レノボ傘下に入って再スタートを切ったFCNTが、累計約280万台の大ヒットを記録した「arrows We」の後継モデル「arrows We2」を、NTTドコモ、au、UQ mobile、オープンマーケットモデルから8月16日に発売した。
それに先んじてシャープが7月26日に発売した「AQUOS wish4」も、幅広いユーザーに向けたエントリーモデルとして注目されている。両モデルは、ハードウェアのスペックを抑えつつも、安心・安全性、多彩な機能、手ごろな価格という共通の特徴を備えている。そんな両モデルを使い比べた。
FCNT「arrows We2」、市場想定価格36,850円(税込)、2024年8月16日発売(写真左側)。シャープ「AQUOS wish4」、市場想定価格37,400円(税込)、2024年7月26日発売(写真右側)。いずれも、価格と発売日はオープンマーケット版のもの
まずは、両モデルの主要スペックを比較しておこう。
両モデルの最大の違いはディスプレイだ。「arrows We2」が比較的小さい約6.1インチであるのに対して、「AQUOS wish4」は約6.6インチの大画面を搭載。そのため、「AQUOS wish4」のほうが本体サイズも大きく、重い。
左が「arrows We2」、右が「AQUOS wish4」
どちらもMediaTek製のSoCを採用しており、「arrows We2」が「Dimensity 7025」、「AQUOS wish4」が「Dimensity 700」。どちらもミッドレンジ向けだが、「Dimensity 7025」のほうが新しく、性能も高い。
アウトカメラは「arrows We2」がデュアルで、「AQUOS wish4」はシングル。ただし、メインカメラはどちらも約5010万画素で、実際に使ってみないと、優劣は決められない。
「arrows We2」は約6.1インチの液晶ディスプレイを搭載し、本体の横幅は約73mmに抑えられている。片手でしっかりとホールドでき、ほとんどの操作は片手でこなせるサイズ感だ。
「arrows We2」は片手持ちでも楽に文字を入力できる
右側面に音量ボタンと電源ボタンを搭載し、電源ボタンは指紋センサーを兼ねる。左側面にはnanoSIMカードとmicroSDXCカードのスロットを搭載。上部はマイクのみ。下部のイヤホンジャック、USB Type-Cポート、マイク、スピーカーを備えている。背面パネルはマットで、サラサラとした手触りだ。新味には欠けるが、王道と呼ぶべきデザインだろう。
「arrows We2」のイヤホンジャックは下部に搭載(左写真)。「AQUOS wish4」のイヤホンジャックは上部に配置(右写真)
「arrows We2」の背面パネルはマットな質感。電気電子部品を除いた本体重量の約65%にリサイクル素材が使われている
「AQUOS wish4」の背面は上品でスタイリッシュな印象
いっぽうで「AQUOS wish4」は、右側面に音量ボタンと電源ボタンを搭載し、電源ボタンは指紋センサーを兼ねる。左側面にはnanoSIMカードとmicroSDXCカードのスロットを、上部にイヤホンジャックとマイクを配置。底部にUSB Type-Cポート、マイク、スピーカーを備えている。横幅は約76mmで、片手での操作には制約が生じる。片手で持ち、もう片方の手で操作する前提の大きさだ。
「arrows We2」の右側面に備わる電源ボタンは指紋センサーを兼ねる(左写真)。「AQUOS wish4」も右側面に音量ボタンと電源ボタンを配置する(右写真)
両モデルが採用するSoCを開発するMediaTekは、以前まではクアルコム製のSnapdragonに比べると性能が低い印象があったが、最近はエントリーやミッドレンジだけでなく、ハイエンドモデルで採用されることも増えており、技術力とコストパフォーマンス兼ね備えたメーカーと評価してよいだろう。
「arrows We2」の「Dimensity 7025」は、2.5GHz×2コア+2.0GHz×6コアのオクタコアで、ミッドレンジ向けの中ではやや低めのスペックだ。いっぽう、「AQUOS wish4」の「Dimensity 700」は、2.2GHz×2コア+2GHz×6コアの構成で、処理速度では「arrows We2」に劣る。
ベンチマークアプリとして広く使われるアプリ「Geekbench 6」でパフォーマンスを計測した結果。左が「arrows We2」、右が「AQUOS wish4」。「arrows We2」のほうが高いスコアを記録した
RAMはどちらも4GB。近ごろのスマホとしては最も少なく、5Gスマホとして必要最低量と言ってよい。なお、どちらもストレージの空き容量を、仮想的にRAMに割り当てて拡張する仮想メモリー機能を備えている。
