まずは、CPUの基本的な性能を測るため、SiSoftwareの「Sandra 2016 SP3」を実行してみた。結果は以下の通り。
グラフ1:Sandra 2016 SP3 Processor Arithmetic
グラフ2:Sandra 2016 SP3 Processor Multi-Media
グラフ3:Sandra 2016 SP3 Cryptography
グラフ4:Sandra 2016 SP3 Memory Bandwidth
グラフ1の「Processor Arithmetic」は、CPUの演算能力を測るテストだ。整数演算・浮動小数点演算ともに、「Ryzen 7」が圧倒的な性能を見せつけている。相手が1世代前の4コアCPU「Core i7 6700K」であることを加味しても、かなり優秀なスコアといえる。「Ryzen 7」内でのスコアも、ラインアップ通りにキレイに並んでおり、それぞれのスコアの差はクロックの差とほぼ比例している感じだ。
グラフ2の「Processor Multi-Media」は、マルチメディア系の処理能力を測るテストだ。こちらは先ほどの純粋な演算能力のテスト結果と比べると、「Core i7 6700K」の差が全体的に縮まり、一部では逆転しているところもあった。このあたりはチューニングによる今後の改善に期待したいところだ。
グラフ3の「Cryptography」は、その名の通り、暗号化の性能を調べるテストだ。こちらは特にハッシュ処理においてAMDの優位性がはっきりと示された。メモリーの帯域幅をテストしたグラフ4の「Memory Bandwidth」についても、メモリーコントローラーの性能差がそのまま結果に反映された形だ。
ここまでの結果を見る限りは、CPUのパフォーマンスは総じてよさそう。AMDがアーキテクチャーを変更し、命令処理効率を高めたことをアピールしているのおおいにうなずける。
続いては、一般的なPC利用を想定した性能を計測できる、Futuremarkの総合ベンチマークソフト「PCMark8」を実行した。
グラフ5:PCMark 8
「Ryzen 1700」においてやや低い値が出ているところがあるものの、今回検証した4モデルはほぼ横並びといった感じ。一般的なPCの利用において不満がでることはまずなさそうだ。
次は、GPUによるOpenGLレンダリングの性能と、CPUによるCGレンダリングの性能を測定できる「CINEBENCH R15」を実行してみた。結果は以下の通り。
グラフ6:CINEBENCH R15 64bit
「CINEBENCH」は、CPUの性能を測るときによく使われるベンチマークで、AMDが行った発表会のデモンストレーションでも実行されていた。発表会では「Ryzen 1800X」のCPUコアを全て使った状態で1,600を超えるスコアをたたき出していただが、こちらで検証した結果も非常に近い結果が出た。シングルコアの結果については、「Ryzen 7 1800X」と「Core i7 6700K」でほぼ差がない結果だったが、マルチコアを使った性能はかなりのものといえるだろう。
いっぽうで、気になったのがGPUによるOpenGLレンダリングの性能だ。こちらのテストも、CPUの性能差が比較的反映されやすいのだが、なぜか「Ryzen 7」のスコアは、「Core i7 6700K」に比べてかなり低い結果が出てしまった。新製品なので最適化がまだ済んでいないのかもしれないが、このあたりについては今後改善していってほしいところだ。
続いては、「X264 FHD BENCHMARK」を使って、動画エンコードの処理性能を調べてみた。結果は以下の通り。
グラフ7:X264 FHD BENCHMARK
動画エンコードは、マルチコアへの最適化が比較的進んでいる分野だ。「X264 FHD BENCHMARK」も、マルチコアへの最適化が図られており、8コアの「Ryzen 7」と、4コアの「Core i7 6700K」との間には、平均フレームレートで約1.5倍ほど差が生まれていた。動画エンコード用CPUとして見ても、「Ryzen 7」はかなりよさそうだ。
続いて、ゲーミングまわりでの性能をチェックしてみた。ベンチマークプログラムは、グラフィック性能を測る「3DMark」に加え、実際のゲーミングパフォーマンスを計測するため、3Dゲームのタイトルとして、「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド」
「Rise of the Tomb Raider」「The Division」「HITMAN(2016)」「DOOM」をチョイスした。結果は以下の通りだ。
グラフ8:3DMark Fire Strike
グラフ9:3DMark Fire Strike Extreme
グラフ10:3DMark TIME SPY
グラフ11:ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク
グラフ12:Rise of the Tomb Raider
グラフ13:The Division
グラフ14:HITMAN 2016
グラフ15:DOOM
今回、CPUのテストであることと、組み合わせたGPUが「GeForce GTX 1060」であることを考慮し、「3DMark」については、フルHD解像度をターゲットにした「Fire Strike」と、2,560×1,440ドットをターゲットにした「Fire Strike Extreme」の2種類の解像度を実行した。また、DirectX 12をフィーチャーした「TIME SPY」もあわせて実行している。ゲームタイトルのベンチマークについては、同じ設定でフルHD解像度と2,560×1,440ドットの2種類でテストを行った。
