特別企画

プロジェクトから約3年、ソニーの電子ペーパー搭載リモコン「HUIS」の現在と未来

2015年にソニーの新規事業プログラム(SAP)発のクラウドファンディングとしてスタートした「HUIS REMOTE CONTROLLER」(以下、HUIS)をご存知だろうか。「家のUIを変えてく」をコンセプトにした電子ペーパー搭載の学習リモコンで、プロジェクト3年目を迎える今でも機能アップデートを継続し、ロングセラーを続けている。今回は、HUISが歩んできた約3年の年月と今後の展望について、HUISの生みの親、HUIS新規事業創出部HUIS事業室統括課長の八木隆典氏に話を伺った。

HUIS新規事業創出部HUIS事業室統括課長の八木隆典氏

HUIS新規事業創出部HUIS事業室統括課長の八木隆典氏

HUIS。2015年の販売開始からハードウェア自体は変わっていないものの、ファームウェアのアップデートでさまざまな機能が追加されている。現在の実売価格は2万円台半ば

HUISがSAPのクラウドファンディングに初めて掲載されたのが2015年7月。以降、HUISの公式サイト内にあるアップデートの項目(http://huis.jp/support/update/)に掲載されている通り、最新のバージョン4.6まで大小さまざまなアップデートが提供されている。八木氏自らが「ソニー製品のなかでも、直接ネットにつながらないもので、これだけ2,3か月に一度繰り返しアップデートをした商品はないんじゃないかな」と語るように、プロジェクト3年目を迎える今でもきめ細やかなアップデートが続けられる背景は、HUISに特化した開発体制を維持してきたからこそだろう。

リモコン本体もカラーバリエーションのブラックモデル登場以外は同一で、周辺機器としてBluetooth対応のクレードルが発売されたのみ。クラウドファンディング当初からのユーザーも、ホームページ等から最新ソフトウェアをダウンロードすることで、まったく同じ機能を利用できる。“リモコン”というハードウェア単体に製品サイクルという考え方は当てはまりにくいかもしれないが、HUISの製品コンセプトを考えても“随分長く続けている”という感覚を持つ人も多いかもしれない。

1年目はガジェット好き、2年目はライフスタイル層への浸透

HUISのコンセプトは「家のUIを変えてく」。テレビやオーディオ、エアコンや扇風機etc...と多数のリモコン操作対応機器の操作性を、リモコンひとつに集約してUIを変えていくことだ。

当初から掲げている、リモコンによる「家のUI」の進化

当初から掲げている、リモコンによる「家のUI」の進化

HUISは発売初期から価格.comマガジンでもレビュー記事を掲載をしているのでご存知の人も多いと思うが、基本は電子ペーパーの画面でページを切り替えて、さまざまな機器を操作できる学習リモコン“だった”。ここで“だった”と過去形で書いたのは、数か月毎にアップデートを続けるHUISのアップデートの方向性が1年単位で方針が定められているためだ。

初期の構想は家の中に多数あるリモコンの必要なボタンのみを集めること

初期の構想は家の中に多数あるリモコンの必要なボタンのみを集めること

発売初年度にあたる2016年の初期の大型アップデートが2016年8月のPCソフト「HUIS UI CREATOR」のリリースだった。SAPのクラウドファンディング掲載当初からのHUISユーザーはガジェット好きという側面が強く、カスタマイズ、マクロ、シェアといった先進層に向けた機能を整備したという。

2016年に提供がスタートしたPCソフト「HUIS UI CREATOR」

2016年に提供がスタートしたPCソフト「HUIS UI CREATOR」

2年目にあたる2017年は方向性をライフスタイル志向に振り、2017年8月には「おすすめリモコン作成機能」を追加。このアップデートが、HUISがインテリアショップなどの販路を拡大する転換期とも呼べるものとなった。お洒落な家電を扱うインテリアショップの人が「これなら自分でもお客さんに紹介できる」と納得できるものになったというわけだ。2017年11月にブラックモデルが投入されたことで、ガジェット層とインテリア層の割合は「感覚的には半々程度」(八木氏)という所まで拡大しているという。

自分専用リモコンを自動作成する「おすすめリモコン作成機能」

自分専用リモコンを自動作成する「おすすめリモコン作成機能」

2018年の大型アップデートはまだ実施されていないが、6月のアップデートで「お気に入り待ち受け画面」の機能が追加され、普段はフォトフレームのように利用できるようになった。見た目がフォトフレームとなれば、HUISというリモコンの存在も消せる訳だ。