仮想メモリーの設定画面。左は「arrows We2」で、容量を選べる。右は「AQUOS wish4」。初期設定で仮想メモリーの使用がオンになっていた
筆者が実際に使った印象では、アプリの起動やタッチ操作のレスポンスは同等で、優劣は感じにくい。
ただ、両機ともに基本アプリの操作で不便が生じることはないが、カメラの撮影モードの切り替え、起動中のアプリの切り替えなど、反応が遅いと感じることは結構あった。普段ハイエンドモデルを使っている人はストレスを感じるかもしれない。
バッテリー容量は「arrows We2」が4500mAhで、「AQUOS wish4」が5000mAh。「AQUOS wish4」のほうが大容量だが、バッテリーを多く消費する大画面のため、電池持ちは互角と感じられた。両機とも1日は余裕で持続、使い方によっては2日以上使い続けられそうだ。
左が「arrows We2」、右が「AQUOS wish4」。どちらも充電時のバッテリーへの負荷を軽減し、バッテリーを長持ちさせる機能を備えている。「arrows We2」は4年後に80%、「AQUOS wish4」は3年後に90%の電池容量を維持することが見込まれている
両モデルはメーカー独自の便利機能が充実していることでも共通している。「arrows We2」は「arrowsオススメ機能」、「AQUOS wish4」は「AQUOSトリック」に独自機能の使い方がわかりやすく説明されていて、使いたい機能を有効化できる。
「arrows We2」は「arrowsオススメ機能」、「AQUOS wish4」は「AQUOSトリック」で使いたい独自機能を設定できる。どちらもホーム画面のショートカットアイコンからアクセスできる
「arrows We2」の独自機能で、特に便利だと感じたのは「Exlider(エクスライダー)」。電源キー(指紋センサー)を1秒ほど触れると起動でき、画面に触れることなく、電源キーをなぞるだけで ウェブやSNSなどの画面をスクロールできる。ダブルタップで表示を拡大できるのも便利だ。ほかにも、ロック状態から音声、テキスト、画像のメモを素早く起動できる「FASTメモ」、指定したアプリや通知を非表示にできる「プライバシーモード」など、従来モデルに搭載されていた機能も継承されている。
「Exlider」は指紋センサーをなぞって画面をスクロールできる機能(左写真)。音声、テキスト、画像のメモを素早く起動できる「FASTメモ」も便利(右写真)
左が「プライバシーモード」オン。 右が「プライバシーモード」オフ。オンにすると、指定したアプリのアイコンが消える
「AQUOS wish4」は、電源キー(指紋センサー)に、ロック解除の操作と同時に指定したアプリを起動できる「Payトリガー」を設定可能。よく使う決済アプリを登録しておくと便利な機能だが、「カメラ」「Googleアシスタント」、AIを用いたAQUOS独自のアシスタント「エモパー」など、ほかのアプリを設定することも可能だ。ほかに、画面から指を離しても自動でスクロールされる「オートスクロール」、画面の左上または右上の隅を長押しするだけでスクリーンショットが撮れる「Clip Now」なども便利だ。
指紋センサーに触れてロックを解除すると、ほぼ同時に指定したアプリを起動できる「Payトリガー」
両機はエントリーユーザーやライトユーザーをターゲットにしているため、安心・安全に使えることにも配慮されている。
「arrows We2」は、ホーム画面を「シンプルモード」に切り替え可能。アイコンと文字が大きく表示され見やすくなり、スマホに不慣れなシニア世代におすすめだ。「AQUOS wish4」は同様の「かんたんモード」が用意されているうえに、子ども向けの「ジュニアモード」も用意されている。
左が「arrows We2」の「シンプルモード」のホーム画面。中央が「AQUOS wish4」の「かんたんモード」、右が「ジュニアモード」のホーム画面
シニア世代が使う場合に便利な機能として、迷惑電話対策機能も備えるのも特徴だ。両モデルの機能は細かい違いがあるものの、基本的な使い方は同じ。迷惑電話の疑いがある電話を着信した場合、スマートフォンが迷惑電話と認識し、発信者に通話を録音するよう提案する。これは、電話後に家族に聞いてもらうなどの対策を講じられる機能だ。
「arrows We2」の「迷惑電話対策」をオンにした場合、着信時にはこのような画面が表示され、相手には自動でアナウンスが流れる。通話内容は録音され、「迷惑メモリスト」から再生することができる
長く使い続けるための堅牢性にも配慮されている。防水・防塵の等級は、どちらもIP68に対応しており、雨天や水回りでも安心して使用可能。汚れた場合に泡ハンドソープで洗えることや、アルコール除菌シートで拭けることも共通している。
