本体が“Z型”に変形することで、コンパクトさと本格抽出を実現したエスプレッソマシンをご存じでしょうか? 市場ではよく似たルックスの2モデルが出揃ったことで、にわかに注目を集めています。
ひとつは2024年5月に発売されたティファールの「クイックレマ」で、もうひとつは2025年4月に発売されたサンコーの「ミニバリ」。価格.comでは約1万円の差(2025年9月時点)がありますが、それぞれの実力はどうなのか、機能面や味に差は出るのか、こうした点を実際に使ってレビューします。
ティファールの「クイックレマ」(左)とサンコーの「ミニバリ」(右)。カラバリはそれぞれ1色のみで展開されます
使うときは“Z型”に変形させます。保管時のコンパクトさと本格的な抽出を実現
まずは、ティファール「クイックレマ」から深掘りチェック!
本体サイズがどれだけコンパクトかと言うと、A4用紙にすっぽり収まる小ささ。8.6(幅)×16.9(奥行)×21.6(高さ)cmで、重量は約1,380gです。
白い用紙がA4のコピー用紙(21×29.7cm)。電源ケーブルのほか、コーヒー粉を詰める際に使うタンパー、計量スプーン、フィルター取り外しピンなどが付属します
抽出する際は、まず本体上部をスライドさせて開き、抽出口のパーツから透明の「フィルターセットカバー」を外します。フィルター部分は上から「フィルターカバー」「フィルター」「フィルターホルダー」で、「フィルター」は「フィルターホルダー」内に収まっています。
写真の上のパーツが「フィルターカバー」。その下にあるのが「フィルター」を内蔵した「フィルターホルダー」で、ここにコーヒー粉を詰めます
フィルター取り外しピンは、計量スプーン(奥)に付属。これを写真のように使うと、「フィルターホルダー」から「フィルター」を外して洗えます
コーヒー粉は6〜12gが推奨。付属の計量スプーンのすりきり1杯が約6gです。
なお、一般的にエスプレッソの抽出においては、フィルターに粉を詰め込む「タンピング」がきわめて重要。粉の粒度や、粉が水平に詰められているかどうか、押し固めた圧力が適正かどうかで、コーヒーの味わいやクレマ(きめ細かい泡)の量などが変わります。
圧力が重要なエスプレッソは、極細の豆(粉)を使ったほうがおいしく作れます。細かく挽けるミルを持っていない場合は、エスプレッソ用に挽かれた豆を用意しましょう
「クイックレマ」は、「フィルターホルダー」の底面が水平なので、圧力が均等にかけやすいのがポイント。他製品では、水平になっていないモデルもあるので、この仕様はありがたいと思いました。ちなみに、後述の「ミニバリ」も水平です。
コーヒー粉をタンパーで押し固め(左)、うまく詰められたら「フィルターカバー」をかぶせて本体にセットします(右)
写真は他社製の人気モデルのフィルターホルダー。しかし、底面に注ぎ口が付いているため、水平でなく、均等に詰めるのが難しい点が玉にキズ
次に、本体の水タンクに注水。「クイックレマ」は、この注水量がそのままコーヒーの量に。つまりはこの注水量でも味の濃淡に違いが出ます。用量は60〜180mLですが、ストロングスタイル派の筆者は60mLでトライしました。
水タンクのフタを開けて注水。内側に60mL、120mL、180mLと目盛りが入っているので、この線を目安にして注水しましょう
最後に、着脱式の電源プラグを本体につなぎ、コンセントに接続。本体天面にある操作パネルの電源ボタンを長押しすると、「ピー」と鳴って温度などの表示が出てきます。温度は85〜95度を1度刻みで変更可能。一般的に、湯温が高いと苦味やコクが強く、低いと酸味が際立つ傾向があると言われますが、今回は95度で抽出しました。
「<」「>」のボタンで「ピッ」と温度を変更でき、コーヒーカップのアイコンを長押しすると抽出がはじまります
これまでの経験から、圧力をかけるエスプレッソマシンは、ドリップ式コーヒーマシンよりも抽出音が大きい印象でした。本モデルの抽出音は、ドリップ式よりは少々大きいですが、一般的なエスプレッソマシンと同程度の音量だと感じました。
大型のエスプレッソマシンと比べても、遜色なさそうな抽出
飲んでみると、クレマがしっかりしており、香りや味わいもいい感じ。エスプレッソらしい凝縮感のある苦みとコク、ほんのりした甘みやおぼろげな酸味も感じられ、手前味噌ながら上手に抽出できました。
さすが、電気ケトルや電気圧力鍋のほか、コーヒーマシンも発売しているティファールらしく、抽出性能には問題なし!
