2025年10月9日にソニーのスマートフォン「Xperia 10 VII」が発売された。ミドルレンジの「Xperia 10」シリーズの最新モデルだ。SIMフリーモデルのソニーストア直販価格は74,800円(税込)。NTTドコモ、au、ソフトバンクからも購入できる。前モデルからの進化点をチェックするために、2024年7月に発売された「Xperia 10 VI」も借りて、部分的に比較を行った。
左が「Xperia 10 VI」、右が「Xperia 10 VII」。新旧モデルを使い比べてみた
「Xperia 10」シリーズは従来から、アスペクト比が21:9の縦長のディスプレイを搭載していた。しかし、今回の「Xperia 10 VII」は一般的な縦横比の19.5:9に変更。なお、画面サイズの基準となる対角線の長さは、前モデルの「Xperia 10 VI」と同じ約6.1インチだが、表示面積は広くなったと感じられた。
特に16:9の動画では、ディスプレイに表示される領域が広くなり、従来モデルよりも視認性が向上したことを実感できる。また、リフレッシュレートも60Hzから最大120Hzに向上。派手さはないが自然で見やすいXperiaらしい画質は維持しつつ、ミドルレンジとして機能的な見劣りのないディスプレイになっている。
左が前モデル「Xperia 10 VI」、右の「Xperia 10 VII」のほうがスクリーンの面積が広く、より多くの情報を表示できるようになった
上が「Xperia 10 VI」、下が「Xperia 10 VII」。縦横比の変更によって、動画の表示サイズも大きくなった
画面比率の変更により、本体の横幅は約68mmから約72mmへと太くなった。しかし、約72mmでも最近のスマホとしてはスリムだ。片手持ちでも無理なく操作可能。約168gという軽さも魅力だ。
横幅は約72mmで、依然としてスリム。片手持ちでもスムーズに文字を入力できる
背面デザインも大きく変わった。従来モデルは背面パネルの左上に縦並びでカメラを搭載していたが、「Xperia 10 VII」は横並びで搭載。カメラの土台がわずかに出っ張っていて、「Google Pixelに似たデザインになった」と言っても差し支えないだろう。
左が「Xperia 10 VI」、右が「Xperia 10 VII」。カメラの搭載位置が変わった
カメラ部はバー状で出っ張っている
本体の右側には、音量ボタンと電源ボタンを搭載。電源ボタンは指紋センサーを兼ねている。その下には、新たに「即撮りボタン」が搭載された。
左が「Xperia 10 VI」、右が「Xperia 10 VII」で「即撮りボタン」が追加されたのが大きな違い
左側面にはSIMカードスロットを搭載。SIMピン不要で指で開閉できる。nanoSIMとmicroSD(最大2TB)をそれぞれ1枚ずつ装着できる。なお、eSIMにも対応
上部にイヤホンジャックを備えていることも魅力。一般的に底部に搭載されることが多いスピーカーが、フロント面に搭載されていることも本機の特徴だ。
上部には3.5mm穴のイヤホンジャックとマイクを搭載
底部にはUSB Type-C接続口とマイクを搭載
本機に新たに追加された「即撮りボタン」は、長押しで「カメラ」アプリを起動でき、シャッターとしても使えるボタンだ。カメラの起動後に、カチッと押すと静止画を撮影でき、長押しすると、押し続けている間、動画が撮れる仕組みだ。
シャッターに加え、素早くカメラを起動できる
上位機種の「Xperia 1」シリーズなどにも同様のボタンが搭載されているが、機能には若干差がある。これら上位機種のカメラボタンには、半押しでピントを固定する機能があるが、「Xperia 10 VII」の即撮りボタンは半押しには対応していない。いっぽうで、即撮りボタンには、短く押すことでスクリーンショットが撮れる機能もある。
即撮りボタンの機能はカスタマイズ可能。スクショを撮る機能が不要なら、オフにできる
