ここ最近、ステイホーム事情もあり、テレビ用のホームシアタースピーカー「サウンドバー」の人気に拍車がかかっている。長細いバータイプのボディは、近年スタンダードとなっている細ベゼルのテレビとも相性がよく、HDMIケーブル1本でテレビと接続できるという手軽さも魅力。国内外のメーカーから多くの製品が発売されているが、昔と比べてどんどん音質が上がっているのも印象的だ。
テレビの音を迫力あるサウンドで再生するのがサウンドバーの主な役割だが、もうひとつ、音楽再生に利用できる機能性を備えているのもポイントである。多くのモデルがBluetooth機能に対応していて、スマホやPCなどとワイヤレスで接続し、Bluetoothスピーカーとして使うことができる。なかには、Wi-Fi接続に対応し、ネットワーク経由での音楽再生に対応するものもある。
そこで今回は、普段ハイエンドオーディオ機器をテストする機会が多い筆者が、“オーディオ目線”でサウンドバーの音質チェックを実施! 注目モデルを一挙に11機種集めて、シンプルにBluetoothやWi-Fiによる音楽再生能力だけのクォリティを検証してみた。
サウンドバーを使った音楽リスニングにおいて、音質に関連してくるポイントは5点ほどあると考えられる。順番に解説していこう。
まず、スピーカーキャビネットがムダに振動しないこと。キャビネットが小型のスピーカーは、振動が多いために付帯音が増え、それにより音の明瞭さが低下しがち。1つひとつの音に余分な響きが付いたり、低域が鈍重になる。これに対し最近のサウンドバー製品は、キャビネットの素材や振動解析がされていてしっかり剛性を確保しつつ、取りきれない振動が発生しても、音への悪影響を最小限に抑える設計のモデルが多いことが強みと言える。
サウンドバーのスペックを見るとき、搭載されるスピーカーの数に気を取られがちだが、まず重要なのは1つひとつのスピーカーユニットの性能だ。ユニットの性能が高い+搭載数が多ければ、音の分解能が高く、高域から低域までのレンジが広くなる。サブウーハーについても大事なのは量より質で、キレと明瞭度が高いユニットを搭載しつつ、サウンドバー本体の音とサブウーハーの音のつながりがいいものが最終的に有利となる。また、一部のモデルが搭載するパッシブラジエーターは、スピーカー本体内の空気振動を利用して独立したスピーカーユニットを動かすことで、低域の再生能力を補ってくれる。
次に、アンプの出力を示す、ワット(W)数について。一般的にはワット数が高いほうが大音量に強く、小音量時のドライブ能力も長けているとされる。だが、必ずしもワット数の大小だけがダイレクトに音質に影響するわけではないので、このあたりは参考程度にとらえればよいだろう。
機能面で重要なのが、再生シーンにあわせて音色や音調を変えることが可能な「サウンドモード」の有無だ。製品にもよるが、最近のサウンドバーには「映画」「ニュース」「音楽」など、コンテンツにあわせて最適なサウンドに調整してくれるサウンドモードが搭載されているものが多い。後述するように、映画再生と音楽再生では求められる音が異なるので、音楽再生時には「音楽」「MUSIC」、または最もシンプルな「スタンダード」などのサウンドモードを選択するとよい。
製品に付属するリモコンを使い、ワンボタンで簡単にサウンドモードを切り替えられるようになっていることが多い
使いこなしの面では、リモコンに搭載される「BASS」などのボタンで、低域の量感をコントロールすることもポイントにあげられる。テレビ音声を迫力満点に再生するようチューニングされているサウンドバーの場合、再生する音楽ジャンルによっては低域が強すぎると感じられることもあるからだ。低域をベストと思われる量感に調整する作業も楽しい。
こちらも、製品付属のリモコンに低域の量感を調整する「BASS」などのボタンが搭載されていることが多い
