スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回は、発表とともに市場に戸惑いを巻き起こした「iPhone 16e」を取り上げる。値上がりした背景に迫るとともに、より安価な購入方法を考えよう。
期待された廉価iPhoneの「iPhone 16e」。その価格は予想外と受け止める人が多いようだ
円安と政府の値引き規制によって「スマートフォンが高くなった」と感じている人は多いことだろう。とりわけiPhoneユーザーは、ここ数年のうちにアップルが円安の影響を如実に反映したことで、新製品が急速に高騰し買いづらくなったと感じやすい状況だ。
そこで多くの人が期待していたのが、iPhoneの低価格モデル「iPhone SE(第3世代)」(以下「iPhone SE」)の後継モデルである。「iPhone SE」は2022年発売の第3世代モデル以降新機種が投入されておらず、そろそろ新機種が投入されるタイミングで、安くiPhoneを利用したい人たちから注目が高まっていたのだ。
そして米国時間の2025年2月19日、その「iPhone SE」の後継と見られる新機種「iPhone 16e」が発表されたのだが、その評価は決して芳しいとは言えないようだ。なぜなら日本のApple Storeでの販売価格は、最廉価版のストレージ128GBのモデルでさえ99,800円とお世辞にも安いとは言えない価格設定となっていたからだ。
ちなみに、「iPhone 16e」の発売と同時にラインアップから姿を消した第3世代の「iPhone SE」は、最も安いストレージが64GBのモデルで62,800円、128GBのモデルで69,800円だった。同じ128GBモデルで比べても3万円高い。非常に大きな失望感を呼んだことは想像に難くない。
「iPhone 16e」の販売開始で姿を消した「iPhone SE(第3世代)」は、128GBモデルでも6万円台で購入できただけに、「iPhone 16e」との価格差は非常に大きい
しかし、なぜ「iPhone 16e」はこれほどまでに高くなってしまったのか、最大の要因が円安であることに間違いないだろう。「iPhone SE(第3世代)」の発売当時の為替レートは1ドル当たり110円台だったが、2025年現在のレートでは150円前後。単純計算で円安の影響で2〜3割は値段が上がってしまうわけで、製品価格に為替レートを反映させるのが早いアップルは、iPhone以外の製品も円安での値上がりが顕著だ。
ただ「iPhone 16e」は米国での販売価格が599ドルからと、「iPhone SE」が429ドルから販売されていたのと比べても100ドル以上値段が上がっており、円安だけが価格高騰の原因ではない。「iPhone 16e」も「iPhone 16」と同じチップセット「A18」を搭載するなどベースの性能向上が図られているが、低価格ながら最新チップセットを搭載するのは従来の「iPhone SE」も同じだっただけに、本体性能の向上だけがコストアップの要因ではないだろう。
むしろより大きく影響したのは、本体のそれ以外の部分だ。そもそも「iPhone SE」が低価格を実現できていたのは、チップセットや通信など内部の性能向上を図りながらも、何世代か前の旧機種のボディや部材をほぼそのまま流用して開発・製造していたことが大きい。
実際、第2〜3世代の「iPhone SE」は、2017年に発売された「iPhone 8」をベースに開発されている。それゆえチップセット以外のデザインやディスプレイ、カメラ、そして指紋認証の「Touch ID」を搭載する点など多くの部分で「iPhone 8」と共通だった。
「iPhone SE(第2世代)」や「iPhone SE(第3世代)」は、チップセットやモバイル通信などを除く多くの部分が、2017年発売の「iPhone 8」と共通だった
だが「iPhone 16e」の場合、低価格を実現するべくそのまま流用できるベースモデルがなかったと考えられる。その原因はいくつかあるが、大きなものとして、欧州連合(EU)が2024年末までに、電子機器の充電用端子にUSB Type-Cを採用することを義務付けたことだ。
その影響でEU加盟国ではLightning端子を搭載したiPhoneを販売できなくなってしまった。しかし、Lightning端子は2022年発売の「iPhone 14」シリーズまで採用されている。USB Type-C端子を採用したモデルは「iPhone 16」シリーズの前モデルとなる「iPhone 15」シリーズからだ。
それに加えて「iPhone 16e」ではコストを抑えるため背面のカメラを1眼に減らしている。しかし、「iPhone 15」シリーズ以降でカメラが1眼のモデルはそもそも存在しない。そうしたことからベースモデルとして流用できる過去機種がなく、費用をかけてボディを作る必要がある。iPhone SEシリーズと同じ方法で価格を下げるのは難しいとアップルは判断したのだろう。
