このところ、筆者はネガティブな感情を抱くことが多いような気がしています。先日は自宅から200kmほど離れた茨城県でマイカーが故障して自力走行できなくなってしまいましたし、昨年後半も仕事に追われて週末でも気が休まらない日々が続きました。
マイカーの故障は適切な点検・整備を怠った筆者に原因があるでしょうし、仕事があることそのものはとてもありがたく、執筆に追われるのは自分自身の力不足の現れでもあると思っています。ただ、正直なところメンタルがあまり強くはない筆者、精神的なダメージがじわじわと蓄積されているのを感じています。
おまけに筆者は1979年生まれ、今年2020年は本厄です。もともと厄年や占いなどはそれほど気にしない性格なのですが、車の故障をはじめ、これまでにない厳しい場面が昨年あたりから相次いでいることも事実。「これはもしかして……」と心だけでなく顔までうつむき加減になっていたようで、妻から「写経」をすすめられました。
「心が落ち着くし、年齢のタイミング的にもよいのではないか」とすすめられはしたものの、写経はまったくの未経験。お寺などで写経を体験することもできるようですが、今回は自宅でできる写経セットを購入することにしました。
墨運堂の写経セット「なぞり書き般若心経」
今回購入したのは墨運堂の写経セット「なぞり書き般若心経」です。写経セットのなかには見本と記入用紙だけが入っているものをはじめ、筆・墨・硯がセットされている本格的なものなどいろいろな種類がありますが、筆者は初めてでも手軽に取り組めそうな「筆ペン付き」で、なおかつ「なぞり書き」ができる本製品を選びました。
内容物は般若心経のなぞり書き用紙(6枚×3巻分)、写経の解説書、そして筆ペン
本製品には写経でも一般的な「般若心経」をなぞり書きできる用紙が3巻分と、写経や般若心経についての解説が載っている解説書、毛筆タイプの筆ペン1本が入っています。
なぞり書き用紙は1巻あたり6枚に分かれていて、1枚につき8文字×6行、最大48文字が薄いグレーで印刷されています。般若心経には日常生活では書くことがあまりない漢字もありますが、本製品ではあらかじめ印刷された文字をなぞっていけばいいので、「読めるけど書けない」字があっても安心です。
用紙はA4サイズで、一文字一文字が大きく印刷されているのも特徴。見やすいのはもちろんですが、筆者のように筆字に慣れていない人でも、画数の多い漢字をつぶれることなく書きやすく感じます。扱いやすいサイズの用紙なので、ファイルケースなどに入れて持ち歩きやすいこともポイントです。
お経と言えば細かな字が並んでいる印象でしたが、本製品は文字のサイズが大きいので見やすく書きやすいのが特徴です
まずは般若心経の内題「摩訶般若波羅蜜多心経」の10文字から書いてみました。きれいな文字で書ければいいなとも思いましたが、最後に筆文字を書いたのがいつだったかも思い出せないような状態ですし、最初は文字をなぞることに専念しました。
正しい持ち方があるはずですが、あまり意識せず自分なりの自然体で筆を入れます
「筆字は難しいだろうなあ」と思いながら書き始めたのですが、お手本をなぞればいいので、想像していたほど難しくは感じません。見本にピタリと一致させることはさすがにできませんでしたが、書き進めるにしたがってトメ、ハライ、ハネにリズムが感じられるようで、むしろ楽しさを感じるくらいです。
内題を書き終えたところ
上の写真を撮ったあとは、1枚目の最後まで通して書き続けてみました。「見」や「色」の最後のハネ具合や、「若」や「蘊」に見られる4画のくさかんむりなどに難しさを感じることもありましたが、一文字ずつ、一画ずつに集中しているうちに最後の文字まで到達。途中で写真を撮りながらではありましたが、20分で1枚目を書き終えました。
色即是空の「色即」で1枚目は終了
2枚目からは撮影をはさまず、最後の6枚目まで通して進めてみました。はじめは「この字のここが難しい」「ハライがきれいに書けると気持ちがいい」などと感じていましたが、途中からは何かを考えながら書くことがなくなって、目の前の一文字に筆を入れていくことだけに集中するようになりました。
1枚仕上がるごとに時刻だけは確認していましたが、始める前に用意していたコーヒーに口をつけることもなく、ゆっくりと唱えるように文字を書き続けるだけの時間が過ぎていきます。退屈なわけでもがむしゃらになっているわけでもなく、クリアな心で文字と向き合い黙々と筆を進めていくこと1時間と少々で、奥題の「般若心経」の4文字に到達しました。1枚目も含めると、ほぼ1時間半で1巻分を写経し終えたことになります。
6枚目にもなると筆ペンの扱いにもだいぶ慣れていました
ちょっとした映画が一本鑑賞できるほどの時間をかけて276文字を書き上げたわけですが、疲れは感じず、むしろリフレッシュした気分になったことが意外でした。
考えてみれば、何かひとつの作業にこれだけの時間をかけて集中することが、最近はあまりなかったように思います。振り返ってみれば、執筆中でもメールが来れば返事を書いたり、Netflixでドラマを見ていてもニュース速報が通知されるとついついチェックしてしまったりといった、「ながら作業」が当たり前になっていました。「筆で写経をする」というアナログな体験に集中することには、心を落ち着かせる効果があるように感じています。
1枚目から6枚目まで書き終えるのに、トータルで1時間半ほどかかりました
撮影するために用紙を並べていて驚いたのが、序盤と終盤の筆致の違いです。最初のうちは力が入りすぎていたりあれこれ考えたりしていたせいか、1枚目の文字は線が太く、細かい部分もつぶれ気味です。しかし4枚目あたりから6枚目にかけては無心で集中していたからか、1枚目に比べて読みやすい文字になっているような気がします。
右が1枚目、左が6枚目。上達したとは言いませんが、書くことに集中できた結果が現れているように思います
今回購入した「なぞり書き般若心経」は、般若心経がA4サイズ6枚に分割されているので、時間があるときに1枚ずつ取り組むこともできますし、筆者のようにまとめて1巻を仕上げることもできる写経セットです。
筆ペン付きなので購入してすぐに写経を始められますし、取り扱いも簡単。忙しい毎日のすき間時間に気分転換を兼ねて書いてみるのもいいですし、長期休みのまとまった時間が確保できるタイミングで通して書くのもいいでしょう。
また、般若心経ではさまざまな漢字が使われているので、筆文字の練習にもなります。最近は年賀状の注文から発送まですべてオンラインで完結できるサービスもありますし、そもそも年賀状を出さないという人も増えているかと思いますが、写経を通して筆文字に親しんでおけば、年始のあいさつやご祝儀袋の記入などで慌てることがなくなるかもしれません。
本記事にあわせて1巻書き上げたので、残るは2巻分。今度は執筆や撮影も気にすることなく、写経で心の疲れをほぐしてみようと思います。
信州佐久からモバイル情報を発信するフリーライターであり2児の父。気になった格安SIMは自分で契約せずにはいられません。上京した日のお昼ごはんは8割くらいカレーです。