というわけで、最終的な出音への影響は上述した5要素が大きいが、そのほかにも、Bluetoothの対応コーデックや対応フォーマットなどのスペックも参考程度にとらえておくとよいだろう。
実際のレビューに入る前に、筆者が考える、映画用途と音楽用途で求められる音の違いをざっと説明したい。映画やドキュメンタリーなどの映像鑑賞に求められる音は、迫力やセリフの明瞭度、音の広がりなどの臨場感が重要になる。平たく言えば、映画館で体験するような音だ。
それに対して音楽再生では、迫力というよりは、音楽を聞く気持ちよさや、グルーヴ感を中心とした音楽性を求めたいところ。また、楽曲の帯域バランス(高域と低域のバランス)や、ボーカルとバックミュージックなど1つひとつの音の質感も上手に表現したい。注意点としては、音楽再生で低域が強すぎたり高域が強すぎたりすると、聞きはじめはいいものの、すぐに飽きてしまい長時間のリスニングには適さない。
また、厳密には、音楽のジャンルによっても求められる音に違いが生じるだろう。たとえばEDMなどは高域の透明感とキレのある低域、ボーカルが入る楽曲は声の適度な明瞭度や生々しさ、ジャズはベースのリアリティやピアノ、トランペットなどの楽器の質感とグルーヴ感、クラシックではアコースティック楽器独自の生々しい質感表現……といった具合だ。
いずれにせよ、音楽再生においては、無用な迫力をスピーカー側で出す必要はない。なぜなら、ビルボードのチャートにランクインするようなEDM、ポップス、HIPHOPは、楽曲の録音時にすでに迫力を出す方向にサウンドが味付けされて収録されているから。あとはそれを忠実に再生すれば、おのずと迫力が出てくるのだ。
それではいよいよサウンドバー各製品のレビューに移ろう。価格.comで買えるサウンドバーの中から、注目の11機種をピックアップして、それぞれ音楽再生時のクォリティを本気でチェックしてみた。
▼再生プレーヤーと試聴曲
再生プレーヤーには、スマートフォンとして「iPhone X」と、Astell&KernのDAP「AK320」を用意。試聴曲は、筆者が普段ハイエンドオーディオを試聴する際に使っているのと同じものをチョイスした。
<iPhone X>
→音楽配信サービス「Spotify」から、ダイアナ・クラール 「ディス・ドリーム・オブ・ユー」のトラック10「I Wished On The Moon」を再生
<AK320>
→ハイレゾのオーケストラ楽曲「アンドリス・ネルソンス、ボストン交響楽団 /ショスタコーヴィチ:交響曲 第6番&第7番」のTrack 4「劇付随音楽《リア王》から、組曲 作品 58a: 序奏とコーデリアのバラード」を再生
横幅650oのコンパクトなサウンドバー。スピーカー構成は、44×100mmのフルレンジユニットが左右に各1基、大型の78mmサブウーハーが1基の合計3基となる。アンプの出力は、フルレンジが各27W、サブウーハーが54Wの合計108W(実用最大値)をプレゼンス。「Movie」「Music」「News」という3種類のバーチャルサウンドモードを備えるが、今回は音像定位に影響する両耳間の音量差を自動コントロールするという「Music」モードで試聴した。BuetoothコーデックはSBCに対応する。
今回ピックアップした11機種の中では最も安価な製品だが、高域から低域までつながりがよく、ダイアナ・クラールのボーカルは定位もよくしっかりと前に出てきた。ピアノの質感は若干硬質だが、その分立体的に聞こえてくる。低域は派手に盛るというより自然なバランスで、ベースも自然な表現で印象がよい。ショスタコーヴィチは、オーケストラを構成する各楽器の質感表現が価格のわりに良質だった。特にリモコンのBASSボタンで低域の量感をコントロールすることで、非常にアキュレイト(緻密で正確)なサウンドを出すことができる。
