VAIOは基本ソフト(OS)にマイクロソフトの「Windows 10 Mobile」を採用したスマートフォン(スマホ)「VAIO Phone Biz」を2016年4月に発売する。昨年、日本通信が発売した「VAIO Phone」に続く、VAIOブランドの第2弾スマホだ。製品名の通り、ビジネスユースを意識したモデルだが、法人だけでなく、直販サイト「VAIOストア」などを通じて個人向けにも販売する。発売前の試作機を試す機会を得たので、注目機能の「Continuum(コンティニュアム)」を含めて、VAIO Phone Bizをチェックしていきたい。
VAIOが2016年4月に発売する予定のVAIO Phone Biz。Windows 10 Mobileの採用、スマホを簡易パソコンとして使えるContinuumへの対応、通信会社を自由に選べるSIMロックフリー仕様など、見どころの多いモデルだ。価格は5万円台の見込み
マイクロソフトのWindows 10 Mobileを採用したスマホが増えている。パソコンメーカーのマウスやHP、周辺機器メーカーのトリニティ、MVNOのプラスワン・マーケティング(FREETEL)など、これまでスマホを作った経験の少ないメーカーが開発しているのが興味深いところだ。
VAIO Phone Bizは、5.5型(1080×1920のフルHD)の液晶ディスプレイを搭載する。スマホとしては大きな部類に入るため、片手で操作するのは難しそうだ。アルミニウムの削り出しで製造されたボディは、パソコンのVAIOと同じく、シンプルで質感が高い。レーザーエッチングで深めに彫り込まれた背面のVAIOロゴも存在感があっていい感じだ。ビジネスユースを意識したモデルではあるが、個人用のスマホとして使っても違和感がないほど洗練されている。デザインや質感は、VAIOらしさが感じられる仕上がりだ。
鮮やかで明るいフルHD(1080×1920)の5.5型液晶ディスプレイを搭載。アルミニウムの削り出しボディは、ブラスト加工仕上げでサラッとした手触り。本体サイズは約77.0(幅)×156.1 (高さ)×8.3(厚さ) mm、重量は約約167g
右側面(上)に電源ボタンと音量調節ボタンを搭載。左側面(下)にはピンで押すと取り出せるSIMトレイを備える
ヘッドホン出力端子(ヘッドセット対応)は上面に備える。底面には充電などに利用するmicroUSB端子とモノラルマイクを搭載
5.5型液晶ディスプレイを搭載するアップルの「iPhone 6 Plus」(右)との比較。画面サイズが同じなので、本体サイズもほぼ同じ。スマホとしては大きな部類に入るので、片手だけで操作するのは難しい
iPhoneなどと同じく、小さな穴にピンを挿して引き出すSIMトレイ。SIMカードはmicroとnanoに対応。2枚のSIMカードを使っても、LTEか3Gで通信できるのは片方だけで、もう一方は日本で利用できないGSMとなる。「設定」から利用するSIMスロットを切り替えられるので、2枚のSIMカードを切り替えて使える。なお、nanoSIMカードを装着するスロットは、microSDカードと共用で、どちらか一方しか利用できない排他仕様だ
黒色のシンプルな化粧箱。試作機には電源アダプターとUSBケーブルが付属していた
VAIO Phone Bizは通信会社を選べるSIMロックフリー仕様だが、NTTドコモが法人向けに取り扱うため、同社と相互接続性試験を実施して、安定した通信性能を実現している。2つの電波をつかんで高速化するNTTドコモのキャリアアグリゲーション(CA)にも対応しており、スペック的には下り最大約225Mbpsの高速通信が可能だ。対応バンドは、LTEが1/3/8/19/21、3G(WCDMA)が1/6/8/11/19で、NTTドコモ系の格安SIMとの相性がよい。試しに、手持ちのインターネットイニシアティブ(IIJ)のデータ専用のnanoSIMカードを挿してみたが、問題なく通信できた。
スペックは、Windows 10 Mobileを搭載したスマホとしてはハイスペックな仕様だ。CPUはオクタコアの「Snapdragon 617」(1.50GHz×4+1.2GHz×4)。クアルコムのミドルクラスのオクタコアCPUで、Continuumに対応する(無線のみ)。同CPUは発表当初、Continuumに正式に対応していなかったが、VAIOとマイクロソフトの協業により、正式サポートを実現したという。メモリーは3GB、ストレージは16GBだ。microSDカードスロットは64GBまでサポートする。試作機では、Webページの閲覧やOfficeアプリの利用は快適にこなせた。
VAIO Phone Bizは、Windows 10 Mobileの目玉機能の1つであるContinuumに対応している。「連続性」「連続体」という意味のContinuumは、外部ディスプレイと接続して、スマホを簡易パソコンとして利用する機能だ。同機能を利用するためには、外部ディスプレイのほかに、ワイヤレスディスプレイアダプターが必要で、同社はアクションテックの「ScreenBeam Mini2 Continuum」を推奨している。セットアップは、ScreenBeam Mini2 ContinuumをディスプレイのHDMI端子に接続し、VAIO Phone BizのContinuum機能を選ぶだけ。スマホの画面に表示される指示に従えば準備はすぐに終わる。接続が確立されるまで、少しだけ待たされたが、問題もなくつながった。無線LANネットワークに接続する必要がないので、出張先のホテルのテレビと接続するといった使い方もできるだろう。