まずは「3DMark」の結果から見ていこう。同プログラムは専用ベンチマークプログラムとして当初からマルチスレッドに最適化されて開発されていたということもあり、CPUのマルチスレッド性能がスコアに直結する「Fire Strike」「Fire Strike Extreme」のPhysics score、「TIME SPY」のCPUスコアは、8コアの「Ryzen 7」が4コアの「Core i7 6700K」と比べて約1.4〜1.5倍ほど高いスコアをたたき出している。トータルスコアについても、これらの結果を反映し、「Ryzen 7」のスコアは多少上ぶれている。ただ、グラフィック性能を測る3Dベンチマークということで、CPUの性能の違いがトータルスコアに与える影響が少なく、決定的な差にはなっていない印象だ。
ゲームタイトルのベンチマークは、GPUへの依存度が高く、ビデオカードの性能が色濃く出やすい2,560×1,440ドットの高解像度環境においては、タイトルによって多少の差はあるものの、「Ryzen 7」と「Core i7 6700K」の間で明確な差はほとんどなかった。いっぽうで、CPUの依存度が高まるフルHD解像度の検証においては、全般的に「Core i7 6700K」の平均フレームレートが高い結果となった。おそらく、マルチコアへの最適化がうまくなされておらず、単純に動作クロックの差が結果につながったのだろう。マルチコアに最適化されたゲームタイトルや、ゲームをプレイしながら動画配信を同時に行うといったシチュエーションでベンチマークを取れば、また違った結果になるかもしれない。
消費電力をチェックしてみた。測定値は、ラトックシステムの「Bluetoothワットチェッカー REX-BTWATTCH1」を使い、システム全体の消費電力を採用している。なお、今回はCPUがメインということで、PC起動10分後の消費電力をアイドル時、「CineBench R15」でシングルコアを使用したテストを実行した際をCPUシングルスレッド高負荷時、同じくCPUコアをすべて使用したテストを実行した際をCPUマルチスレッド高負荷時として採用している。結果は以下の通りだ。
グラフ16:消費電力
アイドル時の消費電力については、AMDとインテルともにかなり低く抑えられている。いっぽう、1コアをフルロードしたときの消費電力については、「Ryzen 1800X」「Ryzen 1700X」が他に比べて高い値となった。おそらく、EFRによるオーバークロックが効果的に働いたためだと思われる。
CPUをフルロードしたときの消費電力については、8コアCPUである「Ryzen 7」が「Core i7 6700K」よりも高い値を示している。プラットフォームそのものが違うため、直接的に比較することはできないが、消費電力当たりのパフォーマンスを考えると、インテルCPUとほぼ互角といった感じだ。これまでのAMDのCPUと比べると、消費電力はかなり低く抑えられている印象だ。
ファウンドリでのプロセス微細化が思い通りに進まず、ここ数年はハイエンドPC向けCPUで存在感を発揮できていなかったAMDが、満を持して投入した「Ryzen 7」。ここまでさまざまなベンチマークテストを通じてその実力をくわしく見てきたが、これまでのAMDのCPUとは根本的に異なるかなりバランスのとれたCPUに仕上がっていた。AMDがここ数年注力していたBulldozerアーキテクチャーの実力に加え、「Zenアーキテクチャー」は、これまでのアーキテクチャーを使い回しせず、まったく新しいアーキテクチャーを立ち上げるというこれまでにないアプローチを採用したということもあり、最初はどうなってしまうのだろうかとやや不安があったが、この結果を見る限り、「Zenアーキテクチャー」はひとまず大成功したといっていいだろう。
もちろん、課題がまったくないというわけではない。ユーザーの多くに直結する部分でいうと、8コア16スレッドという性能をフルに生かせるほどマルチスレッドに最適化したアプリ環境がまだあまり整っていないということも課題のひとつだろう。もちろん、これはAMD自身でどうにかなるところではないので、業界全体として取り組んでいく必要がある。CPU性能の追求だけではなく、AMDにはこういった部分でも頑張っていってほしいところだ。
ここ数年、ライバルのインテルのCPUも小幅な改良にとどまっており、CPUまわりではなかなか面白い製品が出てこなかったが、「Ryzen 7」はひさびさにスゴいと思える製品だった。これまでのCPUやマザーボードとまったく互換性がないため、プラットフォームを一から構築するために初期投資は必要だが、CPUそのものの価格がライバルのインテルが提供する同等スペックのCPUと比べるとかなり低く抑えられている。円安の影響で、近年はPCパーツが軒並み値上がったこともあり、8コアCPUなんて高根の花となっていたわけだが、この敷居がグッと低くなったのはうれしい限りだ。
なお、今回発売されたのはハイエンド向けの「Ryzen 7」だが、ミドルレンジ以下の製品も今後登場する予定となっている。「Ryzen 7」もハイエンド向けとしてはかなりコストパフォーマンスはよかったが、こちらはコストパフォーマンスがさらに高まりそうな予感。2017年は、AMDから目が離せそうにない。