横幅600mmのコンパクトサイズを実現しているサウンドバー。スピーカー構成は、46mm口径のフルレンジユニットを左右に各1基、75mm口径のサブウーハーが1基の合計3基に、パッシブラジエーターも搭載している。アンプの出力は、フルレンジが各20W、サブウーハーが30W。サウンドモードは、「STREO」「STANDARD」「MOVIE」「GAME」の4つを搭載する。iPhone/Android端末用の操作アプリ「Sound Bar Remote App」を使うと、スマホから入力切り替えやサウンドモードの選択が行える。BluetoothコーデックはAAC/SBCに対応。
今回は「STEREO」モードで試聴したが、とにかくソースに忠実なフラットな帯域バランスに感心した。これはピュアオーディオ製品に通じるフラットさである。高域から低域までの絶対的なレンジは限定され、もう少し抜けが欲しい気もするが、ダイアナ・クラールのボーカルやピアノの質感がとても自然。ベースも迫力重視ではなく、ソース音源を忠実に再生しようとする意図を感じてよい。ショスタコーヴィチは、最低域のレンジは欲しいと思うものの、無理に迫力を出そうとせず質感を重視していることが特筆できる。加えて、小音量時でも音が崩れないのも強み。
バーチャル3Dサラウンド技術「DTS Virtual:X」に対応するモデル。890(幅)×66(高さ)×120(奥行)mmという標準的なサイズのキャビネットに、25mmツイーター、45×90mmの楕円形ミッドレンジ、75mmサブウーハーを2基ずつ、合計6基のスピーカーを搭載する。最大の特徴は、音楽再生時における品質を高めていることで、デノンのピュアオーディオ製品の音決めを担うスゴ耳のサウンドマネージャー・山内慎一氏が音質チューニングを担当している。その思想は搭載されるサウンドモードにも現れており、「Music」「Movie」「Night」という3種類に加え、内部のDSPによるサラウンド処理やバーチャル処理をバイパスし、原音をストレートに再生する「Pureモード」を搭載している。BluetoothコーデックはSBCに対応。
実際に音を聞いてみると、片チャンネルあたり受け持つ帯域の違う3つのスピーカーを搭載したこともあり、高域から低域までのレンジは広く、分解能も高い。大型のスピーカーと比べて限定的なキャビネットサイズになってしまうサウンドバーだが、本機の全体的な音の雰囲気はまさしくピュアオーディオに通じる。決してむやみな迫力を出すのではなく、あくまでもソース音源に対して忠実かつ音楽性の高い音で、ある意味コアなオーディオファイルでも納得できるだろう。ダイアナ・クラールは、ボーカルに生々しさや色気があり、適度な色艶も感じる。ショスタコーヴィチは静寂感やダイナミックさ、各楽器の持つ生楽器らしい質感表現も秀逸。
アメリカで人気のオーディオブランド、Polk Audio(ポークオーディオ)のサウンドバー。ワイヤレスサブウーハーが付属する2ユニット型の製品となる。スピーカー構成は、サウンドバー部に25mm ツイーター、32×112mmの楕円形ミッドレンジを2基ずつ、134mmのサブウーハーと、合計5基のスピーカーを内蔵。これらに加えて、独立したサブウーハーを持つという強力な布陣だ。「Music」「Movie」の2つのサウンドモードに加え、トーク/ニュース番組の音声をクリアに再生する特許技術「Voice Adjust」機能も備えている。BluetoothコーデックはSBCに対応するほか、Wi-Fi接続が可能でChromecast built-inにも対応しており、「Amazon Music HD」「Spotify」などを高音質で楽しむこともできる。