そこで低価格モデルとして新機種を提供することは諦めながらも、可能な限り過去機種の資産を生かし、なおかつ、モデムに独自開発の「C1」を用いるなどして低コスト化を図って開発されたのが「iPhone 16e」ということになるのではないだろうか。
「iPhone 16e」のベースモデルは「iPhone 14」と見られているが、充電端子がUSB Type-Cで、背面のカメラが1つであるなど違いも多く、それがコストアップの要因になっていると見られる
そうしたことを考えるに、「iPhone 16e」は「iPhone SE」の後継というより、やはり「iPhone 16e」の発売でラインアップから姿を消した「iPhone 14」の後継ととらえたほうがよいかもしれない。実際、「iPhone 16e」の価格は、「iPhone 14」の販売終了直前の価格95,800円と近しい額であるし、それでいて最新のチップセットを搭載し今春に日本語対応版が登場する「Apple Intelligence」にも対応するなど、長く利用するうえで一定の優位性を備えている。
それゆえApple Storeでの価格が112,800円からで、Apple Intelligenceに非対応の「iPhone 15」と比べればお得感がある。だが、悩ましいのは「iPhone 16」と比較的価格が近いことだろう。Apple Storeにおける「iPhone 16」の販売価格は、ストレージ128GBのモデルで124,800円からなので、最も安価なモデル同士で比べると「iPhone 16e」との価格差は25,000円となる。
それでいて「iPhone 16」はカメラが2眼であるし、カメラコントロールやDynamic Islandを搭載。「iPhone 16e」で省略されているMagSafeや広帯域チップなどもしっかり備わっており、Wi-Fiやモバイル通信の性能も高い。上位モデルとなるため充実度は高いことは間違いないのだが、そのいっぽうで画面サイズは6.1インチとサイズ感は大きく変わらず、チップセットも同じA18なので性能面も共通している。
「iPhone 16」は「iPhone 16e」の上位モデルとなり、背面カメラが2眼でカメラコントロールを搭載するなど、チップセット以外では多くの面で優位性があるが、価格は25,000円ほど高い
ゆえに「iPhone 16e」と「iPhone 16」のどちらを選ぶべきかは、「iPhone 16e」にない要素をどこまで重視するかによって変わってくるだろう。カメラを重視する人は「iPhone 16」を選ぶべきだが、カメラにはこだわらずゲーミングに重点を置くなら「iPhone 16e」を選んでも、価格差以上の大きな差は出ないように思う。
最後に、多くの人が気にしているであろう「iPhone 16eを安く利用するならどうやって買うべきか?」という点だが、やはり携帯各社の端末購入プログラムを利用し、1年あるいは2年後に返却するのがベストではないだろうか。2024年末の電気通信事業法改定で条件が厳しくなったとはいえ、中古での販売価格が高く下取りが有利なiPhoneは、低価格のモデルであれば端末購入プログラムの活用でとても安く利用できるからだ。
とりわけ新規契約や、番号ポータビリティによる他社からの乗り換えでは割引が多く適用され、とても安価に利用できる。最も安いソフトバンクの場合を例にあげると、新規・乗り換えで「新トクするサポート(スタンダード)」を適用し25か月目に返却した場合、実質負担金は24円、月当たり1円で利用できる計算となる。なおauも、新規・乗り換えで「スマホトクするプログラム」を使って25か月までに返却した場合実質負担金は47円になる。ただし、いずれもメインブランドのため高価な料金プランの契約が求められるので、注意がいる。
そのいっぽうで、「iPhone 16e」は、「iPhone 14」の代替モデルという側面も強いだけに、同機種を販売していたサブブランドの「UQ mobile」「ワイモバイル」でも販売されるなど、販路もかなり広い。いずれのブランドでも端末購入プログラムを利用しての利用が可能なだけに、少しでも安く利用したいなら携帯各社が提供するサービスをフル活用すべきだろう。
期待外れとの声はあるものの、最も安価な「iPhone 16e」の128GBモデルに限れば、携帯電話各社の商戦は近年珍しいほど活発である。NTTドコモは、2月25日に128GBモデルを2,970円値下げして109,780円に。楽天モバイルも2月28日に全モデルの価格改定や還元ポイント額を改定している。店舗独自の割引も現れるかもしれない。その際は、新規、MNP、機種変更のどれを対象にしているか、端末購入プログラムを使用するか、必要とされる料金プランやオプションの制約は確認しておきたいところだ。