スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回は、先ほど発表されたばかりの「Pixel 9a」の値上げを取り上げる。アメリカでは価格据え置きだが、日本ではやはり値上げとなった。その背景に迫ろう。
※本記事中の日本円の価格は断りのない場合税込で統一している。
Google「Pixel 9a」、2025年4月16日発売、税込の直販価格は128GBモデルが79,900円、256GBモデルが94,900円
誰もが知る「Google」のブランド力に加え、「Gemini」などAIに強みを持つサービス、そして性能の高いチップセットを搭載しながら、コストパフォーマンスの高さで人気となった、グーグルの「Pixel」シリーズ。その中でも高い人気を誇っているのが「a」が付くモデルだ。
「Pixel」シリーズのaモデルは、「Pixel」シリーズの最上位モデルと同じチップセットを搭載しながら、カメラやメモリーなどさまざまな部分の性能を引き下げることで、より低価格で提供する、とりわけコストパフォーマンスの高いモデルだ。2022年発売の「Pixel 6a」が、当時のハイエンドモデルと同じ「Tensor」を搭載しながら、53,900円(税込)と非常に安い値段で販売されたことで、それ以降aモデルは非常に高い人気を獲得している。
そして2025年も、aモデルの最新機種「Pixel 9a」が米国時間の3月19日に発表されている。その内容はすでに報道がなされているので簡単に振り返っておくと、ディスプレイサイズは「Pixel 9」と同じ6.3インチで、背面に2つのカメラを搭載している点は共通している。しかし、「Pixel 9」シリーズと比べるとその性能とデザインに大きな違いがある。
グーグルの低価格モデルの最新機種「Pixel 9a」。上位モデルと同じチップセットを搭載し、お得な価格を実現するというコンセプトは変わらないが、内容面でいくつかの違いが見られる
同じ2眼構成のカメラを備える「Pixel 9」と比べた場合、「Pixel 9」は5000万画素の広角カメラと4800万画素の超広角カメラを搭載しているのに対し、「Pixel 9a」は4800万画素の広角カメラと1300万画素の超広角カメラを搭載している。また、イメージセンサーの面積も「Pixel 9a」のほうが小さく、性能が引き下げられている。
ただ、イメージセンサーの性能が低ければカメラのサイズを小さくできるので、背面の出っ張りも抑えられる。それゆえ「Pixel 9a」は、従来の「Pixel」シリーズの特徴となっていた、カメラ部分がバー状になっているデザインを刷新。左上にカメラが横に並ぶ、フラットでシンプルなデザインへと大幅な変更がなされており、見た目にも大きく変わった印象を与えている。
左が「Pixel 9a」、右は「Pixel 9」。「Pixel 9a」ではカメラの性能が引き下げられているが、その分カメラ部分がフラットになりバーがなくなるなど、デザイン面で大幅な変更が加えられている
そのいっぽうで、チップセットにはほかの「Pixel 9」シリーズと同じ、グーグル独自の「Tensor G4(テンサー・ジーフォー)」を搭載。豊富なAI機能が利用できる点は変わらないのだが、メモリーの容量が8GBと「Pixel 9」の12GBより少なく、その分デバイス上で処理するAIの性能が引き下げられている。それゆえ、2025年3月に日本の「Pixel 9」シリーズで利用可能になった「Pixel スクリーンショット」など、一部のAI関連機能は「Pixel 9a」に対応しないようだ。
2025年3月のアップデートで日本でも「Pixel 9」シリーズ向けに提供される「Pixelスクリーンショット」。撮影したスクリーンショットから必要な情報を探せる機能だが、「Pixel 9a」には提供されないようだ
多くの人が最も注目しているのは日本での販売価格だろう。「Pixel 9a」の米国での販売価格は499ドル(約73,000円)と、前機種「Pixel 8a」から据え置くことでお得さをアピールしていた。それだけに、「iPhone SE」シリーズからの大幅な値上がりで失望感を呼んだアップルの「iPhone 16e」とは異なる、コストパフォーマンスの高さに期待が高まっていた。
だが、2025年4月9日、日本で正式に発表された「Pixel 9a」の価格を見ると、グーグルストアでの販売価格は、最も安いストレージ128GBのモデルで79,900円(税込)からと、ほぼ80,000円となっている。99,800円(税込)と、10万円近い価格になった「iPhone 16e」と比べればまだ安いのだが、それでも従来のaモデルと比べれば大幅な値上げで、お得とは言えない価格になってしまった。
