低粘度油性インクのボールペンと言えば、従来の油性ボールペンが持つ“ネチャッ”とした不快な粘り気がなく、スルスルと軽く滑らかに書けることで人気です。その代表格と言えば、低粘度油性ボールペンの元祖である三菱鉛筆「ジェットストリーム」シリーズや、ライバルであるパイロット「アクロボール」シリーズがあげられますが、他メーカーを含め、各社の低粘度油性インクには書き味に特徴があり、それぞれに多くのファンがいるのが現状と言えます。
そんな中で今注目したいのが、ぺんてるから発売されたばかりの低粘度油性ボールペン「フローチューン」です。“浮遊感”をコンセプトに開発された摩擦レスの書き心地が最大の特徴ですが、それに加えて、スムーズな滑りの中でもしっかりと発揮されるコントロール性能や、油性インクとしては画期的な発色など、気になるポイントがいっぱいなんです。
ぺんてる「フローチューン」のラインアップは、ボール径が0.3・0.4・0.5mmの3種類。さらにそれぞれに黒・赤・青のインク色が揃っています。凹凸の少ないシンプルなデザインは昨今のトレンドですが、ペン先に、油性インクとしては珍しいニードルチップを採用しているのが目新しいところと言えるでしょう。
ぺんてるの超低粘度油性ボールペン「フローチューン」
インクは3色がラインアップ。カラーはノック基部のパーツで判別できます
実はぺんてるにはすでに低粘度油性ボールペン「ビクーニャ」が存在しますが、「フローチューン」はそれとはまったくの別モノ。なんと7年の開発期間をかけて、完全に新しい低粘度油性のシステムを生み出したとのことです。
まずインクは、従来以上にスルスルとした低粘度っぷり。他社のインクと比較しても圧倒的な滑らかさです。しかもインク内には新たに“クッション成分”を配合。この成分がペン内部の金属パーツ(ボールやチップなど)同士の擦れを低減することで、より低い摩擦で書けるようになりました。
チップ内の精度を高めることで、インクの流れを妨げずスムーズに通せるのもポイント
さらに、この特殊インクをたっぷりと流し出す「オーバーフローイング」によって、書き味にサラサラッとした軽さをプラス。これは昨今の滑らか系ゲルインクボールペンではおなじみの手法ですが、油性ボールペンとしてはかなり珍しいもの。結果として、油性インクのオイリーな摩擦の低さと、ゲルインクの書き味の軽さが共存した、現時点で最も滑らかなボールペンが爆誕! というわけです。
ペン先を意識して走らせると、フッと浮き上がるように摩擦が消えて、とんでもない滑らかさで筆記できます
ただし、単純に極限まで滑らかさを追求したインクでの筆記は、アイスバーンをノーマルタイヤで走るようなもので、書きにくいだけ。やはりある程度はペン先がコントロールできないと、快適な書き味は得られません。
「フローチューン」が面白いのは、筆圧の強弱によってそのコントロール性を引き出せるという点です。紙に対して筆圧をかけないように軽くペン先を動かすと、スルーッと滑り出しますが、そこで筆圧をかけると急激にクッと引っ掛かるように制動がきいてストップ。で、また筆圧を抜くとスルーッと滑る。自在にコントロールできるようになるには若干の慣れが必要だと思いますが、とはいえ慣れてしまえば、低粘度油性のスルスルした感じが苦手という人でも、抜群に書きやすくなるはずです。
“スルスル”だけじゃなく、筆圧次第でほどよくコントロールできるのがユニークです
何より、筆圧を抜いてペン先を走らせた瞬間の「摩擦がフッと消える感じ」は、まさに浮遊感そのもので、非常にインパクトのある書き味でした。この書き味は従来のどのボールペンにもなかった、まったく新しい感覚と言えるでしょう。
滑らかさで言えばやはり0.5mmが圧倒的ですが、書きやすさのバランスが取れているのは0.4mmでしょう。0.3mmでも十分に滑らかですが、垂直近くまでペンを立てないとインクがうまく流れない性質があるため、やや使いづらいかも。
油性インクはどうしても発色がぼやけてしまい、黒インクも微妙に“青黒”だったり“赤黒”だったり……ゲルや水性の黒インクと比べると、鮮やかさの点でどうしても見劣りしがち。ですが、並べてみると、「フローチューン」の黒の発色は驚くほどくっきりと濃く、黒々とした筆跡です。
なんと、黒の濃さで特に評価の高いゲルインクボールペン「エナージェル」(ぺんてる)と比べても、濃く見えるほど。書き味の滑らかさでなく、この発色の鮮やかさだけでも、十分に選ぶ価値があるレベルと言えるでしょう。
黒の鮮やかさは、くっきりと濃い発色で知られる「エナージェル」以上!?
発色のよさに関しては、かすれずにたっぷりインクが出るというのも要素の1つ。しかし、インクフローのよさ=それだけ紙にインクが染みやすい、ということになります。筆跡で言うと、「フローチューン」の0.3mと他社低粘度油性ボールペンの0.5mmの線幅がほぼ同じ。それぐらいに太って見えます。
大量のインクで濃さを演出しているため、線の太りもすごい。他社のものと比較するとよくわかります
もちろんここまで染みるからには、紙への裏抜けが発生するのも当然。筆記中にペン先を止めるとそこからジワッとインクが出て、厚手の用紙でもわりと簡単に抜けてしまいます。毛細管現象でインクを出す水性インクならまだしも、油性インクでこの染み具合はかなり珍しい。手帳用紙などの薄い紙だと、次ページまでインクが抜けるほど。あくまでも個人的な見解ですが、手帳への筆記はあまりおすすめできません。
筆記時にペン先を止めると、インクが紙にじわーっと広がります。本当に油性インクか!?
厚手の筆記用紙(MDペーパー)でも、ここまで抜けます
浮遊感のある書き味と、油性インクとしては極端に高いインクフローは、正直なところ、かなりの“クセ強”物件と言って間違いありません。ただ、そのクセは「書いたときの気持ちよさ」を生むための仕組みであり、実際、書いていてめちゃくちゃ楽しくて気持ちよいのも、また事実。特に、ボールペンにこだわりのある人なら、何をおいてもまず1度は試してみるべき一本と言えるでしょう。
かなり珍しい特性の油性ボールペンですが、書き味の楽しさは唯一無二かも