アップルの「iPhone 16e」が明日2025年2月28日に発売される。「iPhone SE(第3世代)」の後継機種ではなく、現行モデル「iPhone 16」のバリエーションとして登場した「iPhone 16e」をレビューしていこう。
アップル「iPhone 16e」、2025年2月28日発売、アップルストア価格は128GBモデルが99,800円(税込)、256GBモデルが114,800円(税込)、512GBモデルが144,800円(税込)
アップルのiPhoneは毎年9月にモデルチェンジしているが、手ごろな「iPhone SE」は数年おきに春ごろにモデルチェンジしてきた。そのため、今回発表される新モデルは時期的に「iPhone SE(第3世代)」の後継機種と見られていたが、蓋を開けてみると、現行モデル「iPhone 16」のバリエーションモデルとなる「iPhone 16e」だった。
メインモデル発売の数か月後に手ごろな価格のモデルを発売する手法は、グーグルの「Pixel」に似ている。
左から「iPhone 14 Pro」「iPhone 15」「iPhone 16」「iPhone 16e」。4機種とも6.1インチのディスプレイを備える。外観で大きく違うのが背面のカメラ部分。「iPhone 16e」はツーインワンのシングルカメラを備える
肝心の価格は128GBモデルが99,800円、256GBモデルが114,800円、512GBモデルが144,800円(税込のアップルストア価格、以下同)。ストレージ容量は違うものの、「iPhone SE(第3世代)」と比べると3.7万〜6万円ほど高い。米国でも値上がりしているが、値上がり幅は米国以上で、やはり円安の影響が大きいようだ。
「iPhone 16」と比べると、2.5万円安いものの、iPhoneのボトムを担うモデルとしては正直高い。もちろん、今回試してみて価格分の価値は十分あると感じた。キャリアでは新規契約や他社からの乗り換えかつ2年後に端末を返却するプランなどで、負担を少なくできる買い方もあるので、各キャリアの料金プランをチェックしてもらいたい。もちろん、今まで利用していたiPhoneを下取りに出す方法もある。
「iPhone 16e」の発表に合わせて、「iPhone SE(第3世代)」はアップルストアから姿を消した。価格.comで見ると、SIMフリーモデルは値上がり気味だが、「スマートフォン・携帯電話」カテゴリーの人気・売れ筋ランキングで1位(2025年2月26日時点)に立っている(ちなみに、「iPhone 16e」は同ランキングで10位)。なくなる前に購入しようという人が多いのかもしれない。また、ワイモバイルやUQ mobileなどでは「iPhone SE(第3世代)」を投げ売りしている。ストレージ容量の選択肢は64GBのみ(2025年2月26日時点)だが、キャリア乗り換えや48回払いでかなり安く購入できる。
3年前の2022年3月に発売された「iPhone SE(第3世代)」。発売から数か月で急激な円安により値上げされたが、iPhoneとしてはリーズナブルな価格で人気を博した。終売をきっかけに人気が再燃している
本体は「iPhone 14」がベースのようだ。角張ったフォルムで、フレームにアルミニウムが、背面にガラスが使われている。ディスプレイ面は最新世代ではないが、丈夫な「Ceramic Shield」。質感は「iPhone 16」や「iPhone 15」に近い。耐久性は高めで、4年、5年と長く使えそうだ。重量は「iPhone 16」より3gほど軽い167g。カラーはクラシックなブラックとホワイトの2色のみ。シンプルなのでカラフルなケースと組み合わせてもいいだろう。
ガラスとアルミニウムを組み合わせたボディ。パッと見は「iPhone 15」や「iPhone 16」に似ているし、サイズもほぼ同じだ
純正の「iPhone 16eシリコーンケース – フクシア」。今回試したホワイトモデルは、カラフルなケースとの組み合わせも違和感なし。カメラ部分の形が違うので、他モデルのケース流用は難しそうだ。シリコンケースのアップルストア価格は6,480円(税込)
ディスプレイは6.1インチのOLEDで解像度は「iPhone 14」と同じ。最大輝度やピーク輝度も「iPhone 14」と同じで、「iPhone 16」と比べるとスペックは控えめだ。「iPhone SE(第3世代)」と比べると画面サイズや解像度、輝度などあらゆる面でスペックアップしている。
ロック解除や各種認証は「Face ID」で行うが、「Dynamic Island」には非対応のいわゆるノッチタイプだ。「Dynamic Island」は、音楽再生中にジャケットが表示されたり、タイマー設定時に時間が表示されたり、直感的に表示が変わってあると便利な機能。なくても困らないので、このあたりはコストカットが感じられる。
「Face ID」はいわゆるノッチに組み込まれている
機能面では「MagSafe」に対応していない点にも注意したい。ワイヤレス充電やアクセサリーの装着など、「MagSafe」は多彩な使い方ができて便利なので、非対応は残念だ。「MagSafe」には非対応だが、最大7.5WのQiワイヤレス充電に対応しているので、ワイヤレス充電はできる。
外部インターフェイスはUSB-C(USB 2)で、30分で最大50%充電できる急速充電に対応。「iPhone SE(第3世代)」から乗り換える人はLightningケーブルが使えなくなるので気をつけよう。
外部インターフェイスはUSB-C。映像出力には非対応で転送スピードなどのスペックは「iPhone 16」と同じ
「iPhone 16e」の真骨頂がスペックだろう。頭脳のSoCには「iPhone 16」と同じ「A18」を採用する。8コアのCPU性能は「iPhone 11」と比べると80%、「iPhone SE(第3世代)」と比べると40%アップしているという。4コアGPUの性能もほぼ同程度アップしているが、GPUのコア数が「iPhone 16」の5コアから4コアに減っている点は気になる。
