アップル 新型「iPad」
2017年3月21日の夜(日本時間)、アップルのタブレット「iPad」の新モデルが急遽発表された。予約開始は3月25日より受け付けられており、出荷開始は4月上旬と見られている。
新型「iPad」として今回新たに発売されるのは、9.7インチ(2048×1536)の液晶画面を搭載する、従来モデルでは「iPad Air」として展開されていた製品。これに伴い、従来製品「iPad Air 2」は販売終了となった。従来の「iPad Air 2」とスペックは似通っており、CPUに「A9チップ(M9コプロセッサ)」(iPad Air 2は「A8Xチップ」)を搭載する以外は、外見も中身もほとんど変わらない。ただし、新型「iPad」のほうが、6.1mmから7.5mmへとやや厚みが増しており、重量も437gから469gへとやや重くなった。また、Retinaディスプレイの表面処理として、低反射のフルラミネーションディスプレイが見送られているなど、若干スペックダウンと見える部分もある。その代わり、販売価格が大幅に引き下げられており、32GBモデルで37,800円、128GBモデルで48,800円(いずれも税別。Wi-Fiモデル)と、従来の「iPad Air 2」に比べると、それぞれ1万円、2.7万円ほどの実質値下げとなっている。ひと言で言えば、高めの価格を維持していた「iPad」が買いやすくなったわけだ。
図1:「タブレットPC」カテゴリーのアクセス推移(過去6か月)
アップルが今回、このような「iPad」の実質値下げを行った背景には、タブレット市場の停滞と、その中での「iPad」のシェア凋落傾向がある。図1は、「価格.comトレンドサーチ」で、ここ6か月間の価格.comの「タブレットPC」カテゴリーのアクセス推移を示したものだが、昨年末くらいには一時的に盛り上がりを見せたものの、全体としてはやや下落傾向にある。特に、今年2017年に入ってからはその傾向が顕著だ。3月の直近でややアクセスが上がっているのは、今回の新型「iPad」の発表によるものだが、その反応はかなり限定的と言える。
図2:「タブレットPC」カテゴリーにおける主要5メーカー別のアクセス推移(過去6か月)
こうした低落傾向にあるタブレット市場の中で、「iPad」を擁するアップルの存在感はどのようになっているのだろうか。図2は、「タブレットPC」カテゴリーにおける主要5メーカー別のアクセス推移(過去6か月)を示したものだが、この中でアップルは、昨年2016年9月に「iPad Air 2」の32GBモデルが発売されたのを最後に、注目度は右肩下がりとなっていたのがわかる。これに対して、ASUSやHuaweiといったAndroid/Windowsタブレットのメーカーが、アクセス数で首位だったアップルの座を脅かすようになり、ここ半年くらいは、アップルは第2位あるいは第3位の座に甘んじていた。それが、今回の新型「iPad」の発表によってアクセスが上昇し、わずかではあるが、これらライバルメーカーを抜いて久々の首位に躍り出た格好だ。ただ、現状ではさほどの差とはなっておらず、今後もしばらくはこの3メーカーの首位争いが続きそうだ。
図3:「iPad」シリーズ主要5モデルのアクセス推移(過去3か月)
なお、「iPad」シリーズ内のアクセス推移を見ると(図3)、これまでは「iPad Air 2(32GB)」の人気が頭ひとつ抜けて高く、続いて「iPad Pro 9.7インチ(128GB)」「iPad mini 4(128GB)」となっていた。今回新モデルの発表があった3月22日を境に、直接の影響を受ける「iPad Air 2(32GB)」のアクセスが急上昇したが、こちらのモデルの販売中止が伝わると一気にアクセスが収束し、代わりに新モデルの「iPad 32GB(2017年春モデル)」のアクセスが高まってきている。なお、新モデル128GBモデルの注目度は、32GBモデルほどではないようだ。
図4:「iPad」シリーズ主要5モデルの売れ筋ランキング推移(過去3か月)
図3で見たアクセス推移にほぼ連動するように、「iPad」シリーズ全体の売れ行きも好転している。図4は、「iPad」シリーズ主要5モデルの売れ筋ランキング推移を示したものだが、これまで売れ筋上位の常連だった「iPad Air 2(32GB)」が終売となるのに代わって、新モデルの「iPad 32GB(2017年春モデル)」のランクが急上昇しているのがわかる。また、「iPad Pro 9.7インチ(128GB)」「iPad mini 4(128GB)」の売れ筋ランクもともに上昇している。なお、3月29日時点での売れ筋ランキングでは、「iPad 32GB(2017年春モデル)」が2位、「iPad mini 4(128GB)」が4位、「iPad Pro 9.7インチ(128GB)」が5位と、上位5製品中3製品が「iPad」シリーズで占められるという、久々に見る展開となっている(図5)。
