「キャンパスノート」と聞けば、まず誰でも「ああ、あれだな」と表紙を思い浮かべられるはず。何せ発売以来、累計で35億冊が作られているんですから、知らないという人はまずいないよな、という数でしょう。
しかも、そのほぼ全数が滋賀県にある工場で生産されているということで、今や滋賀県の名産品といえば、「鮒寿司」「近江牛」と並んで「キャンパスノート」と言っても過言ではない……かもしれません。
滋賀県民は他府県民と口喧嘩になると「琵琶湖の水止めたろか!」と返すのが定番の文句ですが、実は「キャンパスノート、出荷させへんぞ!」のほうが効果的かも? ちなみに、筆者は元滋賀県民です。
「キャンパスノート」は、1975年の発売開始から大体10年ごとにモデルチェンジを繰り返しており、現在発売されているのが5代目に当たります。
冒頭で「表紙を思い浮かべられるはず」なんて書きましたが、さて、皆さんが思い浮かべたのは何代目の表紙だったでしょうか?
初代「キャンパスノート」。よく見ると、右下に当時のコクヨロゴ(朝日に桜)が!
2代目から、表紙に罫線が印刷されて見分けやすくなりました。あと、「Campus」がロゴ化されたのもこの頃からです
3代目では、文具店の棚に立てられた際の視認性を上げるため、ロゴが上部タテ方向に移動しました
4代目からは背クロス(背表紙に巻かれた紙)の強度を大幅に高め、ノート自体が裂けたりバラけたりしないように改良しています。
ただ、単に強度を上げただけでは生産時に断裁するのが難しくなるため、「ユーザーの手元では裂けないけど、工場では切りやすい背クロス」を開発するのにかなり苦労があったとか。
4代目で、ロゴが一気に大型化。背クロスの改良をアピールするため、クロス幅も大きくしています
5代目に当たる、当代「キャンパスノート」。ロゴ変更とともに配置も横位置へ。上部には教科・科目が大きく書き込めます
5代目の背クロスは、頑丈なことに加え、文字が書き込めるようになりました
ちなみに、モデルチェンジが“大体10年ごと”になっているのは、コクヨいわく「製造に関する技術的な更新などが、たまたま10年頻度になっているだけ」とのこと。特に時期を決めているわけではないそうです。
ところで発売は1975年からと言いましたが、実はその前に“ゼロ代目キャンパス”とも言うべきノートがあったのはご存じでしょうか。
1965年にリング綴じの「意匠ノート」という写真入り表紙の華やかなノートシリーズが発売されていました。そのなかでも特に、海外の大学のキャンパスの風景をあしらった「世界の学府」シリーズがよく売れたのだとか。
リング綴じの「意匠ノート」。すでにこの時点で「CAMPUS」の文字が入っています
折しもアイビールック(アメリカの大学生ファッション)ブームということで、「キャンパス」と名付けたノートが売れるぞ! という流れに。これが「キャンパスノート」という後の大ヒットシリーズを生み出す元となった、というわけです。
中身の罫線も、ノートを構成する重要な要素のひとつ。先にあげた歴代「キャンパスノート」で言えば、暖色系の表紙がA罫(7mm幅)、寒色系の表紙がB罫(6mm幅)を採用しています。
A罫は罫線と罫線の幅が7mm、B罫は幅が6mm。購入する際には、自分が後で読み返しやすい字のサイズから逆算すると、罫線選びで失敗しにくいと思います
とはいっても、キャンパスノートの罫線がこの2種類だけだと思っていたなら大間違い。細かな字が書きやすいC罫(5mm幅)や、逆にゆったり書くことができるU罫(8mm)、もっと広々としたUL罫(10mm幅)なんてものまで存在します。
「キャンパスノート」は海外でも人気ですが、特に中国や台湾では、画数の多い漢字も潰れずに書ける広罫幅のU罫、UL罫のノートが人気です
海外で人気の罫線と言えば、用紙の左側に縦の分割線(マージン線)が入った“マージン入り横罫キャンパスノート”なんてものも存在します。
これはアメリカで広く使われているリーガルパッド(法令関係者に特に使われているレポート用紙)の罫線を模したタイプ。アメリカ人はなぜかリーガルパッドをこよなく愛しており、アメリカの市場では「キャンパスノート」にもマージン線入りが求められた、ということのようです。
左側のマージンが特徴のアメリカ版「キャンパスノート」
国内で変わり種の罫線と言えば、「ドット入り罫線 理系線」と「ドット入り罫 文系線」という、理系・文系の勉強にそれぞれ特化した罫線があります。
「理系線」は、罫線の間に細かなドットが配置されていて、これを使ってグラフや表組みが書きやすい、という仕組み。「文系線」は、罫の間に点線の分割があり、これによって長文でも行間に余白が生まれ、文章を追いやすくなっています。
理系・文系科目に対応した特殊罫を採用した「ドット入り罫線 理系線」(写真左)と「ドット入り罫 文系線」(写真右)
こういった特殊罫だけでなく、ごく普通の横罫も密かに進化しているんです。
「キャンパスノート」5代目の紙面をよーく見ると、中央付近に小さなドットがあるのに気づくはず。このドットは、紙面を縦半分に分割して書き込む際に、ペンケースに入る15cm定規を使って分割線が引けるよう、線の中継地点として用意されたもの。
これを使えば、短い定規でもズレることなくど真ん中にスパッと縦のラインが引けるというわけ。なかなかよく考えられた仕組みです。
コンパクトな15cm定規でも、中央のドットを中継することでズレることなくまっすぐの縦線が引けるんです
単に紙を束ねただけ、と思われがちなノートですが、使いやすいように日々アップデートされているんです。
たとえば、2023年12月に発売された「キャンパス フラットが気持ちいいノート(ドット入り罫線)」は、その長いネーミングのとおり、フラットに開く機能がポイント。製本時の糊付けを改良したことで、ただノートを開いて机に置いただけで、紙が浮くことなくペタンとフラットに開けます。
いちいち開きグセを付けることなく、スパッときれいに開く「キャンパス フラットが気持ちいいノート(ドット入り罫線)」
表紙を開いて1ページ目から浮かずに使えますし、以降もいちいちページ端を手で押さえなくても書きやすく、ストレスフリー。些細な話に聞こえるかもしれませんが、実際に使ってみると、「あれ、最新のノートってこんなに書きやすい!?」と驚くレベルです。
開いて比べると違いは一目瞭然。フラット開きだから手で押さえる必要もありません
また、フラットに開くことで、紙面をコピーするときも中央に影ができません。スマホでページの必要なところだけ撮影するにしても、手で押さえる必要がないだけでずいぶん快適ですし、とにかくいろんな点で使い勝手がよくなっている印象です。
当代「キャンパスノート」(5代目)が発売されたのは2011年ですから、すでに13年目。これまでのモデルと比較すると、そこそこ長期政権といった感じです。
ただ、思い起こせば初代の発売が1975年ですから、2025年は記念すべきキャンパス50周年ということに。であれば、それに合わせて大きなモデルチェンジが来るのでは? という予想もできそう。
6代目こと50年アニバーサリーキャンパスはどんなデザイン・機能になるのか、今から楽しみですね。あくまでも予想ですけど。