を送りたい!
翡翠に黄金色が加わったような、ラグジュアリー感。少々とろみも増し、まろやかで贅沢なグレードに。“プレミアリッチ”が、きわめてわかりやすい完成度です
袋麺におけるほたては「チャルメラ」のレガシーなので、まさか「サッポロ一番 塩らーめん」が採用するとは。とはいえこのおいしさは、すばらしい大抜擢だと思わずにはいられません。本家「サッポロ一番 塩らーめん」ファンの中には異論を唱える人もいるかもしれませんが、ぜひ試していただきたい。
「サッポロ一番」のエクステンション(ブランド内の別ライン)にはいくつかのシリーズがあり、近年は暑い時季に「温・冷選べる」を売りにした限定商品も登場。2024年は6月3日からおなじみの3種が発売されているので、こちらも要チェックです。
左から、「サッポロ一番 塩らーめん あさりだし仕上げ」「同 みそラーメン 焙煎ごまみそ風」「同 しょうゆ味 焦がしねぎ風」
何はともあれ、「サッポロ一番」は好きな人が多い袋麺であること間違いなし。今回の「サッポロ一番 プレミアリッチ」シリーズは通年商品として売り出していくでしょうから、ぜひ本稿を参考に食べ比べを。筆者の“推し”は、「サッポロ一番 プレミアリッチ 塩らーめん 北海道産ほたてだし仕上げ」です!