エスプレッソは、フィルターに残った豆カスの状態からも、抽出のよし悪しがはかれます。もちろん、マシンの性能だけではなく、粉の粒度や量、タンピングの技術、湯音など、複数の要素が関係するので一概には言えませんが、本モデルでは豆カスがしっかりと固まっていたので、いい感じに抽出できたんだと思いました。
豆カスの水分量が少なく、固まっていることが、上手に抽出できている目安のひとつ。これがベチャベチャ、ドロドロの場合は逆に上手に抽出できていない証拠です
「クイックレマ」は、内蔵する充電池で駆動する「コードレスモード」でも抽出できるのが魅力で、こちらも試してみました。このモードで使うには、ケーブルはコンセントにつながずに電源をオンにすればいいだけ。ただし、十分に充電できていることと、熱湯を準備しておくことが必要です。
「コードレスモード」では、90度以上の熱湯が必要。ヤケドに気をつけつつ、アツアツの状態で水タンクに注ぎましょう
充電は、電源プラグをコンセントに接続すると自動で行われます。また、充電できているかどうかは、操作パネルの電池アイコン上のドットで確認可能。2または3個点灯していれば、「コードレスモード」でも使用できます。
「93℃」の上に電池のアイコンがあり、その上のドットが電池残量の目印。「・・・」がMAXです
ちなみに、「コードレスモード」では湯温を設定できません。また、「9○℃」の表示は本体で温度検知して表示する仕様なので、時間経過とともに数値も下がっていきます。しかも、なかなかのスピードで下がっていくので要注意。
淹れる動作は、通常モードと同様。コーヒー粉をフィルター部にセットして、操作パネルのコーヒーカップアイコンを長押しすれば抽出できます
「コードレスモード」の感想としては、充電電池でもパワーダウンはなく、普通に抽出できました。ただ、数回試してみたんですが、抽出音は通常モードよりも1.2倍ほど大きい印象でした。
写真のように、アイスカフェラテにするのもアリ。たっぷりのミルクに負けない濃密なアロマと力強いビターテイストは、エスプレッソならではです
次は、サンコーの「ミニバリ」をレポート。
サイズはティファール「クイックレマ」よりも少しだけコンパクトで、やはりA4用紙にすっぽり収まる小ささです。9(幅)×12.6(奥行)×21.3(高さ)cmで、重量は約1,200g。
タンパー付きの計量スプーンと、電源プラグが付属
「ミニバリ」のユニークな特徴は、底面に吸盤のようなゴムが付いていること。この仕様でないと倒れやすいというわけではないですが、より安定することは間違いありません。
吸盤のような4つのゴムが、安定感を高めています
抽出の準備は、「クイックレマ」とほぼ同じ。フィルター部は上部の「フィルター」と下部の「フィルターホルダー」という構成で、「フィルターホルダー」にコーヒー粉を入れてタンピングします。
「フィルターホルダー」に入れるコーヒー粉の量は9〜14gが推奨で、計量スプーンはすりきり1杯が約9g(左)。「ミニバリ」のフィルターも底面が水平なので、タンピングはしやすいです(右)
こちらの水タンクはMAX150mL。60mLと150mLの位置に、目盛りの線が入っています。この注水量でエスプレッソの濃淡を調整する仕様も、「クイックレマ」と同じです。
「ミニバリ」の水タンク
本体に電源ケーブルを挿し、コンセントへプラグイン。本体天面の操作画面に表示される電源ボタンを長押しするとオンとなり、温度などが表示されます。ここでポイントなのが、「クイックレマ」にはない「アイス」のアイコンがあること。こちらはのちほど実践レポートしますが、まずは「ホット」のアイコンを長押しして抽出します。
温度設定は「クイックレマ」と同じく、85〜95度を1度刻みで変更可能。なお、「ミニバリ」には「ピッ」という操作音がありません
温度設定は「クイックレマ」と同じく、85〜95度を1度刻みで変更可能。なお、「ミニバリ」には「ピッ」という操作音がありません
検知された最初の水温は38度(左)。徐々に温度が上昇し(中央)、設定した95度になると、抽出が始まりました(右)
アイコンを押してから抽出されるまでの時間はその日の気温や設定温度にもよりますが、実測値では2分ほどかかりました。ただ、時間は多少かかってしまうものの、味はバッチリ!
クレマや香りもいいエスプレッソが抽出できました
フィルターに残った豆カスは、そこそこ硬め。カチカチのクッキーのようにはなりませんでしたが、ヘタに水圧が逃げることなく、素人ながらもしっかり抽出できたと思います。
何度か使って慣れていけば、もっとカチッとした豆カスで抽出できる気がします
先述したように、「ミニバリ」で温かいエスプレッソを飲むためには、「クイックレマ」よりも少々時間がかかります。とはいえ、待ち時間ナシですぐに淹れることもできます。それが「アイス」モード。加熱せずに抽出するこのモードも試してみました。
操作画面の温度表示に注目。先ほど95度で淹れた際の余熱があったのか、検知された水温はやや高めの40度で抽出しています
常温で抽出できるエスプレッソマシンは今まで聞いたことがなく、「クレマが出ない、または少ないのでは?」「味が薄いのでは?」と訝(いぶか)しがる気持ちもありましたが、いざ抽出してみると問題ナシ。見た目からしてもクレマがしっかりと出ており、味わいに違和感もありませんでした。
抽出温度が低い分、苦みや香りはおとなしい印象。とはいえ、雑味や味の薄さといったネガティブな要素はなく、普通においしく飲めました
「アイス」モード、なかなか実用的ではないですか! アイスカフェラテを飲みたいときはもちろん、少量のエスプレッソであればレンチン数秒でアツアツにも変更できますし、待ち時間ナシで抽出したい人には、特におすすめできます。
最後に、豆や水の量、抽出湯温などの条件を同じにして、「クイックレマ」と「ミニバリ」でそれぞれ抽出し、味比べしてみました。感想としては、こちらも大きな差はありませんでした。したがって、両モデルのどちらを買うか悩んでいる人は、価格や利便性を比較するといいと思います。
個人の感想としては、抽出クオリティーは互角!
ということで、それぞれおすすめのユーザー層をイメージしてみました。
・本格エスプレッソをスピーディーに抽出したい
・アウトドアでもエスプレッソマシンを使いたい
・家電は白色で揃えたい
・導入費用はなるべく安いほうがいい
・コーヒーはアイスで飲むことが多い
・家電は黒色で揃えたい
ちなみに筆者の調べでは、現時点では本体が“Z型”に開く仕様のエスプレッソマシンは、今回紹介した2モデルのみでした。