2024年12月15日の執筆時点、価格.com「トラックボール」の人気売れ筋ランキングで3位、「マウス」全体で見ても17位という人気を博しているのが、ロジクールの「MX ERGO S MXTB2」(以下「MX ERGO S」)です。これは驚くべきことだと断言しましょう。なぜなら「MX ERGO S」は価格.com最安価格でも17,800円の”高級”トラックボールなのです。
これは筆者のイメージですが、高級キーボードというカテゴリーは、いまや広く認知されている気がします。しかし、高級マウス/トラックボールはというと、まだそこまで一般化した印象はありません。そのような状況のなかで、高価であっても多くの人を惹きつける魅力を持っているのが「MX ERGO S」というわけです。そうでなければこれだけの人気を得ることはできないでしょうから。
そこで本記事では、「MX ERGO S」が持つその魅力と人気の秘密に迫ってみます。
ロジクール「MX ERGO S MXTB2」、17,800円(税込/価格.com最安価格。2024年12月15日時点の情報、以下すべて同様)
トラックボールといってもさまざまですが、大きく分類すると主に次のタイプが存在します。
・親指でボールを動かすタイプ ←「MX ERGO S」はこれ
・人さし指・中指でボールを動かすタイプ
・人さし指にはめる超小型のハンディタイプ
「MX ERGO S」はいちばん上の「親指操作タイプ」のトラックボールです。ボールの直径は34mm。適度な重さがあり、静かに動かせばマウスポインターが細かくスムーズに動き、勢いよく回せばマウスポインターが素早く動きます。
「MX ERGO S」は親指操作タイプのトラックボールマウス
勢いを付けたときは慣性が働くため、マウスポインターの位置が思ったよりも先に進む傾向がありますが、これもトラックボールの特徴であり利点でもあるところ。マウスポインターを大きく動かす際などに楽です。また、慣れれば一般的なマウスや、ノートPCに内蔵されるタッチパッドよりも、マウスポインターを自由自在に動かせるようになります。
慣れるとポインターを自在に動かせます
左右クリックボタンの中央にミドルクリック付きスクロールホイール。左側には「進む」「戻る」が割り当てられている2つのファンクションボタンがあり、左側面にはマウスポインターの動きの速度を変えるためのDPIボタンも備わっています。
また「MX ERGO S」は2台までのデバイスとワイヤレス接続できるマルチペアリング機能も内蔵されています。「1 2」と書かれている部分の上にあるボタンを押すと、「Easy-Switch機能」により操作するデバイスの切り替えや、ペアリングができます。
ボタン類はボディ天面にまとまっています
クリックボタンは静音タイプ。ボタンのストロークは短く、わずかな力で反応します。これがなんとも気持ちよいのですよ。普通のボタンのマウスやトラックボールに慣れていると最初は違和感がありますが、そのうち力を込めなくても操作できることから、思考とマウス操作がシームレスにつながってくるのです。滑らかなボールの動きとともに、心地よい上質さを感じますね。
残念ながら、ホイール・ファンクション・DPIボタンなどは静音タイプではなく、押し込み量も一般的なもの。個人的な印象としては、静音性をアピールした高価格帯モデルゆえに、すべてのボタンを静音タイプにしてほしかった……。
「MX ERGO S」の底面部には、重量のある金属プレートが備わっています。本体に手を乗せるとテーブルの上にピタッと吸い付くようにしてとどまり、また、摩擦による重さは感じるものの、マウスのように動かすこともできます。いつでも、気分や使うアプリ次第で好みの角度に置きやすいよう、滑り止めの処理にこだわっているものと感じます。
角度調整も可能です。金属プレートを外して付け替えるか、外側に手首を回すようにして力を入れると、20度の角度がつくようになっています。背筋を伸ばしキーボードやモニターに身体を近づけているときは0度の状態のほうが手首に負担がかからず、ワークチェアの背もたれに深く寄りかかっているときは20度の状態が好みだと感じました。これは絶妙な角度設定です。
角度を付けていない状態
角度を付けた状態がこちら
角度調整は2段階のみ。とはいえ不満は一切ありません。金属プレートと本体のマグネット固定部が変わるだけというシンプルな構造で、可動部を最小限にしているため確固とした剛性があるのも心地よさと直結していそうです。