即撮りボタンは上位モデルのカメラボタンに比べると、電源ボタンに近い本体中央寄りの位置にある。これは、片手で縦に持って操作しやすい趣向で、ポケットやバッグから取り出して、素早くシャッターを切れることが利点だ。筆者は愛犬を撮影するとき、顔をカメラに向かせるためにおやつを与えたりするのだが、左手でおやつを与えながら、右手でシャッターを切れるのが非常に便利だと感じた。
即撮りボタンは、右手で持って親指を当てやすい位置に搭載されている
背面のメインカメラは超広角(約1300万画素/F2.4)+広角(約5000万画素/F1.9)という構成だ。望遠カメラはないが、2倍で撮影する場合は、広角カメラのセンサーの中心でとらえた画像を切り出す形で、光学2倍相当の鮮明な画質で撮影できる。なお、フロントカメラは前モデルから変更はなく、約800万画素でF2.0だ。
前モデルからの進化点は、超広角カメラの画素数が約800万画素から約1300万画素に向上したこと。そして、広角カメラのイメージセンサーが1/2.0インチから1/1.56インチへと大型化したことだ。
両モデルのカメラで撮り比べてみると、パッと見では前モデルのほうが明るく写るように感じたが、「Xperia 10 VII」が暗く写るわけではなく、「Xperia 10」シリーズが苦手にしていたダイナミックレンジが広がった印象。とりわけ、暗所での撮影性能が向上したと感じられた。
ミドルレンジクラスでは苦手にしがちな、構図四隅のノイズは抑えられている。いっぽう偽色やゆがみの補正は、ハイエンドクラスのように徹底されていないようだ
注目したいのは岩肌の暗部の表現。暗くつぶれそうなところがディテールを保ち、質感を高めている
デジタルズームだが、理論上劣化を抑えられ、鮮明な画質で撮影できる
デジタルズームを最大に効かせても、画質劣化はこの程度。スマホの画面で楽しむだけなら問題ない
室内で料理を撮った作例。照明に引きずられているが、不自然なシズル感の強調などもなく、Xperiaらしい見たままを撮影する方針が貫かれているようだ
夜景は驚くほど明るく写った。感度性能にも余裕があるのだろう色かぶりが起こっていない
明るくきれいに写るが、階調はやや浅めで平面的な印象になる
ブレやすく、色味も不自然になりがちだった。感度性能に起因すると思われる色かぶりも気になるところだ
好みの色味で撮影できる「ルック」機能も備えている。9つのルック(フィルターのようなもの)が用意されているが、色味が大胆に変わるわけではない。涼しげな色調になったり、ノスタルジックな雰囲気になったりと、フィルムを変えたように趣が変わる。写真の表現の幅を広げる機能として、積極的に活用できそうだ。
「ルック」を設定することで、好みの色味で撮影できる
撮影した写真や動画を使って、簡単に動画を編集できるアプリ、「Video Creator」がプリインストールされていて、これを使うと、あっという間に音楽付きの動画が生成される。好みの音楽を追加したり、タイトルや字幕を挿入したりといったカスタマイズも可能。「Instagram」や「TikTok 」などにショート動画を投稿することが多い人には重宝するだろう。
動画編集アプリ「Video Creator」の操作は非常に簡単だった
スピーカーはディスプレイの上下に搭載。そのため、本体を横向きにすると、左右それぞれのスピーカーから前方に広がるステレオサウンドを楽しめる。
スピーカーは本体の横向きにした状態の前方左右に搭載。左右バランスが取れたステレオサウンドを楽しめる
前モデルのスピーカーも同じ配置だが、「Xperia 10 VII」では、左右どちらのスピーカーにもエンクロージャー(箱)が採用されている。なお、前モデルではエンクロージャーが使われるのは片方だけでもう片方は剥き出しの状態だった。
そのため、端末内部に音が伝わり、本体が振動したり、音が濁ったりする原因になっていたとされている。実際に聴き比べてみると、左右のバランスがよく、音に臨場感が増したと感じられた。また、ボリュームを控えめにしても、静かに刻まれる楽器の細かい音がまだ明瞭に聴こえた。