とりわけ気になるのが日米の価格戦略の違いだ。米国での発表内容を見るに、「Pixel 8a」と変わらない価格の実現に重きを置いている。そのいっぽうで、日本ではその「Pixel 8a」の日本での販売価格(発売当初は税込72,600円)から7,300円も値段が上がっており、グーグル自身が値上げを容認しているようにも感じてしまう。
なぜ日米でこれほど価格戦略に差が出たのだろうか、そこには2つの要因がありそうだ。ひとつは先にも触れた「iPhone 16e」の存在だ。
アップルは、「iPhone 16e」のように価格を重視したモデルは定期的に投入しておらず、「iPhone 16e」も2022年3月発売の「iPhone SE(第3世代)」から3年後のタイミングで発表されている。それだけにグーグルも2025年は、急ぎ「iPhone 16e」に対抗する必要があった。そのため、米国では例年5月に発表する傾向だった「Pixel a」シリーズを、「iPhone 16e」の対抗馬とするべく3月に前倒しして発表したのだろう。
アップルとしては低価格モデルの「iPhone 16e」は、例年iPhone新機種が発表されない2025年2月に発表された
そして「iPhone 16e」の米国での価格は599ドル(約88,000円)。グーグルは「Pixel 9a」で競争力を強化するため、機能強化を図りながらもその価格を下回る必要があった。そのため、米国では「Pixel 8a」から据え置きの499ドルという価格の実現に重きを置いたようだ。
そしてもうひとつは為替の影響だ。「Pixel」シリーズ、とりわけ「Pixel a」モデルがこれまで日本で非常に安かったのは、グーグルが現在の円安が短期間で済むと見込み、シェア拡大のためアグレッシブな価格設定をしていたためだろう。それゆえ円安が急速に進んだ2022年に投入した「Pixel 6a」などは、円安が進む以前の為替レートにあわせて価格を設定したため、円安で値上がりが進む他社スマートフォンと比べ相対的に安く見えた。
2022年発売の「Pixel 6a」は5万円台の圧倒的安さを実現していた。だが、それは円安が急速に進む以前の為替レートで価格設定したためと見られている
だが、その円安は現在に至るまで長期化している。グーグルとしても現実的な為替レートを反映させる必要に迫られたのだろう。実際「Pixel a」シリーズの発売当初の価格は年を追う毎に値上がりが続いており、2022年発売の「Pixel 6a」は53,900円、2023年発売の「Pixel 7a」は62,700円、2024年発売の「Pixel 8a」は72,600円、そして2025年発売の「Pixel 9a」は79,900円(いずれも税込)と、4年間で26,000円も上がってしまっているのだ
79,900円を税別価格にすると72,636円、およそ73,000円。これは、米国での販売価格499ドルをここ最近の為替レート(1ドルあたり150円前後)で円に換算した場合と大きく変わらない。適正水準の為替レートを反映させた結果、大幅に値上がりしたことが理解できるのではないだろうか。
もちろん価格が大幅にアップすれば、端末の販売も落ち込んでグーグルの日本でのシェア低減は免れないだろう。実際「Pixel」シリーズは、値上がりが進むにつれて、年々国内での出荷台数シェアを大きく落としている状況にある。それでも値上げを優先するのには、日本で無理にシェアを拡大する必要がなくなったと、グーグルが判断したためのように見える。
グーグルはすでに日本で携帯大手3社からの販路を獲得しており、安定した販売数が見込めることから競合と比べ比較的優位な立場にある。その結果、無理に安値販売を続けてシェアを広げる必要がなくなったと判断した可能性は高い。それに加えて、アップルが、日本での「iPhone 16e」の販売価格を10万円近い額に設定したことから、「Pixel 9a」の価格を無理に引き下げなくても販売が大きく落ちることはないとの判断も働いたようだ。そして、携帯大手(キャリア)の販売がメインになるなら、価格競争の中心は「iPhone 16e」のように、携帯大手が舞台になることも予想できる。
そうしたことを考えると、現在の円安が解消に向かわない限り、「Pixel」シリーズの圧倒的コストパフォーマンスはもう期待できないだろう。ただ、いっぽうで、既に適正水準にまで為替レートを引き上げたことを考えると、これ以上の円安が進まない限り、グーグルもこれ以上価格を値上げすることはないと見ることもできそうだ。
もちろん今後の為替市場がどう変化するか、金融の専門家ではない筆者が予測することは難しい。実際、2025年4月に米国のドナルド・トランプ大統領が相互関税を発動した直後には、一気におよそ5円もの円高となっている。だが今後も1ドルあたり150円前後という為替相場が大きく変わらないのであれば、消費者の側も、iPhoneやPixelの買い替えを検討する際には、かつての低価格は忘れて、現在の価格を基準に機種選びを検討していく必要があるのではないだろうか。