Polk Audio自体は、まだ日本では絶対的な知名度は低いものの、音の印象はすばらしかった。キャビネットの振動も上手にコントロールされており、分解度が高く、情報量がある。適度な解像感もあわせ持ち、別体のサブウーハーがあることで低域方向もワイドレンジ。またサブウーハーの性能も高く、低域の歯切れがいい。付属リモコンで低域のレベルを調整し、音源に忠実なサウンドを狙える。ダイアナ・クラールは、ボーカルの付帯音が少なく、全帯域の音のフォーカスもシャープでスピードを感じられた。音楽性とオーディオ的な再生能力をしっかり両立していると言えるサウンドで、ショスタコーヴィチは適度に艶やかな中高域により音楽が楽しく聞こえてきた。
サウンドバーの定番メーカーのひとつとして知られるボーズは、現在5種類のモデルをラインアップする。本機はその中核モデルとして人気の1台。本体サイズ594(幅)×56(高さ)×102(奥行)mmとコンパクトで、3Dサラウンド機能やサウンドモードの切り替え機能はないものの、セリフを明瞭に際立たせる「ダイアログモード」を備えているのが特徴。同社の製品は、詳細なスピーカーやアンプの仕様、対応コーデックなどは非公開だが、古くから独自の音響理論による製品開発を行っており、小型スピーカーの音質には一日の長がある。
実際に聞いてみると、前方へ勢いよく飛び出してくるサウンドが印象的だった。シャープすぎず適度なふくよかさを備えた独特の音色で、瑞々しさも持ち合わせている。1つひとつの音が明瞭で、まるで響きのいい部屋で聞くような音。ダイアナ・クラールのボーカルの質感はウェットさもあり心地よい。ショスタコーヴィチのオーケストラは1つひとつの楽器が明瞭に聞こえる。コントラバスなど最低域のレンジがもう少し伸びればベストだが、部屋との相性もあると思う。このあたりは、低音を5段階で調整できるので、低域の量をコントロールすることでカバーするといい。
本体サイズ430(幅)×52(高さ)×130(奥行)mm (突起部除く)のコンパクトサイズを実現したサウンドバー。「Dolby Atmos」と「DTS:X」のデコードに対応し、バーチャル3Dサラウンド機能「DTS Virtual:X」も搭載する高機能性がポイントだ。スピーカー構成は、40mmのフルレンジユニットが左右に各1基、14mmのツイーターユニットが左右に各1基、80mmのサブウーハーが1基と、さらに80mmのパッシブラジエーターを2基搭載する。アンプの出力は、フロントが左右それぞれ25W+25Wで、サブウーハーが30W。サウンドモードは「スタンダード」「シネマ」「ミュージック」に加え、人気ゲームメーカーのスクウェア・エニックスと共同開発した3種類の「ゲームモード」も利用できる。BluetoothコーデックはSBCに対応。
今回は「ミュージック」モードで試聴した。まず、高域のシャープな質感が印象的。そして低域はソースに忠実な質感を持つが、若干ブーストされている印象だ。ダイアナ・クラールを聞くと、ボーカルは質感や音像表現が明瞭で、ピアノの色彩感も強い。ショスタコーヴィチでも同印象で、シャープな表現の高域により、オーケストラの金管楽器にスピード感がある。各楽器の分離がよく、小型キャビネットでありながらサウンドステージは広大。また、コントラバスなどの低域楽器にリアリティがあってよい。総じてスピード感がある音で、今回は聞かなかったがEDMなどの打ち込み系楽曲との相性もよさそうだ。
AIで再生中の映像を分析し、コンテンツに合わせたサウンドを提供するという「AIサウンドプロ」機能を備えるサウンドバー。「Dolby Atmos」と「DTS:X」のデコード機能にも対応している。そして、オーディオ視点で見た本機の大きな売りは、イギリスのオーディオメーカー“メリディアン”が音質チューニングに関わっていることだ。スピーカー構成も価格を考えると本格的で、890(幅)×65(高さ)×119(奥行)mmという標準サイズのキャビネットに、52×99mmフルレンジユニットが2基、50.8mmセンタースピーカーが1基、それに加え63.5mmのハイトスピーカーが1基搭載される。BluetoothコーデックはSBCに対応。