度重なるアップデートを経て、HUISの販売台数は通常は発売直後に台数を稼ぐガジェット系とは異なり、線形の右肩上がり。2018年もすでに2017年を上回るペースで推移している。僕個人の感覚としては、発売後長いスパンでアップデートを続けたことで、HUISは“今から買ってもいい製品なんだ”と安心できる製品になっていることもあると思う。

今までのHUISアップデートの歩み

今までのHUISアップデートの歩み

HUISの今年のキーワードは“パーソナライズ”

では、2018年のHUISは、どこを目指すのだろうか。

HUISのアップデートで、今までもっともユーザーから手応えがあったものが2017年8月に提供を開始した「おすすめリモコン作成機能」だった。HUISがガジェットからインテリアショップに置かれる家電として認知されたアップデートだ。

「おすすめリモコン作成機能」は、すでにHUISに登録済みの機器のボタンからよく使うボタンを選ぶと、レイアウトを自動化してリモコン画面を作成してくれる機能だ。ユーザーが「UI CREATOR」を用いて自分で作っていたものを、リモコン単体で半自動化できる訳だ。

ボタンを自動レイアウトする仕組みは、ユーザーが使用したボタンの用途を機械学習させた上で、“使いにくいボタン配置”が出来ないように作り込まれたHUISの独自アルゴリズムによるものだ。AIの機械学習ではあるが、その前処理の部分は人力。そのノウハウは“リモコンコンシェルジュ”としてHUIS開発チームの頭の中にある。このノウハウが、HUISプロジェクトがもっともも得意とする、類似技術のない強みだ。

HUISでもっとも手応えがあった「おすすめリモコン作成機能」

HUISでもっとも手応えがあった「おすすめリモコン作成機能」

そして2018年のキーワードとなるのが、“人に近づく”パーソナライズ化を進めていくということ。具体的なアップデートの内容はまだ秘密だ。

ただ、取材の場で語ったことを少し紹介しよう。

僕もHUIS開発統括の八木氏も、人並みにテレビを観る。最近は地上波ももちろん観ているが、Netflixなどの映像配信を観る機会がめっきり増えた。3年前の当時は自分がこんなにテレビのNetflixの機能を多用するようになるとは思わなかったし、HUISもそんな用途に合わせてアップデートで映像配信用のボタンも登録可能となった。

人々のライフスタイルは、長いスパンで見ると変わる。たとえば機器を買い替えると変わるし、それから季節によっても変わる。HUISのパーソナライズの次に進む方向は、そんな長いスパンで使い続けるユーザーに向けたものとなっていくとみられる。そして、2018年中に行われるアップデートは、過去最大のアップデートとなる予定だ。

3年でまったく別モノになったHUIS。今後のアップデートも現在のHUISのハードウェアで継続

いっぽう、HUISが“やらないこと”も語られた。たとえば、HUISの新たなハードを発売する構想は、2018年の現時点ではまだない。また、音声アシスタントと連動するような構想も、今はまだない(HUISはWi-Fiを搭載しておらず、基本的にネット接続機能はない)。もちろん、“もしWi-Fiが搭載されていてネット接続ができれば”というアイデアも多数出てくるが、それはまた別の機会の話になる。「画面のUIのなかで、最高のUXを出すチーム」というのが八木氏の語るHUISプロジェクトの立場だ。

今度は“リモコン断捨離”も目指したいと冗談半分に語る八木氏

今度は“リモコン断捨離”も目指したいと冗談半分に語る八木氏

クラウドファンディング以来、HUISを率いてきた八木氏が、約3年のプロジェクトで提示した価値を以下の3つに集約して語る。

1つ目は、付属リモコンを使うのが当然と思われていたものを、テレビやオーディオ、カメラのように選べるものだという価値を提示できた。2つ目はリモコンのパーソナライズ化を進めていたということ。ソニーが今年打ち出している“人に近づく”という考えにも近い方向性が形になってきたことになる。3つ目に、そもそもリモコンのUIがアップデートして使いやすくアップデートする体験を示せたこと。その元にあるのは出資した人、そしてユーザーからのフィードバックだ。発売当初からのHUISの進化は「感覚的にはXperiaが初代から5代目になるになるくらいのもの」(八木氏)と振り返る。

約3年を経て、今なお健在なHUISプロジェクト。「HUISのリモコンは、3年前には予想もしなかった、まったく別ものになった」と八木氏は感慨深く語る。電子ペーパー搭載の学習リモコンとして生まれたハードウェアが、どう進化していくのか、今後ともその行方を見守っていくとしよう。

折原一也

折原一也

PC系版元の編集職を経て2004年に独立。モノ雑誌やオーディオ・ビジュアルの専門誌をメインフィールドとし、4K・HDRのビジュアルとハイレゾ・ヘッドフォンのオーディオ全般を手がける。2009年より音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。

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