さらに、米国国防総省が資材調達基準として制定したMIL規格に準拠する耐久性も備えている。「arrows We2」は23項目、「AQUOS wish4」は18項目に試験をクリア。どちらも衝撃、振動、湿気、高温と低温の環境、氷結などに対する高い耐性を備える。
「arrows We2」だけが対応しているのは、塩水耐久、耐日射(連続)、耐日射(変化)、熱衝撃だった。また、落下に対する耐性は、「AQUOS wish4」は1.22mから落下しても壊れにくいにの対して、「arrows We2」はさらに過酷な1.5mからの落下に耐える独自試験が実施されている。どちらも十分すぎる仕様ではあるが、「arrows We2」のほうがが「より頑張っている」と評価できる。
購入後のソフトウェアアップデートの対応は、「arrows We2」はOSが最大2回で、セキュリティアップデートが最大4年。「AQUOS wish4」はOSが最大2回で、セキュリティアップデートが3年としている。
両モデルともにカメラのスペックは低め。最近のミッドレンジは超広角+広角のデュアルカメラ 、ハイエンドでは超広角+広角+望遠のトリプルカメラを搭載することが多い。しかし、「AQUOS wish4」の背面カメラは広角のみ。「arrows We2」は広角+マクロのデュアルではあるものの、マクロカメラを使うより広角カメラで撮影してトリミングしたほうが画質はよい。そのため、マクロカメラの搭載は「arrows We2」の優位性とは言えない。
「arrows We2」(右)はデュアルカメラ、「AQUOS wish4」(左)はシングルカメラだが、メインカメラの性能が互角
カメラ性能にはさほど期待していなかったのだが、実際に撮ってみると、どちらのモデルも明るく、鮮やかな色表現で、期待をはるかに上回った。「arrows We2」のメインカメラ は前モデルの約1310万画素から約5010万画素に向上。デフォルトでは4つの画素を1つの大きな画素として使うクアッドピクセル技術によって、明るく撮影できる。2倍ズームで撮影する場合は画素の結合が解除され、光学ズーム相当の画質が得られる。デジタルズームは最大8倍だ。
明るくナチュラルな色で写る
2倍にはワンタップで切り替えられる。画質の鮮明さは維持されている
明るい屋外でもデジタルズーム特有の粗さは現れる
料理も美味しそうに写った
AIが「犬・猫」を認識するので、動くペットも撮りやすい
夜景モード「Super Night Shot」で撮影。花火、イルミネーションに適したモードにも設定できる
なお、「arrows We2」のカメラには「Photoshop Expressモード」という機能が用意されている。これは撮影した画像を自動で補正する機能で、撮影した画像と補正後の画像の両方が端末に保存される。前モデルでは重宝したと記憶しているが、「arrows We2」は通常の「写真」モードできれいに撮れるので、必要とする人は限定的だろう。
「Photoshop Expressモード」で撮影した写真は自動で補正される。暗い場所で撮る際や、映える写真を撮りたい場合に適している
「AQUOS wish4」のメインカメラも、前モデルの約1300万画素から約5010万画素にアップグレードされている。2倍までは画質劣化が気にならない鮮明な画質で写り、デジタルズームは最大8倍まで撮影できる。独自の機能として「フローティングシャッター」を用意。シャッターボタンを押しやすい位置に動かせる機能で、片手持ちで撮影したい場合に重宝する。
色温度高めで清涼感のある、スッキリとした色合いで写った
ワンタップで1.5倍に切り替えられ、鮮明な画質で写せる
2倍にもワンタップで切り替えられる。画質の劣化も心配ない
画質は粗くなるが、スマホの画面で見るには十分な画質とも言える
料理は実際よりも鮮やかな色で写るようだ
室内でもフラッシュなしで、適切な明るさで写る
夜景モードには自動で切り替わる
「フローティングシャッター」をオンにすると、好きな位置でシャッター操作ができるようになる
動画機能は、両モデルともにフルHDまで。フロントカメラも約800万画素と共通だ。どちらも美肌、輪郭(小顔)などの補正ができ、背景をぼかして自撮りをすることもできる。
両モデルを使ってみると、それぞれ個性はあるものの、ライトユーザー向けには十分な機能を備えていると感じられた。耐久性にすぐれているので仕事用の端末としても適している。安心・安全な機能がそろっているのでシニア世代に持たせる端末にもピッタリだ。どちらを選ぶかは用途で決めるべきだろう。片手で操作する状況が多いのであれば「arrows We2」、画面の視認性を重視するなら「AQUOS wish4」を選ぶのが得策だろう。