伝統あるメーカーが監修したその音は、大変聞き応えがあるものだった。帯域バランスについては、フラットな中高域を中心に低域はわずかにブーストされており、自然でありながら音楽性も両立している。ダイアナ・クラールのボーカルは血が通ったような情熱的な表現で、コントラバスなど最低域の伸びも秀逸。ショスタコーヴィチの再生時には、標準状態では若干低域が強かったのでBASSを-2にしたところウェルバランスに変化した。エッジを立てたような刺激的な音とは無縁の、ずっと聞いていられる高い音楽性のある音。またキャビネットが大きい分、サウンドステージも広大に広がる。メリディアンの底力を見た気がする。
コンシューマー向けからプロ用途まで多くの音響機器を手がける名門ブランド、JBLが「映画館のサウンドの追求」をコンセプトに開発したサウンドバー。スピーカーから出た音を部屋の壁に反射させてサラウンド効果を高める「MultiBeamテクノロジー」を搭載し、リスニングポジションに最適化された音声補正技術を備えている。スピーカー構成は強力で、80×48mmのレーストラックスピーカードライバーを5基、75mmのパッシブラジエーターを4基搭載する。アンプ出力はドライバー1基につき50Wを確保。カタログ上の周波数レンジは50Hz〜20kHzとなっている。BluetoothコーデックはSBCに対応するほか、さらにWi-Fi接続可能でChromecast built-inもサポートしており、「Spotify」「Amazon Music」などの音楽配信サービスを高音質で再生できる。
本機のサウンドは、とにかく聴感上の解像度が高く、かつ明瞭で明るいのが特徴だ。ダイアナ・クラールのボーカルは陽性な音でしっかりと前方へ出てくる。また、「映画館のサウンドの追求」を掲げているだけあり、素の状態における低音域の豊かさに驚かされた。もちろん低域の量感はリモコンから調整できるので、音楽再生で利用する場合は、楽曲に合わせて好みに調整するとよりよくなる。実際、ショスタコーヴィチは、コントラバスを含む低音楽器の量感を調整して再生したところ好印象。音楽再生中は、音像とサウンドステージがしっかりと像を結んで、鮮明に「見える」ほどだった。
主にプロ用途の音響機器を手がけるJBL PROFESSIONALブランドからリリースされた1台で、「プロ用サウンドバーの一般家庭向きモデル」とうたわれる製品。実は本機、Bluetooth接続機能もWi-Fi機能も持たず、入力はステレオRCA端子によるライン入力のみといういさぎよさ。ちょっと例外的なスペックなのだが、プロフェッショナルの流れをくむサウンドということに興味を持ち、今回ピックアップしてみた。キャビネットサイズは900(幅)×90(高さ)×69(奥行)mmと、若干高さがあるものの横幅と奥行きは標準サイズに収まっている。スピーカー構成も独特で、19mmツイーターを2基と、50.8mmのウーハーユニットをなんと4基搭載するという仕様。カタログ上の周波数レンジは42Hz〜20kHzと広く、能率も94dBと高い。
本機で音楽再生する方法としては、Android TV搭載のテレビと組み合わせて、テレビ側に内蔵されるSpotifyアプリから音楽を再生するといった形が考えられる。今回は、Chromecast端末をテレビに装着して、テレビのヘッドホン端子とサウンドバーをアナログ接続して再生してみた。気になる音質だが、プロフェッショナル用とうたっているだけあって、中高域はソース音源に対して忠実な表現で好印象。ショスタコーヴィチは、金管楽器と木管楽器の生楽器らしい質感表現が秀逸。低域はややブースト気味に感じたが、その分オーケストラの迫力はかなりのものだった。
