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安くなるの? 高くなるの?

実質負担額が消える!? 「分離プラン」でスマホの買い方はどう変わる?


2019年3月5日、内閣によって「電気通信事業法の一部を改正する法律案」(以下「改正案」)が閣議決定されました。この改正案は総務省が2018年10月から開催している「モバイル市場の競争環境に関する研究会」にてまとめられた「モバイルサービス等の適正化に向けた緊急提言」が元になっており、

・モバイル市場の競争の促進
・販売代理店への届出制度の導入
・事業者・販売代理店の勧誘の適正化

以上の3点を柱としています。

通信環境が必須とも言える現代社会においては、どれも私たちの生活に密接に関わってくる内容なのですが、特に影響が大きいのはひとつ目の「モバイル市場の競争の促進」です。この改正案によって、

・通信料金と端末代金の完全分離
・行き過ぎた囲い込みの禁止

の2つが法律に明記されることになります。

端末販売と通信契約の「分離」を義務付け

ひとつ目の「通信料金と端末代金の完全分離」では、「端末の購入を条件に、キャリア間の競争を阻害しかねない利益をユーザーに提供すること」が禁止されます。

わかりやすく言うと、スマホなどの端末購入を条件に月額料金を割り引くことが、改正案の成立後はできなくなります。

端末の販売と通信の契約が明確に分かれることになるため、改正案に対応する料金プランは「分離プラン」とも呼ばれています。端末代金と通信料金が密接に絡み合った割引を排除し、分離プランによるキャリア間の競争を促そうというわけです。

具体例を挙げると、端末を分割購入する際に月額料金から毎月一定額が割引になるNTTドコモの「月々サポート」、KDDI(au)の「毎月割」、ソフトバンクの「月月割」がこれに該当します。分離プランの導入に伴い、これらの割引はすべて提供できなくなります。

すでに導入されている分離プランとして、auの「auピタットプラン」「auフラットプラン」、ソフトバンクの「ミニモンスター」「ウルトラギガモンスター+(プラス)」がありますが、auで上記の両プランを契約している場合や、ソフトバンクで上記のプランを2年契約ありの条件で契約している場合には、実際に毎月割や月月割が適用されなくなっています。

「月々サポート」のイメージ。端末の購入が条件となる割引はすべてなくなることになります(画像はドコモのWebサイトより)

また、指定の機種を使い続けるかぎり月額料金から毎月1,620円がずっと割り引かれるドコモの「docomo with」も、端末の購入を条件とした月額料金の割引にあたります。

ドコモはdocomo withを分離プランと位置付けてきましたが、一度は対象機種を購入しないと割引が始まらず、対象外の機種を購入すればdocomo withも適用されなくなるため、今回の改正案では分離プランとみなされないのです。

docomo withも端末の購入が条件となることから今回の改正案に抵触してしまいます(画像はドコモのWebサイトより)

こうした割引では端末代金を直接値引きしてはいませんが、割引を受ける上で不可分である通信料金が安くなることから、端末代金から割引額を差し引いた金額が「実質負担額」として案内されてきました。真の端末代金がわかりにくくなるという指摘もあった実質負担額という概念そのものが、改正案によって消えることになります。

「○年縛り」がなくなる?

2つ目の「行き過ぎた囲い込みの禁止」では、「解約を不当に妨げることで、キャリア間の競争を阻害すること」が禁止されます。こちらもわかりやすく言うと、ユーザーがキャリアを解約しにくくなるような条件を付けることができなくなります。

たとえば、指定のプランを1年間契約し続ける代わりに端末代金を割り引くドコモの「端末購入サポート」では、期間内に解約すると割引額の半額を解除料として支払わねばなりません。

2019年3月28日現在、他社からの乗り換えでドコモの「iPhone X(64GBモデル)」を購入すると、104,328円という高額な端末購入サポートが得られます。しかし、購入日または開通日の翌月から12か月以内に解約すると、その半額となる52,164円もの解除料が発生します。何らかの理由でこの期間内に解約や乗り換えをしたい事情ができたとしても、これだけの費用がかかるとなれば思い留まるユーザーも多いはずです。

端末購入サポートは「行き過ぎた囲い込みの禁止」だけでなく、前述の「通信料金と端末代金の完全分離」における「キャリア間の競争を阻害しかねない利益」とも言えるので、改正後は廃止されることになると思われます。

端末購入サポートの例。高額な割引を受けられますが、解除料もかなりの額です(画像はドコモのWebサイトより)

また、大手キャリアの料金プランは2年単位の契約が定期的に更新される、いわゆる「2年縛り」が主流となっていて、2年に1度だけ、2〜3か月間に渡り「更新月」という期間が設けられています。