図5:「タブレットPC」カテゴリー・売れ筋ランキング上位5製品(2017年3月29日時点)
上記のように、今回の新型「iPad」の登場によって、この半年間は低落傾向にあった「iPad」シリーズ全体がにわかに活気だっているが、その影響はきわめて限定的だ。図2で見たように、「iPad」関連では久々の大きなニュースであったものの、ASUSやHuaweiといったライバルメーカーの人気を大きく突き放すほどの反応にはなっておらず、どちらかと言えば、長期低落傾向にあるタブレット市場にあって、今回はアップルが相対的に浮かび上がってきたというほうが正しい見方と言える。
今回の新型「iPad」の最大のトピックである価格(値下げ)に関しても、ユーザーの反応を見ていると、値下げ自体を歓迎する声も多いが、プロダクトの内容的に新しい点がないため、微妙とする声も多い。特に、新型「iPad」の登場によって最も影響を受ける「iPad Air」シリーズのユーザーの反応はまちまちだ。
肯定的な意見としては、「6年ほど前に買ったiPadをずっと使い続けてましたが、今回の値段に飛びついてしまいました」「iPad Air 2の購入を考えたのですが新型を見てからと思っていたらiPad Air 2は無くなり、どちらが良いのかわかりませんがとりあえず安いのでOKですね」といったように、旧「iPad」や、初代「iPad Air」のユーザーからは、乗り換え機として安いという声が多く聞こえる。
これに対して、「iPad Air 2」のユーザーからは、「Air 2持ってるなら次のモデルが出るまで待ちでしょうね。Air 2と比べると厚く重くなってるし、A9にアップしてますが、劇的に快適になるほどでもないし」「個人的には液晶がスペックダウンしているのが致命的かなあ。まあうちには元気なAir2があるから新型買うことは絶対ないんですが」といったように、液晶などや厚みなど、若干スペックダウンという部分が否定的にとらえられているようだ。
図6:「iPad」シリーズ主要5モデルの最安価格推移(過去3か月)
図6は、「iPad」シリーズ主要5モデルの最安価格推移を示したものだ。これを見ると、従来の「iPad Air 2(32GB)」が44,000円前後で推移していたのに対し、今回の新型「iPad 32GB(2017年春モデル)」は40,813円(いずれも税込価格)で登場しており、従来モデルに比べても実質3,000円程度の値下がりということになる。現在、「iPad Air 2」の販売は終了しているので在庫も一切ないが、仮にあったとしても、旧モデルを購入するメリットはほとんどないだろう。ただし、すでに「iPad Air 2」を持っている人が、新型に乗り換えるメリットもほとんどないため、乗り換え需要自体は非常に限定的と考えられる。購入するのは、それ以前の「iPad」ユーザーの乗り換え用か、新規ユーザーに限られそうだ。
図7:「タブレットPC」カテゴリー売れ筋ランキング上位5モデルの最安価格推移(過去3か月)
なお、今回実質値下げとなった「iPad」であるが、タブレット市場全体を見ると、それでもまだ高いことには変わりはない。図7は、「タブレットPC」カテゴリーにおける売れ筋ランキング上位5モデルの最安価格推移を示したものだが、長い間人気を保っているHuaweiの8型Androidタブレット「MediaPad T2 8 Pro」の最安価格は17,200円(2017年3月29日時点)。スペックもOSも異なるため、単純比較はできないが、新型「iPad 32GB(2017年春モデル)」の半額以下である。Androidタブレットでは、LTE対応で場所を選ばずインターネットが使えるモデルが最近人気だが、その中でも人気のASUS「ZenPad 3 8.0」でも33,502円。こちらも新型「iPad」より安い。このように、タブレット市場において、アップルの「iPad」の価格は今でもかなり高い状況にある。今回の実質値下げも、こうしたタブレット市場全体の状況を鑑みてのことだったと思われるが、安くなったとはいえ、まだまだ高い新型「iPad」が、従来からのユーザーの買い換えはともかく、新規のタブレット購入ユーザーの気持ちをどれほどつかめるかは、いまだに簡単ではないように思える。
価格.comの編集統括を務める総編集長。パソコン、家電、業界動向など、全般に詳しい。人呼んで「価格.comのご意見番」。自称「イタリア人」。