一般的にスマホのスピーカーの音は左右不均一で、ミドルレンジのスマホは音質に物足りなさを感じることが多い。そんななかで、音質には定評のあるフラッグシップ「Xperia 1」シリーズのこだわりを受け継ぐミドルレンジスマホと言えるだろう。
近ごろ、スマホの新しい機能としてAIが注目されている。しかし、「Xperia 10 VII」に搭載されている独自のAI機能は少なめだ。カメラには従来と同じく、AIが被写体や撮影シーンを認識する機能を搭載し、音楽配信サービスなどの圧縮音源を高音質化する「DSEE Ultimate」にもAI技術が搭載されている。しかし、文章や画像を生成するといった、いわゆる生成AIの独自機能は備えていない。
ただし、GoogleのAI機能はスムーズに利用できるように設計されている。電源ボタンを長押しすると「Gemini」が起動し、音声またはテキスト入力で知りたいことを素早く調べられたり、文章や画像を生成したりもできる。会話形式で知りたいことを掘り下げていける「Gemini Live」も利用可能。また、気になったものを丸で囲んだり、なぞったりして素早く検索できる「かこって検索」も利用できる。撮影した写真や動画は「フォト」アプリに保存され、多彩な画像編集機能を楽しむこともできる。
GoogleのAI機能「Gemini」は素早いレスポンスで、快適に利用できた
「Gemini」では、このような画像生成も楽しめる。だが、ハイエンドモデルに比べると、生成に若干時間がかかる印象
ミドルレンジなので、Geminiでの画像生成には若干時間がかかるように感じたが、検索や文章生成はスムーズに行えた。日常用途なら不便はなさそうだ。
基本性能に影響するSoCは「Snapdragon 6 Gen 3」。前モデルの「Snapdragon 6 Gen 1」からの正常進化ととらえてよいだろう。両モデルを使い比べて明確な差を感じたわけではないが、基本アプリの操作でストレスを感じることはなく、日常的に十分なパフォーマンスが得られると思えた。
バッテリーは5000mAh。前モデルと同じ容量だが、6.1インチ画面のミドルレンジとしては十分な容量と言える。実際に使ってみても、余裕で1日持ち、よほどヘヴィに使わない限り、2日持ちそうだ。
フルに充電してからYouTube動画(1080p)を再生してみたところ、4時間後に81%、6時間再生しても70%残っていた。前モデルでも同時に再生して比べてみたのだが、前モデルは4時間で72パーセント、6時間で55パーセントまで減った。バッテリー容量は同じだが、SoCのアップデートによって電力効率が向上していると考えてよいだろう。
ソニー独自の「いたわり充電」などによって、充電時のバッテリーへの負荷を抑えられることも利点。ソニーは「4年使い続けても劣化しにくい長寿命バッテリー」と謳っており、長期的に使ううえでも安心だ。
省電力で電池を長持ちさせる「STAMINAモード」や、電池寿命を長くする「いたわり充電」を引き続き搭載
「Xperia 10 VII」は、画面アスペクト比や背面デザインが変わったことから、従来のXperiaユーザーは違和感を覚えるかもしれない。しかし、画面比の変更によって、視認性や使い勝手が向上するアプリは多いはず。新たに追加された即撮りボタンは、操作性がシンプルなので、積極的に活用できそうだ。
セキュリティアップデートが前モデルの4年間から6年間に、OSのバージョンアップが最大2回から最大4回へと拡大されたことも魅力。「Galaxy」や「Pixel」のサポート期間にはまだ及ばないが、4年ほどと言われる近ごろのスマートフォンの買い換え期間なら十分かもしれない。
冒頭にも記したが、「Xperia 10 VII」のSIMフリーモデルの価格は74,800円。ミドルレンジとしては、やや高く感じる。しかし、これまでの「Xperia 10」シリーズよりもディスプレイ、カメラ、スピーカーにソニーのこだわりが強く反映された。 価格差はこうしたXperiaらしさの対価なのだろう。
本体カラーになじむグラデーションの純正クリアケースを用意。お気に入りの写真などを挟んでカスタマイズを楽しめる