更新月ではない期間にキャリアを解約したりほかのキャリアに乗り換えたりすると、契約解除料が請求されます。金額はキャリアや契約内容によりますが、スマホ向けの料金プランでは10,260円が一般的。契約解除料は決して安い金額ではないので、更新月が来るまで乗り換えを控えようと思ったり、実際にそうしたりした方も多いのではないでしょうか。

それでも定期契約ありのプランを選ぶ人が多いのは、定期契約なしのプランは料金が割高だからです。定期契約の有無による月額料金の差額を調べてみると、ドコモとauは月額で1,620円(24か月間で合計38,800円)、ソフトバンクは2,916円(同69,984円)にも達します(ドコモはスマホ向けの各種基本プラン、auは「auピタットプラン」および「auフラットプラン」、ソフトバンクは「通話基本プラン」をもとに算出)。

ソフトバンクの「通話基本プラン」では、2年契約の有無で毎月税込2,916円の差額が生じます(画像はソフトバンクのWebサイトより)

事実上選択の余地がなく、途中で解約するのもためらわれることから、2年縛りは競争を阻害する要因とも解釈できます。改正後は、MVNO(仮想移動体通信事業者)の格安SIMで一般的な「最低利用期間」のように、一定期間内に解約すれば契約解除料が請求されるものの、期間が過ぎれば請求されなくなるタイプの契約が広まるかもしれません。

端末やキャリアの選び方が大きく変わるかも

今回の法改正は、ユーザーにどのような影響を与えるのでしょうか。

一番の変化は、端末の販売価格です。分離プランでは端末の購入と同調した割引が得られないため、これまでのように「通信料金の大幅な割引による安価な実質負担額」で購入することはできなくなります。

料金プランの月額料金は分離プランの導入によって引き下げられるものの、端末の代金を含めた毎月のコストは、選んだ機種や分割払いの回数などによっては逆に値上がりすることもあり得ます。

こうした傾向は、iPhoneシリーズのように高額な端末において顕著に現れるはずです。これからは「前もiPhoneだったから、今度もiPhoneで」といったようになんとなく機種を選ぶのではなく、必要な機能と価格を検討した上で選ぶ必要に迫られるのです。

とはいえ、今回の改正案では、端末価格そのものの割引や分割払いまでは禁止されていません。同じiPhoneシリーズでも、前年に登場した旧機種を値引きして販売したり、すでにauやソフトバンクで導入されている48回払いのように、1回あたりの負担額を低く抑えたりするような動きが想定されます。

また、実質負担額がなくなり、大手キャリアの端末も定価かそれに近い価格で販売されることになれば、キャリアから端末を購入するメリットが弱まります。たとえば、ポイント制度を導入している家電量販店やインターネット通販サイトでSIMフリー端末を購入したほうが、キャリアで購入するよりお得なケースも考えられます。

端末を開発・製造するメーカーとしても、実質負担額の概念に支えられていたキャリアでの販売には頼れなくなります。時間はかかるかもしれませんが、しばらく前からSIMフリー端末にも力を入れているシャープのように、これまで大手キャリア向けの端末しか販売してこなかったメーカーが、SIMフリー端末の販売に踏み切ることもあり得ます。

サポートや保証のことも考えれば、キャリアから購入したほうが安心できるという人も多いと思われますが、今後は魅力的なSIMフリー端末を自分で購入したり、安価な中古端末でコストを抑えたりする人が、これまで以上に増えるかもしれません。

いっぽう、分離プランが導入されることで、通信サービスの月額料金は端末を買っても買わなくても変わらなくなります。端末ありきでキャリアを選ぶのではなく、端末同様にサービス内容や価格を吟味して選択することの重要性がさらに増すでしょう。

それに、もしも定期契約による縛りが見直されれば、キャリア間を今以上に乗り換えやすくなります。どこかのキャリアで新サービスが始まったときに「更新月じゃないから」と我慢する必要がなくなるのです。

加えて、前述のようにSIMフリー端末の選択肢が増えれば、端末を買い換えずにキャリアを渡り歩きやすい環境が整います。改正案の成立によって、端末やキャリアを見極める力が重要になる時代がやってくるかもしれません。

ただ、分離プランの導入義務化と過度の囲い込みを禁止する今回の改正案は、まだ正式に可決されたわけではありません。先日も、2019年10月から独自のネットワークによる通信サービスを開始する楽天が分離プランの対象外になるという報道がありましたが、実際にどう扱われるのかは現時点ではまだ不明です。生活に不可欠となった通信サービスの成り行きを決める改正案の行方に注視していきたいと思います。

松村武宏

松村武宏

信州佐久からモバイル情報を発信するフリーライターであり2児の父。気になった格安SIMは自分で契約せずにはいられません。上京した日のお昼ごはんは8割くらいカレーです。

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