本体上部全体にラバー加工がされている点にも触れておきましょう。指、および手のひら全体がフィットしやすいうえ、摩擦のバランスがよく、違和感なく持ち方を変えられるのです。トラックボールやマウス、そのほかさまざまなパソコン周辺機器を作り続けてきたロジクールの知見が生きている箇所ではないでしょうか。
写真だと見えにくいが本体上部はラバー加工がされフィット感が増しています
なおデバイスとの接続は付属のUSBドングルを用いた「Logi Bolt」か、Bluetoothで行います。家庭内では実感しにくいのですが、混線が少ない「Logi Bolt」は多くの電波が飛び交うオフィスやカフェでは効果的。低遅延というメリットもありますよ。
専用アプリによるカスタマイズがしやすいことも、ロジクール製ポインティングデバイスの利点と言えます。「MX ERGO S」とPCをペアリングした状態で「Logi Options+」を起動すると、各ボタンの設定やホイール使用時のスクロール設定、そして「MX ERGO S」の最大のセールスポイントと言うしかない「Logi Flow」のセットアップが可能です。
ボタン類の設定画面がこちら。左のメニューからLogi Flowの設定もできます
「Logi Flow」は複数台のデバイス接続時に役立つ機能です。マウスポインターを画面の端に移動させるだけで、使用するデバイスを切り替えられるほか、テキストや画像、ファイルなど、クリップボードにコピーしたデータをほかのデバイスのクリップボードに送ることができるのです。
もう1台のデバイスに送りたいファイルを「Dropbox」のフォルダーやUSBメモリーにコピーしたり、テキストをメールや「Google ドキュメント」などに貼り付けたりして共有する手間がなくなるこの技術。同じ場所で複数のデバイスを使っているならば、一度使ってみてください。元の世界には戻れなくなりますよ。
アプリごとに各ボタンの機能を変更できるのも「MX ERGO S」+「Logi Options+」のよいところ。たとえば動画編集アプリである「Adobe Premiere Pro」の場合は、タイムラインのスクロールや、クリップ分割時に使うカミソリツールなどを割り当てることで、生産性を大幅に高められます。
微細な操作を必要としないのであれば、DPIボタンもファンクションボタンとして自由に機能をセットできます。
アプリごとに別の設定が可能です
ホイールボタン、ホイールの左右傾けなど、特定のボタンを押しながらトラックボールを動かすと任意のアクションを実行できるジェスチャー機能も見逃せません。一見すると6ボタンマウスと同じ機能性の「MX ERGO S」ですが、実際には数十もの機能を「MX ERGO S」のボタン&トラックボールに割り当てることが可能なのです。
特定ボタンと本体の挙動の組み合わせで任意のアクションを実行できるジェスチャー機能も設定可能です
トラックボールを愛用するうえで欠かせないのが、ボールの清掃です。快適な操作感を維持するためにはボールが抵抗少なく転がる状態を維持する必要があります。
とはいってもメンテナンスはカンタン。先端がやわらかい棒で底面部の穴からボールを押して取り外し、ボールホール内のセンサーや3つの支持球周囲のホコリやゴミを取り除き、ボールをウェットティッシュで拭けばOKです。
底面の穴から押して取り出したボールはウェットティッシュなどで拭きましょう
なお冬場など手が乾燥しやすい季節は、ボール表面の油膜が手に移ってしまい、転がりにくくなることがあります。このようなときは、ハンドクリームを塗った手の上でボールを何度か転がして油膜を作るとよいです。
質感、操作感、性能のすべてが上質な「MX ERGO S」。高価ではありますが、多くの人が支持するだけの魅力を持つトラックボールということがわかりました。機能面で見ると旧モデルである「MX ERGO」との差はそれほどないのですが、実際に使ってみるとUSB Type-C充電かつLogi Bolt対応のメリットは絶大です。
旧モデルの利点はそのまま生かしながら現代的なアップデートを行ったことで、従来機のユーザーが積極的に「MX ERGO S」に買い替えているのではないでしょうか。だからこその人気の高さなのかもしれません。
充電用のUSB Type-C端子は本体前面にレイアウトされています
手が小さい人だと操作しにくいサイズですが、常時テキストや数値データを扱うビジネスマンや、動画編集アプリを使うことが多いクリエイターにもおすすめのデバイス。なおノートPCと合わせて使うのであれば、タッチパッドで細かい操作を行うことで、お互いの得手不得手を補完しあえるので、どんなアプリ環境で使っても満足できるようになりますよ。