近年、国内外問わずじわじわと人気が急上昇している「金継ぎ」は、割れてしまった器を、漆(うるし)を使って修復する伝統的な技法です。テレビなどでも取り上げられることが多く、筆者も興味を持っていました。
そこで今回は、必要な道具が揃っている金継ぎキットを使い、初心者がうまくできるのか体験してみました!
金継ぎとは、割れたり欠けたりしてしまった陶器の器を、耐久性の高い「漆」で修復する日本の伝統的な技法です。
金継ぎで補修された器
お皿やお茶碗などが割れてしまった場合は処分しちゃう、という人が多いかもしれませんが、金継ぎの技法を使えば、より味わい深い器へと生まれ変わらせられます。
特にコロナ禍の巣ごもり需要によって人気が急上昇し、近年では海外からも注目されています。
金継ぎを始めるために必要な道具がひととおり揃ったキットも多く販売されており、誰でも手軽に始められるのが魅力です。筆者も長く続けられる趣味があったらいいな、と思っていたタイミングでこのキットの存在を知り、興味を持ちました。
金継ぎはプロの職人さんに頼むことももちろん可能なのですが、お値段は……、
割れたお皿 6,000円前後
割れたグラス 6,000円前後
割れた湯呑 7,000円前後
と、決して安価ではありません。
キットは10,000円前後なので、いっそ自分の趣味として楽しみながら修復ができたらいいなと思ったのも、筆者が興味を持った理由のひとつです。
さっそく、金継ぎセット「つぐキット金」を購入してみました。コンパクトな箱の中にぎっしりとたくさんの道具が入っています。
金継ぎキット「つぐキット金」
作業にとりかかる前に、事前準備がいくつかあります。
まずは割れた器が必要です。自宅には割れてしまったお皿はなく、割れていないお皿をわざわざ割るのも抵抗があるな……と思っていたら、「メルカリ」で「金継ぎ用」と検索すると割れたお皿を出品している方が多いことを発見! 「メルカリ」ってすごいですね。
さまざまな価格や割れ方の器が出品されており、一覧から選べるので便利です
というわけで、500円でこちらのお皿を購入しました。初めてなので割れ方が複雑ではなく、適度な大きさをチョイス。
最初はシンプルな割れ方のものを選びました
必要なものが揃ったところで、まずは作業の流れの全体像を把握します。
【基本的な工程】(割れた器の場合)
1.割れた器を漆で作った接着剤(麦漆/むぎうるし)でくっつけ、漆風呂で1週間以上乾かす
2.黒色漆を塗り、漆風呂で1日乾かす
3.弁柄漆(べんがらうるし)を塗り、上から金粉をまいて漆風呂で1日乾かす
金継ぎは1日では完成できず、乾燥させる時間なども含めると最短でも10日弱かかります!
接着から金粉を付けるところまで、ベースで使用するのは漆。漆が固まるには約20〜30度で、さらに湿度約70〜85%が適していると言われており、「漆風呂」と呼ばれる乾かす場所が必要です。
漆風呂は簡単に作れる
フタ付きの段ボール箱などにビニール袋を敷き、濡れた雑巾などを一緒に入れて湿度を保ちます。作業を開始する前にあらかじめ作っておきましょう。
漆が皮膚に付くとかぶれてしまいます。金継ぎをする際はゴム手袋を装着し、服装は長袖がマスト。髪が長い人はじゃまになるのでまとめておいたほうがよいと思います。
キットに含まれていないけれど必要なものは「小麦粉」と「油(菜種油・キャノーラ油、サラダ油など)」です。
油は道具を洗うのに使用します。筆者の自宅には上記の油がなかったのでオリーブオイルを使用しましたが、問題ありませんでした(少しもったいない気もしますが……)。
準備が整ったら金継ぎを開始します! 漆は少しでも脂や塩分があると固まりにくいということで、使用する器はよく洗って乾燥させておきます。そして、サンドペーパーで割れた部分を削ります。こうすることで、接着したときに噛み合いやすくなるのだそう。
サンドペーパーで器の割れた部分を削る
続いて「麦漆」を作ります。ここからはゴム手袋が必須です!