ベンチマーク結果は以下のとおり。数値上は確かに低いが、実利用でその差を感じるのは難しいかもしれない。筆者が日ごろ遊んでいる「Apple Arcade」のゲームではその差を感じることはなかった。
定番ベンチマークアプリ「Geekbench 6」の結果。CPUの性能はほぼ同じだが、GPUは少し差がある。コア数の違いが結果にそのまま反映されているようだ。「Geekbench 6」で確認するとメモリー容量は「iPhone 16」と同じ約7.5GBだった
「A18」を採用することで、アップルのAI機能「Apple Intelligence」が使えることにも注目したい。というか、そのために「A18」を採用したとも言える。「Apple Intelligence」が使えるiPhone は「iPhone 15 Pro」「iPhone 16」シリーズで、「iPhone 16e」が「Apple Intelligence」の使えるいちばん安いiPhoneとなる。
「Apple Intelligence」は文章生成、画像生成などが安全にできるアップルのAI機能。「ChatGPT」とも連携している。スマホのAI機能はグーグルやサムスンなどが力を入れており、スマホの次の競争軸となりつつある。「Apple Intelligence」の日本語対応は4月初旬予定で、スマホのAI競争が「iPhone 16e」をきっかけにさらに盛り上がることになるかもしれない。
「iPhone 16e」のWebページを見ても、最初に紹介されている機能が「Apple Intelligence」。長文のメールを要約したり、「ChatGPT」を使って文章を作成したり、文字から画像を生成したり、さまざまなAI機能が利用できる
バッテリーの長さも「iPhone 16e」の魅力だ。ビデオ再生は最大26時間で、“6.1インチのiPhone”としてはいちばん長い。「iPhone SE(第3世代)」よりも11時間長いので、バッテリー持ちを重視する人にはうれしいはずだ。
このバッテリーの長さは、「C1」というワイヤレスモデムチップも影響しているかもしれない。自社開発のワイヤレスモデムチップで、5Gネットワークへの接続性が高く、電力効率が高いのがウリ。アップルとしては初めてのワイヤレスモデムで、その実力は未知数ではあるが、都内で数日試した限りでは接続が遅く感じることはなかった(今回はirumoのeSIMを利用)。
なお、日本版の「A3409」は各社のプラチナバンドには対応しているものの、NTTドコモが地方都市で活用しているバンド21に対応していない。この影響がどの程度出てくるのか気になるところだ。
背面カメラはシングルカメラですっきりした見た目。出っ張りも最小限で目立たない。シングルカメラだが、1倍と2倍の光学ズームオプションが用意されている。4800万画素のセンサーを使って、2400万画素または1200万画素の写真を撮影可能(モードにより異なる)。F値は1.6だ。スペックだけを見ると、「iPhone 16」の「48MP Fusionカメラ」(メインカメラ)と同じ仕様のようだ。なお、超広角カメラがないので、写真・動画のマクロ撮影はできない。
シングルカメラだが、光学1倍と光学2倍のツーインワンカメラシステム
超広角カメラ以外では、「iPhone 16」に備わる「カメラコントロール」がないほか、空間写真、空間動画、動画の「シネマティックモード」「アクションモード」などに対応しない。これらの機能はどちらかというと、カメラを積極的に活用したいユーザー向けのもので、カメラ機能を重視するなら、「iPhone 16e」よりもデュアルカメラの「iPhone 16」やトリプルカメラの「iPhone 16 Pro」を選んだほうがいいだろう。
肝心の画質だが、「iPhone 16」と撮り比べてみたが、画質に大きな差は感じられなかった。手ぶれ補正が「iPhone 16e」が「光学式手ぶれ補正」、「iPhone 16」が「センサーシフト光学式手ぶれ補正」という差はあるが、数日撮影した限りでは大きな違いはなかった。
暗い場所でも明るくきれいな写真を撮影できる「ナイトモード」は搭載されている。「True Toneフラッシュ」を使った撮影も可能で、シーンや被写体によって使い分けられる。
河津桜を撮影。自然な絵作りで、カメラ画質はほかのiPhoneと変わらない。最新世代ではないが、「フォトグラフスタイル」にも対応する
「iPhone 16e」の「ポートレート」は人物のみに対応。被写体が人物以外の場合は動作しない
こちらは「iPhone 16」の「ポートレート」で撮影した河津桜。いろいろな撮影手法を楽しみたい人は「iPhone 16」や「iPhone 16 Pro」を選んだほうがいいだろう
短い期間だが、「iPhone 16e」を発売前に使ってみた感想は、「iPhone 16」と同じように快適に使えるということ。ダウングレードや省かれている機能はあるものの、大きな不満なく使えた。唯一、不便に感じたのが「MagSafe」に対応していないこと。普段利用している「MagSafe」対応の充電器が使えず、「スタンバイ」(充電中に横向きで時計などを表示する機能)も動作しない。
カメラ機能に関しては、「iPhone 16」と機能差は確かにある。それでも日常使いには十分な画質だと感じた。価格は前述のとおり、iPhoneのボトムを担うモデルとしては約10万円というのは高い。円安の影響もあるので、致し方ない部分はあるが、乗り換えや下取りなど、さまざまな買い方があるので、自分に合った買い方を探ってほしい。
「iPhone 16e」は、「Apple Intelligence」次第で人気度が変わってくると考えられる。前述のとおり、グーグルやサムスンはAI機能を前面に打ち出しており、スマホの次の競争軸となりつつある。4月初旬に日本語に対応する「Apple Intelligence」が生活や仕事、勉強などに欠かせないものになれば、「Apple Intelligence」を使うために、非対応のiPhoneからの買い替えが進む。その結果、AI機能を使うためのiPhoneとして、「iPhone 16e」は有力な選択肢になっていくはずだ。