実際の使い勝手は、パソコンに近いことはできるが、使いにくい部分もある。まず、通信環境にもよるだろうが、文字入力時にタイムラグがあり、Webページを高速にスクロールすると表示が粗くなる。また、パソコンのようにマルチウィンドウに対応しておらず、基本的には1つのアプリを全画面でしか表示できない。複数のウィンドウを開いて、Webページを参照しながら報告書をまとめるといった使い方はできない。さらに、Continuumに対応しているアプリが少なく、「Office」や「Edge」といったマイクロソフト純正のアプリ以外は、ほとんど対応していない。
まだまだ発展途上で、使いにくい部分が目立つが、Continuum自体は非常に魅力的な機能だ。たとえば、出張で宿泊するホテルのテレビと接続し、ノートPC代わりに作業できれば荷物が少なくて済む。プレゼンもスマホ1台で済ませられるかもしれない。スマホの性能が上がれば、できることがもっと増えて、完全にノートPC代わりに使えるかもしれない。今回試してみて、Continuumがさらに改良されていけば、Windows 10 Mobileは大化けするかもしれないと感じた。
VAIOが動作確認しているアクションテックのワイヤレスディスプレイアダプター、ScreenBeam Mini2 Continuum。価格.com最安価格は10,144円(2016年3月2日時点)。本体のほか、HDMI延長ケーブル、電源アダプター、キーボードなどを接続できるY型のUSBケーブルが付属する
Continuumは「すべてのアプリ」から選択できる。セットアップ画面で接続方法として、「ワイヤレスアダプター」を選ぶと、「SBWD SEB41B」が検出され、タップすると接続がスタートする
接続が確立されるまで、数十秒待たされたが、問題なく接続された
スマホの画面をそのまま表示するのではなく、マウスとキーボードで操作しやすいパソコンに近い形で表示されるのがContinuumのポイントだ
Edgeを使って価格.comを表示してみた。Edgeの使い勝手はWindows 10パソコンそのもの。高速にスクロールすると表示が乱れることがあったが、すぐに改善されるので実用上は問題にならないだろう
「Word」で文書を作成してみたところ、文字入力やカーソルの動きがワンテンポ遅れることがあった。それでもスマホの小さな画面やソフトウェアキーボードで文字を打つよりも、かなり快適に作業できる
Continuum利用中は、VAIO Phone Bizをタッチパッドとして利用できる。キーボードだけ接続し、カーソルはVAIO Phone Bizで動かすといった使い方が可能だ
Continuum利用中でも、VAIO Phone Bizで電話をしたり、アプリを利用したりできる。このマルチタスクを実現するために、3GBのメモリーを搭載している
VAIO Phone Bizは、OSにAndroidではなく、Windows 10 Mobileを採用していることが良くも悪くも大きな特徴だ。ビジネス向けでは、Windowsパソコンとの親和性が高く、「Microsoftアカウント」で各種設定・データを一元管理できる。この辺は、AndroidやiOSよりもすぐれている点で、Windowsを利用している法人には好まれるだろう。
個人で使う場合は、AndroidやiOSに比べると使えるアプリが圧倒的に少ないのがネックになる。「Facebook」や「Twitter」「LINE」といった有名アプリはそろっているが、機能的に劣っているところがある。たとえば、Facebookでは、「いいね」ボタンが「いいね」しかなく、最近追加された「超いいね」などのボタンは用意されていなかった。
Windows 10 Mobileは、パソコンのWindows 10とユーザーインターフェイスが似ており、Windows 10ユーザーならとっつきやすいだろう
「設定」の項目もWindows 10と共通(左)。APNの設定は、各種MVNOのAPNが導入済みだった(右)
「Windows Phone 8」では情報が乏しかった天気と地図の標準アプリも改良されている
アプリは「Windowsストア」から入手できるが、数やアプリのクオリティはAndroidやiOSには劣っている
Edgeは、Windows 10パソコンとお気に入りが共有されており、外出先からパソコンでよく閲覧するWebサイトをチェックしやすい(左)。プリインストールされているFacebookアプリ(右)。「超いいね」「うけるね」「すごいね」といった最近追加された「いいね」ボタンが実装されていない
リアカメラは1300万画素、フロントカメラは500万画素。カメラはそれほどウリにしていないが、1920×1080/30fpsの動画撮影やバースト撮影など、多彩な機能を備える
現時点で、VAIO Phone Bizをメインの1台として選ぶ人は少ないだろうし、正直、オススメしにくい。やはり、個人用としては、アプリの少なさがネックになる。しかし、仕事用の2台目として選ぶならアリだ。個人用と仕事用で2台のスマホを使っている人にとっては、AndroidとiPhoneの2台持ちよりも、AndroidとVAIO Phone Biz、iPhoneとVAIO Phone Bizといった組み合わせのほうが間違いなく実用度は高まるはずだ。MVNOの格安SIMと組み合わせれば、運用コストも抑えられる。Continuumに対応しているのも大きな魅力で、試してみたいという人もいるだろう。
VAIO Phone Bizは、Windows 10 Mobile搭載のスマホとしては最高クラスのスペックなのが特徴だが、先月スペイン・バルセロナで開催された携帯電話見本市「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)」では、マウスやHPが、VAIO Phone Bizと同等かそれ以上のスペックのモデルを発表しており、今後競争が激化しそうだ。発売は少し先だが、VAIO Phone Bizがどんなスタートを切るのか注目したい。