パレットに小麦粉を出し、耳たぶくらいの硬さになるまで水をスポイトで1滴ずつ加えながらヘラで混ぜていきます。さらに、漆を小麦粉と同量か少し多い量を出し、チューインガムのように伸びるくらいの硬さになるまで混ぜます。
「チューインガムのように伸びるくらいの硬さ」の加減が難しい
こうして完成した「麦漆」を、器の割れた部分の断面に塗ります。このときの量の加減も難しかったのですが、「麦漆が少しだけ割れ面からはみ出るくらい」が目安なのだそう。
量の加減が最初は難しい
割れた面の両方に麦漆を塗ったら、くっ付けてマスキングテープで固定します。
割れた部分をていねいにくっ付けて……
マスキングテープで固定します
このときにズレてしまうと大変なので、マスキングテープでしっかりと固定! 器を固定したら、「漆風呂」の中で1週間以上乾燥させます。乾燥中に重力によって割れた面がずれてしまわないよう、注意して固定しましょう!
漆風呂で1週間以上乾燥
1週間後、漆が固まっていたら麦漆を塗った表面を「水研ぎ」します。耐水ペーパーを水に浸けながら、表面が平らで滑らかになるように研いでいきます。
表面が滑らかになるまで削るのがポイント
続いて「黒色漆」を作ります。パレットに漆を出し、水分が蒸発して黒くなるまでヘラでよく混ぜます。そこに黒粉を加えてさらに混ぜ、筆で薄く塗っていきます。塗り終わったら漆風呂で1日以上乾燥させます。
細かい作業なので器用さが試される……
再度、耐水ペーパーを水に浸けながら黒色漆を塗った表面を研ぎます。パレットに漆を出し、水分が蒸発して量が減り黒くなるまでヘラでよく混ぜたら弁柄粉も混ぜ、筆でかすれるくらい薄く塗っていきます。
この塗り方で仕上がりが変わってくると思うと緊張する……
15〜30分ほど待ってから、金粉を真綿でぽんぽんとつけていきます。
真綿で付けるのがなかなか難しい
とりあえずこんな感じになりました
ということで、筆者の初めての金継ぎが完成しました!
うーん……決してプロが金継ぎしたように美しくはありませんが、初めてにしてはそれっぽくできているのではないでしょうか。金継ぎした器は、電子レンジ・食洗機・オーブン・直火はNGなので注意しましょう。
さて、お皿が1枚完成したのでもう1枚のほうにも金粉を付けよう……と思ったところで事件が起きました。
キットには金粉が0.1g入っていたのですが、お皿1枚が完成した時点で金粉を使い切ってしまったのです。説明書には「何枚か分の量」だと書かれていたので、恐らく筆者の扱い方が下手で、金粉を多く使用してしまったのでしょう。
今回はお皿2枚とアクセサリーを作る予定だったにもかかわらず、金粉がない……。慌てて「ハンズ」に金粉だけを購入しに行ったのですが(金継ぎコーナーがありました)、売り場で驚愕しました……。
なんと0.2gで5,000円を超えるのです。そりゃそうか、「金」ですから……。
少し悩み、そしてひらめきました。「金色の絵の具ではだめなのだろうか?」と。
金色の絵の具を購入!
そこで、もう1枚のお皿は金色の絵の具で仕上げてみました。すると……。
左が金粉で仕上げたもの、右が金色の絵の具で仕上げたもの
うーん、やはり仕上がりにはずいぶんと差が出ました。なんとなく絵の具感が出るというか、ボコボコしてムラが出るんですよね。塗り方が下手だっただけかもしれませんが……。
ちなみに、ピアスやブローチとして使えるように石と陶器の破片を金継ぎしてみたこちらは、金色の絵の具でもいい感じに仕上がりました。小物であれば絵の具でも遜色ありません。
小物なら金色の絵の具でもいいかも?
でも、器はやはり金粉がベストですね。そもそも食器として使用する場合には、絵具で仕上げてしまうと食品を入れるのに適さなくなってしまいます。今回絵具で仕上げた器も、再度やすりで削るなどして金粉で仕上げ直してみたいと思います。
また、写真を順番に見ていただくとわかると思いますが、ゴム手袋が漆でめちゃ汚れます! キットにはゴム手袋が1つ入っていますが、できれば予備のゴム手袋を用意することをおすすめします。
このように、憧れの金継ぎに挑戦してみました。感想は……めちゃめちゃ手間がかかる! 面倒くさい!
でも、それだけ時間と手間をかけて修復したからこそ、長く大切に使っていきたい気持ちが芽生えると感じました。そして、器とじっくり向き合っている時間は没頭できて、時計をふと見て「もうこんな時間!?」と驚いた瞬間が何度もありました。
オトナの趣味としてはとても素敵です。金粉はかなり高額でついビビってしまいましたが(笑)、次回はちゃんと購入して金継ぎにじっくり挑戦したいと思います!