2002年に米カリフォルニア州で創業されたオーディオメーカー、Sonos(ソノス)。同社のサウンドバーはWi-Fi接続に対応し、独自の操作アプリケーション「Sonosコントローラ」から、快適な音楽再生を行えることが特徴だ。ネットワーク経由で連携させるスピーカーの数を増やしていくことも可能で、ワイヤレスかつ本格的な5.1chサラウンドシステムへ発展させることもできる。キャビネットカラーは美しいホワイトと精巧なブラックから選択可能で、ボタンやLEDなどの配置を含めたデザインにもこだわりを感じる。スピーカー構成は4基のフルレンジユニットと1基のツイーターの合計5基で、それぞれを独立した5台のアンプで駆動するほか、パッシブラジエーターも3基搭載される。
本機はBluetoothには非対応で、上述の通りWi-Fiによるネットワーク音楽再生が行えるモデルという位置づけ。Sonosコントローラを利用し、まずはSpotify Connectでダイアナ・クラールを再生したのだが、とにかく気持ちよくて聞きごたえがあった。ピアノとベースは質感表現に長け、オーディオ的な再生能力と音楽性が高く融合していることにうれしくなるほど。ずっと聞いていたくなるような高い音楽性を持つ音だ。ショスタコーヴィチは、オーケストラのサウンドステージが立体的でその中に各楽器が粒立ちよく表現される。限られた大きさの筐体で巧みに音作りをしている1台であると思う。
メインスピーカーとなるサウンドバーと、低域を増強するサブウーハーがセットになった2ユニット型のモデル。「Dolby Atmos」と「DTS:X」のデコードに加え、「DTS Virtual:X」にも対応する全部入りの機能性が特徴だ。ソニー独自のサラウンド技術「Vertical Surround Engine」や「S-Force PROフロントサラウンド」も搭載している。価格的に上位に位置するモデルだけあって、サウンドバー部は980(幅)×64(高さ)×108(奥行)mmと大型のキャビネットを持ち、その内部に45×100mmのフルレンジユニットを左右各1基+センターに1基の合計3基搭載。サブウーハー部には160mmのウーハーを1基搭載する。BluetoothコーデックはAAC/SBCに対応。
本機は、一聴してHi-Fi感の強い音と言える。別体のサブウーハーが付属することもあって、高域から低域までがワイドレンジ。本体とサブウーハーの音のつながりもよく、サブウーハーの存在を感じない自然な音の出方が好印象である。ダイアナ・クラールのボーカルやピアノは適度にエッジが付いて明瞭に聞こえるが、聞き疲れするような派手すぎる音ではない。多くの人が、パッと聞いて「いい音だな」と感じられるような、明瞭な音作りである。ショスタコーヴィチも高域から低域までのレンジが広く、情報量も感じさせる。オーディオ的な尺度で見た再生能力は高く、大音量にも強いし、小音量時の明瞭度もある。
というわけで、今回は11機種のサウンドバーを一挙に試聴したが、音楽的な再生能力だけに注目してみても、最近のサウンドバーが持つ実力は事前の予想を上回っていた。多くのモデルが、「迫力のある音」だけではなく、その次の次元である「音楽性を感じる音」の段階へ達している。
中高域の帯域バランスはアキュレイトなモデルが多く、低域については標準状態だと若干強いモデルも多かったが、リモコンで低音の量感を調整することで忠実なサウンドを引き出せた。特に何機種かのモデルは、普段からピュアオーディオを評論している筆者でも納得できる音調/音色を備えており、えらく感心した次第である。
サウンドバーはアンプを内蔵するので、それ単体で音楽再生が可能だ。スリムで設置性が高いことに加え、テレビだけでなく音楽再生でも満足に使えると考えると、とにかく使い勝手がいい。もちろんこの先には、さらに本格的なサウンドが楽しめるピュアHi-Fiの再生システムも存在するが、手軽に音楽をいい音で聞く手段のひとつとして、サウンドバーによる再生は大いに“あり”だと思う。
ハイレゾやストリーミングなど、デジタルオーディオ界の第一人者。テクノロジスト集団・チームラボのコンピューター/ネットワークエンジニアを経て、ハイエンドオーディオやカーAVの評論家として活躍中。